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■補足:クリス・クレアモントの『X-MEN』
さて、クリス・クレアモントである。
彼はライターとして、『X-MEN』誌の黄金時代を築いた人物である。しかも、『X-MEN』誌の連載を、1975年に刊行された第94号(8/1975)から、1991年刊行の第279号(8/1991)まで、きっちり16年間、続けてきた。
16年だ。
その上、クレアモントは、『X-MEN』と並行して、姉妹紙『ニューミュータンツ』誌も、創刊号(3/1983)から第54号(8/1987)まで担当していたし、その間に各誌のアニュアル(年1回刊の増刊号)や、『ウルヴァリン』、『ナイトクロウラー』などのリミテッド・シリーズ、描き下ろしのグラフィック・ノベル等々を手掛けてきた。
また一方、同時期のクレアモントは『マーベル・チームアップ』誌や、『アイアンフィスト』、『ミズ・マーベル』、『スパイダーウーマン』などのシリーズも担当し、それらの作品世界をホイホイ『X-MEN』誌の方と繋げ、世界観をさらに広げてきた(ローグやセイバートゥース、ミスティーク、カルマ等々、元々クレアモントが他誌に登場させたキャラクターから、『X-MEN』関連誌のメインに昇格したキャラクターも多い)。
で、まあ、それら16年の連載を全部読むことは、「すごく大変」であるため、本エントリでは、クレアモント期の「大体いいところ」をつまみ食いするガイドを提示したく思う。
ちなみに、ガチでクレアモント期の『X-MEN』を読破したいのであれば、マーベル・コミックス社の提供している電子書籍のサブスクリプション・サービス「マーベル・アンリミテッド」に加入するのが一番安上がりだ。
同サービスでは、クレアモント期の『X-MEN』全話が読めるだけでなく、クレアモント期の『ニューミュータンツ』や『マーベル・チームアップ』、それに『X-MENクラシック』(基本的にはクレアモント期の『X-MEN』の再録誌だが、初期イシューの巻末に、クレアモント自身が連載を補完する内容の短編を描き下ろしている)も読めるため、網羅性でも申し分ない。
それはそれとして、そこまでガチではないリーディング・オーダーを紹介していく。
1・セカンド・ジェネシス:
まずはアシェットの「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第34号として刊行予定の単行本『X-MEN:セカンド・ジェネシス』から。ここから、クレアモント期『X-MEN』の幕は切られる。
収録内容は『ジャイアント・サイズX-MEN』#1と『X-MEN』#94–103(『ジャイアント・サイズ』はクレアモントの筆ではないが)。
ウルヴァリン、コロッサス、ストームら世界中のミュータントを集めた新生X-MENが誕生。いくつかの冒険を経て、オリジナルメンバーのジーン・グレイ(マーベルガール)がフェニックスのパワーを手に入れる。
ちなみにこの単行本には、前半部しか収録されていない『X-MEN』#101-108(10/1976-12/1977)は、フェニックスのパワーを手に入れたジーン・グレイが、X-MENと共に、神秘の宝玉エムクラン・クリスタルの力を狙う星間帝国シーアーのディケン皇帝の陰謀を挫く、通称「フェニックス・サーガ」と呼ばれるアークである。
で、この間刊行された「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第2巻『ダーク・フェニックス・サーガ』は、この「フェニックス・サーガ」と対になる話なので、可能であればこちらをフォローしておくといい。……が、「ダーク・フェニックス・サーガ」の知名度に反して、こっちの「フェニックス・サーガ」は単行本化される機会が少ない。
現在、「フェニックス・サーガ」をそこそこ手軽に読める単行本が、上の『X-MENエピック・コレクション:セカンド・ジェネシス』である(タイトルが被っているのが紛らわしいが)。
この「エピック・コレクション」は、各巻500ページ越えの分厚い単行本のレーベルで、『X-MEN』本誌に加え、同時期のゲスト出演誌や雑誌記事まで網羅しているマニアックさが特徴だ。
この巻の収録作品は、『ジャイアント・サイズX-MEN』#1、『X-MEN』#94–110、それに新生X-MENがゲスト出演している『マーベル・チームアップ』#53、#69-70、『マーベル・チームアップ』アニュアル#1、『アイアンフィスト』#14-15、それに当時マーベルが刊行していたファン向け雑誌『FOOM』#10のX-MEN関連の記事。
2・ダーク・フェニックス・サーガ:
続いては、アシェットの「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第2巻の『ダーク・フェニックス・サーガ』でいいだろう。こちらは『X-MEN』#129-137を収録。
……本当は『X-MEN』#127-128(11-12/1979)にかけて展開された「プロテウス・サーガ」編もフォローしておきたいが、この話もなかなか単行本化されないので、今回はパス。
X-MENの新メンバー、キティ・プライドの加入、悪のミュータント集団ヘルファイヤー・クラブの登場などの新展開をこなしつつ、後半ではフェニックスが暗黒面に堕ち、シーアー帝国の女帝の座に就いたリランドラ(X-MENの創設者プロフェッサーXの恋人でもある)から死刑を宣告される……(フェニックスがシーアー帝国の皇帝の邪悪な野望を挫く「フェニックス・サーガ」とは逆に、シーアー帝国が悪のフェニックスの暴走を防ごうという構図になっている)。
3・デイズ・オブ・フューチャーパスト:
『X-MEN』#138-143と、『X-MEN』アニュアル#4を収録。どうでもいいが、#143以降、本誌のタイトルは公式に『アンキャニィX-MEN』となる。それまでは表紙に「アンキャニィX-MEN」と書かれていても、クレジット上は『X-MEN』誌であった。
暗黒の未来から何らかの形で時間を跳躍してきた未来のX-MENが、現代のX-MENと協力して、その原因となる事件の回避に奔走するという、その後の『X-MEN』のタイムトラベルもののフォーマットを確立した作品。上で紹介しているのは、ヴィレッジブックスから刊行された邦訳版。
4:フロム・ジ・アッシュズ:
「デイズ・オブ・フューチャー・パスト」から少々号が飛んで、『アンキャニィX-MEN』#168-176を収録。
飛ばされた『アンキャニィX-MEN』#144-167の間には、
・世界に対して最後通牒を突き付けた仇敵マグニートーとX-MENとの決戦(『X-MEN』#150)
・後にX-MENの中核メンバーとなるローグの初登場(『アベンジャーズ』アニュアル#10、当初は悪役)
・X-MENのコロッサスの妹イリアナが、異世界リンボに拉致され、成長して帰還する(『X-MEN』#160)
・X-MENが異星人種族ブルードとの戦いで宇宙で消息を絶つ(『X-MEN』#161-166)。なおこの事件では、ローグに襲われ意識不明の重体に陥っていたミズ・マーベルが新パワーを得て復活(「バイナリー」のコードネームに)。X-MENに同道している。
・X-MENが全滅したと思ったプロフェッサーXが、新世代のミュータントチーム「ニューミュータンツ」を創設する(『マーベル・グラフィックノベル』#4、オンゴーイング・シリーズ『ニューミュータンツ』)
・ミュータント差別主義の伝道師ウィリアム・ストライカーの登場(『マーベル・グラフィックノベル』#5 クレアモントのオールタイムベストと名高い「ゴッド・ラブズ マン・キルズ」編)
・超宇宙的存在ビヨンダーが人類種の観察を目論み、多数のヒーロー、ヴィランを異世界バトルワールドに転移させる。X-MEN、マグニートーもバトルワールドへ送られる(『マーベル・スーパーヒーローズ:シークレット・ウォーズ』#1-12)
・ウルヴァリンが恋人マリコとの結婚のために日本を訪れる(『ウルヴァリン』リミテッド・シリーズ)
と、盛り沢山なイベントがあったが、バッサリとパスする。
この「フロム・ジ・アッシュズ」は、『ダーク・フェニックス・サーガ』後、X-MENを離脱していたサイクロップスが、新たな恋人(しかもジーン・グレイそっくりの)マデリーン・プライアーと出会い、結婚をする話がメイン。一方でX-MENには元ヴィランのローグが加入し、ニューヨークの地下に潜むはぐれミュータント集団モーロックスが初登場、さらにウルヴァリンが日本で結婚式を挙げる……といった具合に、大事件こそ起こらないものの、X-MENの各メンバーに諸々の転機が訪れていく。
ちなみに、ローグの初登場話である『アベンジャーズ』アニュアル#10は、ヴィレッジブックスから刊行された傑作選『アベンジャーズ:ハルク・ウェーブ!』に邦訳版が収録されている。手に入るならばフォローしておくのもいいだろう。
5・ゴースツ:
収録作品は『アンキャニィX-MEN』#199-209と、『X-MEN』アニュアル#10。
合間の『アンキャニィX-MEN』#177~198は、またも単行本化の機会に恵まれてない期間になる。
一応、この間には、
・キティ・プライドにフラれたコロッサスが、酒場でジャガーノートとケンカをする回(『アンキャニィX-MEN』#183。X-MENファンの間で人気の高い回)
・未来世界からサイクロップスとジーン・グレイの娘であるレイチェル・サマーズがやってくる(『ニューミュータンツ』#18)。
・未来世界からミュータント・ハンター・ロボット「ニムロッド」が到来(『アンキャニィX-MEN』#191)
といった出来事が起きている。
一方、本書内では、X-MENに加わっていたレイチェル・サマーズが母ジーン・グレイの遺品を通じてフェニックス・フォースの力を獲得。マグニートーがかつて犯した罪で国際裁判を受けた際、裁判所を襲撃したミュータント・テロリスト「フェンリス」により、プロフェッサーXが重傷を負い、彼が治療に専念する間、マグニートーがX-MENとニューミュータンツの指導者の座に就くことになる。またX-MENに復帰したサイクロップスが、リーダーの座を巡りストームと決闘を行ったり、サイクロップスの妻マデリーンが長男ネイサンを出産したり……といった諸々の事件が起きる。
あと#205は、伝説のアーティスト、バリー・ウィンザー=スミスがアートを担当した、ウルヴァリン単独回である。
一方で、同時期の『アベンジャーズ』#263と、『ファンタスティック・フォー』#286で、死亡したはずのジーン・グレイが復活を遂げる。そしてX-MENを辞していたサイクロップスは、復活したジーンら、オリジナルのX-MENのメンバーを集め、新チーム「X-ファクター」を創設する。
6・ミュータント・マサカー:
1986~1987年にかけ、『X-MEN』、『ニューミュータンツ』、そして新創刊された『X-ファクター』誌を中心に展開されたクロスオーバー・イベント。上の単行本では、物語の中核となる『アンキャニィX-MEN』#210-214と、『X-ファクター』#9-11、『ニューミュータンツ』#46に加え、タイイン・タイトルである『ソー』#373-374と『パワーパック』#27、『デアデビル』#238を収録。
謎の怪人ミスター・シニスター率いる暗殺者集団マローダーズにより、ニューヨーク市の地下に潜む、はぐれミュータント集団モーローックスが惨殺されるという事件が発生し、X-MEN、X-ファクターがそれぞれ対処に当たる。
このマローダーズには、クレアモントが昔担当していた『アイアンフィスト』で初登場したヴィラン、セイバートゥースが参加しており、作中で、実は彼とウルヴァリンは、旧知の間柄であったことが判明する。そしてこの2人の血で血を洗う決闘が、『X-MEN』サイドの物語のクライマックスとなる。
で、マローダーズとの激戦の結果、ナイトクロウラー、コロッサス、キティ・プライドが重傷を負い、X-MENを離脱。代わりにサイロックがチームに加入する(事件後には、ダズラー、ロングショット、ハボックも加入し、チームの陣容はガラリと変わる)。
で、「X-MENのメンバーと因縁を持つ強力な敵の登場!」「ミュータント社会に打撃を与える大事件!」「X-MEN、ニューミュータンツ、X-ファクターら各チームの奮戦!」「離脱する古参メンバー、そして新キャラクターのチーム加入!」といった、派手なイベント展開を盛りに盛った『ミュータント・マサカー』クロスオーバーは、読者に大変な好評を博し、以降のX-MENの物語は、年1程度の割合でこうしたクロスオーバー・イベントを展開していくことになる。
7・フォール・オブ・ザ・ミュータンツ:
「ミュータント・マサカー」に続き、1988年初頭から『X-MEN』、『X-ファクター』、『ニューミュータンツ』誌で展開されたクロスオーバー・イベント。タイトル通り、ミュータントの「犠牲」に関わる物語が描かれる。
なお、この「フォール・オブ・ザ・ミュータンツ」は、一般的なクロスオーバー・イベントとは少々毛色が異なっており、『X-MEN』、『X-ファクター』、『ニューミュータンツ』の各誌で、それぞれ「犠牲」をテーマとした独立した物語が展開されるというスタイルが試みられた。
具体的には、
・『アンキャニィX-MEN』サイド:ダラスで悪魔アドバーサリー(『アンキャニィX-MEN』#188で現世に顕現し、しばらく潜伏していた)が活動を開始し、X-MENとフリーダム・フォース(政府麾下のミュータント・チーム)がアドバーサリーと配下の妖魔軍団と対決する。最終的に、アドバーサリーを封印する呪文を行使するため、X-MEN(と、サイクロップスの妻のマデリーン)が生贄となる。……が、X-MENの勇気を惜しんだ女神ローマ(元々はクレアモントがライターを務めていた『キャプテン・ブリテン』誌のキャラクター)によってX-MENは復活を遂げる。そしてX-MENは、一般には彼らが全滅したと思わせ、秘密裏に活動を継続することとする。
・『X-ファクター』サイド:X-ファクターは人類を敵視する謎のミュータント、アポカリプスと対決。アポカリプス配下の「フォー・ホースメン」の一人、デスの正体が、行方不明になっていたX-ファクターのメンバー、エンジェル(ウォーレン・ワージントン)であることが判明。X-ファクターは、少年ヒーローチーム、パワーパックの協力を得つつホースメンに対抗し、デスの洗脳を解くことに成功するのだった。
・『ニューミュータンツ』サイド:ニューミュータンツは、狂奔した遺伝子学者アニ・メイターと対立し、彼が生み出した獣人アニ・メイツを解放しようと試みる。が、そこへ反ミュータント組織「ライト」(『X-ファクター』の悪役キャメロン・ホッジの創設した組織)が強襲、3つ巴の乱戦となる。この戦いでニューミュータンツのメンバー、サイファーが死亡。そのことを知ったマグニートーは、消沈の末にニューミュータンツを去り、ヴィランに復帰する。
……といった具合に、それぞれヴィランも全く異なる物語が、3誌で展開された。
上で紹介している単行本は、「フォール・オブ・ザ・ミュータンツ」クロスオーバーをまとめた全2巻の単行本の1巻目で、『アンキャニィX-MEN』サイドと『ニューミュータンツ』サイドの話が収録されている(2巻目は『X-ファクター』サイドとそのタイインを収録)。
具体的には、『アンキャニィX-MEN』#220-227と、『ニューミュータンツ』#55-61を収録。実際には「フォール・オブ・ザ・ミュータンツ」のタイトルが冠された話は『アンキャニィ』#225-227、『ニューミュータンツ』#59-61の6話分なのだが、各々前の号から話が続いているので、その分、収録話数が多い。加えて、タイインの『インクレディブル・ハルク』#340(ダラスへ向かっていたウルヴァリンが、おりしもダラス近辺で暴れていたハルクと遭遇する話)も収録。
ちなみに「ミュータント・マサカー」と「フォール・オブ・ザ・ミュータンツ」の間には、
・何故だか大物ヴィランでファンタスティック・フォーの仇敵、ドクター・ドゥームが、「ミュータント・マサカー」で重傷を負ったキティ・プライドの治療を行うことを申し出、X-MENとファンタスティック・フォーが対立する(リミテッド・シリーズ『ファンタスティック・フォーvs.X-MEN』#1-4)
・ソビエトがマグニートーの暗殺を目論んでいるとの情報を得たアベンジャーズが、国連の依頼で彼を強引に保護下に置こうと目論み、X-MENやソビエト側のヒーローたちと対立する(リミテッド・シリーズ『X-MEN vs. アベンジャーズ』#1-4)
と、言った出来事があった。
8・インフェルノ:
1988から1989年にかけ、『アンキャニィX-MEN』、『X-ファクター』、『ニューミュータンツ』の3誌を核に、創刊されたばかりの『エクスカリバー』や、リミテッド・シリーズ『X-ターミネーターズ』、それに『アベンジャーズ』、『ファンタスティック・フォー』、『パワーパック』等々のノンミュータントタイトルまでも巻き込んで展開された、大ボリュームのクロスオーバー。
幽冥界(リンボ)の妖魔ナスティアとシムがミュータント絡みの様々な陰謀を巡らし、遂にはリンボと現世とを繋ぐ門を開き、悪魔軍団がマンハッタンに解放される。
その上、 「フォール・オブ・ザ・ミュータンツ」以降、X-MENと同行していたマデリーン・プライアーが、「夫のサイクロップスが家族を捨てて復活したジーン・グレイとよりを戻した」と勘違いしたのをシムに付け込まれた結果、妖魔の女王「ゴブリン・クイーン」と化し、サイクロップスの弟ハボック(ゴブリン・プリンス)を従え、X-MEN、X-ファクターと戦う。
こうした諸々の大事件の影で、ミスター・シニスターが暗躍し(実はマデリーンは彼が生み出したクローン人間だった)、事態は混迷を極める。
ちなみに「フォール・オブ・ザ・ミュータンツ」と「インフェルノ」の間には、
・X-MEN(と、マデリーン)がオーストラリアに転移。サイボーグ・ヴィラン軍団「リーヴァーズ」を倒し、彼らの拠点を新たな基地とする。また女神ローマから、魔法のアイテム「シージ・ペリラス」をもらう(『アンキャニィX-MEN』#229)
・「ミュータント・マサカー」以来、静養していたナイトクロウラー、キティ・プライドらが、「フォール・オブ・ミュータンツ」でX-MENが全滅したとの報を受け、新チーム「エクスカリバー」を結成(『エクスカリバー・スペシャル』)
・新創刊されたアンソロジー誌『マーベル・コミックス・プレゼンツ』誌の初期10号に、クレアモントによるウルヴァリンの短編が掲載。その後、オンゴーイング・シリーズ『ウルヴァリン』も創刊(こちらも最初の10号は、クレアモントが脚本を担当)。
といった変化が起きつつ、「インフェルノ」に向けてナスティアらが暗躍(ミュータントの子供たちの拉致など)したりしていた。
上に貼った単行本は、「インフェルノ」とその関連タイイン誌他を集めた全2巻の単行本。
Volume 1は、「インフェルノ」のプロローグ的なリミテッド・シリーズの『X-ターミネーターズ』#1-4に、『アンキャニィX-MEN』#239-240、『X-ファクター』#33-36、『ニューミュータンツ』#71-72、それにタイインの『パワーパック』#40、42-43を収録。
Volume 2は、『アンキャニィX-MEN』#241-243、『X-ファクター』#37-40、『ニューミュータンツ』#73、『エクスカリバー』#6-7、それにタイインの『クローク&ダガー』#4、『パワーパック』#44。
ついでにこちらは「インフェルノ」とタイインしたその他のタイトルをまとめた単行本。
収録タイトルは『アベンジャーズ』#298-300、『ファンタスティック・フォー』#322-324、『アメイジング・スパイダーマン』#311-313、『スペキュタクラー・スパイダーマン』#146-148、『ウェブ・オブ・スパイダーマン』#47-48、『デアデビル』#262-263、265。
8.5・「インフェルノ」後のX-MEN:
「インフェルノ」事件から、次のクロスオーバー「エクスティンション・アジェンダ」までは、またもあまり単行本化されない「谷間の時期」になるが、いくつかの重要な事件が発生している。
具体的には、
・X-MENの新たな若手メンバーとなるジュビリーが初登場(『アンキャニィX-MEN』#244)
・ミュータント・ハンターロボット「センチネル」を統括するマスター・モールドと、未来から来たセンチネルであるニムロッドが合体し、最強のセンチネルが誕生する。ローグがマスター・モールド共々、シージ・ペリラスによって開かれた次元門に突入し、消息を絶つ(『アンキャニィX-MEN』#246-247)。
・ジム・リーが『アンキャニィX-MEN』のペンシラーに就任。ロングショットとストームがチームを離脱(『アンキャニィX-MEN』#248)
・リーヴァーズの逆襲で、X-MENの拠点が包囲される。当時のX-MENのリーダー格のサイロックは、敵中突破は不可能と判断し、他のメンバー(コロッサス、ダズラー、ハボック)をテレパシーで操り、シージ・ペリラスの次元門を通じていずこかに逃がし、自身も門をくぐる。リーヴァーズに囚われていたウルヴァリンはジュビリーに助けられる(『アンキャニィX-MEN』#251-252)。
・「アクツ・オブ・ヴェンジャンス」:1989~1990年度のマーベル・コミックス社全体のクロスオーバー。謎の男(欺瞞の神ロキの変装)によって、ドクター・ドゥーム、レッドスカル、キングピン、マグニートーら、名だたるスーパーヴィランが連合を結成し、ヒーローたちに攻撃を仕掛ける。X-MEN関連誌では『アンキャニィX-MEN』#256-258、『X-ファクター』#50、『ニューミュータンツ』#86、『ウルヴァリン』#19-20などがタイインしているが、基本的には『アベンジャーズ』と『ファンタスティック・フォー』が物語の中心であり、『X-MEN』関連誌では、「いつもと違うヴィランと戦う」程度の話が展開される程度であった。
・「アクツ・オブ・ヴェンジャンス」のタイインで、マンダリン(アイアンマンのヴィラン)がX-MENにゲスト出演。なぜかアジア人の肉体を獲得したサイロックが、「レディ・マンダリン」となり、ウルヴァリン&ジュビリーと交戦(『アンキャニィX-MEN』#256-258)
・謎の戦士ケーブルが登場し、マグニートーが去った後のニューミュータンツの指導者に(『ニューミュータンツ』#87-89)
・なぜか子供に戻ったストームの友人としてガンビットが初登場(『アンキャニィX-MEN』#266)
・「デイズ・オブ・フューチャー・プレゼント」:『ファンタスティック・フォー』アニュアル#23、『ニューミュータンツ』アニュアル#6、『X-ファクター』アニュアル#5、『X-MEN』アニュアル#14の4誌で展開されたストーリー。突然、未来世界からフランクリン・リチャーズ青年(ファンタスティック・フォーのリーダー、ミスター・ファンタスティックとインビジブルウーマンの長男)が現れ、その強力な現実改変能力で周囲に混乱を撒く。さらに未来からは、ミュータント・ハンターのエイハブが現れ、混乱に拍車をかける。
・その他:プロフェッサーXの旧敵シャドウキングが密かに暗躍したり、コロッサス、ダズラーが記憶を失った状態で再登場したり、ローグが南極のサヴェッジランドで発見されたりとか。
9・エクスティンション・アジェンダ:
1990-1991年にかけて展開された、『アンキャニィX-MEN』、『X-ファクター』、『ニューミュータンツ』の3誌で展開されたクロスオーバー。
かつて、小学館集英社プロダクション(当時は小学館プロダクション)の刊行していた邦訳版『X-MEN』の6、7巻として刊行されていたこともあるので、日本語で読みたい方はそちらを探すのもアリだろう。
アフリカの架空の国家「ジェノーシャ」(初出は『アンキャニィX-MEN』#236。ミュータントを奴隷として使役していた)を舞台に、ジェノーシャの支配者の座に就いたキャメロン・ホッジ(『X-ファクター』の悪役だったが、「インフェルノ」の際に悪魔と取引して不死の肉体となる)と、X-MEN、ニューミュータンツ、X-ファクターとの死闘を描く。
当時のマーベルの看板を担うアーティスト(本作ではジム・リーとロブ・ライフェルド)が参加し、これまでのストーリーで因縁を積み上げてきたキャラクターをラスボスに、無数のミュータント・チームが離合集散しつつ戦うという、1990年代の『X-MEN』の大型クロスオーバーのスタイルを確立させた一作。
10・ミューア・アイランド・サガ:
クリス・クレアモント最後の長編ストーリーライン。ミューア島にあるミュータント研究センターを占拠した悪役シャドウキング(アマール・ファルーク)に対し、「エクスティンション・アジェンダ」で再結集を果たしたX-MENと、X-ファクターが共闘して立ち向かう話。
この話は、これまで単行本化の機会に恵まれていなかった話ではあるが、2017年にケーブルTVドラマ『レギオン』が放映された際、同作の主人公レギオン(元々はクレアモントが『ニューミュータンツ』誌上に登場させたキャラクター)のコミック上でのエピソードをまとめた単行本『X-MEN:レギオン-シャドウキング・ライジング』が刊行され、容易に読めるようになった。
こちらの単行本には、「ミューア・アイランド・サーガ」本編である、『アンキャニィX-MEN』#278-280&『X-ファクター』#69-70に加え、レギオンの初登場エピソードである『ニューミュータンツ』#26-28と、#44(レギオン再登場回)、それにシャドウキングが登場する『アンキャニィX-MEN』#253-255を収録。
ちなみに「ミューア・アイランド・サーガ」の本編は、かつて小学館プロダクションから刊行されていた邦訳版『X-MEN』第10巻にも収録されている。
そして、本エピソードをもって、クリス・クレアモントは『アンキャニィX-MEN』誌のレギュラー・ライターの座を降り、『X-MEN』の物語はファビアン・ニシーザ、スコット・ロブデルら新世代のライターに引き継がれていく。
と、まあ、長々と紹介してきたが、リンクを張った単行本は、既に版元に在庫がなく、マーケット・プレイスでヘル高いプレミア価格がつけられているものが大部分であるので、無理に紙の単行本で揃えるよりは、Kindle版などの電子書籍で買っていくのがいいだろう。