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疾走、桜花獣旋風。 1/4 #こちら合成害獣救助隊

人の身長ほどある草に覆われた河川敷の茂みの中、ウサギの耳を備えた仔犬が眠っている。よく見れば毛色もチグハグだ。間違いない。こいつは合成害獣(キメラ)だ。俺はそいつをハンマーで叩き殺す。いや、まだ殺してない。幻覚だ。嬉しすぎて未来を見てしまった。

落ち着け。一撃で殺してどうする。ようやく見つけた獲物だ。殺すのは試したい事を全部試してからだ。吊るし、引き裂き、粉微塵にする。混ざり合った命を全て味わってやる。死は救済だ。

報道されるようなクソでかいキメラじゃない。俺が好きに出来るキメラ。やっと見つけた。キメラは相変わらずまぶたを閉じて眠っている。思わず笑みがこぼれる。俺は抱え上げようと手を伸ばした。キメラの腹のブチ模様が、瞬いた。

模様には虹彩があった。瞳孔もあった。それに気付いた時、キメラは既に地中からその本体を表していた。横向きの仔犬をアタマにくっつけた、巨大なヘビ。こいつはずっと、俺を見てた。迫りくる巨大なヘビのアゴを見ながら、俺は失神した。最期の瞬間、影がよぎった。

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「レイちゃん、大丈夫?!」

「うん、へーきへーき。」

たくさんの犬を引き連れて追いついてきた扇さんに、あたしはフードをかぶり直しながら応える。ヘビ型キメラは既に昏倒してあたしの足元にいる。懐から取り出した緊急用の捕獲ユニットをセットすると、エアバッグのような不透明の膜が膨れ上がり、ヘビキメラを球体の内側に取り込んだ。よし、救助完了。

「急に走り出すからびっくりしちゃったよ」

「ごめんごめん。なんかイヤなニオイがしてさ。」

やや離れたところでひっくり返ってる男を見る。すれ違った男。体臭の奥に僅かに感じた血と脂、そして金属の臭い。無視出来ない違和感。そいつを追跡したら、これだ。丸呑み事案はあたしのキックが防いだ。

「キメラを見つけたら通報を、ってあれだけ言ってるのになぁ…」

扇さんがやれやれとため息をついた。ほんとそれ。あたしは男の周りに散らばる物騒な凶器類を写真に収める。銃刀法違反だ。まったくもう。

とある企業が起こしたバイオハザードで世間に蔓延した「合成害獣(キメラ)」。それらは街のあらゆる場所に潜み人を襲う。だけど彼らも元は動物。殺処分せず救助せよ。それがあたし達の仕事。

救助したキメラはしかるべき機関で分離処置が施される。そこに至るまでの事情聴取はそれなりに長く、このまま散歩に戻るわけにもいかない。おまけに今日は不審者まで捕まえてしまった。扇さんに預けたハスキー犬達が首を傾げてあたしを見る。救助隊詰所の隣にある保護施設の子達だ。「おねえちゃんサンポは?」とでも言いたげ。うう、ごめんね。

「…あとはあたしがやっておくから、扇さん、その子達の世話、お願い。」

「いや私も残るよ!またあなたはそーやって自分ばっかり!」

そう言って徐ろに端末を取り出して各所に連絡を入れ始めた。犬達もワンワンと応える。優しい…。感謝しつつ、あたしは周りを見渡す。堤防には満開の桜。遠くの河川敷には花見やバーベキューを楽しむ家族連れがごった返している。今日も平和だ。うん、それでいい。

だけど、あたしの感覚は、また違和感を感じてしまった。ヘビキメラと男を見やる。違う、こっちじゃない。もっと遠く?

「あ!レイちゃんフード脱いじゃダメだって!」

扇さんの注意を無視して、あたしは頭に生えた猫の耳に神経を集中させる。あたしが人と猫のキメラだって事は世間に秘密だけど、今は人の目もない。錯綜する人の声をかきわけて、違和感の源を探る。水の音、波の音、そしてそれらが弾ける音。その方角、遥か遠くの川面に水柱が立ち上がり、巨大な影が躍り出た。ええと…サメ!ワニ!イカ!…アザラシ?これは自信無い!

「扇さんッ!出動掛けて!救助対象、大型4!」

【続く】

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牧野なおき
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