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高雄滞在記(2024.03)その3 田中夫妻の結婚式

 今回台湾、そして高雄に来たのには目的がある。友人の結婚式が高雄で挙行されるからだ。その友人は田中さんといい、台湾の中をくまなく歩く「微遍路(びへんろ)」ということをしていて、この結婚式のわずか数日前(!)に高雄に到着して台湾微遍路を完結させている(ちなみにその数年前に、出身地の福井県でも微遍路をしていた)。


 さて、僕の高雄滞在2日目は自転車でヘラヘラ高雄市内を走っていた(自転車を買った経緯については前回記事を参照されたい)が、一旦宿に戻り、シャワーを浴びて着替える。

 台湾の結婚式の服装はわりとカジュアルと聞いていたが、何を着ようかかえって迷ってしまう。Tシャツ短パンサンダルという人もいると聞くが、いやぁそれはさすがにちょっと…と思うのはやはり僕が日本人だからだろうか。などと台湾に行く2週間前くらいからさんざん悩む。現地高雄の「もはや初夏」という情報と、やっぱり着たいものを着ようということを軸に服装を決定。上は友人の作ったチャイナシャツ(世界でこれ一点しかないぞ)、下はヂェン先生の日常着のバルーンパンツ。めっちゃ着心地良い。

1.ド派手な会場

 美麗島站からMRT紅線に乗り橋頭火車站へ。北へ向かうMRTはいつしか地上に出てさらにひた走る。30分ほども乗っただろうか、高雄って随分広いんだなと思った頃に目的の駅に到着。駅前にはおそらく本日の参加者であろう人たちがたむろしていた。こんなに人がいるのに誰も知り合いがいない…と思っていたら福井メンバーに声を掛けてもらってほっとする。
 みんなで送迎バスに乗り込み結婚式の会場へ。お寺が会場だと聞いてはいたが、やたらデカいお寺(そしてやたら派手なお寺)で度肝を抜かれる。この芋寮壽生廟というお寺の中庭が今回の会場である。お寺の本堂(?)に向かい合うように台湾オペラの舞台が設えられ、その両者に挟まれるようにメインステージ(大型トラックがパカッと開くやつ)が鎮座している。参加者はみな一様にその規模に驚き「えっ…えっこれフェス?」のような感想を漏らしていた。そんなド派手な会場なので、みんなテンションマックスそこかしこで写真を撮りまくっていた。

門。デカい
本堂(?)デカい
台湾オペラのステージ。デカい
メインステージ。ド派手
浮かれる吾輩(右)

2.食事

 さて結婚披露宴といえば豪華な食事がつきものだが、今回は台湾の伝統的な野外での宴文化「辦桌(バンドォ)」で催されることとなっている。この辦桌は高雄が発祥で、辦桌専門のシェフもいるらしい。今回の辦桌を担当するのは高雄に70年続く三代目の「金葉摸油湯」という老舗で、この前々週になんと蔡英文総統(当時)の辦桌を担当したそうだ。マジかよすげぇな!と沸き立った。
 で、いろいろ調べていると、この辦桌には必ず「佛跳牆」というメニューが含まれるのだそうだ。「旨すぎて(欲望にとらわれないはずの)坊さんも壁を飛び越えてくるほどのスープ」くらいの意味らしいが、漫画『美味しんぼ』の第9巻に、究極のスープ的扱いでこの料理が登場する(作中の標記は「仏跳牆」)。当時小学生や中学生だったわれわれに「いったいどんな味なんだろう」と想像をかき立ててやまなかった料理に、アラフィフになって現実に相まみえるのだ。これにテンションが上がらずして何にテンションが上がるというのか。実際、僕の観測範囲では『美味しんぼ』で佛跳牆を知ったという人間が大多数を占めていた。

みんな大好き『美味しんぼ』

 この佛跳牆について『美味しんぼ』では「ファッテューチョン」とルビが振られていたが、Wikipediaでは「フォーティャオチァン(北京語)」となっており、どのように発音するのかはよく分からない。ただし同じくWikipediaでは「ファッティウチョン(広東語)」となっているため、「ファッテューチョン」でも別に良いのかもしれない。だがしかし一部メディアでは「ぶっとびスープ」という表現が散見されるが、これはいただけない。あまりに安っぽ過ぎる。中国四千年の歴史を何と心得るか。ちゃんと漢字を使って「佛跳牆」と表記するようにしたい。読み方はまぁそれぞれの自由で。

辦桌(バンドォ)のメニュー。実は「佛跳牆」とはどこにも書いていない
旨い料理の数々。右上は佛跳牆ではなく酸辣湯ぽいスープ。どれも旨かった

 メインステージの上では軽快な司会で式が進行し、高雄市観光局の局長さんが喋っていたり、詳細は分からないがなぜか犬が登壇したりしていた。その後みんなで乾杯していよいよ料理の提供が始まった。お酒のせいもあり写真を一部取り損なったが、2品目にスープが登場した。これが佛跳牆か…?となったが、いやこれは普通に酸辣湯じゃないのか?スープってそんなに何種類も出てこないだろうし、今日は佛跳牆出てこないのか…と落胆しかかったが、豈図らんや、最後近くになっていかにもそれっぽい壺状の器に盛られていかにもそれっぽいスープが登場した。こ、これが…あの…!震える手で取り皿に掬い一口すする。

見た目にも雰囲気ありすぎの佛跳牆。驚くほど旨かった

 ちょ!なにこれこんなん食ったことない!旨っ!
 あとは壺をひっつかんでそのままゴクゴクと一気に飲み干したというのは嘘で、同卓の招待客のためにテーブルに戻してぐるぐると回した(今これを書いていてふと思ったのだが、野外なのに回るテーブルってすごくないか?)。『美味しんぼ』のエピソードもあいまって、その旨さに単純に感動した。

 ちなみに写真には取り損ねたが、ノンアルコールドリンクとして提供されていたのはキウイ、オレンジ(だったと思うが定かではない)、スイカの生ジュースで、びっくりするくらいおいしかった。ピッチャーで提供され、みんなガブガブ飲み、なくなったらいつの間にか追加されている。今考えたらとんでもなく贅沢だったのではないか。

3.歌仔戲(台湾オペラ)

 結婚式会場の向正面には、立派というよりはきらびやかな舞台が設えられている。「歌仔戲(グァーザイシー)」と呼ばれる台湾の大衆芸術が催されるそうだ。歌仔戲は「台湾オペラ」と紹介されることも多いが、オペラというよりは日本の大衆演劇に近いイメージだが、音楽は生演奏なのでやはりオペラか。
 今回の歌仔戲を担当した「明華園日團歌仔戲」は、台湾では知らない人のいないほど有名な、90年の歴史を持つ有名な一座なのだそうだ(今回の結婚式はそんなのばかりで、もう驚いてばかりだ)。

台湾では知らぬ者とてない超有名一座

 実際の歌仔戲は2部構成で、派手なアクロバティックあり、コメディリリーフあり、虎が出てきたり、色恋沙汰あり、現代へのアレンジもあり、とても楽しめる内容だった。舞台の両脇に日本語の字幕がついておりちゃんと内容は理解できた。

ド派手。アクロバティック。くるくると連続バク転していた

 終幕は新郎新婦の二人を迎えて、歌仔戲の俳優みんなでお祝いするというとても豪華な内容だった。

新郎新婦を真ん中に大団円

 今回の結婚式は、われわれ招待客とは別に、地元住民にも開放されており、歌仔戲の舞台前に地元席が設けられていた。開劇前には席がもうぎっしり、舞台の幕が上がれば老若男女皆かぶりつかんばかりの勢いで、夢中で観劇していた。本当に人気があるんだなぁ。

4.TSUJIくんのライブ、そして終宴へ

 盟友のサウナラッパーTSUJIくんは、田中さんの福井の微遍路のときにテーマソング「微遍路音頭」をつくった。福井微遍路のゴールのときに歌ったり越前東郷駅前で歌ったりしていたがそのハイライトは福井駅前のハピリンで歌ったことだろう。ステージ直前のツジくんの緊張の様子は今思い返しても涙が出るほど面白かったが今回とは直接関係ないので触れない。

 そのツジくんは今回の台湾微遍路でもテーマソングをつくった。「It's my WEI(微)」というタイトルのゆるいトラック、すぐに覚えてしまえるその曲のリリックは、チャイニーズスピーカーのツジくんの面目躍如たるところだろう。ツジくんは昨年末上海に渡り自身の環境も変化する中、今回の曲を見事につくり上げた。上海に渡る前後で「まだ曲できてねぇんですよ…」と言っていたツジくんだが、無事納期(?)に間に合ったようでよかった。

 歌仔戲が拍手喝采で終わりを告げると次はツジくんのステージなのだが、同卓の彼は堂々としたもので台灣啤酒をぐいぐい飲んでいる。数年前のハピリンのときとはえらい違いだ。もはや大物の風格が漂っていると言ってもよいがそれはともかくとして、ステージ上に呼ばれてツジくんはそそくさと登壇した。ステージ左手の大画面にMVが投影され、ツジくんが歌い出す。みんなで "It's my WEI !!"と大合唱する。すげぇなツジくん。僕は正直大感動した。

大観衆の前で堂々と歌い上げる

 そのあとはメインステージでカラオケ大会となった。いやぁカラオケまでド派手だなぁ。
 カラオケが終わり料理も出尽くし、招待客がぞろぞろと帰り始めた。両親への感謝の手紙などはなく(僕はその方がいいと思う)そんなものらしい。
ツジくんは、早々にビールがなくなったため、地元の人たちと仲良くなって白酒をせしめていたがいつの間にかいなくなっていた。そんなわけでわれわれも新郎新婦を囲んで記念写真を撮り、暇を告げた。

福井メンバーで
新郎新婦を囲んで記念写真

 間違いなく今迄で一番楽しくて面白くて驚かされた結婚式だった。こんなに素敵な結婚式に招待してくれた田中夫妻に感謝申し上げたい。

【おまけ】この世紀の結婚式が動画になってます。ちょいちょい僕も出てきます。

【おまけ】How to Taiwanに同じ結婚式のレポートが掲載されています。


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