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「美しい春画」展 細見美術館
会場内は撮影禁止。かりに撮影OKだったとしてここに載せるつもりはない。公序良俗とかそういったことではなく、勿体無いので載せない。こういう作品はその隠微さもセットだと思っており、現地に赴いた者の特権としてこっそり楽しむのだ。春画の展覧会に行ったからといって嬉々としてSNSに春画を載せるような人は、僕の人生に関わらないでおいてほしいものである。
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さて、上に「隠微さ」と書いたが、これはなかなか難しい。日本のいわゆる「春画」は交合(男女間だけとは限らないし二人だけとも限らない)あるいはそれにまつわる性愛的場面をオープンに描いていることで評価されている。西洋の絵画にはこういった直截的表現はないし、春画に登場する人物の表情は男女とも楽しそうあるいは楽しんでいる(苦悶の表情だが嫌がってはいない等)ように描かれていて、鑑賞するこちらも楽しくなるようなものではある。交合あるいはそれにまつわる性愛的場面を「よきもの」として描いているのであり、それはそれでよい。
しかし、とも思うのだ。春画と官能性(日本の春画に「エロい」とか「エロティシズム」という言葉をできるだけ使いたくない)とは切り離せないし、官能性の観点から考えた場合に、あんまり開けっぴろげでも面白くないのではないかと。「秘すれば花」という言葉もある。本展のポスターやチラシのメインビジュアルには喜多川歌麿の《夏夜のたのしみ》がカットして使われているが、これは肝心の部分が隠されており、僕はすごく官能的でいいポスターだなぁと思った。
実際の展示には当然ながら《夏夜のたのしみ》がカットされることなくすべて展示されている。局部も(当然ながら)描かれている。これを観たときの僕の正直な感想は「あれっ?これポスターのほうがよくないか?」である。
春画は、男性器も女性器も、その交接部も、緻密に(ときには過剰に、あるいはデフォルメされて)描かれている。その直截的表現に、どうしてもそちらに目が向きがちになる。でもその視線を支配しているのは官能性というよりは好奇心ではないだろうか。では春画において官能性が支配するのはどの部分なのか。それは取りも直さず、セックスのときにどの部分に官能性が表出するのかということではないか。男性器や女性器は、官能性が表出するというよりはセックスそのものだ。セックスによる官能性が表出する場というのは表情であったり、手や指の表現だったりするのではないか。互いの背中や腕を掴む手。快楽のあまり反る指など。
この観点から大きく感銘を受けた春画が二点ある。ひとつは葛飾北斎の《閨中交歓図》。もうひとつは《耽溺図断簡》という絵師不詳の作品である。
《閨中交歓図》については、さすが北斎と言わねばならない。身体や乱れた衣服の描き方などもさることながら、それらを描き出す線にまで官能性がこもっているように思える。男の背中に食い込む指に、視線を奪われる。
《耽溺図断簡》は還暦を迎えた商人と、同じくらいの歳の妻との交歓を描いたものだ。老境にさしかかった夫婦を春画の題材に据えるのも珍しいと思うが、そこに官能性を見出した絵師の眼力と画力にはもうひれ伏すしかない。いやむしろ、通常取り上げない題材を選ぶことによって官能性が純化している気すらする。多少のユーモラスさと、ちゃんと(?)卑猥さを表現しているのがすごい。細かく描き込まれた陰毛、浮き出る血管、黒ずんだそれぞれの性器、液体まみれの交接部などの直截的表現もすごいのだが、むさぼるように求める接吻、快楽にゆがむ女の表情、反りかえる指の表現などがどうだとばかりに鑑賞者に迫ってくる。どこを観ても官能性が横溢しているすごい絵だ。タイトル通り「耽溺するとはどういうことか」を絵に描くとこうなるといった絵である。僕はこの絵が本展でいちばんとみた。ここに載せられないのが残念である。是非実物をご覧いただきたい。
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中は見せてあげません。自分で買いなさい
図録を購入する。そして出口に「春画バッジガチャ」なるものがあったので200円を投入してレバーを回す。出てきたものは男女が同じ方向を向いたものを拡大した図柄のバッジだった。春画バッジと言われて見れば、後背位で交合にいそしむ男女なのだろうなと想像がつくが、言われなければただ単に同じ方向を向いている男女だ(服も着ている)。なんとなく不満だったので再度回そうかとも思ったが、不満の種が増えることにもなりかねないと思い、やめておいた。
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