見出し画像

みちびき―科学的アニミストの素性―

私、たなかなおこは、科学的アニミストだ。
しかし、長らく自分自身でもそのことを知らなかった。
2017年、晩秋のアメリカ西海岸の旅で気づくまでは……

その頃の私は、夏に会社を辞めたばかり。次の人生のヒントを探して、あちらこちらへと旅をしていた。
西海岸へ来たのは、「なんとなく」と「なりゆき」の結果だった。
友人その1に誘われた「ビジョンクエスト」というアメリカ先住民の成人のイニシエーション。
友人その2に誘われた「クリエーションジャーニー」というシリコンバレーの視察ツアー。
友人その3からその10くらいまでが夏の終わりに旅をして投稿しまくっていた「シャスタ」という山の風景の写真。
それぞれが「なんとなく」気になり、すべての行先がアメリカの中部から西部に在ったため、「なりゆき」でハシゴ旅をすることにした。

始まりはビジョンクエスト。場所はニューメキシコ州のStar Dance。
ビジョンクエストが何なのかもよくわからず、ただ「Star Dance」という場所の名前の響きを聴いたとき「絶対に行かなくっちゃ」と思ったのだった。
迎えてくれたのは先住民の血を引くアメリカ人、年齢不詳の美魔女、ホワイトイーグルウーマン。
彼女に出会って、そこで教わったこと。そして、そこで起こったこと。
それが、この一連の旅をみちびくコンパスとなった。
4日間のソロキャンプ。1日に2回、ホワイトイーグルウーマンが差し入れてくれるお弁当。
生きるのに必要なものはすべて与えられているけれど、人の暮らしに自然とまつわりついている文字や記号や時計やスマートホンは持ち込みが禁止されていた。
暇だった。
そして、私は長時間の暇には耐えられなかったし、耐えもしなかった。
その時、子どものころ以来ひさしぶりに、からだ一つでできる遊びがこんなにもたくさんあることを思い出していた。
大好きなうたをうたう。お日さまや風に誘われて自然と身体が躍る。
眠くなったらお昼寝をして、寂しくなったら木に心で話しかける。
そうこうするうちに、木や鳥や岩や風が私に答えてくれているかのように、人生のナゾに対する答えが次々と見つかっていった。
あまり背の高くない乾燥地帯の木を見て「え?これで樹齢100年?ずいぶんと若く見えるなぁ」と思っていたら、ほほえみの気配と共に「あなたもね」と言われたような気分になったり。
「自分は恋愛はあんまりしてこなかったなぁ。恋っていったい何なんだろう?」と思えば、浮かんだり沈んだりして飛ぶ鷹が目の前を通り過ぎていったり。
クルクルと回転しながら高度を上げる鷹を見ては、「ああ、そうか、本当の高みへは直線じゃなくって螺旋の弧を描いて到達するんだな」と思ったり。
ホワイトイーグルウーマンの教えてくれた儀式で、まだ引きずっていた前の会社の上司への怒りを、背の高くない古木に食べてもらったり。
そして、自分がそうした自然のものたちと、ずいぶん仲良しなんだということをようやく思い出したのだった。

その次に訪れたのはマウント・シャスタ。
富士山のようにてっぺんに雪の帽子をかぶった素敵な山だった。
シャスタさんは、その周辺だけが緑で、ドレスの裾のように広がる緑のその先は、枯れた草の色をする平野が広がっていた。
ビジョンクエストの時のように、その山を見ていると、ふと「山はそこに存在するだけで、周りを潤すものなの」と諭されたかのような気分になった。
そう思って、山の裾野を見渡せば、本当にその通りだった。
そこに山があることで、大気中の水分がここで雨を降らせる。
山の上半身は雪で白く、下半身を覆うドレスが緑で、たぶんそこまでがシャスタさんの領域。
そして、緑のドレスをなしている樹々にとっては、シャスタさんがそこにいることで降る雨と雪が大切なご飯なのだ。
そんなことを思いながら、雪の斜面で立ったままおにぎりを食べた。
雪をよろこぶ針葉樹の森と、ご飯タイムをご一緒するために。
そんなこんなして暮らすうち、散歩の途中、「なんとなく」気になって追いかけた草の道。
そこで、小川の中に捨てられた椅子に出会った。
小さなせせらぎの音の中で、透明な水の流れの中で、その椅子は捨てられ、そこに引っかかったたくさんの小さな枝が川の中州のようになっていた。
私は、それを「素敵だ……」と思った。
ビジョンクエストの時のように、景色へのお礼代わりにうたをうたった。
しばらくたたずんで眺めていると、ふと浮かぶものがあった。
「捨てられた人工物でも、人が手放し自然に帰れば、こんな素敵な姿にしかならない」
そのアイデアは、それまでの自分には無かったもので、しかし、それ以上の真実は無いとさえ思えるほど、なぜか確信に満ちていた。
そうか、と思った。
これが私のビジョン。私の命の使い道の道しるべとなるもの。
半月ほどの旅をかけて、世界から私へと与えられたプレゼント。
その知恵をもってさらなる旅、クリエーションジャーニーへと出かけるのだが。
それはまた、別のお話。

2023年1月30日

いいなと思ったら応援しよう!