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「ウーパールーパー」という名前はどこから来たのか?

それは確か2021年のことである。マインクラフトというゲームにアップデートが来た。マインクラフトの世界には様々な生き物が棲んでいるのだが、このアップデートでウーパールーパーがマインクラフトの世界に追加されたのだ。


ウーパールーパー、かわいい。自分でもプレイしたが、YouTubeでいくつかの実況動画も見た。一つは英語の実況動画だった。すると、あることに気付いた。

ウーパールーパーは英語で axolotl (アクソロートル)と呼ばれていたのだ。

へー、そうなんだ。全然知らなかった。じゃあ、ウーパールーパーって何語なんだろう?
そのときの自分は何気なくそう気になったので軽い気持ちで調べてみた。本当に何気なくだった。

……そしてこれは私がウーパールーパーの沼にはまる第一歩だったのである……。

1. 日清食品との関係!?

「ウーパールーパー」という名称について調べたところ、実はウーパールーパーとは日本で付けられた名前なのだそう。英語の axolotl はウーパールーパーが生息する現地のメキシコの言語(の一つ)・ナワトル語から来ているらしい。
日本語でも、「アホロートル」(スペイン語風の発音)と呼ばれることもあるそうだ。和名としては「メキシコサラマンダー」「メキシコサンショウウオ」とも呼ばれ、「ウーパールーパー」はあくまで俗称、つまりあだ名なのだ。



って、そのあだ名、どこから来たんだ!?


ウーパールーパーがどこか遠い国の言語の発祥なら自分は別にそれ以上気にもしなかった。

でも、「ウーパールーパー」なんていう単語が日本語だと言われると、「え、どういうこと!?」と気になってしまったのだ。

「メキシコサンショウウオ」ならメキシコにいるサンショウウオで、サンショウウオっていうのは山椒みたいな匂いがする魚ってことなんだろうね、と納得できる。(サンショウウオは魚ではないが。)

でも、ウーパールーパーて。

なんだよウーパールーパーって。

自分は80年代には生まれていないが、ウーパールーパーは80年代に日本で流行っていたことはなんとなく知っている。逆に、それまではウーパールーパーという生き物はあまり認知されていなかっただろう。
そう考えると、「ウーパールーパー」というあだ名ができたのもその時期なのだろう。
日本語のながーい歴史に比べると、ごくごく最近と思える。

……こんなに最近できた言葉の由来なら、調べれば分かるのでは?

そう思ってGoogleでウーパールーパー・サーチに励んだ。そこで出てきたのは、「ウーパールーパーは日清食品が広めた商標名」という言及である。

日本で紹介されて広まったのは1985年。カップ焼きそばのCMで「UFOに乗ってやって来た宇宙人」という設定(商品名を書いてしまってるようなものですね)でした。その際に「アホロートルでは日本語としてどうも印象がよくない」ということで別の名前を考えたのだそうです。当初は「スーパールーパー」という案があったけど、「スーパーは一般的すぎて商標登録に時間がかかる」という理由でウーパーになった、ということが言われています。ウーパールーパーって、商標だったんですね。

神戸新聞NEXT 2021/6/18 https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/omoshiro/202106/0014451008.shtml

日清は85年にウーパールーパーをテレビのCMに登場させ、それがきっかけでウーパールーパーが流行したのだと。「アホロートル」は響きが悪いので別の名前を考えたと。なるほど。

実際のCMもYouTube上にアップロードされていた。実物のウーパールーパーだけでなくオリジナルキャラクターらしきものも登場する。

日清UFOのCMから

CMの中ではウーパールーパーのキャラクターが

「僕は、愛の使者!」

というセリフを言っている。お前、そうだったのか。

ここで納得して「へえー」と終わりにしていれば話は早かった。

が、先ほどの記事では「スーパールーパー」にすると商標的に面倒だから「ウーパールーパー」になったとしか書かれていないが、そもそも「ルーパー」がなんなのかも気になるし、記事の真偽も一応確かめておきたい。

そう思って当時の私は日清食品に問い合わせてみた。

「こんにちは。日清食品さんのカップめんなどの商品を子供のときから美味しくいただいております。
 食品とは直接関係なく恐縮なのですが、私は『ウーパールーパー』は日清食品さんが名付けたものだと聞きました。これは事実でしょうか?
 事実であれば、今や日本中で認知され愛されているウーパールーパーがどういった名前の由来なのかぜひ知りたいです。」


というような内容を問合せフォームで送った。

どきどき。返事が来るだろうか。「なんだこいつ」とか思われてないだろうか。


……翌日、早速日清からの回答が来た。


ワクワクしながらメールを開いた。要約すると、



確かに日清は85年に日清焼きそばUFOのCMでイメージキャラクターとしてウーパールーパーを使用し、
当時のウーパールーパーブームの火付け役になった事実はあるかもしれないが、

「ウーパールーパー」と命名したのは日清ではない。


……

えええー!!??


日清はたしかにウーパールーパーをイメージキャラクターとして使いブームを起こしたのに、ウーパールーパーという名前自体はそれ以前からあった……?

どういうことなんだろう?
「ウーパールーパー」の歴史、意外ともうちょっと長いのか?

ただでさえどうでもいいようなことに首をつっこんでいるのに、余計に気になってしまった。

しかし、自分の検索スキルではネットでそれ以上の情報を集められず、途方に暮れる。
ちなみにその当時は私は海外に住んでおり、日本のことを調べるには少し都合が悪かった。

日本に帰ったら、またウーパールーパーについて調べよう……。

消化不良感を抱えながら、私は非ウーパールーパーの日常に戻った。



2. 図書館のレファレンスサービスはすごい

それからしばらく経ち、帰国。

まずは図書館で語源辞典を調べみるが、「ウーパールーパー」の語源はない。

そんな中、もう一度ネットでの検索に耽っていると、株式会社「ハウスオブローゼ」がウーパールーパーの商標を持っていたという情報を手に入れる。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/t0302

……あれ? 日清じゃないの?

しかもハウスオブローゼの商標の出願は1984年とある。

ウーパールーパーブームのきっかけとなった日清のCMは、1985年。

じゃあひょっとしてハウスオブローゼがウーパールーパーの名付け親なのか?

ちなみに上の商標は2002年に取消済み。ブームが去って、使わなくなったのだろうか。

日清の商標との兼ね合いがどうなっているのかわからないし、そもそも日清が商標を持っていたということの証拠は自分には見付けられなかった。

(これは単に、取消済みの商標を探すのが難しかったから。本当に商標を持っていた可能性は十分ある。)

ともかく新しい情報にワクワクしてきた。

さっそく ハウスオブローゼに問い合わせてみる。

すぐ返事が来た。日清もそうだが、めちゃくちゃありがたい。

概要としては、


「当時の情報が残っていなく推測だが、ハウスオブローゼはウーパールーパーの名付け親ではない。
日清との兼ね合いについては、日清とは商標の区分が違っていたから日清もハウスオブローゼも商標を取得できたのでは?」

というような回答だった。

商標について無知すぎて、区分が違えばそれぞれで商標を登録できるということを分かっていなかった。

結局、ウーパールーパーという名前についての情報は得られなかった。


これ以上どう調べるか?

実はしばらくの間途方に暮れてダラダラとしていたのだが、しばらく経ったある日、図書館のレファレンスサービスを利用しようと思い付いた。

レファレンスサービスとは、図書館の司書さんがいろいろな質問や相談を受けて資料を探すお手伝いをしてくれるサービスだ。

(ちなみに、個人的などうでもいいポリシーだが、「インターネットで不特定多数の人に質問する」はあくまで最後での手段だと決めている。だって、つまらないじゃない。(謎のこだわり))


ということで近所の図書館のレファレンスサービスを利用してみた。

……実は自分、自分が今まで得た以上の情報が得られるとあまり思っていなかった。
だって、自分だってこれ以上どう調べていいか思い付かないんだから。

しかし、そんな考えはプロの司書さんをナメていた

図書館の回答としては、次のとおり。


「『世界大博物図鑑 3 両生・爬虫類』にてウーパールーパーは『アルビノ型のアホロートルをもとに作られたキャラクター商品名である。』とあります

 また、過去の新聞記事のデータベースを検索したところ、以下の情報が見つかりました。」

朝日新聞 1985年8月6日 朝刊



!!また新たな会社名が!!

まとめると、ウーパールーパーというのは今や動物の名前として認知されているものの、元々はキャラクター商品名でかつ、「版権販売会社ジャックポット」の登録商標であったという。

司書さんからの回答メールの最後に

「語源に近付くことができず申し訳ありません。」

という一言があったので「新しい情報が得られてとても助かります。この情報をもとに更に自分で調査をしようと思います。」と返信をしたところ、「微力ながらお役に立つことができ、安堵いたしました。」と返ってきた。

いやいや、マジで役に立ってますってば。


版権販売会社ジャックポットについて自分で更に調べてみる。
現存する会社なのかは分からなかったが、

「ウーパールーパーのひみつ」著 Jackpot 英知出版 1985年

という本の情報を入手した(国会図書館のページ)。このJackpotというのが上の新聞記事にある「版権販売会社ジャックポット」なのか!?

あまり出回ってる本ではないのか購入するのは難しそうだが、国会図書館を含めいくつかの図書館に置いてあるらしい。

ただ、自分が気軽に訪れられる範囲の図書館にはない。

遠征するか?

……いや、またレファレンスサービスだ!!

ということで次は大阪府立中央図書館のWebレファレンスサービスを利用した。

回答の概要は次のとおり。

「当該図書を確認したところ、以下の一文がありました。

『ウーパールーパーはプロデューサー四季折々氏がメキシコ旅行中、自ら取材したメキシカンサラマンダー、アルビノ種(通称アホロートルの一種)にヒントを得て創作したキャラクターです。』」



……ついに名付け親の情報が!?!?


「そのページのコピーを送っていただくことは可能ですかね……?」

と聞くと、

「はい、有料ですが、複写申し込みを受け付けられます。」

とのことだったので、早速コピーをお願いした。


数日後、ついにやって来た。ウーパールーパーのひみつが。

ここに、すべての答えがあるのだろうか……?






Jackpot著「ウーパールーパーのひみつ」表紙
Jackpot著「ウーパールーパーのひみつ」より


……こ、これは……


U.F.O.のCMに出てきたキャラクターだ!


そして、見逃してはいけない重要な情報がそこにあった。



CMで聞いた「愛の使者」というフレーズ。

なんとこれが答えだったのだ。


ウーパールーパーとは、生息するメキシコの現地の言葉をアレンジした「愛の使者」という意味のキャラクター名

それが日清UFOとコラボし、ヒット。人々の間では動物のメキシコサラマンダーそのものがウーパールーパーとして認知されるようになる。

これが、ウーパールーパーのひみつ。



……ということで今回は「ウーパールーパー」という名前についてのもっともそれらしい情報を得ることができた。

協力してくれたすべての方々・サービスに感謝したい。とくにレファレンスサービスの方との連携には感動すら覚えた

こうして無事、自分のすごくどうでもいい知識欲求が解消されたのであった。

おしまい。


Jackpot著「ウーパールーパーのひみつ」裏表紙

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