49-4.ソマティック・エクスペリエンシング入門
注目新刊本「訳者」研修会
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1. トラウマを癒す内なる力を呼び覚ます
戦争や災害、事件・事故などの衝撃的な体験だけでなく、一見なんでもないような出来事であってもトラウマとなります。そのトラウマは身体に痕跡を残し、心身に影響を与え続けます。そこで重要となるのが、身体感覚への気づきを高め、身体に閉じ込められた過去=トラウマのエネルギーを解放するトラウマ療法である「ソマティック・エクスペリエンシング」です。
ほとんどのトラウマ療法は、対話を通して心にアプローチし、また薬物療法で心の断片に影響を与えようとします。しかし、トラウマは、身体がどのような影響を受けているのかを理解しない限り、完全に癒やされることはありません。そのため、身体が果たす本質的な役割を理解し、身体の持つ素晴らしい原初的で知的なエネルギーを活用してトラウマの破壊的な力を克服する方法である「ソマティック・エクスペリエンシング」が重要となるのです。
臨床心理iNEXTでは、10月5日(土)には、「ソマティック・エクスペリエンシング」を学ぶ研修会を実施します。講師は、注目新刊書「ソマティック・エクスペリエンシング入門」※)の訳者であり、我が国におけるポリヴェーガル理論の第一人者である「花丘ちぐさ先生」にお願いをしました。多くの方のご参加を期待しています。
※)https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393365724.html
2. さまざまなトラウマ療法を学び、適した方法を選択する
トラウマは、医学的な疾患ではなく、脅威を受けて強いストレスや恐怖を感じた際の反応として生じる心身の不調です。その点でトラウマの心理支援は、心理職の最重要なテーマです。今年の診療報酬改定において公認心理師のトラウマ治療に関しては保険点数がつくことが示され、心理職にとってトラウマの心理支援が注目されるようにもなっています。
現在のトラウマ治療は、一つの固定した方法が推奨されているというわけではありません。その人に適した支援のトラウマ療法を選択していくことが求められています。そこで臨床心理iNEXTの秋の研修会では、さまざまなトラウマ療法を学ぶことを目的としました。9月22日(日)には「語り(ナラティブ)」と「曝露法(エクスポージャー)」を組み合わせた「ナラティブ・エクスポージャー・セラピー」を学ぶ研修会を実施します。そして10月5日(土)には、「ソマティック・エクスペリエンシング」を学ぶ研修会を実施します。
「ナラティブ・エクスポージャー・セラピー」が対話を通してのアプローチであったのに対して「ソマティック・エクスペリエンシング」は身体に働きかけるアプローチです。参加者は、さまざまな研修会に参加することで、トラウマに対する多様なアプローチを学び、利用者に適した、さらには利用者のニーズに即した支援を組み立てることが可能となります。以下に10月5日の研修会講師の花丘ちぐさ先生に「ソマティック・エクスペリエンシング」を学ぶことの意味についてインタビューをした記事を掲載しますので、ご参照ください。
3. 身体記憶に働きかけるソマティック・エクスペリエンシング
【下山】研修会の参考書である「ソマティック・エクスペリエンシング入門 −トラウマを癒す内なる力を呼び覚ます−」(春秋社)については、花丘先生の新訳が今年2024年の3月に出版されています※)。しかし、原書「Waking the Tiger: Healing Trauma」(by Peter A. Levine & Ann Frederick )は、1997年に発行されているんですね。内容の新鮮さから、最近の出版かと思っていたので27年前に既に出版されていたのには驚きました。
※)https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393365724.html
【花丘】そうなんですよ。一度邦訳されたのですが、版権が切れて絶版になったので私が訳し直して新訳で出版しました。改めて訳してみて、本当に30年近く前に書かれた本とは思えない斬新さがありますね。著者のピーター(Peter A. Levine)は、天才だなって思います。
【下山】先生の別の訳書「発達障害からニューロダイバシティへ」(春秋社)※)では、トラウマが如何に自律神経系を通して身体に影響を与えているのかを理解できました。このテーマについては臨床心理iNEXTの9月5日の研修会で解説していただきますが、トラウマにおける身体への影響の深刻さを考えると、改めて身体への働きかけの重要性が理解できます。「ソマティック・エクスペリエンシング」の方法は、まさにその身体への働きかけをどのようにするのかを教えてくれますね。
※)https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393365687.html
【花丘】ええ、まさにその通りですね。身体への働きかけの重要性とその方法を教えてくれます。
【下山】トラウマ療法の多くは、認知的な記憶に介入するものですね。身体的な記憶に介入するものは、ソマティック・エクスペリエンシング以前はなかったと思います。しかし、ポリヴェーガル理論を参考にするならば、トラウマの場合は神経系の身体反応に関わらないといけないですね。従来のトラウマ療法では、身体的な記憶への介入が抜けていたことに改めて気づいています。
4. トラウマはエネルギーの問題である
【花丘】著者のピーターは、面白いことをすごく言うんです。「自分はトラウマを扱っているのではない。私は、生命力を扱っているのだ」と言ったりします。彼は、「トラウマ的出来事として何があったのか」ということや、「どういうことが辛かったのか」ということよりも、そのトラウマ的な体験によって活動ができなくなっていることに注目します。
そして、そこで滞っている生命力を解き放つことをボディーからやっていくという考え方なんですね。ですので、「何があったか」ということはあんまり聞かずに、今あるこの神経系の状態を見ながら介入していくという感じなんですね。
【下山】なるほど。パラダイムがずいぶん違うんですよね。「ソマティック・エクスペリエンシング入門 」の中に「トラウマはエネルギーである」という表現がありました。エネルギーという言葉を聞くと、フロイトの無意識のエネルギーを思い出したりします。“イド”とか、そういうものを連想しますが、それとは違うものですね。
【花丘】広い意味では同じものなんだろうとも思います。ただ、ソマティック・エクスペリエンシングでのエネルギーは、生理状態ですよね。“凍りつき”に入ってしまっている生理状態を解き放つといういうことですね。
5. トラウマによる“凍りつき”から解放する
【花丘】ですので、ピーターは、その状態移動をすごく大切にしています。“凍りつき”で動けなくなっている状態を、若干の活性化を通して社会交流に戻してくることが重視されるのです。
【下山】そこにポリヴェーガル理論の背側迷走神経系と関連する“凍りつき”という視点がないと、「このように動けなくなっている自分はダメなんだ」と考えて、「頭の中で一生懸命自己否定をしたり、反芻してルミネーションの考え込み状態」に入って抜けられなくなりますね。その場合、やはり身体のエネルギーを適切に支えていない状態になっていることに気づけないですね。
【花丘】そうなんですよね。だから「ダメな自分」とかではなくて、「車のエンジンがかからなくなってしまっている状態なのだ」と思えばいいのです。エンジンをかけられる状態にしてあげればいいということです。だから、そこにはもう「良いも悪い」も「正しいも間違っている」も何もないっていう感じなんですよね。
【下山】なるほど。それが、この本に書かれている「身体感覚への気づきを高めて身体に閉じ込められた過去のトラウマのエネルギーを解放する」というところにつながるのですね。
【花丘】そうなんです。
6. 5W1Hでアセスメントをしない
【花丘】先日の土日に「ソマティック・エクスペリエンシングの初級トレーニングセミナー」を開催したんですね。それは、オンラインで実施しました。そこに参加したセラピストの方たちが非常にストレスやフラストレーションを感じるのは、「どんなことがあったのかをアセスメントをしないこと」なのだそうです。「どのような出来事があったのかを5W1Hでまず訊く。それがアセスメントだ」と言うんです。
ソマティック・エクスペリエンシングは、全然違うやり方なのです。5W1Hでアセスメントしないんですよ。なので結構、皆さん「えっ!」という感じでスタックするんです。でも最後のほうになって、なんか違うということが分かったみたいな感じですね。
【下山】なるほど。今回の臨床心理iNEXT研修会に参加されるのは、心理職の皆さんです。ですので、皆さん「介入に入る前にアセスメントをしなければいけない」と叩き込まれていると思います。私も大学では「しっかりとアセスメントしましょう」と教えています。アセスメントは、現在の状態だけではなくて、過去の出来事も訊いていきます。それをやらないということになると、戸惑うでしょうね。
7. ソマティック・エクスペリエンシングのアセスメント
【花丘】もちろんアセスメントは要らないと言うわけではありません。私たちなりのアセスメントをしているんです。ただ、それがやっぱり生理的なものを読んでいるのですね。顔の血色とか、呼吸のレベルとか、そういうのを見ているんですよね。だからアセスメントをしてないわけでは全然なくて、「こんにちは」と部屋に入ってきた時点から姿勢、肩とか首の角度とか、そういうのを見ているんですよね。
【下山】なるほど、そのようなアセスメントはしてるのですね。逆に言うと心理職のアセスメントで一番欠けているのは、そこですね。認知行動療法のアセスメントでは、認知や感情、行動の情報は丁寧に取っていきます。しかし、生理的なものとか身体的な反応っていうのは意外と見てないんですよ。
【花丘】そうかもしれないですね。ただし、私が言いたいのは、「今までの心理的なアプローチがダメだったとか、足りないとか」ということではないんですね。心理職の皆さんがこれまで積み上げてきたものに、このソマティック・エクスペリエンシングの概念を加えてプラスアルファをしたら、本当に鬼に金棒ということになります。私が明確に伝えたいのは、そういうことです。
【下山】なるほど、わかります。今回の研修会に向けて、ポリヴェーガル理論やソマティック・エクスペリエンシングを勉強してみて、「今まで自分が臨床心理学や認知行動療法ということでやってきたことは、本当に氷山の一角だった」と思いました。「この生理・身体的なエネルギーの部分が欠けていたな」と、すごく気づかされますね。新しいことに気づいて、ちょっとワクワクするところがありますね。
【花丘】そうなんですよね。ぜひここはワクワクして、「わあ面白い」と思っていただくところなんですよね。
8. トラウマは病気ではない!安らぎのない状態である!
【下山】「ソマティック・エクスペリエンシング入門」の第3章は「傷は癒せる」となっていて、そこには「トラウマは病気(Disease)ではなく、安らぎのない状態(Dis-ease)である」と書かれていました。クライエントさんにお会いした際には、まさに身体が自然で安らぎのある状態なのかどうかを見極めていくことが大事なんですかね?
【花丘】そうですね。ピーターは英語で書いてますので、「病気」をDiseaseとし、「安らぎのない状態」をDis-easeとして、「トラウマはDiseaseではなく、Dis-easeなのだ」と言っているのですね。Ease、つまり「安らぎ」がない状態がトラウマであると定義しているのですね。
【下山】だからこそ身体の状態に問題が出てくるということでしょうか?
【花丘】そうですね。それで結局、自律神経が乱れてきて全身性の問題が出てくるということですね。
【下山】なるほど。私は、トラウマを病気ではなくて「安らぎ」欠如の問題なのだということを明確にしているところが、この本の魅力であると思いました。
9. ソマティック・エクスペリエンシングの魅力
【下山】ところで、御本を訳された先生にとって「ソマティック・エクスペリエンシング」の魅力はどのようなところなのでしょうか?皆様にはどのようなことを学んで欲しいとお考えでしょうか?
【花丘】そうですね。「新しい視点の獲得」ということだと思いますね。心理的アセスメントでは行なっていない部分が書かれていることも、「新しい視点の獲得」につながります。それを、ぜひ皆様のツールボックスに入れてほしいという感じです。
【下山】なるほど。トラウマを通して、今まで心理職が見てこなかった問題の理解の仕方を知り、学び、深めていくということですね。
【花丘】そこで自ずと解放の方法もわかってきます。それから、ピーターが目指しているのはトラウマの影響なく生きていかれるようになるよりは、人生のマスタリーになるということなんです。要するに「生きることをマスターする」、「巧みに生きる」みたいなことなんです。ようやく、なんとか機能できるということではなく、本当に自分の人生を満喫できるといったあり方ですね。だから、彼が「私はトラウマを扱っているのではなく、ライフフォースを扱ってるのだ」と言うのは、そこのことなのですね。
【下山】それは、トラウマがどのような問題として出てくるかということに関わりますね。フォーカシングでは、フェルトセンスということで、身体からのメッセージを受け取るということがありますが、それに近い感じでしょうか。ソマティック・エクスペリエンシングということで、まさに身体的経験と深く関わってくると思います。その点に関するトラウマの理解と支援のポイントを教えていただけないでしょうか。
【花丘】やはり記憶ということがあります。認知的な記憶はしばしば過ちがあるのですが、ソマティックな記憶は結構リアルなんですよね。だから身体的な記憶に関わるソマティック・エクスペリエンシングは、「本丸を攻める」ことができるという感じですかね。
【下山】なるほど。体は嘘つかないですからね。
【花丘】そうなんですよ。そうそう。そういう意味で、なかなかその人の本音にたどり着かない場合には、ソマティックな、つまり身体的なアプローチだと割とすんなりスパッときます。その人の問題の本質にたどり着かない時には、身体へのアプローチが有効ですね。それが、ソマティック・エクスペリエンシングの魅力ですね。
10. 通常の心理支援では身体感覚を見逃している
【下山】それには、ポリヴェーガル理論で言われるような“凍りつき”という状態にアプローチしていくことも含まれるのでしょうか?
【花丘】そうですね。人間は、大脳新皮質※)が割と大きいので、知的に考えて「いや、大丈夫です。なんともありません」とか言ったりします。しかし、実際には“凍りつき”となっているケースが多いので、言語ではなくて、身体の感じの方から“凍りつき”にアプローチしていくということです。
※)大脳新皮質:大脳の表面を占める部分で、進化的に新しく高等生物では大きくなっている。知的活動や言語機能と関連している。
【下山】心理支援では、そのような身体感覚の反応が見逃されていることが多いですね。身体を中心に考えると、精神科診断の症状や心理的アセスメントの対象は、意識できる表面の問題だけを捉えようとしていたと見ることができますね。意識しにくい“感覚”や“感じ”といった、微妙な身体反応を掬い取っていくことが必要ですね。
【花丘】そうかもしれないですね。だから、ソマティック・エクスペリエンシングの研修をされる心理職の皆様には、「とにかくこのツールも一個皆さんのツールボックスに入れてください」というお願いをしているんですね。
11. ポリヴェーガル理論を知っておくと理解が深まる
【下山】「ソマティック・エクスペリエンシング入門」の第Ⅰ部は「癒し手としての身体」となっており、第Ⅱ部は「トラウマの症状」となっています。第Ⅱ部で扱われる症状というのは、医学的な意味ではなくて、トラウマ反応の核心にある問題や苦しみがどのようなものかが説明されていますね。
第Ⅲ部は「変容と再交渉」、第Ⅳ部は「トラウマの応急処置」となっており、具体的なトラウマへの対応やトラウマからの回復が解説されています。今回の研修会は入門編ですので、どのような内容になりますでしょうか?
【花丘】そうですね。「なぜソマティックなアプローチが必要なのか」を、ポリヴェーガル理論とも絡めながらご説明をします。そして、もしかしたらケースみたいなのもあると皆さん、イメージつかめるかもしれないですね。
【下山】そうですね。そうであれば、参加する際には、ポリヴェーガル理論はある程度知っておいた方が良いでしょうか?
【花丘】必ずしも必要であるというわけではありません。ただ、“凍り付き”、“交感神経の可動化”、“社会交流”といった、ポリヴェーガル理論のベースとなる事柄がある程度分かっておいていただけると、より良いかなとは思いますが。
【下山】そうですね。それは、先生の前回の研修会に出られた方はご存知だと思います。ポリヴェーガル理論の基本的な考え方は、前回の研修会のご案内をした「臨床心理マガジン45-4号」※)で解説されているので、それを読んでご参加いただければ良いかと思います。そのような準備を少しして、今回の研修会に参加してソマティック・エクスペリエンシングについての学びを深めていただければと思っています。
※)https://note.com/inext/n/nf777a585de0a
【下山】うん、そうですね。可能ならね。そうしていただけると、ソマティック・エクスペリエンシングの魅力をより良く理解していただけますね。「そういうことか!ここにハマるんだ」ということが分かっていただけると、嬉しいです。
12. ソマティック・エクスペリエンシングとポリヴェーガル理論の関係
【下山】「なるほど!こうやるんだ」、「だから、これをするんだ」ということが分かると良いですね。そうなるとポリヴェーガル理論が、理屈だけでなく、より肉付いてきて、使えるものになりますね。
【花丘】本当そうなんですよ。「ポリヴェーガル理論をトラウマの領域で使うと、こうなるのだ」ということが腑に落ちる、そんな感じですね。
【下山】「ソマティック・エクスペリエンシング」と「ポリヴェーガル理論」は、密接に関わっているんですね。そう考えると、ポリヴェーガル理論が発表される前に、「ソマティック・エクスペリエンシング入門」が出版されているのは、何か不思議な気がするのですが?
【花丘】この本の著者のピーターとポリヴェーガル理論の提唱者のポージェス博士とは大親友なんですよ。お二人が20歳代の時から親交があるんです。それで、「ソマティック・エクスペリエンシングはポリヴェーガル理論に基づいた療法」というと、ピーターが怒るんです。この原理を発見したのは自分が先だって。
【下山】そういう、冗談を言い合う関係なんですね。二人で一緒に新しい考え方や方法を生み出してきた盟友なのですね。
【花丘】そう。お互いに刺激し合いながら成長してきたって2人ともそういうふうにおっしゃっています。それに関して次のような話があるんですね。腹側迷走神経が心臓の鼓動を調整しています。そこで、背側迷走神経が強く働くと、無呼吸とかが起きて、新生児が亡くなってしまうっていう原理があります。本当は副交感神経は身体に良いはずなのに、なぜ無呼吸や心拍の停止が起きてしまうのだろうと、ポージェス博士が悩んでいる時にピーターが「トラウマの人にはそういうことが起きるんだ」と伝えて、そこから2人の文通が始まるんですよね。
【下山】なるほど、お互いに刺激し合いながら発見をしていったということなんですね。
【花丘】そうなんです。それで2人でカリフォルニアで落ち合って、ピーターはピーターで自分の臨床とか実験の結果をポージェス博士にシェアして、ポージェス博士も今やってる心拍の計測の話をして、本当に2人で夜通し、興奮して語り合ったということです。
【下山】なるほど。そういう意味で「ソマティック・エクスペリエンシング」はポリヴェーガル理論の発展に深く貢献していますね。それと同時にポリヴェーガル理論の奥深さや幅の広さを感じますね。
13. トラウマで閉じ込められたエネルギーを解放する
【花丘】そうですね、だから本当に学際的です。人間のことを扱っているから全部なんですよね。もうあらゆる分野が関わってきます。
【下山】そうですよね。進化の話も関わってきますね。それと同時にトラウマは脅威に対する反応という点では、まさに社会環境と深く関わってきますね。社会環境からの脅威的刺激に深刻な影響を受けるという点で、身体は閉じられたものではなく、関係に開かれているということですね。
【花丘】ほんとそうですね。本当に網の目のようなエコシステムというか、世界を構築している原理みたいな感じですよね?
【下山】そのような網の目のエコシステムの中でトラウマを受けてエネルギーが閉じ込められた場合に、どのようにトラウマを癒す力を呼び起こすかがテーマになるのでしょうか。トラウマのエネルギーを脅威や恐怖からどのように解放していくかということが重要な視点になるという理解でよろしいでしょうか?
【花丘】うん、そうですね。トラウマ的な出来事は生きていく上では、ある程度避けられないですね。それにどのように対処したらより良く、私たちの人生を生きていけるのかということですね。ピーターはどちらかというと、生命力を取り戻すトラウマの解放を目指してソマティック・エクスペリエンシングを提唱しました。ポージェス博士は、その原理を説明しながら、安全、あるいは平和ということを説いています。二人は働きかけてる分野はそれぞれ別の分野でもあるんだけれど、扱っていることは一つということですね。
【下山】なるほど。わかりました。改めて「ソマティック・エクスペリエンシング入門」の副題が「トラウマを癒す内なる力を呼び覚ます」となっていることの意味を理解できました。
■記事校正 by 田嶋志保(臨床心理iNEXT 研究員)
■デザイン by 原田優(臨床心理iNEXT 研究員)
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