沙希とのひととき
僕は、いつも同じ場所で放課後を過ごしていた。学校の隅にある古びた図書室の片隅。誰も寄りつかない静かな空間が好きだった。しかし、ある日、そこに一人の女の子が現れた。彼女は沙希――クラスの中心にいる明るいギャルだ。
「こんなところにいたんだ?探してたよ。」
探してた?僕なんかを?沙希の言葉に動揺しながらも、彼女の真剣な目を見て、僕は何も言えなかった。沙希は、僕が本を読んでいる横に座り、少し照れたように微笑んだ。
「実はさ、君ともう少し話したいなって思ってたんだ。」
沙希はクラスでも注目の的で、話すときも自然とみんなの中心にいるタイプの女の子だ。そんな彼女が、僕みたいな目立たない奴に何か用事があるなんて、考えもしなかった。
「…俺と?なんで?」
「え、だって君、いつも静かでクールな感じじゃん。でも、本当はどういう人なのか、知りたくなっちゃって。」
その言葉に胸が少しだけ温かくなった。誰かに興味を持たれることなんて、久しくなかったから。僕は戸惑いながらも、彼女と少しずつ話し始めた。意外にも、沙希はただの表面的なギャルではなく、深く物事を考える面があることに気づいた。
彼女は時折、何かを隠すような表情を見せながら、僕に質問を投げかける。
「将来とか、何か夢とかあるの?」
その問いに僕は一瞬詰まったが、正直に答えた。「まだ分からない。今はただ、何か見つかればいいなって思ってるだけ。」
沙希は少し考え込んだ後、静かに言った。
「私も同じかも…未来って、何が待ってるか分からないけど、誰かが一緒にいてくれたら、ちょっと安心できるよね。」
その瞬間、僕たちの間に不思議な感覚が流れた。沙希の言葉には何か切なさが含まれていて、僕はその背後に隠された感情を感じ取った。
「ねえ、これからも一緒に、いろいろ話せたらいいな。」
沙希の瞳がまっすぐに僕を見つめていた。僕は、彼女が何かを求めていることを感じた。そして、その瞬間、僕は初めて、彼女の本当の姿を少しだけ知った気がした。
「…もちろん。」
そんな言葉しか返せなかったが、それでも沙希は満足そうに微笑んだ。
次の日から、沙希との放課後が始まる。だが、彼女の笑顔の裏にある切なさが、僕の心にいつまでも引っかかっていた。彼女の本当の気持ちを知る日は、まだ遠いかもしれない。