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一人の若者に、男鹿の未来を賭ける理由──男鹿市・菅原広二市長インタビュー
男鹿の地域振興における稲とアガベの活躍は、行政にこのリーダーがいなくては叶わなかったかもしれません。
男鹿市の菅原広二(すがわら・こうじ)市長は、男鹿の明るい未来を築こうとする稲とアガベのさまざまなプロジェクトを、行政の面から精力的に支え続けています。
岡住さんについてお話が聞きたいと依頼したところ、快く引き受けてくれた菅原市長。外から来た、いわば「よそ者」の岡住さんたちを、菅原市長をはじめ、男鹿市の人々はどのように受け止めているのでしょうか。
“利他の心”を体現する男
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男鹿市として合併された旧・脇本村に生まれ、この地で育った菅原広二市長。秋田県議会議員を経て、2017年に男鹿市長に就任し、2023年現在2期目を迎えます。
菅原市長は、稲とアガベ代表・岡住さんとの出会いをこう振り返ります。
「最初の印象は強烈でしたね。『私は、男鹿に骨を埋めます。私が死んだ時に、男鹿の人たちに“いい仕事を残してくれた”と思ってもらえるよう頑張ります』なんて言うんですから」
そう言って、市長室の天井近くに掲げられた書を指さす菅原市長。そこには、京セラ株式会社の創業者である故・稲盛和夫氏の「利他の心」という言葉が刻まれています。40代のころ出会った彼の言葉が、生き方の原点となったという菅原市長。稲盛氏は、実は岡住さんが尊敬する経営者でもあります。
「岡住さんがすごいのは、稲盛氏の言う“利他の心”が自然に身についていること。彼は自分自身のためではなく、男鹿の人々のためになることを常に考えている。自分の儲けに執着することは一切なく、とても謙虚なんです。だから、周りの人たちも協力したくなるんでしょうね」
男鹿という地域は、歴史的に第二次産業(工業)がほとんど発達せず、農業と漁業、観光業が地域を支えていました。ところが、秋田市への交通の便が整備されるにつれ、男鹿に滞在する人々は減少し、観光は徐々に衰退。現在、全国で最も人口減少率が高い秋田県で、市としてワーストから3番目の減少率を記録しています。
「子どものころからずっと男鹿の自然や風景が大好きで、この地域の文化に誇りを持っています。しかし、周りの人から評価してもらえるかというと自信がないんですよね。
ところが最近は、岡住さんが地域のために頑張ってくれて、彼が連れてきてくれた人たちに評価していただけるので、『男鹿という街には、やはりそれだけの魅力があるのかもしれない』と思えるようになりました」
行政しかできないことを、必要ならなんでもやる
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地元愛にあふれ、「県外から来た人に聞いたんですが、秋田の人は、『秋田は何もねえとこだ』って言うんですが、男鹿の人は、『男鹿はいいとこだべ』って言うそうですよ」と顔を綻ばせる菅原市長。
そんな男鹿市では、人口減少という課題を克服するため、未婚率の改善や子育て支援によって人口流出を防ぐほか、市外・県外からの移住の推進にも積極的に取り組んでいます。
「多くの人に訪れていただき、男鹿を見てもらいたい。やって来て、見てくれればそれに越したことはないんです。暮らすまでは行かなくても、男鹿半島・大潟ジオパークが好きだとか、ナマハゲが好きだとか、関係人口が増えてくれたらいい。でも、そのためには、まず男鹿が変わっていかなければなりません」
まず、男鹿が変わっていかなければならない──そうした危機意識があったからこそ、“よそ者”の青年から「男鹿に骨を埋める」と宣言されて、すぐに受け入れることができたのでしょう。
「少なくとも市役所は、稲とアガベの取り組みに対してオープンで協力的です。行政でなければできないこともあるでしょうから、必要ならなんでも協力します」
稲とアガベのプロジェクトの中でも、菅原市長が最も衝撃を受けたのは、野外ディナーイベント「曐迎(ほしむかえ)」。2022年8月におこなわれたクラフトサケの祭典「猩猩宴」にともない、全国の一流シェフやペアリングのスペシャリストを招いて、男鹿のシンボルである寒風山で開催されました。
「コース料金は、一人あたり3万5000円。『3500円でも誰もこんなところへ来たがらないんだから、集まるわけがない」と言ったら、『市長、満席になりました。抽選です』と報告が来て。 寒風山というロケーションでこういうイベントを開くという発想は、なかなか我々には浮かびませんから、『こんなことができるんだ』というのを見せてもらいました。最後に上げた花火は素晴らしかったですね」
お酒は少ししか飲めないとはにかむ菅原市長ですが、稲とアガベの商品は定期的に買っているそうです。
「知り合いにプレゼントしています。『稲とアガベ OGAラベル』は非常に喜ばれますね。デザインが上品だし、味わいがワインのようで洋食に合うと言われます。どぶろくは自分でも少し飲みますが、飲みやすくて美味しいと思います」
「じゃあ、一緒に頑張ろう」
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インタビューの最後、岡住さんへの激励のメッセージを聞いたところ、「体を壊さないか気になっている」とこぼします。「なんとか頑張りすぎないように。体に気を付けてほしい。ありきたりな話ですが、そういう思いです」。
「岡住さんの行動力、考え方、地域を良くしたいという利他の心が、私たち男鹿の人間にとっては非常に良い刺激になっています。外から新しいことをしようとする人が来れば当然のことですが、初めは抵抗感を覚える市民もいたと思います。
それが、今は彼のことを多くの市民がわかって、受け入れてくれるようになっている。岡住さんの人柄があり、地域への想いが伝わってきているからでしょうね。稲とアガベが男鹿に溶け込んできている。今、非常にいい雰囲気だと思っていますよ」
【岡住代表コメント】
いつも我々のチャレンジを暖かくサポートしてくれる市長がいるおかげで稲とアガベは前に前に進んでおります。「男鹿にはお金がないけど、だからこそお金以外のサポートは全部やる」とお会いした際に言っていただき、それを本当に有言実行していただいております。何か困りごとや相談ごとがあると市長にLINEすれば次の日には大体解決するというという、とんでもないサポート体制(笑)。市長には足を向けて寝れません。
取材・執筆:Saki Kimura
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