雨音に消えた二人の影
玲華とは、いつも不意に出会う。それは運命か偶然か、僕自身もわからないまま、彼女との時間が流れていった。
週末、雨が降りしきる中、僕は久々に訪れたカフェの奥の席に座っていた。コーヒーの香りが微かに漂い、窓の外に広がる街並みがぼやけて見える。
心がどこか遠く、現実から離れているような感覚に浸っていた時、ドアベルの音が響いた。
「久しぶりね。」
声に驚いて顔を上げると、そこには玲華が立っていた。髪は少し湿り、傘を手に持ちながらもその整った顔立ちには相変わらずの美しさがあった。
白いトップスに、少しカジュアルなジャケット。そして、少しだけ乱れた髪が、彼女の無防備な魅力をさらに引き立てていた。
「玲華、どうしてここに？」僕は慌てて声をかけた。
「あなたがいそうな気がしたの。」玲華は微笑みながら、僕の前に座った。
玲華との出会いは、いつも唐突だ。付き合っているわけでもなく、友達という関係でもない。ただ、どこかで偶然に出会って、しばらく話し込む。そしてまた離れる。そういう距離感が、心地よくもあり、どこか寂しくもあった。
「最近、どうしてる？」僕はカップを手にしながら尋ねた。
「変わらないかな。仕事も相変わらず忙しいし、でもそれなりに楽しいよ。」玲華はそう言いながら、手元のメニューを見つめていた。
玲華は自由奔放な性格だ。自分のやりたいことを見つけ、それに突き進む。そして誰にも束縛されない。そんな彼女に僕はいつも惹かれていた。だけど、その自由さが、僕と彼女の間にいつも距離を作っていたのも事実だ。
「そうか。まあ、君らしいよね。」僕は苦笑いを浮かべた。
「それより、あなたはどう？元気にしてた？」玲華は興味津々に僕の顔を覗き込んだ。
その瞬間、心臓が跳ね上がった。彼女の目の奥に、深い感情が隠されている気がして。僕は何かを言おうとしたが、言葉が出てこなかった。彼女と過ごすこの瞬間が、永遠に続いてほしいと思う一方で、それが叶わないことも知っていた。
「まあ、なんとかね。」僕はあえて軽く答えた。
会話はいつものように、さりげなく続いた。雨の音が窓に打ち付ける中、玲華との距離が徐々に縮まる気がして、僕は胸の奥で何かがうずくのを感じていた。
「この後、どうする？」玲華が突然聞いてきた。
「特に予定はないけど、君は？」
「実は、ちょっと散歩でもしようかなって思ってた。雨も降ってるし、少し歩きたくなったの。」
その提案に僕は少し驚いた。玲奈がこんな風に誘ってくることは滅多になかったからだ。
「一緒に行ってもいい？」
玲華は一瞬、僕の顔を見つめた後、静かにうなずいた。「もちろん。」
雨の中、僕たちは並んで歩いた。街のざわめきも、車の音も遠くに感じられるほど、雨音がすべてを包み込んでいた。傘の中で、玲華の横顔がぼんやりと見える。
「私、遠くへ行くかもしれない。」
突然、玲華が口を開いた。
「遠く？どういうこと？」
「仕事の関係でね、海外に行くことになりそうなの。」
その言葉に僕は立ち止まった。玲華が僕の前からいなくなるなんて、今まで考えたこともなかった。彼女はいつも突然現れて、そして突然消えていく。だけど、今回は違った。彼女が本当に遠くへ行ってしまうという実感が、胸を締め付けた。
「そっか…いつ行くの？」
「まだ決まってないけど、近いうちに。」
玲華は少し寂しそうな笑顔を浮かべた。それは、僕に言いたくないことを無理に言っているような、そんな表情だった。
「でもさ、また会えるよね？」僕は必死に声を振り絞った。
「そうだね、またどこかで。」玲華はそう言って、僕に優しい笑みを向けた。
でも、その笑顔には、どこか永遠の別れを予感させる切なさがあった。
それから数週間後、玲華からの連絡は途絶えた。僕は彼女が本当に遠くへ行ってしまったのだと理解した。彼女との時間は短かったけれど、その記憶は心に深く刻まれている。
そして、ふとした瞬間、玲華の笑顔を思い出す度に、胸の奥で温かさと切なさが交錯するのだ。
「また、どこかで会えるよね…？」
僕は空を見上げ、心の中で玲華にそう問いかけた。だが、返事はただ静かに降り続ける雨音だけだった。
玲華との再会は果たしてあるのか？彼女が告げた「またどこかで」という言葉に秘められた真意とは…？
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