GGD(GetGood Drums)と、つよつよドラムミキシング マスターバス編
前書き
ドラムのサウンドメイクを解説するにあたり、初めに、マスターバスについて解説したいと思います。
いや、各キットの調整が先だろ…とか、キックを固めてから…など、色々と方法論がありますが、今回は、NollyのMIX手順に倣って、Top Down Mixingという手法に挑戦してみましょう。
かくいう私も、作編曲段階から、このマスターバスのエフェクトチェーンを適用(録音時以外)し、完成形をイメージしながら制作を進めています。
このマスターバスチェーンには、スネアをターゲットにしたテクニックも含まれる為、広義に、ドラムミキシングに含みます。
本記事は、GGDのドラムライブラリと、NollyによるGGD公式チュートリアルを実践し、その内容を解説する趣旨となります。
つよつよドラムトーンを目指しましょう!
前提事項については、下記"導入編"をご参照ください。
Top Down Mixing
Top Down Mixingとは、その名の通り、マスターバスから各種バス、トラックの順にMIXしていく手法で、ミックス全体を俯瞰して処理を行い、最終的なサウンドの方向性を定めることを目的としたアプローチです。
本来は、MIXの完成形のイメージが見えていて、熟練のエンジニアでなければ難しい手法と言われています。
理由としては、各トラックへの詳細な処理を行う前にバランスを整えるため、ミキシングの初期段階で使用するプラグインの選定や処理の設定がサウンドに大きな影響を与えてしまう点です。
そのため、全体の方向性が決まっていない段階で過度に処理を施すと、後々の調整が難しくなることがあります。
しかし、今回はNollyのMixチュートリアルをベースにした解説なので、彼のマスターバス処理を真似して、私たちも初めから方向性を決めておきましょう、という魂胆です。
実践するメリットは下記です。
最終的な方向性をこの時点で決定することで、全体のトーンの統一感が出る
2mixの入力ゲインが適正か判断しやすくなる
シンプルになんかカッコイイ音になる(重要)
それでは、早速やっていきましょう!
マスターバスのエフェクトチェーン
それでは、まずはマスターバスを見ていきます。
マスターバスと言うと、綿密なコンプやEQ、そして音圧上げ…
はたまたOzoneをぶっ刺して…
などなど、色々とイメージがあるかと思います。
今回紹介するマスターバスの処理概要は下記です。
バスコンプ
パラレルコンプ
自動EQ
テープシミュ
マキシマイザー
以上です。意外とややこしい事はしていません。
ポイントとしては、このエフェクトチェーンは、MIXの完成形を目指すものであり、最終的に、マキシマイザー(リミッター)のみ外して、マスタリングを別途行う前提のセッティングとなります。
実際にプラグインを挿入した例が下記です。
ルーティングについては、インストトラックのみをバストラックにまとめて、そこでバスコンプとパラレルコンプを適用し、ボーカルトラックはマスターバスに直接送っています。
バスコンプの役割は非常に重要で、これについては後ほど解説します。
それではお待ちかね、各プラグインのセッティングと、セッティングの意図を見ていきましょう。
マキシマイザー(リミッター)
マスターバスの最終段。
マキシマイザーなら何でもOKです。
デフォルト設定のまま、9dBブーストかけているだけです。
Styleはお好みで。Nollyは、Modernに設定していました。
Nollyは、この時、-10LUFSぐらいで十分と言っています。(聞いた感じもうちょい出てそうだけど)
私の曲の場合は、この設定で、-8LUFSぐらいとなっていますが、気持ちよく効ける程度に留めておく事が重要です。
マキシマイザーを適用してMIXを進める意図としては、リミッティングされた2MIXの、トランジェントの聞こえ方を判断する為で、マスタリングで音圧上げや質感調整をした際に、2MIX時点の質感、印象から、大きく変化するリスクを軽減します。マスタリングに移行する際は、このエフェクトを外します。
テープシミュレータ
次に、テープシミュレータです。
少し中音、低音域が強調され、よりリッチでふくよかなサウンドになります。
このプラグインは、メタル系MIXチュートリアルには度々登場します。
代替品としては、Ozone10付属のVintage Tapeがお勧めです。
※余談ですが、Ozoneはつよつよプラグインいっぱい入っているので、実質超お買い得な、エクストリームプラグインバンドルだと思っています。)
Virtual Tape Machinesの場合、Tape Typeを変更することで、大きくキャラクタが変化します。
今回は、よりスムースな印象のFG456モードとしていますが、よりハイファイな印象にしたい場合は、FG9を選択します。
BIASやSPEED、In/Outについては他のテープシミュプラグインでも共通かと思います。
セッティングに期待する効果としては、クリア感とローエンドの締まりを確保しつつ、トランジェントを若干こなれた印象にするイメージです。
MIXのトゲトゲ感を和らげるイメージですかね。
自動EQ
自動EQについては、Nollyもゲームチェンジャーだと絶賛していた、GULLFOSSです。
軽めのセッティングで適用することで、MIXをよりクリアにする効果が期待できます。
それだけでも十分ですが、思いっきりシーンが変わるような編曲をしている楽曲に対して、特に強力です。
例えば、Peripheryの楽曲では、強烈にDjentyなセクションから、突然Jazzになったりしますし、昨今のメタルアレンジでも、幻想的なシーンから、強烈なリフに移行する、と言ったケースは多々あると思います。
かくいう私も、1曲の中でかなり場面転換を取り入れるタイプです。
そのようなケースで、各シーンのつながりや質感に、統一感を持たせる効果があり、自動EQを利用する一番の利点だと思います。
セッティングについては、プラグイン特有のものになるので詳しくは触れませんが、下記がセッティングのポイントとなります。
ブライト方向にセッティングする
かけすぎない
12k以上はバイパスする
12k以上をバイパスする理由は、GULLFOSSの場合、ちょっとギラっとした成分を補填する傾向にある為で、若干ダークなシンバルサウンドを狙っていることもあり、今回はカットです。
但し、ここをバイパスしないことで、よりモダンでアグレッシブなサウンドを狙う事もアリです。
完コピ目指す方は、スクショ画像のセッティングを真似してみてください。
代替品としては、Ozone付属の、Stabilizerがお勧めです。
インストバスのバスコンプ
次にバスコンプです。
ボーカル以外のすべてのトラックに適用します。
ドラムのスネア、キックをトリガーに、オケを纏めていく意図がありますので、今回はインストバスに対するアプローチとなります。
それでは、見ていきましょう。
初段のバスコンプ
初段のバスコンプは、SSL 4000Gライクなものをチョイスします。
同じような設定はどのモデルでも可能ですが、FG-Greyはハイパスフィルターが搭載されており、ここで行う処理の目的を達成する為には大変便利です。
ここでは、スネアのアタックを狙い撃ち、ダッキングすることを目的としており、スネアが鳴ると同時にボリュームが若干下がり、全体のヘッドルームが確保されます。
これにより、スネアの強力なアタック感を演出しつつも、実際には大音量になり過ぎない、と言った効果を得ることが出来ます。
ここでは、3dB ~ 4dBのリダクションを狙って、スレッショルドを調整します。
そして、ハイパスフィルターを60Hzあたりに設定します。
60Hzは、キックに反応しすぎることを抑制するために設定します。
キックまでがっつりリダクションされると、ここでの処理としては、過剰となる傾向にある為です。
目安としては、キックが鳴った際に、1dB程度のリダクションがかかっていればOKです。
FG-Greyでは、HPFを調整するのみで済みますが、他のプラグインであれば、サイドチェインでハイパスすると良いでしょう。
特に、この設定は、Nollyがセッティングを変えずに、10年ほど使ってきたものだそうで、ハイパスフィルター搭載のFG-Greyが出るまでは、色々と苦労したんだとか。
参考までに、各パラメータの設定を記しておきます。
各自の楽曲に合わせて微調整することがセオリーですが、今回は下記の設定を真似して頂き、この設定の時に、スネアが3dB、キックが1dBリダクションされる状態になるように、各バス、トラックを調整する方法を試してみて頂くことをお勧めします。
これにより、ドラムのゲインステージングの目安となりますので、ドラムのボリュームバランスを決定する際の迷いが減ります。
FG-Grey(SSL 4000G系バスコンプ)の設定例
Atack : 0.3 (爆速)
Release : 0.1 (爆速)
THRESHOLD : -10.7dB
RATIO : 4.0
HPF : 60Hz
MakeUp : 0dB (デフォルト)
MIX : 100%
2段目のバスコンプ
2段目のバスコンプは、Focusrite Red 3(VCAタイプ)ライクなものを使用します。
同機種のモデリングは、様々なメーカーから発売されているので、探してみてください。
意外なところで行くと、WavesのR-Compなんかも、Forcusrite Red3の影響を受けた設計とされています。
ここでの狙いは、強めの圧縮をかけ、アグレッシブに歪んだサウンドを得る事による、グルー(接着)効果を狙います。
このコンプはフルミックスせず、フレーバーとして、原音に対して適度にブレンドします。
所謂、パラレルコンプです。
ここではインスト全体に対する強力なコンプレッションを狙っていく為、概ね5~7dBほどリダクションがかかるように調整します。
好みに応じて、もう少しきつくかけても良いかもしれません。
この音を僅かにブレンドすることで、MIX全体がグっと引き締まり、自然なドライブ感のあるニュアンスに変化します。
グルー効果を狙った処理になるので、楽曲によっては効果がキツすぎて、奥に引っ込んでしまう印象になる場合もあります。
その際は、ここでは設定は変えずに、ブレンド量を調整することをお勧めします。
それでは、こちらも設定例を載せておきます。
一旦は、下記の設定例で固定して、以降のMIXを進めて頂く事をお勧めします。
FG-Red(Focusrite Red 3系コンプ)の設定例
THRESHOLD : -18.1dB
RATIO : 4.5
ATACK : 5.5 (やや遅め)
Release : 0 (爆速)
DRIVE : 2.4
HPF : 25Hz
MakeUp : 2.0dB
MIX : 17%
終わりに
今回は、Top Down Mixingの手法に則った、マスターバスのエフェクトチェーンについて紹介しました。
ドラムのMIXで、マスターバスからやるの?と言う感じですが、以降、これらのエフェクトをオンにしたまま、DrumsBus、Kick, Snare, Toms, OH/Roomを順番に処理していきます。
初手から、完成形の2MIXを意識してミックスしていく感じですね。
特に、バスコンプに入力するボリュームを意識する事で、早い段階でドラムサウンドを確定させやすくなります。
マスターバスチェーンを初手で組むことは、莫大な経験と技術力、判断力が必要ですが、プロのエフェクトチェーンを真似して、実際にサウンドを体験する事で、自身の感覚を鍛えていく事も大切かな、と考えます。
次回は、ドラムバスについて解説してみようと思います。
ドラムバス編はこちら。
それでは、また。
ありがとうございます! 頂いたサポートでもっと曲作ります!