■補足:『ソー:リボーン』に至るまで
「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第8号、『ソー:リボーン』は、死亡した(虚空に消えた)雷神ソーの復活から物語が始まる。
では、なぜソーは死んでいたのか、という点について、今回のエントリでは補足していきたい。
ソーが死亡したのは、『ソー:リボーン』の物語の掲載紙である『ソー(vol. 3)』(9/2007創刊)の前シリーズである、『ソー(vol. 2)』(7/1998-12/2004、全85号)の最終エピソードとして、『ソー(vol. 2)』#80-85(8-12/2004)の全6話で展開された「ラグナロク」編でのことである。
で、この「ラグナロク」編は、当時、『アベンジャーズ』誌とその関連タイトルである『アイアンマン』や『キャプテン・アメリカ』、そして『ソー』で展開されたイベント「アベンジャーズ・ディスアセンブルド」の一環として展開されたストーリーラインになる。
この「アベンジャーズ・ディスアセンブルド」は、有り体に言ってしまえば、1990年代中頃に行われた「ヒーローズ・リターン」イベントを経て心機一転・新創刊された『アベンジャーズ(vol. 3)』、『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』、『アイアンマン(vol. 3)』、『ソー(vol. 2)』他のタイトルが、まあ、再び人気が低迷してきたのを受けて行われた、「テコ入れイベント」である。
一連のイベントは、『アベンジャーズ(vol. 1)』誌の方で、アベンジャーズが解散する大事件が起きる「アベンジャーズ・ディスアセンブルド」編を展開しつつ、平行してアベンジャーズの主要メンバーの個人誌である『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』、『アイアンマン(vol. 3)』、『ソー(vol. 2)』各誌でも、それぞれのヒーローのアイデンティティを揺るがす大事件を起こし、その物語の完結をもってこれら4誌を一旦打ち切り、その上で、それぞれ新シリーズを創刊して活性化を図ろう……といった具合に行われた。
で、2004年に打ち切られた4誌のうち3誌は、その翌年に『ニューアベンジャーズ』、『キャプテン・アメリカ(vol. 5)』、『アイアンマン(vol. 4)』として新創刊され、それぞれ「ニューアベンジャーズ:ブレイクアウト」(『マーベル グラフィックノベル・コレクション』第33号)、「キャプテン・アメリカ:ウィンター・ソルジャー」(『マーベル グラフィックノベル・コレクション』第7号)、「アイアンマン:エクストリミス」(『マーベル グラフィックノベル・コレクション』第3号)といった、気合の入ったストーリーアークを展開し、テコ入れに成功することとなる。
余談ながら、「アベンジャーズ・ディスアセンブルド」は、アベンジャーズとは関係の薄い『ファンタスティック・フォー(vol. 1)』誌もタイインしており(他には『スペキュタクラー・スパイダーマン』誌もタイイン)、『ファンタスティック・フォー(vol. 1)』#517-519(10-12/2004)にかけて、表紙で「ファンタスティック・フォー・ディスアセンブルド」と銘打った「フォーティテュード」編を展開したが、別に打ち切りなどにはならず、また、ファンタスティック・フォーも解散せずに、翌月には普通に#520が刊行されている。
これは、当時の『ファンタスティック・フォー』誌が、前年(2003年)に行ったテコ入れが──マーク・ウェイドとマイク・ウィーリンゴのコンビによる新体制が──非常な好評を博しており、改めてテコ入れする必要がなかったためである(ウェイド&ウィーリンゴによる『ファンタスティック・フォー』の最初のストーリーアークは、『マーベル グラフィックノベル・コレクション』第11号に収録)。
その後、遅ればせながら『ソー』誌も、2007年に気鋭のライター、J・マイケル・ストラジンスキーを迎えた『ソー(vol. 3)』が創刊され、『ニューアベンジャーズ』他の成功に続くこととなる。
話を『ソー』誌の「ラグナロク」編に戻そう。
大まかに、「ラグナロク」編では以下のようなことが起きた(モロにネタバレをしているので実際に「ラグナロク」編を読もうと思っている方は読み飛ばして欲しい)。
・欺瞞の神ロキ、かつて魔法の鎚ムジョルニアの鋳造に用いられた「鋳型」を入手。同盟者である炎の巨人スルトの魔力で、無数の魔法の鎚を製造する。
・ロキ、魔法の鎚を配下に与え、9つの世界への大侵攻を開始。再び最終戦争「ラグナロク」の口火が切られる(※マーベル・ユニバースにおいては、ラグナロクは度々引き起こされてきたが、ソーや神々の父オーディンの尽力により、滅亡の運命は回避されてきた)。
・ソー率いるアスガルド神族(※この当時、オーディン王は、『ソー(vol.2)』#40(10/2001)でのスルトと戦いで死亡しており、紆余曲折を経てソーがアスガルドの統治者となっていた)とロキ軍の戦いで、ムジョルニアが大破。
・ソー、キャプテン・アメリカ、アイアンマンにより、「鋳型」は破壊されるものの、ロキ軍によりアスガルド神族は大打撃を受ける。
・ソー、全能の力「オーディンパワー」の化身である少年に導かれ、探索の旅に出る。伝説の「ミーミルの井戸」に両目を捧げ、世界樹ユグドラシルで首を吊ったソーは、宇宙の成り立ちに関わる智慧と、神秘のルーン魔術を身に着ける。
・ソー、「ラグナロク」とは、過去に幾度も繰り返されてきた死と再生の円環(ラグナロク・サイクル)であり、ラグナロクによって放出されるエネルギーが、世界の影に潜む超越神「影の中に腰を下ろす者たち(Those Who Sit Above In Shadow)」の糧になっていたことを知る。
・ソー、高位の神々の糧として戦わせられる運命を断ち切ることを決意。全能の力でロキを打ち倒し、彼の生首(ソーの魔力により生き続けている)と共に旅に出る。
・ソー、仇敵スルトと取り引きをし、ムジョルニアを修理させる。引き換えにソーは、スルトにアスガルド勢の拠点を教える。
・アスガルド神族(ソーとロキを除く)とスルトの軍勢が激突。両勢力は全滅し、ここにラグナロクは幕を下ろす。
・ソーとロキ、宇宙の全ての歴史を記録するタペストリーを織る「運命の三女神」の元へ転移。タペストリーの元である糸をムジョルニアで断ち切ることで、ラグナロク・サイクルの回帰を阻止し、虚空に消える(『ソー:リボーン』の1ページ目の「虚空に微笑むソー」の絵は、『ソー(vol. 2)』の最終ページに描かれた「虚空で微笑むソー」を踏襲している)。
以上。
この「ラグナロク」編を読む方法は、以前は「アベンジャーズ・ディスアセンブルド」のタイイン関連をまとめた分厚いハードカバー単行本を買うしかなかったが、幸い現在では3種類ほどの単行本が刊行されている。
1つ目は、この『アベンジャーズ・ディスアセンブルド:ソー』。中身は「ラグナロク」編全6話だけをまとめたもので、一番お安い。
2つ目は、「アベンジャーズ・ディスアセンブルド」の主要なタイインをまとめた、432ページもの厚さを誇る単行本『アベンジャーズ・ディスアセンブルド:アイアンマン ソー&キャプテン・アメリカ』(先述したハードカバー単行本のKindle版)。先に紹介した本と、表紙が同じなので間違えぬよう。こちらは「ラグナロク」編に加え、『アイアンマン』#84-89、『キャプテン・アメリカ』#29-32、それに『キャプテン・アメリカ&ファルコン』#5-7を収録。
最後は、『ソー:ラグナロクス』は、「ラグナロク」編全6話に、「ラグナロク」編の直接の続編である2005年のミニシリーズ『ストームブレイカー:ザ・サーガー・オブ・ベータレイ・ビル』#1-6、それにあんまり「ラグナロク」編とは関係のない(まあ、刊行時期は近い)、2005年のミニシリーズ『ソー:ブラッド・オース』#1-6を収録した、これまた400ページ弱の分厚い単行本。
とりあえず、「ラグナロク」編だけを読みたい場合は、お安い『アベンジャーズ・ディスアセンブルド:ソー』を、「ディスアセンブルド」イベントの主要なタイインを押さえたい場合は『アベンジャーズ・ディスアセンブルド:アイアンマン ソー&キャプテン・アメリカ』を、「ラグナロク」編とその後日譚にも興味があるなら『ラグナロクス』といった具合だろうか。
ちなみに、「ラグナロク」編の完結後、2006年に刊行された『ファンタスティック・フォー』#536-537(5-6/2006)の作中で、ソーと共に虚空に消えたはずの魔法の鎚ムジョルニアが、オクラホマ州の砂漠に墜落するという事件が起きる(なお、この時期の『ファンタスティック・フォー』は、翌年『ソー(vol. 3)』を担当するJ・マイケル・ストラジンスキーが担当しており、要は『ソー』への前振り的な話になっている)。
このエピソードは、2006~2007年度のマーベルの大型イベント『シビル・ウォー』の前日譚でもあるため、『ファンタスティック・フォー』の単行本ではなく、『シビル・ウォー』関連の単行本としてまとめられている。
この『ロード・トゥ・シビル・ウォー』は、2013年にヴィレッジブックスから通販限定で邦訳版単行本が刊行されているので、そちらで読むのもいいだろう。
※リンクは2016年に一般販売されたもの。
砂漠に墜落したムジョルニアは、『ファンタスティック・フォー』誌でのエピソードの後、オクラホマの新たな名物となり、幾人もの市民が持ち上げようと試みたが、誰にも持ち上げることはできなかった。
そして、『ソー:リボーン』の冒頭で、ドナルド・ブレイクによってムジョルニアは回収され、『ソー』の物語は再び動き始める。
また、『ファンタスティック・フォー』での事件の後に勃発した『シビル・ウォー』の本編(『マーベル グラフィックノベル・コレクション』第45号)では、トニー・スターク、Mr.ファンタスティック、ハンク・ピムの3人によって製造されたソーのクローン、「ラグナロク」が登場している(密かにソーのDNAを採取していたらしい。なお、時系列的には『アベンジャーズ・ディスアセンブルド』→『シビル・ウォー』→『ソー:リボーン』であり、この時点では、ソーはまだ復活を遂げていない)。
『ソー:リボーン』の作中で、ソーはアイアンマン(トニー・スターク)に対してガチで怒っているが、これは自分が死んでいる間に、無断で自分をコピーした殺人マシーンを造られたことが原因である(また、『シビル・ウォー』のラストで、アイアンマン一派がキャプテン・アメリカを反逆者として逮捕したことも大きい)。
上は2022年にいきなりリリースされたラグナロクのフィギュア。ラグナロク自体は、そこまでヒキのあるキャラクターではないが、付属の「ムジョルニアをグルグル回してるエフェクトパーツ」は、今のところこのフィギュアにしか付かないので、ファンがパーツ目当てで買ってしまう奴。
以上、説明すべきことはこんなところか。
余談中の余談ではあるが、現在は1970年代の『ソー(vol. 1)』#272-278で展開された、別のラグナロク絡みの話をまとめた『ソー:ラグナロク』なんて単行本も存在するので、「ラグナロク」編の単行本の購入の際には注意されたし(まあ、表紙で分かるが)。