寝台夜行列車043Тアルマトイ→アスタナ
【概要】
カザフスタンの寝台列車043Тです。始発はアルマトイ-1駅。シュ、カラガンダ、アスタナ(ヌルスルタン)、トボルを経由し、終点はコスタナイ。この列車の予約クラスはクペー(Liegewagen)とプラツカルト(3等の解放寝台車)の2種類。いつも通り、クペーのベッドを4台買って1室占拠しました。今回は始発のアルマトイからアスタナまで乗車。2024年10月18日17時05分発車、翌日16時28分到着、走行時間23時間23分、走行距離約1340kmです。1室=ベッド4台分で合計46732テンゲ。この列車はカザフ鉄道ではなくTurksib Astanaという私鉄により運行されているそうですが、カザフ鉄道から予約しました。
アルマトイ-アスタナ間には他にも夜行列車便があるのですが、043Тを選んだのは、カザフスタンで一番レトロな客車がいるらしいから。
詳しい経路はこちらの地図を。
【アルマトイ-1駅】
タシケントからの列車で到着したアルマトイ-2駅とは別の駅で、市街地からかなり離れています。もはや空港。というか近くに空港ある。夕方のラッシュに捕まらないようにと早めにタクシーに乗ったのですが、YandexGOの予想40分を大幅に上回って1時間はかかりました。公共交通機関だと順調に行っても1時間かかるそうです。大幅に余裕をもって向かいましょう。
階段・エスカレーターを上った先にもカフェや軽食屋がありました。地下にはトイレとローカル食堂。
水や食料の他にスマホの周辺機器とか売ってるお店もあり、ほぼ何でも買えます。でも客の数に対してイスが足りていないので、あまりゆっくりはできませんでした。
【いざ乗車】
残念ながら駅舎すぐではないホームに列車が待機していたようで、乗客は一度2階へ上り、高架化している通路を通ることに。線路上を歩かなくて済むうえにエスカレーターもあるし、さすが新しい駅なだけあるな!と感動したのも束の間、エスカレーターが停止。大きい荷物を抱えた高齢者にこの仕打ちは酷くないか…。バリアフリーは弱くても人間の優しさはしっかりしているので、みんなで助け合います。
どうにかホームに辿り着き、いつも通り車掌さんにチケットを見せて車内に通してもらいます。
2024年10月現在、この列車の客車はロシア製の新型で置き換えが進んでいる最中で同一車列内に新旧入り混じっている状態でした。確実にお目当ての「カザフスタンで一番レトロな客車」に乗るために、ポンコツなロシア語で何号車がレトロなのかをググったという。ニンゲン、こういう動機があると何でもできるのね。
ちなみに2024年末あたりに全客車が新型になるらしいとかってどこかで読んだので、もしかしたらこの子はもう走っていないのかもしれません。
【車内ツアー】
毎度おなじみ、車内ツアーです。まずはベッドから!Turksib Astanaのロゴとかわいらしいカザフ模様が素敵なリネンです。マットレスは柔らかめ。パツパツで固めなベッドとの組み合わせがちょうどいい。コンパートメント内は内側からロック可。
もちろん給湯機完備!お湯が切れることもありませんでした。
続いてはおトイレです。まあご想像のとおりかと。
古いながらもきちんと掃除がされていました。なんなら途中で塩素とお湯でお清めしていたくらい。洗面台の水もちゃんと出るし、ヨシ!なにより、途中でトイペがなくなったと思ったら補充されたという快挙。他の列車でもそうでしたが、一晩で終了な中欧の路線と違って「補給する」態勢が整っているのかもしれないですね。
外は真っ暗、曇った窓ガラス、年季の入った木の窓枠、長年のいろいろな匂いが積み重なってできたであろう祖父母宅のような室内の香り、石炭ストーブで微妙に暑い車内、ギラついているようで微妙に薄暗い照明、そしてときどき街に入ったときしか繋がらないネット。スマホどころか自宅にコンピューターとインターネットが標準インフラではなくまだまだ「一部のご家庭」のもので、携帯電話でやっと絵文字が送れるようになった頃。裏手は山で隣は農協の家畜取引所の跡地という田舎の祖父母宅の付近で、近所の子たちと雪だソリだと遊んでは家の横の畑で取れたイモを薪ストーブを茹でてみんなで頬張ってまた遊びに出たけれど、日が短いものだからすぐに薄暗くなっていた、そんなあの頃………。場所も時代も違うのに概念的には完全に一致。エモすぎる。あの場所に住みたいとは思わないけれど、魂の心象風景はそれなんだなと。
【車内を練り歩く売り子さん】
なんかエモいこと書いてしまいましたが、今度はちょっと笑えるネタを。この列車に食堂車はありませんでしたが、飲み食いに困ることはありませんでした。なぜなら、ひっきりなしに売り子さんが来るから。車内に売り子さんが出現するとの前情報は合ったものの、長時間停車する途中駅だけだと思っていましたが、なんと発車前から登場。ブツはパワーバンクでした。まあこの列車、コンセントないですからね(廊下には2つか3つあるから、非常時にはどうにかできるけど)。
発車後も飲み物だスナックだピロシキだパンだティーバッグだインスタントコーヒーだと何でもござれり。そしてアイスクリーム登場。マロージェナエ(Мороженое)と聞こえてきたときは耳を疑いましたよ。あまりの驚きに売り子さんを呼び止める。
「イチゴ」という単語がロシア語で出てこなくてドイツ語のErdbeereis(イチゴアイス)を思わず発したところ、売り子のおばちゃんがまさかのドイツ語話者でおしゃべりが延々と続くことに。ちなみにアイスはかなりおいしかったです。普通の市販品のようでしたが、基本甘いもの食べない自分でも「おっ!」とくる味でした。なにより暖房のきいた室内でぬくぬくしながらアイスという北国仕草がよい。
その後も、忘れたころにはまた売り子さんが通り過ぎるという光景が繰り返される。飲み物食い物、子ども向けのオモチャどころか服やバッグ、アクセサリーまで現れる。もはやバザール。この後に3泊4日でカザフスタンを横断した列車でも同じ光景が繰り広げられていて、その時気づいたのですが、おそらく目的は必需品の購入ではなく暇つぶしなんですよ。だから、そんなに必要になることがなさそうなものまで売ってる。スカーフや指輪なんて列車で急に必要になることなんてまずないし、別に列車で買わなくてもいいのに、実際売ってるし売れてるみたいなのですよ。平原を走るソ連客車は、娯楽の少ない田舎と同じ。
【ホームの売店】
車内を徘徊する売り子さんと並ぶ心強い味方は、ホームの売店。停車時間削られた上にテンゲの現金を持っていなかったおかげで前回の列車ではできなかった「ホームの売店で補給」の実績解除に成功しました。売っているのは水や炭酸飲料、ケフィア、ティーバッグ、インスタント食品、ウィンナーロール、ピロシキ、サモサ、チョコレートなど。
カラガンダのような大きな街はもちろん、電化・非電化区間の境界で機関車の交換をする場合や進行方向が変わるために機関車を取りまわす場合は長く止まってくれます。そして、規模は小さくても停車が長い駅では売店が立っているか、売り子さんがテーブルにブツを並べています。たまに何もないこともあるけど。
そんな楽しい時間ですが、列車に置いて行かれるのが心配な人もいるでしょう。大丈夫。発車する前に車掌さんが叫んでくれるしタバコオヤジたちが一斉に引き上げていくので、なんとなくわかります。よっぽど酔っぱらってるとか駅舎の中まで行ってしまったとかなければ大丈夫。一応tutu.ruのようなサイトで停車駅と発着時間をチェックできますが、ちょっと早めに発車してるときもあったので要注意。
【到着】
どこまでも延々と続く平原、たまにすれ違う貨物列車たち、そしてガソリンスタンドが見えると人類の支配領域に戻ってきたのだという謎の安心感。これを繰り返すこと丸一日、ついに廊下から車掌さんの「アスタナ」の声が聞こえた。
ほぼ24時間という過去最長乗車でしたが、売り子さんだったりホームの売店だったり車掌さんとのおしゃべりだったり車窓から見えるВЛ80たちだったり、個人的にはお楽しみポイントが多くて楽しい旅となりました。
お目当てのレトロ車両に乗れた上に楽しい旅になり、大満足でアスタナ到着!