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本当の話


気づけばそのまま起き続けていた。

最後に時計を見たのは家族が寝静まった後に食べた夜飯を電子レンジで温め直している時、確か23時過ぎ。

週に4,5回の労働がある。労働の後は誰しも分かっている通り絶対にすぐさま寝た方が何にとっても良いと決まっている。だがしかし目の前のタブレットとペンが自身の睡眠欲を叩き潰し刺し通してしまう。睡眠欲は目前で狼狽えた。弁解をしようとして再び反撃に合う。

「何故、こんなことを」

言いかけた言葉も虚しくタブレットとペンによって潰され殺されてしまった。睡眠欲が再び息を吹き返しここに現れるのは何時だろう、と彼らに尋ねようとしたが、既に彼らはただの冷たい無機物としての自覚を取り戻し、息もせず言葉も漏らさずただ汚れた机の上に鎮座していた。

それよりか、部屋の中はこんなに無機質だったか。布団も無ければカーテンも無く、そしてよく見れば窓すらもついていない。最近流行りの騙し絵の類か何かか、と疑い薄暗くぼんやりと赤く発色する壁に近寄り撫で回すも、そこにはひんやりとした冷酷さだけが伝わる壁があるだけだった。

少しだけ温もりを欲した。そういえば先程まで置いてあったあの机もタブレットもペンもない。というか、こうして記録を残すために文字を打ち続けていたパソコンもない。辺りには照明すらなく、唯一明るさを保っていたパソコンの液晶画面もない今、どうしろと言うのか。そして何故、記録するための媒体がないのに、こうして今まで起こった事実が目前で文章として打ち出されているのか。

何故、心情までも写し出されている? この指は僕のものか? この明るい画面は僕のスマートフォンか?

そうか、自我もこの部屋にはないのか、と脳が気づいた。見上げてみたら誰かがスマートフォンを持ちフラッシュを1度だけ焚いて僕とこの部屋を写真に収めたようだった。何故そんなことをしたのか聞きたかったが、瞬きをした次の瞬間にはその人物はもうそこにはいなかった。つまらないと溜息をついて顔を戻す。

目前の扉にも見覚えはない。君はどこから来たの?

「お前はどこから来たんだよ」

どこからも来ていない。ずっと同じ場所にいたのに、勝手にその様子が変わっていってるのだ。あんなに薄暗かったのに、何故徐々に明るくなっているんだ?

「お前だけが居続けているからだよ」



ぼんやりとした視界が一気に鮮明になる。窓が見えた。カーテンが見えた。差し込む朝日が見えた。膨大な書物とレコードを抱える大きな棚が見えた。あの汚い机と殺人鬼のタブレットとペンも、勝手に行方不明になっていたパソコンも見えた。それは明確に見えたのだ。

「明確過ぎて嫌になる。泣きそうだ。吐き気がする」

「どうしてそうも傲慢だ。それならここから出たいと願わなきゃいいのに」

「活動しないと死んでしまうから」

「死んでどうする?」

「どうもしないな」

「死んで困る?」

「困らないな」

「死ぬことに影響力がある?」

「これっぽちも」

気づいたら睡眠薬も鎮痛剤も、何もかもが要らなかった。

また、僕と扉と壁だけになった。

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稲
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