ウレナイシ

 満月の夜になると妻が飛んで行ってしまうので困る。カヌーで漕ぎだし島々を巡っては妻を追い求める。妻は必ず迷子になってしまうのである。  
 月明かりに照らされた島で妻を見た人がいないか捜す。住人の一人に「ウレナイシ」を訪ねるよう勧められる。それが何なのかは教えては貰えずこの住人がどちらの種類の人間かも判らない。この一帯の島には本当のことしか話さない人と本当のことを話さない人しかいない。相手がどちらの種類の人なのかを見極める必要がある。そして相手の答えがどんなものであろうとも礼節だけはわきまえていないければならない。月夜であればウレナイシは余所者でも出迎えてくれるという。
  
 丘にある広い四阿に明月を背に人が立っている。挨拶をして近づこうとするも静かに制される。こちらが妻についての質問をする前にいろいろと質問をされる。すべて正直に答えるとウレナイシは我々についてをゆっくり語り始める――成長することがないこと。泳ぐことができず水に沈んでしまうこと。互い以外から愛されることがないこと――。  
 こちらからの質問には答えてもらえないのでウレナイシがどちらの種類なのか分らない。月明りの逆光で姿はよく見えず声からも性別や年齢は判断ができない。ただ最後に妻がいるという島の方角を教えてくれる――白月を指さす。  
  
 水面に伸びる月明りの道を進み辿り着いた島々を巡っては出会う人すべてに翼の生えた女性が降り立っていないか尋ねてまわる。空が白んで来る頃になってようやく妻を見付けることができる。
 妻は自分がどうして満月の晩には飛んで行ってしまうのかまるで憶えていない。カヌーに揺られながら心配していたのだと伝える。ウレナイシについては話さない。そもそもあの人物がウレナイシなるものかどうかも実のところ明らかでないのである。妻はいつも泣きながら謝るのでどうしても許してしまう。 

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