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■ヴェノム

■Venom
■Writer: Rick Remender
■Penciler: Tony Moore
■翻訳・監修: idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:‎ B09TZM51MZ

「マーベル グラフィックノベル・コレクション」5号目は、2011年に創刊された、リック・リメンダーによる、『ヴェノム(vol.2)』の#1-5(5-9/2011)を収録。5話しか入っていないので、他の単行本よりも少し薄いが、値段は同じというのが少々気になる(セコい)。

元海兵隊員のユージン・“フラッシュ・トンプソンはイラク戦争で負傷するが、「オペレーション・ヴェノムと呼ばれる軍の秘密プロジェクトに参加することで、2度目のチャンスを与えられる。かつてスパイダーマンの最大の敵であったエイリアンの強制隊「シンビオート」と結合した彼は、その黒いコスチュームが持つ闇の欲望によって危険にさらされてしまう……。(第4号表4あらすじより抜粋)

※なお、あらすじでは「元海兵隊員」と書かれているが、フラッシュ・トンプソンの所属は正式には陸軍(今号の作中でも「陸軍」と明言されている)。

 なお本来、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」のVol.5は、ヴェノムの初登場エピソードと、その前段の「エイリアン・コスチューム・サーガ」関連のイシューをまとめた『アメイジング・スパイダーマン:バース・オブ・ヴェノム』であり、今回刊行された『ヴェノム』は、60号目に刊行される予定の作品であった。

 おそらく、人気キャラクターであるヴェノムのよりキャッチーなエピソードを早期に投入するため、刊行順をシャッフルしたのだろう(なお、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」全100号のうち、ヴェノム主役の単行本は本号と『バース・オブ・ヴェノム』の2冊のみ)。

 ちなみに本書の表紙は、ジョー・ケサーダが描き下ろした『ヴェノム(vol.2)』創刊号の表紙(あえて旧来のヴェノムに寄せて描かれている)を流用しているため、一見するとヴェノム(エディ・ブロック)の主役誌に見えるが、中はヴェノム(フラッシュ・トンプソン)が主役の、いわゆる「エージェント・ヴェノム」のシリーズである。お間違えなきよう。

 さて、本書の主人公であるフラッシュ・トンプソンは、ご存じの通り『スパイダーマン』の物語の第1話目から登場している、ピーター・パーカー(スパイダーマン)の高校時代の同級生(内向的なピーターをからかう体育会系いじめっ子)である。

 スパイダーマンに憧れてファンクラブを主催したり、スパイダーマンのコスプレをしてたらドクター・ドゥームにさらわれたり、スパイダーマンの生き様にインスパイアされ、いじめっ子としての過去を反省した上で志願兵としてベトナムに赴いたり、軍役を終えた後に精神を病んでアルコール中毒になったり、悪人ホブゴブリンの奸計でホブゴブリンの身代わりとして逮捕されたり、悪人グリーンゴブリンの奸計で、飲酒状態でトラックを運転し、ミッドタウン高校(当時のピーターの勤務先)に突っ込んで意識不明の重体になったり、意識を取り戻したものの、記憶障害によって元の「いじめっ子」の性格に戻ってしまったり、ミッドタウン高校のフットボール・コーチに就任してピーターの嫌味な同僚になったり、「シビル・ウォー」事件でピーターがスパイダーマンの正体を明かしたことで衝撃を受けたり等々、『スパイダーマン』の折々の物語のスパイスとなるべく、それなりに波乱万丈な人生を送ってきた。

 やがて『アメイジング・スパイダーマン』#574(12/2008)で、フラッシュ・トンプソンが、イラク戦争に従軍し、両足を喪ったというエピソードが語られる。同号は、フラッシュが主役で(スパイダーマンは回想シーンにしか登場しない)、戦地からドイツの病院に搬送されたフラッシュが、彼の元を訪れた将軍に対し、自身の半生と戦地での経験を回顧する……といった内容で、ラストページでフラッシュが戦傷により、両足を切断していたことが明かされる。

 なお同号は、イラクとアフガニスタンに従軍した兵士たちに捧げられているのだが、そのために長い歴史を持つサブキャラクターの両足を切断するというのも、中々思い切った判断ではある。

 この『アメイジング・スパイダーマン』#574は、上に貼った単行本『アメイジング・スパイダーマン:クライム&パニッシャー』に収録。

 その後、フラッシュ・トンプソンは、『アメイジング・スパイダーマン』#622(4/2010)の巻末に掲載された短編「ステージズ・オブ・グリーフ(悲嘆の受容)」で再登場。両足を喪ったフラッシュが、ピーター・パーカーとベティ・ブラントの応援を受けつつ、車椅子スポーツや義足での歩行に挑み、自身の喪失を徐々に受容していく過程が描かれた。

 作中で、フラッシュから足を再生する手段はないかと尋ねられたスパイダーマンは、カート・コナーズ博士(戦場で失った左腕の再生を試みる実験で、獣人リザードに変身してしまった科学者)に助言を求めるが、芳しい返事は得られなかった(トニー・スタークなら義足を作れるのでば? というツッコミは無粋だ)。

 最終的にフラッシュは、昔の恋人で現在は理学療法士となっていたシャ・シャンと再会したことをきっかけに、彼女と共に義足の訓練に励み、己の境遇を受け入れることができた……という非常に前向きな結末が描かれる。

 この「ステージズ・オブ・グリーフ」は、『アメイジング・スパイダーマン:ガントレット』の単行本に収録されている(「ガントレット」は『アメイジング・スパイダーマン』#612-633にかけて展開された全22話の長編ストーリーライン。スパイダーマンの旧敵たちがパワーアップを遂げ、次々にスパイダーマンに挑む)。

 こちらは『ガントレット』の単行本の3巻目で、『アメイジング・スパイダーマン』#622-625を収録。薄くて安い単行本(電子書籍)なので、「ステージズ・オブ・グリーフ」目当てで買うのであれば、こちらをお勧めする。

 一応、2019年にリリースされた『スパイダーマン:ガントレット・コンプリート・コレクション』(全2巻)の1巻目にも「ステージズ・オブ・グリーフ」は収録されているが、まあ、「ステージズ・オブ・グリーフ」目当てで買うには少々分厚い(520ページ!)。

 そしてその1年後の『アメイジング・スパイダーマン』#654(4/2011)の巻末に掲載された短編「リバース」で、フラッシュは陸軍の機密計画「プロジェクト・リバース2.0」の検体に志願し、ヴェノム・シンビオートと合一することで、(合一の間は)失われた歩行能力を取り戻す。……さっきの話の余韻が台無しになった感もあるが、まあ、アメリカン・コミックスというのはそんなものだ(永遠に「今」を盛り上げ続けるメディア、とでもいうべきか)。

 なお、『ヴェノム』本誌にも登場するプロジェクト・リバース2.0の関係者──ブラッド・ドッジ将軍、アーロン・マッケンジー博士、ケイト・グローバー大尉といった面々は、この『アメイジング・スパイダーマン』#654で初登場したキャラクターになる。

 そして同月に刊行された『アメイジング・スパイダーマン』#654.1(4/2011)は、丸々1冊エージェント・ヴェノム(フラッシュ・トンプソン)が主役を務める外伝的な話で、本作『ヴェノム(vol.1)』へのセットアップ(プロジェクト・リバース2.0におけるエージェント・ヴェノムの立ち位置や、秘密を抱えることとなったフラッシュとリズとの関係の変化など)が描かれる。

 「リバース」と『アメイジング・スパイダーマン』#654.1は、こちらの単行本『スパイダーマン:マターズ・オブ・ライフ&デス』に収録。

 こうした『アメイジング・スパイダーマン』誌での露出を経て、『ヴェノム(vol.2)』の物語は幕を開けることとなるのだが、これらの短編類が、『ヴェノム』関連の単行本にまとまって収録されていないのは、少々不親切ではある(『ヴェノム』1巻に、『アメイジング』#654.1を入れてくれても良いだろうに)。


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