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RIP処理とデータの安全性

RIPでは何が行われているのか

DTPに携わる人間であれば、RIP(リップ)という名前をこれまでに聞いたり見たりしたことがあるのではないでしょうか。言うまでもなくRIPはPostScript出力を行うプリンタやイメージセッタ、CTPに備わっている装置です。

ところで、DTP出力にはRIPが必要だということは分かっていても、その中で何が行われているのかまでは知らない人がほとんどではないでしょうか。もちろん、そんなことは知らなくてもきちんとデータが出力できればかまわないわけです。ただし、いったん出力トラブルが起きた場合、RIPで行われている処理を知っているかどうかがトラブル解決のカギになることも少なくありません。

最近はPostScriptではなくPDFを使った出力が一般的になり、また、RIP内部で面付けや色分解などの処理も行われるようになってきました。それだけ、RIP処理についての理解が使う側に求められるというわけです。

RIPというのは「Raster Image Processor」の頭文字をとった造語です。ラスターイメージとはビットマップデータのように規則的に並ぶ点(ドット)で表現される画像を意味します。

コンピュータは文字や図形などのデータをベジェ曲線のように関数を使った座標データの形で作り、管理しています(こういったデータをベクターデータと言う)。ところが、出力装置はそれをそのまま扱うことができないため、出力するにはラスターデータの形に変換しなければなりません。これをラスタライズと言い、ラスタライズ処理を行う装置をラスタライザーと呼びます。

ちなみに、プリントする場合だけでなく、たとえばTrueTypeフォントのようなベクターフォントをモニタで表示する場合もラスタライズは必要です。そのため、TrueTypeフォントを扱えるOSにはTrueTypeフォントをビットマップ化するラスタライザーが備わっています。

ラスタライズはコンピュータのデータを出力するさまざまな場面で行われていますが、特に、PostScriptデータのプリント出力を行うラスタライザーをRIPと呼んでいるわけです。

また、ビットマップ画像はラスターデータですが、印刷用のCTPなどに出力する際は解像度や網点処理などを行う必要があります。これらもRIPでの処理になります。

RIP処理のプロセス

RIPでは何段階かに分けて処理が行われます。PostScriptデータを出力する場合、まず行われるのが「Interpret」(解析)という処理です。この工程ではPostScriptデータを解析し、オブジェクトの位置の特定やアウトライン化、フォントの呼び出しなどが行われます。

出力トラブルの多くはこの工程で起きており、画像のオブジェクトが消えてしまったり、文字が化けるといったエラーは、この段階の作業がうまくいっていないことを意味しています。逆に言うと、この作業が終わったデータであれば、文字化けなどのトラブルはまず起きない(完全に保証されるわけではない)ということになります。

なお、AcrobatのDistillerはこの作業をクライアント側で行うアプリケーションです。Distillerで作ったPDFはInterpret処理が終わっているので、出力トラブルが起きにくいとされています。Distillerと同じようにPostScriptをInterpretしていったんPDFを作る(ノーマライズと呼ばれている)RIPでは、画像の分解やカラーマネージメント処理、プリフライトなどの処理もこの段階で行われます。

フォントは、文字のアウトラインデータが呼び出されますが、文字コードをそのまま保持しておけば編集も可能です。

次に行われるのがレンダリングあるいはラスタライズと呼ばれる処理です。この工程では、線画は出力機の解像度に合わせて短い線分に変換されます。画像と線画はまだ別の扱いです。

線画が出力解像度に合わせて変換されることで、文字化けやオブジェクトの欠けといったトラブルはほぼ完全になくなります(もちろんこの段階までに起きていれば同じ)。安全性はかなり高くなりますが、編集・修正は基本的にできず、また、データも重くなってしまいます。

ワークフローRIPと呼ばれるRIPでは、インタープリット(ノーマライズ)ないしレンダリングの工程で作られたデータを、PDFなどの形で中間ファイルとして取り出したり保管したりできるようになっています。中間ファイルは、途中まで処理を行ったデータであり、出力環境に依存せず、他のシステムに持っていって出力しても、文字化けなど出力結果が変わってしまう危険がない安全なデータであるため、同じデータをインクジェットプルーフとCTPの双方に出力するといったことが可能なのです(レンダリングは出力解像度に合わせて行う必要がある)。

RIPでの最終工程は、スクリーニング処理です。スクリーニングとは網点を生成することで、2400dpiや3600dpiといった出力機の解像度に合わせて高解像度の2値ビットマップデータが作られます。その際、画像やアミは網点処理されますが、データとしては画像も文字も線画も全て統合された1つのデータになります。

Adobe PDF Print Engine

元々、RIPは出力機のROMに組み込まれていましたが、DTPが普及してくると、独立したワークステーションに搭載されるようになります。これらRIPの出力システムをCPSI(Configurable PostScript Interpreter)と言います。

CPSIはあくまでPostScriptの出力システムであり、PDFの直接出力には対応していないため、PostScriptに代わってPDFをDTP標準の出力フォーマットにしたいAdobe社は2006年、PDFの出力システム「Adobe PDF Print Engine」(APPE)を世に送り出します。

APPEは、PDFをそのまま出力で使うシステムです。RIP処理の一部であるInterpretがすでに終わっているPDFを使うため、PostScriptよりも安全かつ高速に処理できるというのが特徴です。

PDFを直接出力することによるメリットとしてスピード以外でまず挙げられるのは透明効果の処理でしょう。PostScriptは透明効果に対応していません。そのため、ドロップシャドウなどの透明効果を使ったデータをPostScript出力するには、透明効果を再現できるようにデータを分割・統合、ラスタライズする必要があります。

IllustratorもInDesignもこの処理を自動で行ってくれるものの、データによってはトラブルになることもありました。

APPEは透明効果を分割・統合することなくそのまま処理することができ、これにより透明効果がらみのトラブルは激減しました。なお、印刷用でよく使われるPDF/Xのうち、PDF/X-1aはPostScriptと同じく透明効果に対応していません。透明効果に対応しているのはPDF/X-4です。

2006年に登場したAPPEはバージョンを重ねるごとにバリアブル印刷のサポートや並列処理、広範囲色再現領域への対応など、特にバリアブルやオンデマンド印刷に対応する機能を強化してきました。2022年現在最新のバージョン6は、拡張色域印刷での色変換機能やニス版・白版の自動生成など、多様化する印刷に対応するシステムとして提供されています。

(田村 2007.7.17初出)
(田村 2022.11.28更新)

※この記事はインフォルムホームページ内「技術情報」で公開している記事です。他の技術情報などもぜひご覧下さい。

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