回想録 1才4才しにかけた
しにかけたことは何度かある。
まだよく歩けない赤ちゃんの頃に屋根から落ちた。落とさった。
頭を強く打ったから、その部分の髪は今でも生えない。
同じように4才になった頃。
凍った池にひとりで落ちた。
実家の庭には鯉がいる池があって、石の橋が掛かっていた。
あれは2月。
表面には氷が張っていて、祖母から決して近づくなと言われていた。
母が弟を連れて散歩に出る時間。
ひと足早くスノーブーツを履いたわたしは外に出て、雪の積もった橋の上から氷をみていた。
そして、そっと乗ってみる。
嬉しくなって踏み出したら、それは割れて氷の中にドボンと落ちた。
母は黙ってそれをみていた。
その視線は感じていた。
鼓動が止まりそうな冷たい目で、沈んでいくわたしをみつめ、一言も発さずに、ちいさな弟の手を引き寄せて、背中を向けた。
肉体から抜けた視点で。
遠ざかっていく背中をみていた。
とり乱しはしなかった。
すぐに。
ではなかったけれど、まだ肉体に戻れるうちに、祖母がわたしをみつけてくれた。
それはもう寒かった。震えで飛び出てしまいそうなくらいには。
なにがわたしを凍らせたか。
きっと誰にもわからなかった。
誰に言おうとも思わなかった。