駆け出し百人一首(22)足柄の御坂に立して袖振らば家なる妹は清に見もかも(藤原部等母麻呂)

足柄(あしがら)の御坂(みさか)に立(た)して袖(そで)振(ふ)らば家(いは)なる妹(いも)は清(さや)に見(み)もかも

万葉集 巻20 4423番

訳:足柄峠に立って、大きく袖を振れば、家にいる妻ははっきりと見るだろうかなぁ。

If I waved my hand at Ashigara Pass, my wife could see me clearly.


防人に選ばれ、武蔵国埼玉郡から九州に向かう男性の歌です。
防人は3年交代の任務でしたが、往復の道中など大変苦労が多く、無事に戻って来られないこともありました。2度と会えないかもしれない、という痛切な想いをこめて詠まれています。
この歌の次には、この藤原部等母麻呂(ふじわらべのともまろ)の妻である物部刀自売(もののべのとじめ)の詠んだ、
「色深く夫(せ)なが衣(ころも)は染めましを御坂たばらばま清(さや)かに見む」
(あなたの衣を色濃く染めておいたら、御坂を越えさせていただく際に、あなたをはっきり見られたでしょうに……)
が続いています。


文法事項

振らば:未然形+ば。仮定条件。
家なる:この「なる」は所在(存在)「なり」の連体形。
見もかも:「も」は推量の助動詞「む」の方言。「かも」はここでは少し疑問を含んだ詠嘆の終助詞。後代では「かな」となり、疑問のニュアンスは薄れる。


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