ジャック・アマノの“アメリカ NOW" 週末は突然のキャンプ
世の中、何が起こるかわからない。ワイルド・ウェスト一人旅のはずが、仕事の都合でミネアポリスに逆戻り。するとイタリア系アルゼンチン人(=アメリカ在住30年)の”ホスト・ファミリー”が、「週末はキャンプだ!」と突然思い立った。「家族旅行に私はお邪魔でしょう」とやんわり断ったけれど聞き入れられず。すでにラテン・アメリカンのおもてなし心が轟々と燃え盛っていた。急過ぎてキャンプ場の予約が取れず、行く先が決まったのは出発前日の木曜日。「今回は無理だったね。次を楽しみにしよう」という展開になるのを少し期待したが……。往生際の悪い私はファミリー・キャンプに同行することになった。
我らがキャンプ・サイト。ミニヴァン、ポップアップ・キャンパー、テント(タイトル写真)
大学生まで柄にもなくボーイスカウトなんてものを続けていいたので、実は私、キャンプ経験は豊富だ。しかし、肌が虫刺されに弱いとか、元々あまり向いてない。それでも行く気になったのは、友人家族が私に”ポップ・アップ・キャンパーで過ごす週末を体験させたい”という強い思いを持っていたから。”ミネソタ州北部の豊かな自然、州営の広大な公園、その中の設備も整ったキャンプ場……などなどを日本から来た友人に見せたい!”という考えを小学生の子供2人も含めた家族全員が抱いてくれていた。感激ものだ。
キャンプ場のすぐ北の村にあった郵便局
フリーウェイで北上。全開走行4時間ちょっと。その間、ミネソタ州には10,000以上の湖があるっていうのを実感させられた。徐々に道沿いの木々は白樺とか針葉樹に変わり、じわじじわ暗くなって行った。「夏で晴天だからいいけど、雪景色のここを走る勇気はないなぁ」などと考えていた。
アイタスカ湖の遊泳用ビーチ。カヌー、自転車など遊び道具も色々レンタルできる
目指す公園のゲートに到着したが、そこからキャンプ・サイトまで5マイルもあるという表示。どこまでデカいんだ? 維持費も大変だろうに、そんなに広大だったら。
メルセデス・ベンツのキャンパー、小さ目だけれど売れている。キャンプ場を利用しながら、時間に縛られることもなく、アメリカやカナダをゆっくりと見て回ってるって御夫婦、多いんです
予約してあったサイトに着くと、もう辺りは真っ暗。子供たちは直前の街で買ったピザを食べ始め、両親はせっせとキャンプサイトの設営作業に取り掛かった。COVID-19パンデミックで前年比400パーセントの売り上げをアメリカで記録してきているというリクリエーショナル・ヴィークルだが、そのベーシック版が、壁の部分が潰れて薄べったい箱になっているポップ・アップ・キャンパーだ。私は初めてなので、どんな構造になっているのか、どんな手順でポップ・アップさせるのか……など興味深く見守った。
アイタスカ湖のこの辺りから湧き出した水が、2,552マイルを旅してメキシコ湾に出る
柱をスルスルと伸ばして、人が腰をかがめずに歩ける高さが確保された。そうなるのは知っていたが、ベッド部分が前後にポップ・アウトするのは初めて知った。真ん中がリヴィング・スペースで、4人がけのテーブルと、コンロ&シンクがある。外洋用のヨットと同じだ(それで旅をしたことはないが)。冷蔵庫も装備されていた。進行方向の前後に引っ張り出すベッドは、彼らのキャンパーの場合、前方がダブルで、後方がセミダブル。テーブルの足を外してシート部分をアレンジし直すと子供なら楽々寝られるベッドがもうひとつできあがる。
キャンパーは水準器(iPhoneで便利ツール使用)で平らにセッティング。箱部分の四隅から脚を出し、室内の柱をスルスル伸ばす。厚いビニール素材の壁、ネットと薄いビニールによる二重構造の窓で、室内は強い雨にも十分耐える。ゆったり普通に歩けるだけの室内高があるところテントと大違い。車両の前後に方向に引っ張り出すベッドもアメリカン・サイズ(注:タイトル写真のポップアップキャンパー展開時の外観もご参照ください)
ゲストの私は大きい方のベッド(恐縮)。小さい方のベットは長男。長女はテーブルのところのベッド。ご夫婦は外にテントを張って就寝。ところが、夜中に雨が降り出した。アメリカのキャンプ・デビューの晩が大雨とは。リビング部は硬い屋根だが、ベッド部はキャンバス地の屋根。雨音が凄い。でも、水は全然中に入って来なかった。そして、テントで寝ていたご夫婦に災難が。大雨でテントを覆うように立てていたオーニング(運動会用のテントみたいの)が崩壊。彼らはキャンパーへと避難し、息子たちと寝ることになった。
出会いがアイタスカ湖だった? ミシシッピの水源でウェディング。新郎がブルージーンズ姿なのがまたアメリカだ
午前中の早いうちに雨もやんだので、州立公園の中、アイタスカ湖にあるミシシッピ川の水源へ。こんなところにこんなにたくさん? というぐらいの人出。パンデミックで国内旅行需要が高まっているんだな、と改めて感じた。湖岸で結婚式を行なっているカップルもいたあたりは実にアメリカらしかった。
大型SUVでトラヴェル・トレーラーを引っ張るパターン
その後、さらに北に向かって走り、ベミッジという湖畔の小さな街へ。カナダ国境までは100マイルぐらいらしい。アイタスカ湖で泳いだり、とにかく盛り沢山のキャンプ。
ベミッジ湖
2日目のディナーはミラノ風カツレツだった。キャンプで揚げ物とは! と驚く。さすが夫婦揃ってイタリア系アルゼンチン人。衣をつけるところまでは自宅でやって来ていて、薪の火でオリーヴ・オイルを熱して揚げてくれた。牛肉には強い拘りを持っているお国の人たちだから、当然カツレツも美味。付け合わせはシーザー・サラダで、飲み物はベミッジのローカルIPAビールと白&赤のワイン。これがキャンプで? という贅沢な晩となった。
大きなトラブル、ハプニングもなく無事に2泊を終え、帰途に着いた。往路とは違うルートで、東に進んでダルースという街経由。鉄鋼で有名だったスペリオール湖沿いの町だ。私にとっては、これが生まれて初めてのスペリオール湖。このルート選びもホスト・ファミリーの心遣いによる。これで五大湖で見てないのはヒュロン湖だけになった。ダルースはこぢんまりしてて、とても雰囲気の良い町だった。極寒の冬は無理だけど、夏なら快適。避暑地として人気もあるらしい。コロナが収束してからゆっくり来たい。
湖が多いのでボート遊びは本当に盛ん。ドラム缶を繋げた上に床を作った……的なポンツーン・ボートは、ぷかぷか浮かんでのんびり過ごすのに最適。甲板上にはカウチあり。床が水面より結構高いので、釣りにはあまり向かないと思うけど、どうなんだろう?
ということで、初めて体験させてもらったキャンパー生活は驚くほど快適だった。1泊目の雨音はうるさかったが、濡れる心配がないとわかってからはぐっすり眠れた。大きなモーターホーム、トラヴェル・トレーラーなどなどはより一層快適なんだろうが、ポップ・アップ・キャンパーの方が自然に親しみ、キャンプをしている感を強く感じられる。
巨大なフィフス・ホイール
キャンパー内部の小さい二口コンロで、パーコレーター使って淹れたコーヒーも味わい深かった。電気が来てるサイトだったから、それこそ以前のストーリーで紹介したキューリグを持ってけば、いろいろなフレーヴァーさえ楽しめちゃう。モーターホーム派はおそらくそうしてるんだろうが、キャンプにはパーコレーターの方が合ってる。
ミネアポリスからアイタスカ、ベミッジ、ダルースと回った今回の旅、走行距離はなんと690マイルにもなった。
以上 第19回終了