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20-3.オンライン発達支援の最前線を知る

(特集 夏秋コレクションde研修会)
東 敦子(帝京大学大学院文学研究科)
髙堰仁美(東京大学大学院文学研究科)
Interviewed by 下山晴彦(東京大学教授/臨床心理iNEXT代表)
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.20


1.オンラインで“子育て”を支援する

コロナ禍の拡大防止のために乳幼児健診や発達相談が延期あるいは簡略化され,地域での発達支援の現場では大きな混乱が生じています。その一方で,対面リスク軽減のためにICT技術を活用した通信システムやWEB支援ツール活用した発達支援が開発されています。

そこで臨床心理iNEXTは,東京大学バリアフリー教育開発研究センターと自由が丘こころの発達研究所LIBOと共催で,オンラインによる発達支援の最前線をご紹介するシンポジウムを開催します。シンポジウムでは,子育て支援の新たな試みとなるプロジェクトもご紹介し,実際にそのプロジェクトにご参加いただく保護者と,ペアレントプログラムにファシリテーターとして参加する支援者(研修スタッフ)を募集します。

オンラインによる発達支援の最前線
─発達障害傾向のある子どもと親を支援する─

【日程】8月22日(日曜):9時~12時30分
【開催方法】オンライン[Zoomウェビナー]
【参加対象者】保護者,支援者,心理職,教員,学生
【申込方法】下記URLより。先着順1,000名。無料。
https://select-type.com/ev/?ev=iCuNFLqesgw

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心理職などの支援者だけでなく,子育て中の保護者の多くの皆様にご参加いただけます。支援者の皆様は,ぜひお知り合いの保護者の皆様に本シンポジウムについてご周知をいただき,ご参加をお誘いいただければ幸いです。

詳しくは,下記を御覧ください。
https://cpnext.pro/pdfs/iNEXT_20210822leaflet.pdf

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2.プログラム:「オンライン発達支援シンポジウム」

本シンポジウムでは,実現化が進んだオンラインによる親子への支援の最新情報を提供します。また,双方向オンラインシステムや支援アプリの活用した子育て支援プロジェクトを紹介し,参加者を募集し,皆様と一緒に発達支援の新たな展開を進めていきます。

〈プログラム〉
第1部 オンライン支援の現状と課題

①「海外での自閉スペクトラム症の子どもへのオンライン支援」
・黒田美保(帝京大学文学部教授)
②「日本の子育て支援におけるオンライン活用の現状と課題」
・奥山千鶴子(NPO法人子育てひろば全国連絡協議会理事長/認定NPO法人びーのびーの理事長)

第2部 オンラインによる親支援の新たな試み
③「“こだわり”のある子どもの親の困難と支援」
・野中舞子(東京大学大学院教育学研究科専任講師)
④「オンラインによるペアレントプログラムの課題と将来性」
・東 敦子(帝京大学大学院文学研究科博士課程)
⑤「子育てにおける親の怒りへの,アプリを用いた心理支援」
・髙堰仁美(東京大学大学院教育学研究科博士課程)

第3部 オンライン発達支援の発展に向けて
◆指定討論「オンラインによる発達支援への期待」
・田中尚樹(厚生労働省障害福祉課専門官)
◆座談会 黒田・奥山・野中・田中・下山(司会)
幼児(2~6歳)発達支援プロジェクトの協力者募集
①個別オンライン保護者支援
〈募集〉『強迫とこだわり』のある幼児の保護者
[問い合わせ]⇒ocd.fbcbt@gmail.com
※本件に関するHPを近日公開予定です。

②アプリ活用オンライン・ペアレントプログラム
〈募集〉『対人コミュニケーションに躓き』のある幼児の保護者
[問い合わせ]⇒onlinepp2021@gmail.com
※件名に「参加希望・問い合わせ(保護者)」と記載してください。参加条件などの詳細をお知らせします。

双方向オンライン通信システムは安全性だけでなく,利用者が移動をしないで支援を受けられるという点で経済性の高さや専門的支援の地域均てん化という点で発達支援のパラダイム変換につながってきます。そこで,以下において,今回のシンポジウムでオンライン活用した発達支援プロジェクトを紹介する東敦子先生と髙堰仁美さんにインタビューをしてオンライン通信システムを用いた発達支援の利点と可能性をお聞きします。

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3.ペアレントプログラムとは

[下山]まずは,東先生にオンラインによるペアレントプログラムの実践研究を企画するに至った経緯をお聞きします。

[東]私は,現在は大学院生なのですが,大学院に入る前に30年ほど知的障害や発達障害,肢体不自由などの子どもの療育に携わってきました。児童発達支援センターの園長を務め,退職した後に大学院に進学しました。直接子どもと接することが大好きなので,もともとオンラインは考えていませんでした。しかし,今回のコロナ禍で自分のできることは何かと考えた結果,オンラインによるペアレントプログラムの研究に至りました。

以前より,保護者への支援を常に軸に据えて保護者勉強会も長く続けていました。保護者サポートは支援者としての要です。子どもへの支援ももちろん大事ですが,園長という役割から保護者の方に関心が向くようになったのかもしれません。インテークとして保護者と最初に話すのは,園長としての仕事でした。私にとって,園長という立場ではなく,心理士としての立場として保護者への支援を行ってきたことは大きかったと思います。

[下山]東先生は,ペアレントプログラムに関する博士論文を執筆中とのことです。ペアレントプログラムに注目した経緯やその魅力などを教えてください。

[東]日本のペアレントプログラムは,ペアレント・トレーニングを参考にして作成されました。発達障害の現場で実施されるペアレント・トレーニングは,行動療法を基本としたいくつかのタイプがありますが,いずれも実施するには高い専門性が必要です。そこで,子育て支援の現場にいる保健師や保育士などが訓練を受けて実施できるような形にするため,ペアレントプログラムは,ペアレント・トレーニングの中の「子どもの良い行動に着目して褒める」という要素を取り出して作られました。

一方,ペアレントプログラムは,親同士の話し合いに重点が置かれ,親がグループへの帰属意識をもつことが独自な特徴となっています。また,「良い行動」とは「適応的な行動であり,決して人より優れている行動」ではないことを前提に,認知の変容を促すことがペアレントプログラムの中核的な目的となっています。

ペアレントプログラムは,アスペ・エルデの会(※)が開発したもので,厚生労働省で発達支援や子育て支援の現場での実施が推奨されています。
※アスペ・エルデの会⇒http://www.as-japan.jp/j/

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4.ペアレントプログラムの魅力

[東]私が一番力を入れてきたことは,発達早期からの支援です。そこで,本格的な療育に至る前の,発達初期の子育て支援の延長線上で取り組めるペアレントプログラムを研究テーマとして選びました。療育を待たされて困った状態になる前に,できるだけ早い時期に子育てのコツや発達特性の理解を親が学ぶことを目的とした予防的な取り組みを広げたいと思っています。

[下山]発達早期に支援を開始するメリットはどのようなことですか?

[東]発達特性のあるお子さんは早い時期から誤学習をさせないということが非常に重要です。一般的な子育てでは,いけないことをしたら叱る,注意するというのは当たり前です。ところが,発達特性があるお子さんの場合,当たり前の子育てをすると子どもの状態がこじれていくということがあります。親が“子どものこじれ”にストレスを感じ,さらにこじれを悪化させていくという悪循環になります。

[下山]ペアレントプログラムの発達支援の特徴はどのようなことですか?

[東]一番大きいのは「行動でとらえる」ということです。ペアレントプログラムでは,子どもの行動,そして親の子育てのスキルを具体例な行動としてとらえていきます。親が子どもにどのように接しているかを,具体的な行動として見ていきます。子どもは,何ができて何ができないかを見ていきます。できないことが多くても,少しでもできていることがあれば,その行動をとらえて褒めていく方法を学びます。

ペアレントプログラムの内容
1回目:現状把握表を書く
2回目:行動で記録し,よいところをみつける
3回目:行動の種類をカテゴリーに分ける
4回目:困った行動から努力している行動をみつける
5回目:困った行動がでやすい課題,時間,場所,相手をみつけて工夫する
6回目:ふりかえり


ペアレントプログラムの特徴として,講師が一方的に専門的な助言を行うのではなく,親同士のペアワークをたくさん実施します。その中で親御さん同士が実際にいいところを見つけあっていく過程があります。ペアレントプログラムは,直接療育の経験はなくても,ファシリテートの能力のある地域の保健師や,もちろん経験の少ない心理職であっても実施できます。

[下山]実施者は,保護者をファシリテートするということですので,ペアレントプログラムにおける主人公は保護者ということなのですね。

[東]そうです。このプログラムのワークの進め方の肝はそこにあります。保護者が自分で見つけられなければ,そのあと自身で乗り越えていくための力になりません。専門家に指摘されて学ぶのではないという考えに基づいているのがとても重要です。

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5.オンラインでの発達支援の可能性

[下山]シンポジウムで説明していただくプロジェクトは,オンラインのペアレントプログラムです。先生は,子どもと触れ合って関わることが大好きとおっしゃっていた。確かに療育は体と体が触れ合って行うものですね。それをオンラインで実施するのは,今までなかった取り組みです。ご経験に基づいてオンライン支援の可能性についてお話ください。

[東]オンラインでやると決めたのはコロナの影響です。今はオンラインによる親支援でやるしかないと思って始めました。心理職としては,「子どもと生で触れ合いたい」「目の前の子どもを抱きしめたいし,親御さんとも同じ空気を吸いながら近くで感じたい」という気持ちはあります。それが私の臨床だと思っているので,オンライン実施はある意味悔しかったです。しかし,実際にオンラインでのペアレントプログラムに取り組む中で,画面越しに親御さんの感情は十分に伝わってくることを体験しています。

実際に会っているのと同じ感情を感じることもできます。双方向通信の技術が進んで,ほぼ対面と同じように会話ができるようになったことは画期的です。また,専門性が届かない地方や海外の方にも連絡がとれるということはオンラインの魅力です。病院に入院されている方やお子さんが過敏で外に出られない場合にも対応できます。そういう環境にいらっしゃる方のニーズが沢山あったことを実感しています。

[下山]実施する側の心理職はオンライン支援の限界を強調しがちですが,利用者からするならば,とても便利なサービスと感じているわけですね。

[東]そうですね。今までは,地域支援が当たり前で,直接会わないとだめだと思っていました。しかし,オンライン発達支援が広がりつつある現在,これまでとは別の新しい価値観が生まれてきていると感じています。これまで支援の届かなかった方へ支援が届けられるという意義を感じます。

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6.プロジェクト参加の保護者と支援者(研修スタッフ)の募集について

[下山]シンポジウムでは,先生が実施している研究プロジェクトを説明した上で,プロジェクト参加者を募集すると聞いています。

[東]シンポジウムでは,日本で実施されているさまざまペアレント・トレーニングやペアレントプログラムをご紹介しながらオンラインで実施することの課題をお話しします。その後に,私が実施するオンラインのペアレントプログラムにメンバーとして参加いただく子育て中の保護者の方を募集します。「社会性とコミュニケーションに躓き」がある幼児(2~6歳)の親御さんが対象となります。診断などがなくてもよく,社会性の発達が気懸かりで,未就学の子どもの親であればどなたでもご参加できます。申し込み先はシンポジウムでご紹介します。研究プロジェクトとして,参加した保護者の精神的健康や子育てのスキルの向上について検討させていただきます。実施時期は,9月~11月と来年1月~3月の2期に分かれます。

[下山]発達支援に関心のある心理職や心理職を目指す学生もファシリテーター(支援者)として募集されるのですね。発達支援の研修の機会になりますね。

[東]ペアレントプログラムで実施するグループワークにファシリテーターとして参加する支援者(公認心理師または公認心理師を目指す院生)を募集します。グループワークを実施するときには私が全体をマネジメントし,各グループに複数の心理職にファシリテーターとして入ってもらいます。親御さんは,十人十色で経験価値観も違う。心理職として保護者支援や発達支援を学びたい方にとって,非常に貴重な経験になると思います。

〈ファシリテーター(研修スタッフ)募集〉
ペアレントプログラムにファシリテーターとして参加する支援者(公認心理師または公認心理師を目指す院生)を募集します。支援者は,黒田美保先生の研修を受けた上でペアレントプログラムにファシリテーターとして参加して実践経験を積むことができます。発達支援と保護者支援の理論学習と技能習得の貴重な機会となります(※)。なお,参加に際しては研修費をいただきます。
※アスぺ・エルデの会の公式の指導者養成研修とは異なりますのでご了承ください。
[問い合わせ]⇒onlinepp2021@gmail.com
件名に「詳細資料希望(支援者)」と記載してください。研修費の詳細をお知らせします。


[下山]ファシリテーターで参加する支援者には,事前研修をしていただけるのですか?

[東]事前だけでなく,事後も研修を行います。私の大学院の指導教員である黒田美保先生が研修の責任者となります。実際のセッションでは,支援者に保護者役やファシリテート役になってもらったりして,色々な役割を経験してもらいたいと思っています。その後にケースカンファレンスとしてペアワークで感じたことを支援者が持ち寄って共有して次に生かす話し合いの場を持ちます。

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7.保護者の怒りのコントロール支援アプリの紹介

[下山]東先生にペアレントプログラムについてお話を伺いました。次は,私の研究室で保護者支援のアプリを開発している高堰さんに,アプリの説明をしてもらいます。

[高堰]感情をモニタリングすることを目的としたツールとして「保護者ナビ」というアプリを開発しました。親御さんは,子育ての中で色々な感情を経験されます。今回ご紹介するアプリは,その中でも親子の関係性に影響が大きい怒りの感情を扱うツールとなっています。保護者ナビの機能は大きく2つに分かれています。

まず1つ目が感情をモニタリングする機能です。感情がわいてきて収まるメカニズムに気づくというものです。東先生がやっていただくペアレントプログラムでは,“具体的に行動をとらえる”ということを親御さんに練習していただきます。保護者ナビは,そことリンクします。保護者ナビを通してお子さんのどのような行動にイライラするのかに気づいていただく。そして,その行動をどのように認識するとイライラし,怒りにつながるのかをみていく。その怒りのプロセスを,刺激,考え,感情の枠組みでモニタリングし,認知再構成を目指すものとなっています。

もう1つは,ソーシャルサポート機能です。特定のメンバーでグループを組んでその中で記録の共有やコメントができるようになっています。ペアレントプログラムでは参加メンバーの間で信頼関係が築かれます。保護者ナビは,その信頼関係をプログラム終了後に維持するのを支援する機能を持っています。信頼関係のある親御さん同士でグループを作ったり,支援者がその中に入ってサポートしたりすることができます。

[下山]ペアレントプログラムで習得した保護者の気づきや仲間関係をアプリとの対話を媒介として維持し,発展させていたくことができるということですね。

[高堰]はい。確認や復習という観点でも使っていただけます。このアプリを媒介として心理職が保護者をサポートすることができます。また,グループの安全性を重視しているので,全員に記録が共有されるわけではなく,信頼関係のある人たちとの間でのみ共有できるようになっています。

[下山]ひとりでやる孤独なものではなく,心理職のサポートを受けることもできるし,ペアレントプログラムで知り合ったメンバー同士で支えあいながら自分の感情,特に怒りをモニタリングできるわけですね。

[高堰]はい。関係性が築かれた心理職との間で,あるいは親仲間で些細なことでも苦しみや喜びなどの体験を共有して,相互の支え合うことをサポートするができます。保護者ナビは,そのような心理的支援を提供できるアプリを目指しています。これまでの先行研究のレビューをみると,ペアレントプログラムやペアレント・トレーニングの効果は示されていますが,その効果の維持が課題となっています。その点で保護者ナビは,ペアレントプログラムのフォローアップとしても活用できます。ペアレントプログラムで受け止められる安心感があることで,保護者は自分の感情にも向き合えます。保護者ナビは,その安心感の継続を支援します。

■デザイン by 原田 優(東京大学 特任研究員)

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