3rd.EP"HIGH NECK"/ヤギ・ハイレグの帰還(後編)
ようやっと後編となります。楽しんでいただけましたら幸いです。
4.『KANE & SON』
ガチのライブ曲と言って差し支えない。めっちゃライブで聞きたい。
歌詞のサッカー部分の解説はめっちゃ詳しい方がnoteにいらっしゃいますのでぜひご覧ください。控えめに言って神です。歌詞に関してほぼカバーされています。私も読みながらなるほどの連続でした。
サッカーに限らずですが、解説は詳しい方のを読むのに限る。
ってことで、音楽的な側面からこの曲の面白さについて考えてみたいと思います。前3曲と全然毛色が違うんですよね。盛り上がり重視。何故こんなにもテンションが上がるのかって点を自分なりに考えてみた結果、アップテンポなビートと曲展開にあるのかなって。
ハリー・ケイン&ソニー、って8小節ほぼすべて使い切る。
ここまでの3曲はビートに言いたいことを乗っけまくるスタイルで密度を高めに高めていた印象ですが、それは別側面からみると音楽に重たい感じがどうしても出てしまう。KANE&SONはそこら辺を振り切ってスピード感とフロウで駆け抜けていってしまっています。
2人について、ってよりは「2人が好きなもの」についての曲。だから狭っ苦しい感じにしたくなかったんかなって想像しています。2人の内側についての曲ではなくて、2人がサッカーに感じているものを歌った感じがすごいする。フィールドいっぱい使い切るダイナミズムをリスナーに感じさせます。そのサッカーとライブステージの重なりを否が応でも感じる。
4小節ごとにパスしあうんですよ。ショートパスつないでいく感じ大好きなんですよね。特に連携感出てるのはヤギハイ「2022-(ハイフン)」からのレオブタ「2023running」でリリックを受け取るところ。ここ絶妙です。「KANE&SON」の唯一無二の相棒感を曲に落とし込んでいる、って偉そうにも思ってしまった。
リリックに関しては特にヤギハイの「今シーズン限り なんて言わねえ 心配いらねーしもうI got it(わかってるよ)」は絶対にダブルミーニングだと思います。一つはなかよしさんの記事にある内容、もう一つは待たせてきたリスナーに対する返事。こんな頼もしいビートで言われたらそりゃ号泣勢いるよなって。ライブとかで歌われたら絶対泣いちゃうもんな。
4小節×4のショートパスから8小節×2のロングパス。レオブタバースにはおそらく2人の思い出的なものが書かれていると思われます。梅田の中2階は多分大阪駅だと思うんですけど…阪急とかかな…そこからバスターミナルで、とか。想像の域を出ません。解像度が高い言葉なので、楽しかったんやろなあ、という訳知り顔をしてしまいます。
ここで大好きなフロウがあって。ちょっと語っていいですか。(迫真)
ヤギハイバースに入る前のレオブタの「静まる観客 感覚 研ぎ澄ます」の音域が絶妙にコントロールされていて、ちょっと浮遊感があります。浮いてるボールが幻視されるようです。それにヤギハイが「感覚 研ぎ澄ます」とユニゾンで合わせて「頑張る」で一回同じ音域で受け止めてからの「とかじゃないけど~」で全然違うラインで歌いだすの、トラップ技術うますぎだろって。毎度技術の高さにビビり散らかしています。
ちょっと関係ない話かもしれないんですが、レオブタはヤギハイがいると遠慮しないというか、力加減なくライムでぶん殴ってくる感じがすごくしています。格闘漫画とかによくあるやつ。
ちょっと確信がないので話半分で聞いてほしい。ヤギハイバース3の「まるで三苫 いやレオタードブタ ヤギハイ」の「ヤギハイ!」はレオブタの声ですよね。あまりに地声っぽいので何度も聴きなおしました。たぶんそうだと思うんですけど…違っていたらすみません…
ここで「ヤギハイ!」をヤギハイが歌うんじゃなくてレオブタが歌っているんだとすれば「粘ってるのはお前もだよ!」みたいな牽引力とか友情とか感じます。勘違いの可能性もあるんですが。こっちが勝手にハッピーになっているだけです。
人間的には結構違うけど、友達としてだったりhiphop仲間としては全幅の信頼を置いているんだろうなあ。「俺ら誰かと比べてもな Just likeペップグアルディオラ」はその象徴のようなバースです。ペップの唯一無二感。
何より客が声出したくなるビート。
『レアル・レオタード』みたいな文化まで含めたサッカー愛を叩きつけるような曲というよりは、『サイコショッカー!』みたいなオーディエンスひっかきまわす感じ。そういう風に私には響いています。
こんなバイブス感じたことあったよな…なんだったかな…と記憶の底を掘り出してみたらフジファブリックの『All Right』(『CHRONICLE』収録)が浮かびました。曲調は全然違うんですけど、スタジアムの熱狂はどちらの曲も負けてない。一体感っていうのかな。聴いていただければなんとなくわかっていただけるのではと信じています。
翻ってKANE & SON、hiphopのビートってよりはJ-pop寄りなんですよね。いや、ビートっていうかビートへの乗せ方、かなあ。それこそオレンジレンジ的な。ヤギハイ意識して作ってるんじゃないかなあって。オレンジレンジとは思ってないにせよ、ライブで映える曲ってこういうノリやすい、みんなにやさしい曲だよなって。コールしやすいし歌いやすい。
そして最後のバースに入る直前の「アイ!オイ!」の最後「Yeah!」は「お前ら声出せよ」ってやつでしょう。前3曲分に足りなかった「任せとけ」感がすごく出ています。元気出る。
5.『Yeah?』
この曲でE.P終わらせるってのが、やっぱLBYHわかってんな、って。
E.P中の全曲の中で一番「らしい」曲だと個人的に思っています。
まず『HIGH NECK』の中でヤギハイのバースから始まるのって、『Ghost Town』とこの曲しかないんですよ。最初と最後の曲はヤギハイで締める。ビートはメロウで、ちょっと『ブートピア』感がします。そして、この曲調が一番ヤギハイっぽい。ゆるやかで、おとなしくて、やわらかい。だからレオブタのバースもヤギハイのバースも飾り気がなくて、素直。
バチバチにかっこつけてる2人ももちろんかっこいいんですけど、「帰ってきたレオブタとヤギハイ」は「レオブタとヤギハイ」に向き合っている感じがすごくしています。個人的に曲順ってすごく大切だと思っていて、レコードやCDは製作側が「こう聴いてほしい!」っていう最初のメッセージなんですよね。もちろんライブごとのセットリストもメッセージ。
そう考えると、『Yeah?』で終わらせた意味ってなんだろうな、っていうのをすごく考えるようになりました。もちろんメロウなミュージックですし、最後にもってくるといい感じになるってのはわかるんですが、リリックとの嚙み合い方が異常すぎる。いい感じ、だけで終わらせるのは多分ものすごくもったいないことをしている。そう感じるようになりました。
入りの「He says こんばんみ」もヤギハイが敬愛するビビる大木の往年の有名フレーズから。「ビビらないコンパウンドV」でストリーミングビデオサービス『THE BOYS』のスーパーヒーロー御用達違法薬物コンパウンドV。ここでもムービーのネタが入ってきます。LBYHはクリーンな存在ではないことを念押ししているようです。どこまでもhiphop。
「入り組んだスパイラル スパゲッティを茹で平らげる」はすごくいいリリックです。「スパイラル」はスパゲッティの絡まった様子を表現していて、これは現在の自分の錯綜とした感情と自分を取り巻く環境を象徴しています。さらにここから「立体駐車場」の立体感とスパゲッティの立体感が交差します。どこまで仕掛けるつもりなんだ。
「立体駐車場 こんなに混んでるって知らない」は、レオブタのMV「NECHUSHO」の一節からきていると思っています。このE.Pは全体を通して「車」のメッセージを多く持っていて、上記「コンパウンド」も本来は車体の研磨剤として主に使われます。さらに、過去のLBYHにつながる「立体駐車場」を持ってくることで「いつのまにかこんなにLBYHが人気になっていた」ということを表現しているように私には感じられます。
「呆然としても時計止まらない二本の」はぽこピーを暗喩しているように当初は思われましたが、今ではLBYHのことを言っているのかな、とも勝手に思っています。あるいはそのどちらも。「時計」はぽんぽこ24が投影される部分がどうしてもあるので、なかなか捨てきれない着想です。
復帰への苦悩を感じます。The Iron Steppersでも感じていた、二人の音楽活動への逡巡。思い切り「やるぜ!」とは言い切れない、この3年間の重さ。ここでタイトルの『Yeah?』の『?』の価値を知りました。音楽活動から距離を置いていた時の気持ちはいかほどだったのか。熱は拡散し、混乱や熱狂は静寂へと向かいます。自分のための音楽に浸る静寂の中で、2022年に踏み出したO-EASTのステージ。そこでの熱狂は再びヤギハイの心を引き戻しにかかってきました。(妄想ですのであまりまともに読まないように)
「ランプステーキ」や「ビール」のシーンはただの比喩ではなくて、LBYHの日常の中にあったあるシーンなのかなって。決定的な、ある日の会話。ただの想像ですけどね。別の解釈もあって「帰り道はひとりで~」は『ピーナッツくん』の目覚ましい活躍を目にしたヤギハイの人間らしい感情なのかもしれません。この3年間、ずっと感じていた思い。それを隠して復帰なんてできない、っていうことなのかなって。これ以上ないリスナーへのアンサー。
「余計なことばっか もう」は後述。
「I put the 5 stars」(五つ星付けるよ)や「Just getting high score」(高評価とるだけ)、「自慢の靴」はおそらく意思表明だと思いますし、「俺たちならやれる」という意気込みだと思うんですけど、実は結構重たいバースだと思ってて。このバースって「今までごめん」的なニュアンスもある感じがしています。
「思ってないこと思ってる 重たい荷物持ってあげる じゃあなんで なんて後付けばっか」…ヤギハイバースへのアンサー。ヤギハイバース3のとこで書いた「ある日のこと」に見えるっていうのはこのバースも原因だったりするんですよね。「重たい荷物持ってあげる」は思いつきのバースにしてはやけに解像度が高い。I got itは「わかるよ」…何を?というところで「ランプステーキ」と「ビール」が結びつきます。ただの妄想を再三語って申し訳ないのですが、どうしてもその着想が頭から離れない。
取り繕うような言葉遣いを自分でも感じていて、それでも自分がやってきたことを間違いだとも思えなくて。「Airpodsなくて 海に消えて それはそれで いまくじけないな」は動画の中で語られた笑い話をもとにしたリリックですが、実は結構複雑な感情を託したものなんかなって感じてます。
自分の選択が正しかったと思えても、同時に「自慢の靴を汚した」感覚がある。それでも今からやれることは「I made it hype」(「それ」をやりすぎなくらい、がなってやるぜ)。itは音楽活動、って意味なんかな。または、LBYHか。今までがどうだったとしても、今からやることは変わらない。
廃墟のホテル、プライベートで他の場所に行ったのでなければ動画にあった神戸の廃墟ホテルなんかなって。もしかしたらほかにネタがあるかも。
不勉強ですみません。ともあれ語りたいのは、「レンタカー」と「Just running time on you」「ムビチケ」です。
「レンタカー」に関しては次の 終わりに でまとめようと思いますが、やっぱり走り抜けるイメージが「Just running time on you」にある気がします。訳がしっかりとれず申し訳ないですが「お前たちの時間をしっかり走り抜けるだけだ」かな?意訳だと「しっかり(物事を)進めていこう」ってな感じでしょうか。実は「running time」だけだと映画の上映時間の意味にもなります。そこから「ムビチケ」にかかってんのかなとも思いました。
「ムビチケじゃ見れないような光景」も、お互いが映画が大好きだからこそのメッセージに感じます。これもThe Iron Steppersで感じられたお互いの内面を、外の世界(=音楽活動)で爆発させた先が「ムビチケでは見れないような光景」それを目指していく、っていうところから「レンタカー」です。
お互いの「余計なことばっか もう」はそれぞれの内面に対する、一旦の決着だと思います。やる、って決めた後の日常への諦念。遠くに行こうとしている今まで。旅立ちの日の気持ち。そして、この3年間へのバイバイ。
そういうものが詰まっています。聴いているほうも、自分の旅立ちの日のことを思い出したり思いを馳せるでしょう。
ちょっと「くるり」っぽいですよね。大好き。
終わりに. レンタカーのエンジン音は
この曲順の意味に気付いたときに、この記事(※ほぼ感想)のタイトルは決まりました。ヤギハイが戻ってこなかったらレオブタは解体されたままでした。つまりヤギハイの帰還は即ちレオブタの復活でもあります。
曲のすべてから通じるのは「始めたはいいけれど…」の感情。
それが収録曲中の「車」のイメージから、Yeah?の「レンタカー」に収束されます。なんでこんなにYeah?に惹かれるんだろうと思っていたら、最後のバースに「レンタカーで行った」とファルセット気味に歌っているんですね。なんでだろう…とずっと考えていました。
そして思いました。自分たちはまだ「レンタカー」で走っているという自覚から、なのかなって。
ファンなので歯噛みしながら言いますけれど、レオブタとヤギハイはまだそんなに認知度は高くないと思います。ピーナッツくんは音楽ファンの中で認知度が高くなってきたのは事実で、レオブタヤギハイとして「あいつらやばい」とはまだなっていない。ピーナッツくんですら、作りこんだ楽曲はまだ十分に認知されていない。
それでもちゃんと聴いてもらうためには、ピーナッツくんルートに乗っかるのが正解だと思います。それを「レンタカー」と評しているのかなって。それでもただ乗りなんてしないぜ、っていうのが気合として表れているのが、『Ghost Town』なんじゃないか。そう理解した後にYeah?→Ghost Townを聞いたら膝から崩れ落ちました。かっこよすぎる。
LBYHみたいな熱量がありつつ「伝えられる」ラッパーそんなにいない。音楽好きだしラップも好きで、フリースタイルも楽曲も好きで結構聴いてきたつもりなんですけど、これだけ考えたことのあるラッパーに出会ってない。それはひとえに、2人の最大の強みであるリリックのためだと強く思います。頭がいいわ、単純に。
また2人の絆を強く感じられるのがファンとして考察しがいがある。歌って思いだったり決意だったりがそのまま出てくるから、伝わります。
こんなに生き生き歌い散らす「レオブタ」、それを後ろからひっ捕まえる「ヤギハイ」は「これがやりたかった!」感が迸っている。ここから期待しかない。ていうか今までのEPでも外れだったことが一曲たりともないってのが恐ろしい。
「レンタカー」は自前のものではないかもしれないけれど、その車のエンジン音やべーから。ずっと聴いてたいわ。「レンタカー」はもしかしたら「ああ、のんびり行こうや」というメッセージもあるのかも。レオブタとヤギハイなら、それもすごく納得します。
『Ghost Town』『The Iron Steppers』『舌打ち』『KANE&SON』『Yeah?』
すべて、「今のレオブタとヤギハイ」をリスナーに伝えてくれる名盤です。
いつかLBYHが評価される時が来たら、このE.Pに特別な意味が付くような気がしています。その時の車は「レンタカー」ではなく世界に1台しかないビカビカなやつになっていてほしい。
次のE.Pまでにとりあえず全曲4桁回数は聴いておく、そんな気持ちでいます。ファンの皆様方におかれましても、同じ気持ちでいてくれることを祈念して記事を締めくくろうと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
最後に大好きなトーモカのシーンでお別れいたします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?