こんばんは!
本日3月25日、個人情報保護委員会からエムケイシステム社への行政指導と、一般事業者向けに注意喚起が発表されました。
本事案は、不正アクセスの原因となった未然防止のためのセキュリティ対策という論点だけでなく、これまで多くの事業者がもやもやしていた2つの大きな論点(①提供のクラウド例外、②クラウドサービス利用は委託の場合があると知られてない)が議論され、一定の見解が個人情報保護委員会から公表された点に大きな意味があると思います。
そこで、今日は、この論点を事案を振り返りながら、整理してみたいと思います。
行政指導の文書の読み解き
まず、PPCの公表資料から、事案の概要を整理してみましょう。
(以降、出典の明記がないものは全てこの文書です)
事案概要
PPC公表の本事案の概要図です。
本件システムの利用者数最大値2242万人に対し、報告したのは749万人分ということは、報告していない事業者が全体の2/3もあるということなのでしょうか?🫨
(それはそれで、別の問題がありそう…)
法的整理
本件漏えい事案の個人データの管理責任が、上図のいずれにあったのかを明確にするため、個人データの提供に該当する事案だったかをまず論じています。
本件不正アクセスが、SaaSシステム(クラウドサービスの1形態)であったため、
いわゆるクラウド例外として有名なQ&A7-53に該当するかの評価から始まっています。
個人情報保護法の基本として、
提供とは、自己以外の者(すなわち第三者)が利用することです。
Q&A7-53は、提供先がクラウドサービス事業者の場合、そのクラウド事業者が当該個人データを取り扱わないことになっているか、が判断ポイントであるとし、
その判断においては、以下の条件を2つとも満たせば、提供(第三者提供や委託)に当たらないとされています。
①契約条項によって当該外部事業者がサーバに保存された個人データを取り扱わないことが定められており、
②適切にアクセス制御を行っている場合
それに対し、本件のファクトは以下です。
次に、上記をふまえ、(4)検討では、エムケイ社に提供があったとみなされるのかQ&A7-53に該当するか評価を行っています。
Q&A7-53の2つの条件に照らすと、
①契約での取り扱わない明記 の評価
→ア利用規約 で取り扱うとなっており、一部の場合には、加えてエ取り扱い状況で「個人情報授受確認書」を取り交わし、実際に取り扱っていた実績がある。
→取り扱わないと言えない
②適切なアクセス制御 の評価
→イアクセス制御で保守用IDを保有し、個人データにアクセス可能であり、ウサービスの性質上、大量の個人データを記録、管理するものだった。
→取り扱わないといえない
となり、ダブルで該当せず、結論としてエムケイ社は個人情報を取り扱う事業者であり、ユーザやクライアントとの関係においては、提供の1形態である委託との評価がされています。
次に補足として、識者の間でも、この論点がQ&A7-53の評価に影響するのか議論がある7-55についても、検討がされています。
説明を見る限り、Q&A7-53②の適切なアクセス制御の観点で、個人データの取得を防止する措置が講じられていなかった以上、取り扱っているという評価は変わらないとされています。
(言い換えれば、②アクセス制御については、取得を防止する措置が講じられていれば、閲覧可能となる場合があっても適切なアクセス制御ができているとの評価ができるとも取れる点は、個人的にはスッキリポイントでした😃)
次に上記の法的整理をふまえた、問題点です。
法律上の問題点
エムケイ社、ユーザ、クライアントの3者別に法律上の問題点が整理されています。
委託を受ける場合(すなわち受託者)でも、日本の個人情報保護法上は、「個人情報取扱事業者」に該当、安全管理措置の義務を負う前提で、23条安全管理措置に関係する通則ガイドライン別添の説明がされています。
続いて、本件不正アクセスが生じた原因として、技術的安全管理措置の不備が指摘されています。
この不備は、決して珍しいものではなく、外部からの不正アクセス原因でよくある原因の印象です。
続いて、委託先であるエムケイ社の委託元であるユーザ(社労士事務所等)の法的問題です。
本件漏えい原因は、エムケイ社にあるが、委託元は法25条に従い、委託先の監督義務があるが、そもそも、多くのユーザ(社労士事務所)は、委託を行っているとの理解がなかったため、結果として委託先の監督が不十分だった可能性があるとしています。
これは、筆者も本件の関係者のブログや、SNS等の論調から感じていた課題です。
この点、別の事案ですが、日経新聞が、システム利用が委託にあたると思うか?と自治体(委託元)に独自調査をされていました。
その結果によると、再委託先となるシステム提供先を知らなかったとの回答が8割、知っていたとの回答はゼロという驚くべき結果となっています。
本件に限らず、システムの利用やSaaSの利用が個人情報保護法上の委託(再委託含む)にあたることが認知されていないという根本課題があるように感じます。
この点、3年ごと見直しでも論点にあがる気配もあり、注視していきたいです👀
次に、従業員データを取得し、社労士事務所に委託を行っていたクライアント(各事業者)です。
ここでも、委託、再委託の認識不足問題がっ!
最後に番号法の評価です。
マイナンバーは、影響なくてよかったです!
個人情報保護委員会の対応
最後に、行政指導や今後の個人情報保護委員会の対応で締め括られています。
エムケイ社への対応は、法147条の指導で、より厳しい勧告や緊急命令ではありませんでした。
再発防止の実施状況を求めるのも通常運転な印象です。
監視・監督の規律については、前のブログで紹介したこの図がわかりやすいですね!
次にユーザ(社労士事務所)及びクライアント(各企業)に対してです。
そもそも委託だと思っていないという残念な事実が判明した本件、関係者全員とすると数千社単位となるためか、実際に取り扱いのあった事業者(20社?)を中心に継続調査で、必要な対応の判断は継続検討となったようです。
最後に、この不都合な真実…多くの事業者がクラウドサービスの利用が委託等に該当する場合があることの理解が不足していることが明らかになったことから、全事業者に向け、注意喚起がなされることとなりました。
こちらの文書については、また、後日紹介したいと思います。
いかがでしたでしょうか?🦑
個人的には、特に玄人筋で話題になるクラウド例外よくわからん問題より、委託と思っていない人多すぎ問題の方が深刻だと思っていました。
それゆえ、今回のエムケイ事案(やNTT西事案)で、問題が白日の元に晒されたことは、3年ごと見直しの検討にとって、良きことだったのではないかと感じています。
多くの人に理解されていない原因は、ルールがわかりにくい、何やったらよいかわからないから放置、という側面もあるはず…
来年の改正法で、「あの時雨降って、地固まったね!」となると良いですね!
それでは、また!