3rd.EP"HIGH NECK"/ヤギ・ハイレグの帰還(前編)
0.おかえり,ヤギハイ。
本来は別の曲について書く予定でしたが、書く直前になってまさかまさかのレオタード・ブタ(以下レオブタ)とヤギ・ハイレグ(以下ヤギハイ)のいきなりの告知がTwitterに降ってきたので全部がひっくり返りました。
3rd EP."HIGH NECK" 2023/3/15の0時に配信された瞬間全曲を一気聴き。(3rdとは書きましたが、『ちょっと今日コンプリケイティッド』をEPカウントするならずれてきます。ご承知おきください)
ああ…本当にヤギハイだ…俺の好きなヤギハイが帰ってきた…
それから数日車の中で聞きまくって頭の中がだんだんまとまってきたので筆を執った次第です。
※<4/1追記>しつこく聞きまくった結果、書きたい欲に負けてほぼ当初の記事の全書き換えになってしまいました。またあまりに長くなってしまったので前後編に分けております。ご承知おきください。
まず、このEPはそれぞれの曲の良さはもちろんあるんですが(それについて語るんですが)、そのそれぞれが「レオブタとヤギハイの音楽」を改めて突き詰めたものになっているのをすごく感じます。
1st.EP. ”粗密” 2nd.EP. "ODIN"のリリース から約3年。ヤギハイは何かと忙しいのだろうことが推測され活動は縮小、ピーナッツくんの1st Album『False Memory Syndrome』ではレオブタソロでの曲『レオブタ解体ショー』も発表され、レオブタヤギハイの活動は音沙汰がなくなっていきました。
転機は2022年のピーナッツくん5周年のライブツアー『Walk Through The Stars』。突然のレオブタヤギハイの客演に場内は熱狂。『サイコショッカー!』歌唱時のレオブタの「2022!」には万感の思いも感じられました。
何度でも言うがツアー円盤化してくれ。もうほんと頼むよ。
「またライブとかでは出てくれるかな…」とファンが淡い期待を抱いている中まさかのEP発表。しかもいきなりでほぼ告知なし。心臓に悪い。ファンの感情をひっかきまわしまくるあたりラッパー感あってすごくいいと思います。
件の3rd.EP. "HIGH NECK" ではソリッドなビートやライムが前面に出ている中、スキルに支えられた洒脱さ、円熟味がふわっと含まれています。これは間違いなく「ピーナッツくん」が齎した経験がレオブタには大きい。
方やヤギハイも休止の期間ではありましたが、ビートやライミングはまったく錆びついていない。むしろ、、、変な言い方になるんですが、綺麗になっている、と感じます。澄んでいる、のほうがいいのかな。
例えば『ODIN』の中ではバチバチにかっこつけててそれがかっこいいんですけど、今回は全体的にヤギハイの今を感じさせます。思うことだったり好きな曲の感じだったり、そういうものを感じさせてくれる。レオブタとやる、ということに意味がある曲に全曲なっているイメージです。
紆余曲折もあったのだと思いますが、そのすべてが音楽に昇華されている印象です。復活の決断は簡単なものではなかったでしょうが、一ファンとして2人に戻ってきてくれてありがとうって思ってます。
ぽこピーの年始の動画で話してた今年の目標
「音楽もうちょっとがんばってみようかな」
「新しいことやっていこうと思います」
上記動画での「新しいこと」がHIGH NECK製作途中の発言かと思うと胸が熱くなる。返す返すヤギハイが客演した"Walk Through The Stars”ツアーは奇跡のライブで、それからすべてが変わっていったんだなって感じます。
さて、ここからは曲について。
1.『Ghost Town』
このEPを代表している曲。俺たちが「首を長くして」「何を待っていたのか」に対して、アンサーをこの曲の一発目のバースでヤギハイがかましてくれています。このEPの曲順だったり、この曲の構成だったりはほぼ間違いなく待ってくれていたみんなへのメッセージだと思います。
アンビエントなビートは暗い雰囲気。開幕、ヤギハイの喉のがなりでスタート。やんぞ!って感じが本当にイカしてます。
ヤギハイとしては活動していなかった時期も,音楽はいつも共にあったんだなってのがよくわかります。「逆位置のタロットカード」「ほんとありえないよ」な状況の中で「カロナール」に頼りながらも,発表するわけでもない音楽を風呂場で奏でているように思います。何気に「風呂場」で「フロウ」を暗喩するのは『風呂フェッショナル』を感じさせます。ここでyacaさんへの感謝を伝えたかったならめちゃめちゃ熱い。
ヤギハイとしての復活の決意。「頭痛」は「カロナール」ともかかっているでしょうか。「普通」は今の多忙な生活なのか,それとも音楽の喜びにあふれた世界なのか。「雨戸」と「明るい窓」での対比も光ります。
また「ヘビ」は突如として生活の中に表れた旧友との音楽活動のことを指している気がしています。関東住みでないので知らないのですが「デイツー」はホームセンターさん?とどめは「自分で決めてんだ」ってのが伝わる「制空権」でフィニッシュ。
相変わらず言葉選びが秀逸だしリリックが文学的。ヤギハイのこの曲のバースはバチバチに気合が入っていてちょっと発音も詰まるような歌唱。ライミングもタイトで節の切り方も生き急いでいる感じ。いつもの聞きやすい感じではないんですよね。でも,そこにこの曲(あるいはこの活動)に注がれている熱が表れているように感じられて,すごく響きます。
この曲の中ではいつものヤギハイの柔らかい感じが少なくて。それが本気っぽさを醸し出していて。大好きなんですよね,この曲のヤギハイバース。
そしてhook。
レオブタのこのhookはほんとに良くて。というのもですね(前のめり)
『ピーナッツくん』の曲ってhookをかなりキャッチーめに振っていると私は思っていて,あまりわかりづらい表現をしないんですよね(『Unreal Life』みたいな超例外もありますが)。でもレオブタ曲って結構そこら辺をある程度無視して言いたいことを詰め込むイメージです。
でも!ここではかなりメロディーを意識して歌っているなって感じます。それはたぶんヤギハイの曲だと思って歌っているからなんだろうなって。
「カシミヤがなびく」の部分からも推測できて。カシミヤは羊毛なんですよね。柔らかくて,それでいて型崩れしにくくて,保温性が高く軽い。なんだかヤギハイ本人へのこじつけっぽいんですが(笑),2人のラジオ『トーキングモカフラペチーノ』などを聞いていただくと,なんとなく私の言いたいこともわかっていただけるかとと思います。
「堅気には戻れない」。光り輝くVtuberの世界に飛び込む?違う。アンダーグラウンド感漂うHiphopの世界に。何よりも活動停止からの復活は,誰もいなくなったGhost Townのイメージと重なっているように思います。期待を期待していないというか。うまく行くかも全然わからない諦念の心象。
Bossing like a movie star「映画スターのように大声でイキる」のは「話になんねえ お前じゃ無理だ」からも,自分たちが日の当たる存在ではないことを示唆しているようにも思えます。
洋楽ではGhost townは愛を失った場所として描かれることが多いです。
I'm just too lose Like in a ghost town loseをどう解釈するかはかなり難しいです(loseは動詞なので本来この位置に来ません)。looseかなと思ったんですよね。
「ただゴーストタウンにいるようにゆったりしているだけなんだ」
か,もしかしたらloseを字義通り捕まえて「ただゴーストタウンにいるみたいに失いすぎているだけなんだ」なのか。わざとこうしている可能性も大いにあるのでこの部分は楽曲を楽しむのが吉っぽいです。
歌詞だけ見ると昏い雰囲気ですが,hookに限らず全体的に「待たせたな」感がすごくよく出ています。ヤギハイに関してはバースの気合にも表れていますし,下記レオブタバースもスキルと懐を見せる頼もしさがある。
レオブタのバースはヤギハイと対照的にゆったりしている印象です。歩き続けて小銭を稼いで,日常を(ある意味では仕方なく)過ごしている。自分で自分のこともよくわからない,でも,まだ満たされていないことはよくわかってる。「コシヒカリが照らす道」は本当の道か?の迷いが見えます。
またVtuberとしての活動は日に日に認知度が高まっていき、まるで光の中を進んでいるようです。反面「やれてなかった」ことに対する忸怩たる思いはレオブタもあったんだなってのが感じられます。
「遅れて流行ってるへそ出しTで 腹壊して焦る快速列車」は今の成功に関しても思うところはあるのかな、と感じさせる表現です。完全に個人的解釈ですが,「(俺たちを)見つけるのが遅い」「(WTTSツアーで)こんなに反響があると思ってなかった」って感じに見えています。私には。
ある意味では『ピーナッツくん』であることに慣れてしまった頭の中でむくりと起き上がる存在。いつまでよそ見してんだよ。目を逸らすなよ。「レオタード・ブタ」がサングラス越しに視線を寄こします。「ズル休み」っていうのがすごくレオブタっぽいバースだなって。私の頭の中では完全に中指を立てるレオブタがいました。
「コンビニで買う寿司」「ノンジャンルの人生」これからの2人が歩むのは冷や飯を食らうことになるだろう道。「コシヒカリ」との対比が効いています。ネタもバラバラで統一感もない。
でも,「コールドスリープするなら起こして」もう寝かしたっきりにするつもりはないし,「まだできないよな ボースティング」。Boastは「自慢する」。レオブタヤギハイでしかやり遂げられないことを「まだ」できてない。
静かな,けれど確かな「これから」の開幕のバース。you know「わかるだろ」は私たち聴衆に向けたコールです。
今回のEPはすべて最高の曲ですが、この曲以外では1曲目は担いきれない。
レオブタヤギハイの1ファンとして,最高の船出を見せてもらいました。
2.『The Iron Steppers』
この曲を何度も聞いているうちに,「ああ,これは2人の追体験なんだな」って感じるようになってきました。もしかしたらこのアルバムができるまでのかもしれませんし,それ以前から2人が今まで音楽を作ってきた追体験なのかもしれません。レオブタヤギハイのこれからを語る前の,これまでの歩みを踏みしめる1曲なのかもしれない。
開幕はtwitterにも出ていた日常会話がビートに隠れて流れてきます。
「いける?来週の土日…」「来週、日曜日…昼」「じゃあその辺で」「ちょ、邪魔!ここに変態いるんですけど」「うちらの地元(事務所?)で何してんだよ」って聞こえます。違ったら誰か教えてください。
ビートはUSラップっぽくdopeな感じ。レオブタもヤギハイもバースの最初の方は2pacとかSnoopdogg当たりの西海岸ギャングスタな雰囲気を出してきている感じがして,本気のラップを作ったって感じがすごくします。
描写の細かい部分に関しては明言は避けますが,そういう危うい描写と2人のコミカルさを調和させてマイルドになっています。とはいえ全体的に曲の意図としては受け入れられやすいポップシーンとは一線を画した取り組みを目指しているように私には感じられます。
ただこの曲が光る部分はそこじゃなくて(むしろ土台として上記のような曲つくりをしているように思う),二人の思い出?日常?そういうものがちりばめられていて。それがつながると一つの思い出というか,これまでの足跡になっている点だと思います。
当初は「2人の関係性」みたいなことばで表現しようとしたんですが,曲中に出てくる単語がすごく抒情的というか、思い出深いものを表しているように感じていて。それを噛みしめているときに「関係性、って薄っぺらいことばだなあ」って感じたの踏みとどまりました。
レオブタもヤギハイもこの曲では結構情景的なものを持ち出してきていて,特にレオブタは映画的なものを想起させます。「ドゥニビルヌーヴ」は映画監督の名前で直近では『ブレードランナー 2049』『DUNE/砂の惑星』があります。恥ずかしながら検索して「DUNEの人か!」ってなりました。ビジュアルと音楽が密接に繋がってる感がすごく伝わります。
ヤギハイは音楽が強めですが,マーベルが好きなんかな?『ファンタスティック・フォー』がいきなり出てきたのでやっぱり趣味の面(音楽だったり映画だったり)ではレオブタと共有するものがあるんやなあ,って。大学時代の友達だから一緒に見てたりする可能性もあるなあ。
総じて2人とも「友達としての思い出」としてくっついているものが密接につながっているのかな、って感じがします。あるいは自分と音楽(エンターテインメント?)とのつながりを表現しているんでしょうか。
「お前らにわかるはずがねえよ」「お前らすべてを察せ」のバースで終わらせているあたりに,クローズドな2人のつながりを感じます。
hook。タイトルでもあるIron stepを思わせるメッセージ。Iron stepとは「鉄の階段」という意味から「一歩一歩進むもの」という文脈上の意味を生む連語です。「鉄の意志」なんて訳すこともありますね。
音楽活動を抜きにした2人の関係性の中に垣間見える,「でもやっぱり音楽に…」という気持ちに向き合う時の苦しみと確信。そういうものをこのhookからは感じます。
壁にぶつかって「無理だー」って気持ちがある反面,音楽に関しては「俺たちほどはみんな良くない」という自負がある。世間一般のSuccessの基準はあてにならない。いくつものバズを起こしてきた『ピーナッツくん』の経験を積めば積むほど,本物を作るためにレオブタはヤギハイの存在を強く求めていたのかもしれません。ていうかそうであってほしい。
超個人的な話なんですが「聴く上海ハニー んー懐かしい でも行方くらましたサスカッチ」のバースがめっちゃ好きです。上海ハニーでオレンジレンジのことを振ってからのKATCHAN(オレンジレンジ脱退メンバー)のことサスカッチ(雪男)って表現するのおしゃれすぎるだろ。おしゃれになりたい奴からすると憧れすぎるだろ。リリシストとしてのヤギハイの良さがバッチバチに表れています。今の子オレンジレンジ知らんのかな…
私が曲の意図をどこまでちゃんとくみ取れているのかはわかりませんが,2人の作りたい音楽の2番目にこれが来ている,ということは事実。
目指さないSuccess,の行く先を見届けたくなる一曲です。
続きは後編で。
本来一本の記事でしたが,聞きまくった結果以前の記事の解像度の低さに愕然として書き直したらとんでもない分量になりました。このまま続けると碌に読めやしねえ代物になるので,とりあえず一旦ここで区切りたいと思います。
もしよければ後編もお楽しみに!
最後までお読みいただきありがとうございました。
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