「カフェで出会った運命」
名前は「ミホ」。彼女とは、何度も通ったカフェで偶然出会った。
ミホはそのカフェの常連客で、いつも奥の窓際の席に座りながら、少し厚めの本を読んでいた。
金髪に明るい肌、そして目を引くファッションが際立っている。彼女は、その容姿から周りの視線を集めることが多かったが、そんなことは気にせず、静かに自分の時間を過ごしていた。
僕もまた、このカフェをよく利用していた。あまり人が話しかけてこないこの場所が心地よく、仕事の合間にリラックスするために足を運んでいたのだ。ミホと僕が初めて会ったのは、そんな普通のカフェでのことだった。
ある日、いつもの席に座りコーヒーを飲みながら、パソコンで仕事をしていると、突然声をかけられた。
「ねぇ、それ何の仕事してるの?」
ふと顔を上げると、そこにはミホが立っていた。彼女は無邪気に笑いながら、僕の画面を覗き込んでいる。普段は人との会話を避けがちな僕だったが、彼女の明るい雰囲気に圧倒され、つい答えてしまった。
「えっと、フリーランスでデザインの仕事をしてるんだ。」
「へぇ、かっこいいね!私も昔、ちょっとだけデザイン勉強してたんだよね。でも、今は全然違う仕事してるんだけど。」
彼女はそう言いながら、隣の席に座り込んだ。普段ならこんな状況に戸惑うはずの僕だったが、なぜか不思議と緊張しなかった。彼女の明るさに自然と引き込まれていたのだ。
その日から、ミホは頻繁に僕の席にやってくるようになった。カフェで会うたびに、彼女は軽い会話を楽しむように、僕に話しかけてくる。時には彼女の仕事の話や趣味の話、時には僕のデザインの話など、多岐にわたる内容だった。
「ねぇ、普段はどんな場所で仕事してるの?カフェが主戦場?」
「いや、まぁ、そうだね。でもたまにクライアントのオフィスとかにも行くよ。」
「ふーん、やっぱり自由な仕事っていいよね。私ももっと自由になりたいなぁ。」
彼女は遠くを見つめながら、ぽつりと呟いた。その言葉に、どこか切なさを感じた僕は、彼女の内側にある何かを知りたくなった。しかし、それを聞く勇気はまだなかった。
そんな日々が続く中、ある日ミホはいつもの笑顔とは違った表情で僕に話しかけてきた。
「ちょっと真面目な話していい?」
「うん、どうしたの?」
「私、実は今度引っ越すことになったの。遠くへ行くから、このカフェにももう来れないかもしれない。」
その言葉に、僕は一瞬言葉を失った。彼女がこのカフェに来なくなるという現実が、どうしても信じられなかった。
「どこに引っ越すの?」
「都心の方。でもね、ちょっと悩んでるんだ。実は、引っ越し先で新しい仕事をする予定なんだけど、その仕事が自分に合ってるか分からなくて。」
ミホはいつも明るく振る舞っていたが、こうして本音を語る彼女の姿には、どこか儚さがあった。彼女もまた、不安や迷いを抱えているんだと思うと、僕は何かできることはないかと考えた。
「ミホが決めたことなら、きっと大丈夫だよ。僕はそう思う。」
「ありがとう。でも、やっぱり不安だなぁ。新しい場所でうまくやれるか分からないし、今みたいに自由に過ごせるかも分からないし。」
僕は、彼女が自由に生きることを望んでいることを知っていた。それだけに、彼女がその自由を手に入れるために新たな道を選ぼうとしているのだと感じた。
その日、僕たちはカフェで長い時間を過ごした。彼女がこの場所から去る前に、少しでも彼女の心を軽くしてあげたかったからだ。だが、時が経つのは早く、別れの時が訪れた。
「じゃあ、そろそろ行くね。本当にいろいろありがとう。」
「ミホ、元気でね。」
彼女は少し寂しそうな顔をしながらも、笑顔で手を振ってカフェを出て行った。その瞬間、僕の胸には言いようのない切なさがこみ上げてきた。彼女がこのカフェにもう来ることはないかもしれないという現実が、心に重くのしかかってきたのだ。
でも、彼女が新たな一歩を踏み出すことを応援したいという気持ちもあった。ミホは、どこに行ってもきっと輝き続けるだろうと信じている。
数日後、いつものカフェに行くと、窓際の席は空いていた。ミホの姿はなく、彼女がこの場所にいたことを思い出させるものも何もない。しかし、彼女との思い出は心の中に残り続けていた。
「また、どこかで会えたらいいな。」
僕はそう呟いて、カフェを後にした。どこかにいるミホが、今も自由に自分らしく生きていることを願いながら。
「カフェで出会った運命」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?