GGD(GetGood Drums)と、つよつよドラムミキシング キック編
前書き
コンポーザーのインフェルノ木村です。
前回は、ドラムバスについて解説しました。
もしお試し頂いた方がいらっしゃったら、お手元のドラムサウンドが一気にアグレッシブな質感に変化した事を体感頂けたかと思います。
本記事は、GGDのドラムライブラリと、NollyによるGGD公式チュートリアルを実践し、その内容を解説する趣旨となります。
さあ、今回も、つよつよドラムトーンを目指しましょう!
前提事項については、下記"導入編"をご参照ください。
本記事は、一連のシリーズとして連載しています。
Nollyのメソッドを踏襲し、Top Down Mixingの手法にて進めて参りますので、まずは下記、マスターバス編をご一読頂き、マスターバスエフェクトを適用した上で、本記事の内容を実践頂く事をお勧め致します。
下記記事には、Top Down Mixingの概要と、最初に実施するマスターバス処理についての情報を記載しております。
いよいよ、各キットのサウンドメイクについて解説します。
今回はキック編という事で、生に近い、比較的オーガニックなサウンドを、「これぞメタル!」と言いたくなるキックにすべく、サウンドメイクして行きます。
まずは、ご参考程度に、下記のBefore Afterをご確認ください。最後の方に、ドラム全体のサウンドも入れています。
ボフボフっとしたキックが、バチバチなサウンドに、大きく変化した事を感じて頂けたかと思います。
メタル特有の、圧が強くもバチバチとヌケてくるサウンドは、果たしてどのように作るのか。
早速見ていきましょう!
キックの処理 概要
生キックからメタルなキックを目指すにあたり、今回は下記の処理を施します。
Gate
EQ
サチュレーター x 2
コンプ
処理内容としては、結構オーソドックスだと思います。
特徴的な処理としては、やはりEQで、かなり思い切ったセッティングにして、音を変化させていきます。
また、打ち込みドラムではあまり使われることは無い(と思われる)Gateを挿していますが、こちらも結構重要だったりします。
では、一つ一つ見ていきましょう。
Gate
Gateは、本物のドラムを処理する際に、ブリード(単体マイクに他の音が被る現象)対策として使われる事が多いですが、GGDはキックのチャンネルにブリードはありませんので、今回のドラムミキシングでは、主に余韻の調整に使うイメージです。
画像のセッティングは、Nollyが長年使っていると言っていたプリセットを模したものです。
先述の通り、このセッティングでは、キックの余韻を、自然なニュアンスでカットし、音の輪郭を整える効果を狙っています。
メタルでは特に、連続的な早いパッセージが多いかと思いますが、余計な余韻があると、MIX全体に強烈な濁りを生みます。
そこで、Gateを使って、ある程度タイトにしておくことで、MIXにおける低音濁りを大幅に軽減出来ます。
この低音濁りを、ローカットなどで処理するケースが見られますが、リズム楽器においては、このように、ゲート一発で改善できる場合もあります。
もちろん曲によりますが、MIXで直面する問題に対する、アプローチの一つとして持っておくと良いでしょう。
但し、スローテンポで重いバラード系の楽曲であれば、あえて余韻が欲しい場合もあるかと思います。その場合は、リリースを調整したり、バッサリとバイパスする事も有効です。
今回はオンのまま進めます。
Gateは私自身あまり詳しくないので、各パラメータの詳細な解説は今回は省略させて頂きますが、設定値は公開しておきます。
尚、Pro-GにはLookahead機能がついており、こちらは有効にしています。
これにより、入力信号を先読みする為、非常に高精度な処理が実現できます。
打楽器の処理に、特に有効です。
このセッティングは、スネア編でも登場しますので、是非チェックしてみてください。
Pro-Gのセッティング
Threshold : -22.92dB
Ratio : 10.00:1
Range : 50.00dB
Atack : 0ms
Release : 350ms
Hold : 0ms
Knee : 0dB
Lookahead : 0.95ms
Output : 1dB
EQ
続いて、EQを見ていきましょう。
はい、そうです。
巷でよくネタにされている、見事な曲芸EQです。
平気で10dBぐらい切ったり突いたりしていて、ヤバいですよね笑
しかし、メタル系のドラムサウンドメイクでは、このぐらい思い切ったEQが効果的な場合があります。
各EQポイントごとに、意図を解説できればと思います。
注意点として、あくまで今回取り扱う、GGD P5キットの場合のEQ処理であることに留意ください。
ですが、各EQポイントをどのような意図で設定したのか、何が美味しくてブーストし、何が嫌でカットしたのか。
それにより、どのような音に変化するかを知っておくことで、ご自身に合わせたサウンドメイクの参考になればと思います。
そんな派手なEQ、やっちゃっていいの?
EQは通常、大きくかけるほど、位相が歪むと言われています。
私は位相歪みが少ないとされているFabFilterのPro Q3を愛用しておりますが、例外ではありません。
(Liner Phaseでは位相歪は発生しませんが、レイテンシーが大きく、さらにトランジェントに影響がある等の弊害があります。今回はその辺の細かい話は触れません。)
一般的に、和音やメロディを構成するパートの場合、極端なEQは、位相ズレ起因の歪により、いい結果を得られないケースが多いとされています。
(あくまで、一般的に)
対して、リズム楽器に関しては音程感の無い為、特にメタルドラムの場合、大胆なEQが逆に有効となるケースがあります。
メタル特有の、アタッキーで強烈なサウンドを作る場合、重要なアプローチとなります。
各EQポイントの解説
では、キックのEQについて、詳しく見ていきましょう。
まず、冒頭でご紹介したBefore Afterを聴いてみてください。
P5キットの生キックは、Sub成分が多めでファットですが、ボワボワした音です。
こいつをバチバチサウンドに彫刻していきましょう。
ポイント1 : 173Hzを10dB近くカット!
キックの基音は、概ね60Hz付近にあります。今回扱うキックも例外ではありません。
基音の少し上に、濁った成分があり、それを探してカットします。
大抵の場合、100~200Hzの間にあります。
そこをがっつりカットすることで、深みを残したまま、一気にクリアなサウンドになります。
今回は、173Hzを、Q幅1.3で、10dBほどカットしています。
EQのポイントを確認する際は、デルタモードを使って、今操作しようとしている周波数のみを聴き、"キックにおけるカットしたい濁り"がどんな音なのか耳をわからせて行きましょう。
ポイント2 : 1Kから思いっきりハイシェルフ!
2手目は、中音域から思いっきりハイシェルフします。
特にP5キットの場合、生音の状態では、中音域以上の周波数は、少し控えめです。
初めは耳で理解しづらい部分ですが、アナライザの形も参考にしましょう。
中音域には、メタルにおけるキックの表現にとって極めて重要な部分と、邪魔な部分が混在しています。
それらは後ほど更にブースト、カットで調整します。
ここでは、一旦足りない周波数を足して行き、調整の基盤を作ります。
ポイント3 : 7Kあたりをがっつりカット!
今回は、アタッキーだけど肉厚な印象のサウンドを狙っています。
2手目で思いっきりハイシェルフしましたが、それにより、高音成分のうち、"紙っぽい"ぺらぺらっとした音が目立つようになりました。
それが7K付近です。
ペペペペペ…みたいな音です。
ここが残っていると、せっかくローが出ていても、相対的になんだか薄い印象のキックになります。
思い切ってカットしてしまいましょう。
ポイント4 : 3Kあたりをブースト
キックは、ペダルに付いているビーターと言うパーツが、ヘッドにヒットする事で音が出るのですが、まさのそのビーターのヒット音のようなものが、この辺りに多く含まれます。
所謂、"ベチ!"っとした音ですね。
キックによって違いはありますが、今回は3Kが良い感じです。
メタルドラムでは、特にこのアタック感やクリッキーな質感は重要ですので、強烈なオケに埋もれないよう、ここはブーストして強調します。
ポイント5 : 1.5Kあたりをカット!
初手でハイシェルフをかけ、更に3K付近をブーストしたことで、"音は派手だけど、なんか散ってる"感じと言うか、イマイチ締まりのない音になったと思います。
なんとなく紙っぽい音がまだ残っています。
今回は1.5Kあたりをブーストしてみると、"ペラペラペラ…"みたいな音が目立っていましたので、そこをカットします。
ポイント6 : 800Hzあたりをブースト!
ここは好みの部分もありますが、中音域をブーストして、ふくよかさを演出しておきます。
ここも、聴感上のアタック感に寄与します。
ポイント7 : 55Hzあたりをちょっとブースト!
最後に、基音にあたる部分を少しブーストし、バランスを整えておきます。
キックのローエンドをしっかり確保しておくことは、メタルドラムにおいては例外なく重要です。
尚、今回はローカットしていません。
スペクトラムを見ると分かりやすいですが、既に50Hz以下は十分減衰している為、わざわざ追加でローカットする必要は無いと判断です。
また、基音である60Hzあたりにしっかりピークが来ているので、今回狙っているサウンドとしてはバッチリです。
EQはこれで完成です。
ファット感とバチバチ感のある、メタルらしいサウンドに変化しました。
Cool.
それでは、各EQのセッティング詳細を記しておきます。
Pro-Q3のセッティング
56.563Hz : +2.12dB, Q:1.534
173.40Hz : -9.59dB, Q: 1.384
820.19Hz : +5.43dB, Q:1.858
1022.8Hz : +7.63dB, Q:0.980(ハイシェルフ)
1488.2Hz : -3.81dB, Q:2.388
2990.0Hz : +4.87dB, Q:0.606
6764.0Hz : -5.95dB, Q:1.752
次は、サチュレーターとコンプで、質感を整えて行きましょう。
サチュレーター
それでは、サチュレータを見ていきましょう。
既にEQでかなり派手なサウンドを作っているので、ここでは、アタックを保持したまま飽和感を与え、音を自然なニュアンスでまとめ上げるイメージです。
今回使用する2機種は、アナログライクなプラグインですが、特に元ネタがあるわけではない、Slate Digitalオリジナルのプラグインとなっています。
Revival
先述の通り、Revivalは特定のハードウェアを元にしているわけではなく、Slate Digitalの独自開発によるプラグインです。異なるアナログ機器のキャラクターを参考にしており、アナログEQのトップエンド特性やテープサチュレーションの滑らかさを意識した設計になっています。
ここではShimmerというツマミをぐいっとひねっています。
高音域の艶感を強調するセッティングです。
自然な倍音感が付与されることにより、温かみが出つつも、ここまでで作ったアグレッシブさを損ないません。
Revivalのセッティング
SHIMMER : 11あたり(だいたいでOK)
HOLLYWOOD
Hollywoodも、特定のハードウェア機器を元にしているわけではなく、真空管機器の中でも「ビンテージなアメリカン・チューブ」のキャラクターを参考に設計されています。
Nollyが特にお気に入りと言っているプラグインで、彼のスネアMIXチュートリアルでも紹介されていたものです。
Hollywoodは特に、トランジエントを強調しながらも、広がりと深みを与えることができる点が魅力です。
Saturationノブをグイっとひねっています。
真空管のサチュレーション量を調整し、アナログライクな歪みや温かみを与える設定で、トランジェントと、アタック感を強調しつつ、真空管ライクな飽和感を付与します。
Hollywoodのセッティング
Saturation : 6.7ぐらい(だいたいでOK)
Output : -2dBぐらい(音量が大きくなり過ぎないように調整、だいたいでOK)
コンプ
最後に、Optコンプをかけます。
Custom Optoは、いくつかのクラシックなオプティカルコンプレッサー(特にLA-2AやCL1Bなど)からインスピレーションを受けた設計ですが、こちらも、特定の機材のモデリングではなく、こちらもオリジナルプラグインとなります。
アタックの遅いOptコンプで締めます。
既にアタック感はがっつり作り込んでいますから、ここでは、最終的なボリューム感の調整と、少し"モチっ"とした質感を付与します。
この段階で、余分にアタックやトランジェントを強調しない事が重要です。
今回はハイレシオ設定で、3dBほどコンプレッションします。
後は、Speedを調整し、なんとなくモチっと感がでる所に設定します。
今回は少し早めです。
もう一つのポイントは、キックの実際の音量を、ある程度抑えて抑えておくことです。
ピークが-15~13dBぐらいに収まっていれば理想的です。
コンプをオンにした際に、少し音が小さくなったような感覚になっていれば成功です。
最終的なドラムミックスが出来上がった際に、ドラムのマスターバスのゲインステージングが、丁度いい感じになりますので、今は少し物足りないぐらいのボリュームに留めておきましょう。
最終的なMIXで、実際の音量よりも、しっかり聞こえるようになっています。
それでは、最後にセッティングを見ておきましょう。
CUSTOM OPTのセッティング
PEAK REDUCTION : 15.0
RATIO : 10(強い)
SPEED : 3.97(早め、大体でOK)
Output : 17.8
終わりに
以上でキックのサウンドメイクは完了です。
ネタみたいなEQカーブを披露しましたが、例えばCubase標準のFrequencyで同じカーブを書くと、あんまり派手にやってないように見えてしまいますし、今回使用したProQ3も、表示倍率を変えると、結構普通な感じに見えたりします。
話は反れますが、EQは、今やり過ぎてるのか、地味にやってるのかが視覚的に分かりやすい、12dBぐらいの倍率の物が、感覚的に分かりやすいのでお勧めです。
そんなわけで、EQかけた段階で、音の印象はガラっと変わりましたが、処理後のキックを聴いた際、「思ったよりごっつい音じゃ無くね?」と感じた方も多いかと思います。
今回は、元音より、音量としては少し下がるぐらいの調整を施している為、なんなら、ちょっとしょぼくなったと感じるかもしれません。
音量が大きくなるような処理は、音量デカバイアスによって、音量の大きな音の方がいい音に聞こえてしまうので、音作りをする際は、特に処理前、処理後の音量差を作り過ぎないように気を付けましょう。
ドラムは複数の楽器が集まった、MIX視点としては、非常に複雑な楽器ですので、最終的なドラムバスのサウンドをターゲットに、ゲインステージングできればOKです。
音作りに加えて、音量バランス。。
MIXは本当に難しいですね。
次回はスネア編と行きましょう。
スネア編は、Top, Btmに、それらを合わせたBus, 別途リバーブチャンネルを使ったりと、一番ボリュームが多くなりそうです。
気長にお待ちいただければ幸いです。
それでは、また。