記念すべき一日。

今日は、良い一日になる。
映画を観る。池袋の名画座で、2本立て、1500円。終わったら、授業の他に別スクールの授業も受ける。昨日食べ損ねた鶏天おろしマヨ丼を買おう。『最高の離婚』の最終話を観て、本を読んで。最高気温が30度を超えたから、アイスを一本食べていつもより少し長く眠る。

映画館から出る。エレベーターで「あ、先どうぞ。」と言う。街中に溢れる逆さコーヒーカップを見て、「あ、夏だな。」と思う。私の白いコーヒーカップは、高級茶寮で出てくるレース柄が施されているので、少し背筋が伸びる。いつもより風を感じて歩く。就活しないのに、「就活メンタリング受付中」と印字されたポケットティッシュを「あ、ありがとうございます。」と言って受け取れる。図書館で本を読む。その前にお手洗いに行こう。並んでいたので、朝セットしたパーマのかかり具合を気にする。姿見を見る。今日は暑いのでちょっと短めのトップスを着た。全体を見渡して、水色ジーンズの内腿側に、濃い赤茶色の影を見つける。


Googleマップで検索をかける「洋服や しゅうへん」。港区のビジネス街にもGUやユニクロを作った方がいい。鬱陶しい音姫と長く低いため息の不協和音。手を洗い、学校を後にする。ヨーロッパ政治史、重要なルイ14世の回だったっけ。後期の時間割をぼんやりと考える。膝裏が隠れるまでトートバッグを下げ「これ重いんですよ」の顔で後ろに担ぐ。白い日傘を「だり〜」の顔を作りながら前に向けてくるくる遊び持つ。すれ違う人間の目線を上に持っていく。
座席横の白い部分にもたれかかるように、40分間の移動を耐え忍ぶ。
父に買ってもらった新しいサンダルで、靴擦れを起こす。
30度を超える暑さで、マスクの下はびしょ濡れになる。
頬の温度が上がる。
全身を駆け巡る。

血、血、血。





シャワーの音が鳴り響く。いつまで流し続けても、水のままで、ジンジンと痛むのは、どこか。絆創膏を両くるぶしに貼る。着替えてエコバッグを持ち、スーパーに行く。Tシャツもズボンもエコバッグも赤で着替えに戻ろうか悩み、「私すぐ近所に住んでるので。」の顔をすることに決める。
480円の鶏天おろしマヨ丼ではなく、240円のおにぎり弁当を買う。ツナマヨは好きじゃないのに、明日のお昼と一緒に、レジに並ぶ。
前のお母さんがポイントカードを差し出すまでの2分を、3人でじっと待つ。冷凍食品の上に置いたおにぎり弁当を幼い子どもが持ち上げ、横に並べ替える。「こら!何やってるの!本当、すみません!」と言われる。この人にも生理があるのか、と思って「あ、全然です。」と言う。



悔しい。そんな予兆なかった。悔しい。映画の感想ゆっくり考えさせてよ。悔しい。授業ちゃんと行きたかった。悔しい。お腹痛い。悔しい。アイス食べたい。悔しい。明日出かける予定立ててたのに。悔しい。眠い。悔しい。お腹痛い。悔しい、悔しい、悔しい、悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい。


暑いので部屋の窓を開けた。
入ってきた虫が、ソファに振り下ろした私の手によって、勝手に死んでいった。







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