私の履歴書「偉大なる父母の感化」 五島慶太(東急グループの事実上の創業者)

南無妙法蓮華経という言葉は法華経の言葉である。法華経というものは28巻あって、釈迦の最後の説法である。大乗教の最後の説法は法華経だ。法華経の第25巻目がいわゆる観音門品といって、この観音経ははじめは散文んである。大体お経というのもは普通経文がはじめにあって、最後に偈(ケツ)と言って、五言絶句、七言絶句というような韻文によって同一趣旨が繰り返されているのである。この観音経の前文はあまり読まなかったが、お題目を唱えて最後の韻文のところを始終父が繰返し読んでいたことを今でも覚えている。

私は、こういう父母の下で、心の白紙の時代に感化を受けたため、南無妙法蓮華経というお題目を唱えることによて、いかなる苦難にも打ちかつことができるという確信を心の底に持ち、「空」という宗教的信念を持つに至ったのである。孔子の仁でも、釈迦の慈悲、耶蘇の愛でも、皆この「空」ーーー自己を空しくして他人のために尽くすと言うことである。私はこの「空」をもってこの70年間を過ごしてきたが、父母が私に与えた感化というのもは実に偉大なものだと、今日私は父母に対して非常に感謝している。


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