超過死亡Q&A:死因別・都道府県別データからわかること
これまで,厚労省の人口動態統計の速報に基づいて2021年の各月の超過死亡を算出し,その要因を分析してきました.
1-5月:https://note.com/info_shinkoro/n/nc9b6eed433de?magazine_key=m8ad10c2b5da2
6月:https://note.com/info_shinkoro/n/nc4674fcd1ec4?magazine_key=m8ad10c2b5da2
7月:https://note.com/info_shinkoro/n/n16e1f647c6c5?magazine_key=m8ad10c2b5da2
最近,国立感染研による「都道府県別の超過死亡」が7月分まで,厚労省による「死因別死者数」が5月分まで公開されましたので,これらを参考にしてより詳しく超過死亡を考察します.また,超過死亡の記事に関しては,次のような質問がコメント欄によく寄せられていました.
Q1 超過死亡とは何ですか?どのように算出されますか?
Q2 なぜ,はじめから「国立感染研が推定した超過死亡」を基に議論しないのでしょうか?
Q3 超過死亡は,単純にコロナ死が原因ではないのですか?
Q4 死因別死者数を分析すれば,もっと詳しくわかるのでは?
Q5 医療崩壊は超過死亡にどのように影響しますか?
Q6 超過死亡の主因がワクチン死であれば,超過死亡は全都道府県に出るはずでは?そして,接種数と相関があるはずでは?
以前はその都度返答をしていましたが,コメント欄はすでに閉じられているため,以下ではこれらの「よくある質問」に答えながら考察を加えていきます.そして,最終的に2021年4-7月の超過死亡の内訳を下図のように推定します.
Q1
超過死亡とは何ですか?どのように算出されますか?
こちらの記事をお読みください.特に,記事後半の補足③が参考になると思います.
Q2
なぜ,はじめから「国立感染研が推定した超過死亡」を基に議論しないのでしょうか?
国立感染研の超過死亡推定の公表が,厚労省の人口動態統計速報から1か月程遅れるためです.公表後は,順次照らし合わせています.例えば,本記事では4-7月の超過死亡を15,837 人(= 3,169 + 5,628 + 4,693 + 2,347)と推定していますが,これは国立感染研の区間推定6,059-25,446 人(4-6月:5,671-21,924人,7月:388-3,522人)の範囲内にあり,範囲のほとんど真ん中(上限と下限の平均)に位置します.
4-6月:https://exdeaths-japan.org/graph/numberof
7月:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000845986.pdf
Q3
超過死亡は,単純にコロナ死が原因ではないのですか?
超過死亡には複数の要因が絡み合うので,当然コロナ死も一因となります.ただし,次の2つの点に注意が必要です.
① 4-7月の超過死亡15,837人(= 3,169 + 5,628 + 4,693 + 2347)は,4-7月のコロナ死者6,780人(= 1,554 + 3,092 + 1,724 + 410)の倍以上である
② コロナ死はそもそも超過死亡に寄与しにくい
2番目の点について,もう少し詳しく説明しましょう.2020年はコロナ騒ぎが始まった年であり,1年間で3,466人がコロナ死と分類されたにも関わらず,2019年よりも総死者数が8,445人減少しました.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/dl/h6.pdf
高齢化が進んでいる日本では,死者数は毎年2万人ほど増加していたため,減少に転じたのは実に11年ぶりです.
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODG228660S1A220C2000000/
では,なぜ死者数は減少したのでしょうか?端的に言えば,「肺炎・インフルエンザ死の減少が,コロナ死の増加を打ち消した」からです.特に,肺炎死の減少が顕著です.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/dl/h6.pdf
厚労省災害派遣医療チーム事務局の近藤久禎次長は,2020年11月8日~2021年1月21日の札幌市のデータ分析を基に,コロナ死者の多くは「最後の一滴死亡」に当たり,45 %は元から寝たきり状態だったことを明らかにしています.また,次のように述べています.
つまり、コロナ死亡患者の多くは、さっきの5類型でいえば、➃「最後の一滴死亡」に当たるということです。通常の年でいえば肺炎やインフルエンザで亡くなったケースです。
元々状態がよくなくて最後の死因がたまたまコロナだった死亡(「最後の一滴死亡」と呼ぶ)
https://toyokeizai.net/articles/-/421720?page=3
つまり,コロナ死をそのまま超過死亡にカウントするのは誤りです.さらに,たとえそのまま全てカウントしたとしても,半分以上の超過死亡は説明できません.「超過死亡はコロナ死で説明できる」と主張している人達には,この点の認識が欠如しています.
Q4
死因別死者数を分析すれば,もっと詳しくわかるのでは?
もちろんその通りです.肺炎とインフルエンザの死者数の増減を見れば,コロナ死がどの程度超過死亡に寄与したかがわかります.月ごとの人口動態統計には,「速報(当該月の2か月後に公開)」と「概数(5か月後に公開)」があります.これまでの一連の記事では,緊急性を考えて「速報」に基づいた分析を行ってきましたが,死因別死者数は「概数」の方にしか載っていません.先日,2021年5月の「概数」が発表されたので,次のような分析を行いました.まず,各月ごとに「インフルエンザ死+肺炎死+新型コロナ死」の合計死者数の推移を,2012年からプロットしました.当然,2019年以前は新型コロナ死に分類された数は0人です.
2021年については,赤丸が実際の死者数,白丸が2012-2020年の傾向から予測される死者数を表しています.また,縦棒が予測の幅(95%信頼区間)を表しています.ご覧の通り,1-3月の実際の死者数は信頼区間内であるのに対し,4, 5月は信頼区間を超過しています.つまり,1-3月にはコロナ死が超過死亡に寄与せず,4月には421人,5月には2,140人だけ寄与したと言えます.この結果を表にまとめました.
「超過死亡」は,これまでの一連の記事で算出した値です.「コロナ死」については,1-5月は厚労省の人口動態統計月報(概数),6, 7月はNHKが発表している速報値を用いました.
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data-all/
注目してほしいのは,1-3月に「超過死亡」が0であることと,「コロナ死の超過死亡への寄与」が0であることが,ちょうど符号している点です.このことは,「インフル+肺炎+コロナ」の合計死者数の分析が,「コロナ死の超過死亡への寄与」を推定するための有力な方法であることを保証しています.そして,4, 5月のコロナ死4,646人(= 1,554 +3,092)の内,55%に相当する2,561人(= 421 + 2,140)が超過死亡に寄与しています.6, 7月の月報(概数)は現時点で未発表であるため,これと同じ比率を適用すると,「4-7月のコロナ死の超過死亡への寄与」は3,700 人(~ 421 + 2,140 + 1,724×0.55 + 410×0.55)と推定されます.つまり,残りの~12,000人の超過死亡は,コロナ死以外が原因です.
Q5.
医療崩壊は超過死亡にどのように影響しますか?
大阪府は3月に重症病床数を大幅に減らしたため,4, 5月に医療崩壊の事態を招いており,療養・待機中に亡くなったコロナ患者は19人と報じられています.
https://mainichi.jp/articles/20210526/ddm/005/070/046000c
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210514/k10013031581000.html
また,大阪ほどの規模ではないにせよ,隣接する兵庫県と北海道もほとんど同時期に医療崩壊・逼迫の事態に見舞われました(※以前の記事では,北海道の医療逼迫は考慮されていませんでした).
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202105/0014373049.shtml
https://www.asahi.com/articles/ASP5G51JGP5GIIPE001.html
4-7月の北海道,大阪,兵庫のコロナ死者数は下表の通りです.
4,5月:人口動態統計月報(概数)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1a.html
6,7月:NHKの速報値 https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/
4-7月の全国コロナ死者数6,780人の内,約半分に当たる3,314人がこの3道府県によるものです.3道府県のコロナ死者数が,超過死亡にどの程度寄与したかを調べます.そのために,4, 5月の大阪,兵庫,北海道における「インフル死+肺炎死+コロナ死」の推移を分析しました(Q4への返答参照).
このように,3道府県の4, 5月のコロナ死者数2,460人(= 811 + 1649)の内,76%に当たる1,868人が超過死亡に寄与していることがわかります.6, 7月の死因別死者数は現時点で公表されていないため,仮に同じ比率(76%)を適用すると,4-7月の3道府県におけるコロナ死者数の内,超過死亡への寄与は2,500人(~ 3,314 × 0.76)と求まります.
Q4への返答に示したように,4-7月の全国コロナ死の内,超過死亡への寄与は3,700人です.この内訳は,3道府県が2,500人,他の都府県が1,200人と算出されました.
大阪,兵庫,北海道では,医療逼迫の影響で非コロナ死も超過死亡に寄与した可能性があります.この数を X 人としましょう.これまでの一連の記事では,「自殺」,「熱中症(暑さの影響)」は超過死亡に寄与していないことを確認し,コロナ死や医療崩壊で説明のつかない超過死亡はワクチン関連死以外に考えにくいことを述べてきました.7月までのワクチン関連死者数を Y 人とすると,XとYの関係は下の図のようになります.
次のQ6への返答の中で,X, Y を推定します.
Q6
超過死亡の主因がワクチン死であれば,超過死亡は全都道府県で出るはずでは?そして,接種数と相関があるはずでは?
まず,47都道府県の全てで超過死亡は出ています.下の図は,国立感染研による2021年4-6月の超過死亡の分析結果です(このダッシュボードでは,現時点で6月までの分析が公開されています).
https://exdeaths-japan.org/graph/numberof
例えば福岡県の場合,超過死亡は234-948人という推定です.最も少ない香川県でも,0-68人です.7月の都道府県別の超過死亡は,こちらに公開されています↓
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000845986.pdf
次に,コロナワクチン接種数との相関関係を調べてみましょう.超過死亡の推定値は幅を持つため,上限と下限の平均値をとります(Q2の返答を参照).一方,都道府県別のワクチン接種数は下記サイトで公開されています.
https://web.sapmed.ac.jp/canmol/coronavirus/japan_vaccine.html?a=1&age=65u&d=1
ここから,2021年7月31日までの累計接種数(1回接種人数+2回接種人数)のデータを入手できます.「4-7月の超過死亡」と「7/31までのワクチン接種数」の関係は,下図の通りです.
まず,大阪,兵庫,北海道の超過死亡が飛び抜けていることがわかります.これは,上で述べた医療崩壊・逼迫の寄与(コロナ死+非コロナ死)が加算されているためです.一方で,それ以外の都府県の超過死は,ワクチン接種回数と正の相関があり,相関係数Rは1に近い 0.95 です.ただし,このように強い相関が出るのは当たり前の結果で,あまり重要ではありません.なぜなら,「接種数」も「超過死亡」も,人口が多ければ大きくなる傾向があるからです.例えば,横軸に「コロナ死者数」を取ったとしても,同様に強い相関が出るでしょう.それでもわざわざ相関係数を求めたのは,「超過死亡とワクチン接種数は相関してない」という誤った主張が散見されたためです(コメント欄で教えてもらいました).
では,「接種数」も「超過死亡」も都道府県の人口で割り算をして,「接種率」と「超過死亡率」の相関を調べるのはどうでしょう?結論から言うと,これも意味がありません.なぜなら,接種率のバラつきに対して,統計的な方法で算出される「超過死亡」の推定区間が大きいため,この区間のどの値を選ぶかによって如何様にも相関係数は変わるからです(下図参照).
このように,「都道府県別の超過死亡」との相関に基づいてワクチン死の是非を論じても意味がないことがわかります.ただし,下の図には別の使い道があります.
それは,「医療崩壊・逼迫が起きた大阪,兵庫,北海道」という明らかに相関から外れた特異点があるためです.比例関係(青線)からのずれを計算することで,医療崩壊に起因する超過死亡を3,100人(~860 + 799 + 1,395)とおおよそ見積もれます.
これにより,
医療崩壊による非コロナ死の寄与: X = 3,100 -2,500 = 600 人
ワクチン関連死: Y = 15,800 - (3,100 + 3,700 - 2,500) = 11,500 人
と求まります.
【まとめ】
過去9年の死亡数推移に基づいて,2021年の各月の超過死亡を算出したところ,1-3月は0人,4-7月は1.6万人の超過死亡でした.「コロナ死」,「医療崩壊・逼迫」,「自殺」,「熱中症(暑さの影響)」を考慮しても,4-7月の超過死亡1.6万人の内1万人以上は説明がつかず,4月から一般接種が始まったmRNAコロナワクチンの関連死者と疑わざるを得ません.