回想録 胎内 母の日記
わたしの母は、わたしを産んで身体を壊した。
入院して離れていたから、可愛く思えなくなったと言ったけど、本当はそうではない。
嫌だったのだ。わたしが横入りした日から。
実際に、かなりの負担だったとも思う。
母は お腹の子に" 和枝ちゃん" と名前を付けて、それはそれは可愛がっていた。
和枝ちゃん、元気ですか?
和枝ちゃん、暑くないですか?
和枝ちゃん、会いたいです。
大好きな和枝ちゃん。妊娠がわかった日から、群青色の万年筆で、毎日日記を書いていた。
文通みたいに、話しかけて。
そんな親愛なる呼びかけは、ある日を境にはたと止んだ。
さて。なにが起きたでしょうか。
ひとことでいうと、入れ替わったのだ。
すでに胎内に出来上がった和枝ちゃんの魂のための肉体を、わたしがそのまま譲りうけた。
記憶は鮮明。冴え冴えしている。
間違えようのない事実。
そこから母の日記は止まってしまった。
鋭いね。