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竹久夢二生誕140年
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画家、挿絵作家、デザイナー、詩人、ジャーナリストとして様々な顔を持つ夢二。
2024年は竹久夢二生誕140年である。
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夢二の生まれた岡山の後楽園のすぐ側に建つ夢二郷土美術館では「生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界」が9月6日から開催中だ。
夢二郷土美術館は本館と邑久町にある夢二の生家である夢二生家記念館、記念館のすぐ側に建つ少年山荘の3つの建物からなる。
夢二生家には訪れたことがないので、今回は本館と記念館と生家を往復する入館券付きチケット(2800円)を購入した。
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往復チケットには3館の入館券、生家での解説が付いてくる。
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今回の展覧会は行方不明であった油彩画「アマリリス」が公開されるということで、生誕140年に相応しい展覧会である。
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「アマリリス」は夢二の油絵中期に当たる作品である。夢二が長期滞在した菊富士ホテルを去る際に、オーナーである羽根田氏に送られ、応接間に飾られていた。ホテル閉館後は行方知れずになっていたという。
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描かれた女性は菊富士ホテルに共に滞在していた職業モデルのお葉と考えられている。正規の美術教育を受けておらず、渡欧前だった夢二が意欲的に油絵を学んでいたことが分かる作品である。
画材が変わっても夢二式美人の雰囲気は健在であり、着物とカップ、アマリリス、それぞれ文化の違うモチーフが見事に調和している。
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「西海岸の裸婦」は度々、本館で見かけるが、現存する約40点の夢二の油彩画から選ばれたいくつかの作品は、夢二式美人画もあれば、外光派のような建物の陰を大胆に紫で塗った作品なども見受けられ、展覧会タイトル通り夢二の新たな一面を観るようであった。
大き過ぎない本館を一時間程度で見学し、やってきた黒の助バスに乗り夢二生家へ。
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夢二が描いた黒猫にそっくりな黑の助は2016年に保護された。御庭番としてときどき出勤しており、美術館やグッズにも採用されている。
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美術館を後にして小一時間バスに揺られる。夢二郷土美術館は岡山市中心部にあるが、夢二生家はさらに東側の瀬戸内市にある。
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岡山市街を抜けて田園風景が見えてくると夢二生家に到着。チケットには学芸員の解説付きで10分ほど敷地や生家の解説を聞くことができる。
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生家の入口には夢二が公私共に深く付き合いのあった有島生馬によって揮毫された碑がある。夢二は自分の死を生馬と姉の松香に伝えてほしいと日記に残している。
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江戸後期の面影を遺す夢二生家。夢二が生まれた場所としても、江戸期建築としても楽しむことができる。
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生家記念館を入ると大きく印刷された「童子」に迎えられる。「童子」は母の里で夢二と夢二の姉と妹、幼なじみが遊ぶ姿が描かれており、夢二が幼い頃過ごした生家に相応しい作品だ。期間中はこの作品を展示室で観ることがができる。
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椿は夢二が気に入ってよく描いたモチーフである。生家の庭には夢二の母の里から株分けされた椿が植えられている。
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靴を脱いで家の奥へ行くと作品展示室と夢二が過ごした部屋が残っている。展示室では今回の展覧会の岡山会場限定の作品もある。
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本館では夢二生誕135年に制作された特集動画が流れており、岡山出身の歴史家である磯田道史氏が訪れている。
夢二の部屋の窓枠には「竹久松香」という姉の名前が鏡文字で書かれている。磯田氏は姉を慕っていた夢二が西大寺へ嫁いだ姉に帰ってきてほしいという気持ちから、おまじないとして姉の名前を鏡文字で書いたのではないかとコメントしている。
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夢二作品の複製が飾られ、夢二の絵と夢二の絵が飾られた時代を物語る。置いてあるおみくじは夢二の詩人としての夢二作品を味わう。
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絵を観たあとはミュージアムショップも兼ねたカフェ・椿茶房へ。本館のカフェもランチ、スイーツともに美味しいので期待が高まる。
季節によって変わる茶菓子とお抹茶セット注文。いちごクリームソーダも正直捨て難い。
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あっという間に往復バスの迎えの時間がやってくるため、急いで少年山荘へ。
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夢二が東京に構えた少年山荘は、夢二自ら設計したものである。夢二が亡くなったあと荒廃し取り壊されたが、夢二生誕95年の年に夢二の次男である不二彦さんの監修で忠実に再建されたとのこと。
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5分くらいしか居なかったのであまりちゃんと観ることができなかったが、写真に忠実なアトリエや急な階段などは妙にリアルである。
夢二には時期によってミューズがいたが、原点には姉の松香が居たのだろうと、生家を初めてと訪れて思う。
カフェもまた訪れたいし、次は周辺も回ってみようと思う。
今回写真はないが、本館にはカフェとミュージアムショップがあり、オシャレなグッズとハヤシライスやケーキを頂くことができる。
黑の助バスで本館へ戻り、お目当てのアデリアレトログラスとコラボのコップを購入。デザイナーの夢二作品とのコラボなだけあって可愛すぎる。
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会期は12月8日まで。
芸術の秋の旅に是非いかがだろうか。