クラシック×ポップで、クラフトサケをデザインする──石田敬太郎さん
円の形に描かれるのは、2本の稲穂に包まれるアガベ。このロゴはもともと岡住代表が自身の結婚式に依頼した“家紋”であり、そのデザインを手掛けたのが、現在、稲とアガベのすべてのデザインを手掛けるタノジデザインのアートディレクター兼デザイナー・石田敬太郎さんです。
前職の新政酒造で出会ったという石田さんと岡住代表。石田さんが稲とアガベのデザインに込める思いや裏話について、お話を聞きました。
原点は結婚式に作った家紋
──石田さんのキャリアを教えていただけますか。
石田:秋田市生まれの秋田市育ちです。短大で空間デザインを専攻し、卒業後すぐに、個人事業としてデザインの仕事を始めました。
──日本酒のデザインは、いつから始めたのでしょうか?
石田:デザインの仕事を始めて2年が経ったころ、人伝いに紹介をいただき秋田市の新政酒造のお仕事をいただくようになりました。
最初は「陽乃鳥(ひのとり)」などのロゴ部分のデザインからスタートしたんですが、それから5年後の2013年に、専属デザイナーとして新政に就職しました。
──岡住さんとは、新政で働いていたときに出会ったということですね?
石田:はい、新政時代に同僚として出会いました。当時は、岡住さんは蔵人として、僕は事務所で働いていたので、会話する機会はあまりなかったですね。
──いつから今のようなコミュニケーションを取るようになったのでしょうか?
石田:岡住さんの結婚式で、結婚祝いとしてプレゼントした「稲とアガベ」マーク(夫婦家紋)がきっかけですかね。
岡住さんの好きな日本酒を稲、奥さんの好きなテキーラをアガベとして、稲がアガベを包み込むようにデザインしています。
──偶然ですが、まさにクラフトサケを表すロゴでもありますね。
稲とアガベのデザインの共通点
──石田さんが稲とアガベのデザインをするようになったきっかけはなんだったのでしょうか?
石田:僕が新政を退社してまもなく、岡住さんが独立して蔵を始めるという事で、稲とアガベのマークを作った経緯もあり、「このロゴをベースに展開させて、他のお酒のラベルも作ってくれないか」と岡住さんからオファーがありました。
──稲とアガベのブランド全体に通じるデザインコンセプトを聞かせてください。
石田:まず、クラフトサケは「その他の醸造酒」というカテゴリーなので、日本酒とはちょっと違う位置付けが必要だなと思いました。
稲とアガベのデザインをはじめた当初から、自分の中で大切にしているのは、クラシックとポップという相反するものを掛け算していくイメージです。「足して2で割って綺麗にまとめました」というものではなく、両方を兼ね備えている感覚ですね。ちなみにデザインにあわせてボトルの選定もしています。
──これまでの稲とアガベで、気に入ってるデザインはなんですか?
石田:それぞれ思い入れはありますけど、まずは男鹿専用で出している「稲とアガベ OGAラベル」ですかね。
縦長で楕円のラベルが気に入っています。クラシックとモダンの融合を意識して、いままでの男鹿とこれからの男鹿を想像させるデザインをイメージしました。稲アガブルーとゴールドの組み合わせで、斬新かつインパクトのあるラベルに仕上げています。
最近作った「交酒 花風(こうしゅ はなかぜ)」も、お気に入りです。
このデザインにも、とてもたくさんの想いをこめました。
まず、海から陸に上がって行く風景を、背景の色を分けて表現しました。海と陸の境界線は、男鹿のジオ断層を表現しています。肩ラベルは、寒風山(かんぷうざん)という山の形になっていて、よく見ると展望台があります。ナマハゲの輪郭は、ホップを二つ重ね合わせたデザインになっています。
男鹿の風景をデザインの中に盛り込んで、混ざり合いながらもまとまりがある。もちろん、クラシックに見せつつ、このデザインも「その他の醸造酒」としてポップさを取り入れています。
岡住代表との関係性は“信頼”
──今のお話を聞いていても、稲とアガベのラベルは、シンプルながらも多様な意味が込められているのがわかります。岡住さんのアイデアマンなところと、石田さんのアウトプットの仕方のバランスがとてもよく合わさっているんですね。
石田:意外と、業務にあたって大した会話はしていないんですよ(笑)。岡住くんからざっくりとした箇条書きの案をもらって、 ポンポンポンとデザインしたものを提出すると、ほとんどの場合、「いいね。オッケー」で終わります。
「そんなに即決していいの?」って思うんですけど、後々の発言を聞いていると、すごい結構深いところまで見てくれているんだなと驚きますね。
──呼吸が合っている、ということでしょうか。
石田:出し戻しをしないので、正直不安になることもあるんですが、世に出ているもののほとんどが初稿案です。その上で、毎年マイナーチェンジしていっています。
──岡住さんからの、「石田さんに任せていれば大丈夫だ」という信頼を感じますね。
稲とアガベが男鹿へ来た意味とは
──稲とアガベの取り組みについては、どのように感じていますか。
石田:僕はクリエイター側で、経営的な部分はあまり語れないんですけど。 岡住くんが秋田のどこに蔵を構えようかと探し、男鹿の地を選んだときから、岡住くんがやろうとしていることに対して、男鹿という土地がぴったりのブルーオーシャンだったと思っています。
岡住くんが「日本酒の現状を変える」「雇用を創出する起業家になる」という大きな軸を実現させる環境が、この男鹿には縮図のように揃っていて、岡住くんはそれをしっかり生かして、多くの事業を実現しているんですよね。
男鹿という環境があり、そこで暮らす人々に助けてもらっているからこそ、次々とチャレンジできているとも感じています。
──今後、石田さん自身がチャレンジしていきたいことはありますか?
石田:稲とアガベは、まだできて数年の蔵なので、パッケージも浸透してきている途中だと思っています。まず5年くらいは、今のベースは変わらないかなと思っていますが、「その他の醸造酒」として型に固定されず、稲とアガベがクラフトサケで実現させようとしていることに合ったデザインにしていきたいです。
そのうえで、次の段階見据えて、殻を破れるようなものを意識して仕事をしていかないとな、と思っています。
この記事の担当ライター
Masako Matsumoto(松本 真佐子)
実家は酒屋。テレビ局、食品メーカーでの商品開発・海外事業・広報の仕事を経て、2020年に酒業界に復帰!まもなく【酒と発酵のお店】をオープン。もちろん「稲とアガベ」を販売します!
SAKE DIPLOMA/SAKE検定講師/唎酒師/焼酎唎酒師
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