カタルシス 18-19-20
せかいは色と形の変わるエネルギー。まわりに漂うひかりの粒子。ラタンの籠に入ったお菓子はぜんぶ、触ると色がみえて味がした。
さまざまな時空間に存在する、同時多発的なあなたとわたし。
それは覚醒していたわけではなく。
悟っていたわけでもぜんぜんない。
ひとつの意識がまっすぐに
最速での再落下を【決めた】だけ。
地球上での【一度戻って忘れて生まれる】というお作法を、全速力で無視しただけ。
とにかくわたしは。
一分一秒でも速くこの世界に戻りたかった。
1978年8月の夕方、エドガータウンのヨットハーバー。
海で分裂したわたしの意識の片方は、一切の迷いなく進んで行った。
わずかでも、なにかがあったらダメだった。わずかでも躊躇があったなら。
ここは意識が反映する場所。
地上みたいなタイムラグは一切ない。
まるでクリアな写し鏡。
ひとつの意識(ひかり)が松明みたいに、そしてモーセの海割りみたいに、わたしをそこへと連れてった。
(意識ってひかりなんだ)
【生まれたい】
さまざまな人種のさまざまな男女のペアが、裸でずらっと並んでいる。うえってなるほどすごい蛇行の大行列。この時代の人気さ加減よ、まれにみる。エネルギーの濃密さ。
そこは緑のねばっとした空間だった。
わたしはそこを瞬間移動で、一番前まで躍り出た。
なんと説明したらいいのか、、、
みているすべてがそうなんだけど。
とにかくそこはポータルで、厳粛で神聖で、
ひかりの座、なんだろうか、何角形?ひかりで花びらにもみえる、台座みたいな上に、境めの人(これから生まれ落ちる人)は乗っていた。
赤ちゃんだけではなく、両親ごと。
実際に、というわけではなくて、エネルギーとしてなんだと思うけど、一緒にいた。セットになってた。
アフリカ系アメリカ人のカップル。髪は黒い。
入っているのは男の子。
最速だしエリアも近い。
(ここが第一志望だった!!!入りたかった!!!本当に!!!)
しかし今日明日生まれる肉体には、結果どれにも入れなかった。
当然だ。
こちらの意志も固いのだが、あちらのバリアも固いのだ。
こちらも生まれたいのだが、あちらも生まれたいからだ。
魂と肉体の結合も固く、まあ、無理だね、横入りは。
シャキーーーン
キーーーン - - -
オクターブ上の次元の金属音みたいな感じ。
こちらの世界で例えると、かなり品質よく焼かれた炭みたいな、あんな気がする、波動的に。
(この跳ね返される感覚は、今でもリアルなことのひとつ)
何度かのトライのあとに、サーチしたのは今生では日本人の父と母。
わたしはここで、和枝ちゃんの存在を通して父母をみている。
縁が深かったわけではない。そして全然知らない人でもない。いつかどこかの転生で、ちょっと見知ったくらいの関係だった。
血よりも縁よりもなによりも。
わたしの望みは「最速」だった。
どこかになにか、引っ掛かりがなければ生まれて来れない。
そんなぎりぎりなラインだった。
お願い入れて
わたしを入れて
【生まれたい】
"誰かにとって特別だった君を
マークはずす飛び込みで僕はサッと奪い去る"
と歌う曲がある。
ドアノック
ごめんなさい
ありがとう
ゆるしてください
あいしています
なんどいってもいいたりないよ
わたしはこれを聞くたびに、この場面を思いだす。鮮明にフラッシュバックする。
あのねばった空間とひかりだったわたしのことを。
"...meat me, meat me in your soul, Please drop me, drop me in your heart"
お願い入れて
わたしを入れて
【生まれたい】
(もちろん高次での同意はあった)
今になってみてこれは、受肉という順番待ちの外科手術を、むりやり割り込み麻酔なしで受けたようなものだと思う。
そんなの痛いに決まっているし、支障が出たって仕方ない。
そして一度からだの外に出た魂にとって、すぐに戻るということは、ちょっとありえないことだった。
(濡れた水着をまた着るみたいな、一度離れたからこそ感じる不快)
ーーーなのに16年のロスタイム。
神も天使も役立たず。
この時空間が縮められない。縮まない。
思っていたのと全然違う。感覚が、ルールがあちらとまったく違うのだ。
時間と空間の十字架が、こんなに重いものだとは。
戻れるんだとおもってた。ただ、生まれさえすれば。
世界はクルッと反転をする
今ってほんとに今だけなんだ
誰がなにをどうしても。
どうにもならないことだった。
どんな意識(ひかり)をもってしても
同じ場所(肉体)には戻れなかった。
もうここ(肉体)には入れなかった。
肉体はこんなにも、もろく限りがあるものだった。
びっくりしたし忘れていたけど
それがしぬっていうことだった。
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