買いたくなかった靴
新しい靴なんて買いたくない。
あんなところのために、あんなことのために、新しい靴を買いたくない。私にとってはあんなところで、誰かにとってはあんなところじゃないって分かってる。でも、買った靴を見て思うことはあんなところ、あんなこと。
あんななんて言うほどだから安物の靴を買わせていただいた。買わせていただいたなんて書くけど、自腹。あんなのために、身銭を出すのか。くそくそくそ!!!くそなのは私かって、夜空を見上げるようなかっこつけはしない。わかっているもの。
そんな安物の靴でもこだわりはある。絶対に水を入れない。靴底も一体化したこの靴なら、隙間からじわじわ水が沁みてくることもないだろう。えっへん。あんなのために、私はもう身銭を切らない。そう何度も心の中で宣言しながら、また身銭を切った。くそくそくそ!!!いつになったらくそなど言わずに生きられるのか。
どこにでもお気に入りの靴を履いて出かけたい。なんとか用だなんて用意しないで、どこにでもお気に入りを纏っていたい。
どんなところに行くにしても、あんなところ、あんなことなんて言わずに生きていたい。あんなところ、あんなことなんて思わない人生はどこにある?くそくそくそ!!!小さな大声で文句を呟くことを身につけてしまった。どうしようもない人間だ。落語のようにおもしろくもできない私は本当に言葉通りのなのかもしれない、人間ではなく。
そうであるなら、天才的なくそではないか?くそはスマホを使って文字なんて打てないだろう。あ、私は天才なのか。くそくそくそ!!!でも、くそは嫌だ。くそならばまだ人間でいたい。
そんな私は迷いに迷ってお気に入りを買い足した。迷いに迷ってスカート1着と革小物をひとつ。買いたくなかった靴の4倍の値段の買い物をした。いつ着るだろう。楽しみである。いつ使おう。心躍る。でも、そのためにくそくそくそ!!!ってつぶやきながら生きていくのか。
お気に入りを買いながら、忘れられない買わなかったスカートを思い浮かべる。完全にシーズンオフの品物。値段が半分だったら買っていたかもしれないけれど、半年以上先の自分の好みに自身が持てなかった。買えなかった。くそくそくそ!!!
買ったスカートもこの間お得に買えたワンピースとの色合いについて考えていたら、1時間が経っていた。くそくそくそ!!!
あれ、お気に入りにも気づいたらくそくそくそ!!!って言っている。お気に入りにもくそくそくそ!!!ってつぶやきながら生きていくのか。
ぽいって気軽に捨てられたらいいのに。
ほいって手に入れられたらいいのに。
私がいつも買い物したあとに考えること。
得したと買い物をすることが好きだけれど、本当はそんなことを考えずに買い物をしたい。嫌だなんて思わずにいつも家を出たい。
ぎゅうぎゅうの引き出しとごちゃごちゃの部屋に佇む自分がいる。
ぽいって人生捨てられたらいいのに。
ほいって新しい人生を謳歌できたらいいのに。