サッカー構造戦記GOAT(ゲームモデル編) 第9話
第9話:最適なゲームモデル
2016年7月17日(日) 地下鉄東区役所前 午前10:25 晴れ
札幌キングスリーグ第7節
札幌アンビシャス高校 vs 一番星高校
現在のアンビの順位は2位、一番星は1位。
首位攻防戦!!
エンジのハーフパンツに白のポロシャツ、左胸にはエンジで「ambitious(アンビシャス)」と書かれたアンビサッカー部のメンバーが、地下鉄の階段を上り切ろうとしていた。
不老「早く来い! 行くぞ!」
武蔵「もう置いてけ!」
優牙「おい、トイレくらいゆっくり行かせろよ。ヒューゴ、急げ!」
ヒューゴがトイレから飛び出し、優牙の方に向かって全力で駆け出した。
ヒューゴ「すいませーん!」
優牙は、地下鉄の階段を勢いよく2段飛ばしで駆け上がった。ヒューゴも、すぐにその後を追いかけた。
階段を登りきった優牙の目の前に、一番星高校が堂々と姿を現す。
優牙「ここかぁ! 校舎新しくしたんだろ! まるでどっかの宮殿じぇねえか!」
ヒューゴは辺りを見渡した。
ヒューゴ「どこですか?」
サッカー部員たちは、一斉に優牙の視線を追った。
レオン「わぁ〜、これが!?」
ミューラー「金あるなぁ」
蒼介「名門私立校なら、これくらい当然だろ!」
レオン「理人、雪は今日来ないの?」
不老「家がこの近くらしいから、現地集合だってさ」
レオン「そうなんだぁ」
校門をくぐり敷地内に足を踏み入れると、まずサッカー部員の目に飛び込んできたのは日に焼けた肌の大柄な男と、その隣に立つ雪だった。
その男は、頬から顎にかけて黒い髭がびっしりと生え、荒々しい太眉がまるで鬼を思わせるようだった。
雪「だーかーら! さっさと仕事行けって言ってんの!」
父「いやいや、サッカー部のみんなに挨拶したいんだって!」
雪「いらねえって言ってるだろ! 何回言わせんだよ」
父「挨拶くらいいいだろ!」
雪「そもそも、なんで日曜に仕事なんだよ!」
レオン「雪っ!」
雪とその男は、呼ばれた方に一斉に振り向いた。
ミューラー「ひえぇ!? 鬼!?」
鬼のような男はサッカー部員に近づき、低く力強くも穏やかな声で挨拶をした。
「こんにちは、初めまして。雪の父、比嘉晴琉(ヒガハル)です。一番星高校で数学を教えています。今日は学校に来てくれてありがとう。雪は少し生意気で口も悪いですが、根は純粋ですので、どうぞよろしくお願いします!」
と頭を下げた。
レオンM:(雪のお父さんこの学校の先生なんだぁ…..強面だけど優しそうだなぁ!)
不老「おはようございます。初めまして、キャプテンの不老理人です」
父「おお、雪、彼が…」
雪「う、うるさい! 早くあっちいけ!」
雪は少し頬を赤らめた。
晴流「わかった、わかった。それじゃみんな、頑張ってな!」
晴琉はサッカー部員に大きく手を振り、雪に背中を押されながら校舎の中に入っていった。
サッカー部員は呆気に取られたように2人を見つめていた。
雪「ったく! よし、行こっ! 行こっ!」
雪はほっとした表情を浮かべ、自分の学校のように、サッカー部員をグランドの方へ案内した。彼らはまるで犬に導かれる羊の群れのように雪の後をついていった。
キングスリーグ:札幌アンビシャス高校 vs 一番星高校 12:00キックオフ
レオンを中心にチームが輪になってミーティングをしていた。
レオン「今週練習したことを思いっきりやってみよう! 失敗を恐れずに全力で行こう!」
雪はレオンの言葉を聞きながら、何かに気づいた様子で、隣にいるサッキに話しかけた。
雪「おい、レオンの話し方変わったな!」
サッキ「….どう変わったの?」
雪「…なんていうか、前よりも自信を持って話している感じがする」
サッキ「….」
サッキには、レオンが変わったようには見えなかったようだった。
不老が紫の肩をバシッと叩いた!
不老「紫! 頼むぞ!」
紫「任せて!」
紫は試合で緊張しないタイプだった。
武蔵「紫! 俺の近くでプレーしろよ。舐めたプレーしたら殺すぞ!」
紫「怖っ!」
不老「紫、大丈夫だ。経験を積めば、紫は武蔵のいい相棒になるから」
武蔵「レオン、もしこいつが俺に合わせられなかったら、すぐに交代させろよ。これは練習試合じゃないんだからな!」
レオン「武蔵のプレースピードについていけるのは、不老と紫だけだよ」
武蔵「….あいつが!?」
武蔵は紫に鋭い視線を送り、驚きと疑念の入り混じった表情を見せた。
レオンの隣にいたサッキがつぶやいた。
サッキ「今日は、なんだかワクワクする試合になりそうだなぁ!」
レオン「サッキがワクワク!? 珍しいね!」
レオンは首を右に傾けてサッキの顔をじっと見つめ、いたずらっぽく笑った。
サッキ「どう化学反応が起こるか…..だと思う」
レオン「私の勘は当たると思うよ」
レオンとサッキはグランドのタッチラインに整列している武蔵と紫を優しい視線で見守った。
一番星の選手もタッチラインに整列した。
原田「おっ!? 見ろよ!」
隣にいた西崎が原田の視線の先に目をやる。
西崎「紫だ。ちょっとは大きくなったみたいだな」
原田「フッ あいつが先発かよ」
西崎「その程度のチームってことさ」
原田「不老と、あのガングロの9番さえ抑えりゃ、楽勝っしょ!」
江川「勝つときは詰まらなくとも、負けるときは楽しくだ!」
いつものスローガンを言った江川は、どっかとベンチの端に腰を下ろしていた。
遠藤と高宮は整列した列の中で震えていた。遠藤は震える手をぎゅっと握りしめたが、震えは止まらない。
遠藤「できるかなぁ…」
高宮「失敗したら嫌だなぁ…」
緊張した遠藤と高宮を見たレオンは、たまらず声をかけた。
レオン「遠藤、高宮! 平常心! ミスしても次のプレーで取り返せばいいんだからね!」
遠藤「そうだな、平常心だ。平常心!」
高宮「ミ、ミスを恐れず行こう…」
雪は遠藤と高宮の緊張した様子を見て、苦笑いを浮かべた。
雪「ガチガチだなあの2人」
レオンは力強く言った。
レオン「なんであんなに緊張するんだろう。ミスを恐れず、平常心で全力を尽くせばいいだけなのに」
雪は小さなため息をついた。
雪「ミスをすると人は落ち込むよなぁ。特に守備のミスは失点に繋がるから、なおさら落ち込む。平常心でプレーを続けるのって、簡単なことじゃないと思うぞ!」
レオンは真剣な表情で言った。
レオン「ミスをしても、すぐに次のプレーに切り替えて集中するべきだと思う。ミスを引きずって、その試合全部がダメになるのがわからない」
雪は少し肩をすくめながら答えた。
雪「みんなレオンやヒューゴみたいに超前向きな奴ばかりじゃないからなぁ」
レオンは少し考え込み、腕を組んで首をわずかに右に傾けた。
レオン「....そういうものかなぁ」
ピィ ピィーーーッ!
審判が試合開始の笛を力強く吹き鳴らした。その音がグランド全体に響き渡った。
雪が目を輝かせて声を上げた。
雪「いい音だ! 俺、この試合開始の笛が好きなんだよ! 何か、素晴らしいことが起こる予感がするんだ」
レオンはその言葉に少し戸惑いを覚えた。
レオン「そう…かな!?」
レオンM:(私にとっては、絶対に勝たなければならない闘いの始まりの号砲として聞こえるけど…)
アンビのキックオフで不老が大きく相手DFラインの背後に蹴り込んだボールはタッチラインを割る。
一番星が素早いスローインから、テンポよくボールを回し始めた。原田と西崎でダブルボランチを組んでいる。
原田がボールを保持すると、紫が猛然とプレッシングをかける。すかさず原田は横にいる西崎へパス。紫は勢い余って原田の右脚を払ってしまい、彼はグランドに叩きつけられた。
原田「いってっぇ」
ピィーッ ピィーッ! 審判が鋭い笛を吹き鳴らした。
紫のファールで一番星の直接フリーキックなり、紫は自分の守備配置につく。
右脚を少し引きづりながら立ち上がった原田は、少し怖気づいた顔で紫に怒鳴る。
原田「お前、ファールでしか止められねえのか!」
紫は振り返りながら、冷淡に返す。
紫「別に….」
西崎が紫に近づき、鋭い声で言った。
西崎「紫! ジュニアユース時代、お前がレギュラー取られたのは、お前の実力だぞ!」
原田「チビのお前じゃな」
紫「終わったことはどうでもいい、プレーで実力を証明してみろよ」
原田「なんだと!」
原田は激昂し、両眉を釣り上げて紫に向かって歩き出した。
西崎が慌てて原田の身体を押さえつけた。
西崎「やめとけ!」
原田「くそっ あの野郎!」
紫はまるで当事者ではないかのように、冷静にその光景を眺めていた。彼の表情には動揺も焦りもなかった。
原田は審判に叫んだ。
原田「審判! あいつが俺を挑発したんすよ」
西崎「落ち着け! いい案がある….」
西崎は原田の耳元に顔を寄せ、小声でささやいた。
原田は不適な笑みを浮かべた。
不老が自陣ペナルティエリア手前でボールを取り戻すと、武蔵が相手CBに厳しくマークされていたため、フリーの紫にパスを送った。
紫は前方の空いたスペースへコンドゥクシオンを開始した。
※コンドゥクシオン:ボールをスペースへ運ぶこと。
相手を抜くドリブルと分けて考える。
紫が、相手ゴール方向を見据えた瞬間、後ろから猛烈な勢いで原田が迫ってきた。
ボールとは関係なく、紫の背後から激しいスライディングタックルを仕掛けた。
紫は衝撃で後方に倒れ込み、グランドに横転した。観客からはどよめきと怒声が上がった。
ピィーッ! ピィーッ!
審判が紫と原田の元へ駆け寄り、すぐさま原田に対してイエローカードを提示した。
紫は立ち上がり、特に動揺することもなく、何ごともなかったかのように歩き出した。実は、紫はタックルが来る寸前に受け身を取る準備をしていたのだった。そのため、衝撃を最小限に抑えることができた。
一番星の監督、仙石(せんごく)が立ち上がり、原田に激怒した声を響かせた。
仙石「バカヤロー! この! 正当なチャージでボールを奪え! 」
仙石の怒声が響き渡る中、原田は顔色一つ変えなかった。
西崎が原田に近寄り、冷たい視線を紫に向けながら言った。
西崎「次、俺がやる…」
紫がグランド中央で一番星の選手のパスをインターセプトし、前方のスペースへコンドゥクシオンを開始した。
そこに、待ってましたとばかりに西崎が紫の右斜め後ろから、激しいスライディングタックルを仕掛けてきた。
紫はその動きを見越していたかのように、右足の裏でボールを急激に止める。西崎は紫の前をスライディングで横切り、グランドに無様に横になった。
西崎「くっそぉ!」
西崎は叫び声を上げながら悔しげに地面を叩く。
その西崎を置き去りにし、紫は右足のアウトサイドでボールを右斜め前方に大きく動かす。
今度は原田が激しく肩から身体をぶつけてきた。紫はスッと身体を横に避け、原田はいなされた格好になり、ぶつかろうとする対象物を失い、無残にグランドに前のめりに倒れ込んだ。
仙石が叫ぶ。
仙石「おいっ! まずいぞ!」
その声が響く中、紫はフリーでペナルティエリア手前中央にいる不老に完璧なパスを送った。不老はボールを巧みにワンステップで蹴れる位置に置き、右脚をコンパクトに振り抜いた。ミドルシュートがゴール右上を目がけて豪快に放たれた!
少しアウト回転がかかったボールは、GKが必死に手を伸ばすが届かない。ボールは右上のサイドネットに鮮やかに突き刺さった!
紫はシュートを決めた不老に駆け寄り、ジャンプして抱きつき、ガッツポーズを天に向かって突き刺す!
アンビは前半の1点を守り切り、
1対0でハーフタイムを迎えた。
一番星がボールポゼッション型のプレースタイルだったため、アンビが今週、練習した攻撃的プレッシングがうまくハマり、ほとんどの時間を相手コートでプレーすることができた。
レオンが想定していたよりも、〈ボール出しへの守備〉が効果的に機能した前半だった。
試合前にあれほど緊張していた両WGの高宮と遠藤だったが、試合が始まると、鬼の形相で相手CBに激しいプレッシングを仕掛けた。その結果、何度もグランドの内側でボールを取り戻し、ショートカウンターを成功させることができた。
ただし、相手CBからSBへパスが入ったとき、アンビの左SB青田と右SB秋葉のプレッシングが遅れたため、何度か一番星に決定的な場面を作られてしまった。
それでも、選手たちは手応えを感じてベンチに戻ってきた。高宮と遠藤は満足そうな顔をしていた。
しかし…..武蔵と紫の間には険悪な雰囲気が漂っており、2人は互いにいがみ合っていた。
武蔵と紫が口論しながらベンチに戻ってきた。
武蔵「ちゃんとやれ!」
紫「お前がな!」
N:ハーフタイムの15分は、まず最初の3分間で選手同士が話し合い、その後約5分間で監督やコーチから指示を受ける。その後、円陣を組んで気合いを入れ、後半に臨むのがアンビのスタイルだ。
レオンのゲームモデルチェック:
レオンが試合中にチェックしていたのは、今週練習した〈ボール出しへの守備〉がどれだけうまく機能しているかだった。彼女は薄型TVほどの大きさのホワイトボードにチェック項目を書き込み、足りないところを、水色のB5サイズのキャンパスノートに箇条書きでメモしていた。
レオンがホワイトボードに書き込んだのは、〈ボール出しへの守備〉に関わる6人の選手のキーファクターだった。センターフォワード(CF)、左右ウイング(WG)、攻撃的ミッドフィルダー(OMF)の2人、そしてどちらかのサイドバック(SB)が含まれていた。
※中間ポジション:2人の選手の間にポジションを取り、1人で2人に対応できるようにする。
N:ゲームモデルの評価は相対的である。相手チームよりも優れたプレーができれば良い評価を受けるが、相手が強い場合は評価が低くなることがある。
江川先生は、ベンチに座りながら頭に両手を乗せ、大きなあくびをかいた。彼のスタイルは、常ににこやかで余裕を感じさせるもので、試合中でもその落ち着きは変わらなかった。
その前で、選手たちは一様に真剣な表情でレオンの話に集中して耳を傾けていた。
レオン「武蔵は、自分に近いボランチへのパスコースを消せていない時がある!」
武蔵「そうかぁ!? 俺はGKへのバックパスも狙いたいと思ってるからな」
レオン「GKへのパスを狙うのは良いけど、まずは自分の役割を遂行して!」
武蔵「チッ わかったよ!」
武蔵は不満げに応じ、顔を横にそむけた。
レオン「高宮と遠藤は、相手SBへのパスコースが消せてるし、CBへの激しいプレッシングで相手を内側へと追い込むことができている。このまま続けて!」
高宮「よし!」
遠藤「後半も頑張るぞ!」
レオン「OMFの不老と紫のポジショニングは的確。2人とも武蔵にボランチがどこにいるか後ろから指示して! それと…紫はちょっとプレッシングのタイミングが悪くて、一発で相手にかわされる可能性があるので注意!」
不老「了解!」
紫「俺、タイミング悪い!?」
不老「まあ、時たまね」
レオンは鋭い視線で選手たちに指摘を続けた。
レオン「上手く機能した前半だけど、何度かピンチがあった! 高宮と遠藤のプレスをかいくぐって、相手CBからSBパスへ渡る時があって、その時SB、青田と秋葉のプレッシングが遅れている!」
青田は深刻な面持ちで
青田「相手SBがかなり低い位置にいるから、距離が遠すぎる…」
秋葉「それで躊躇して、遅れてしまう。パスが背後に出たら、CBとの距離が遠いから、追っても間に合わないし…」
と秋葉は苦悩をあらわにした。
レオン「今週練習したことをやってよ!」
そこにサッキがレオンの言葉をさえぎるように割り込んだ。
サッキ「相手SBが低い位置、ペナルティエリアの高さでボールを受けた場合は、WGがプレッシャーをかけに行ってください!」
高宮「マジっ!?」
高宮と遠藤は顔を見合わせた。
サッキ「マジです。SBがプレッシャーをかけるには距離が遠すぎる。SBが残ることで、DFラインは4人いることになります」
レオンは眉をひそめ、声を荒げた。
レオン「ちょっとサッキ! それはゲームモデルにない!」
サッキはレオンの発言を手で制止し、冷静に言い放った。
サッキ「もし相手SBがボールを受けて、ロングボールをアンビのDFラインの背後のスペースに蹴ったとしても、4人いれば対応できる。DFラインの4人は、相手SBがボールを受けたら、下がる準備をしておいてください」
レオン「でもっ!」
サッキ「でも、そうしないと失点するよ」
サッキはレオンの方に振り向き、その視線を真っ直ぐに捉え、言い放った。
不老「レオン、サッキの意見に一理ある。実際、相手SBにプレッシャーがかからなかったことで、ピンチになった」
不老「青田、秋葉、君たちはどう思う?」
青田「サッキの意見に賛成!」
秋葉「前に出過ぎると、後ろに戻れなくなるから、俺も賛成!」
不老は高宮と遠藤に目を向けた。
不老「WGはどうだ? 高宮、遠藤、できるか?」
高宮「…..できるかぎりやるよ!」
遠藤「走れなくなったら、交代頼むぞ!」
再び不老はレオンに話を振った。
不老「レオン、 どう思う?」
レオンは顔を下に向け、試合中にゲームモデルが変更されることに強い憤りを感じていた。頭ではサッキの意見が試合の状況に適していると理解しながらも、心がそれを受け入れることを拒んでいた。
レオン「…..わかりました。そうしましょう。ただし、これは例外です」
レオンは低い声で答えた。
レオンは空を見上げ、大きな深呼吸をした。ベップに言われた言葉が頭に浮かんだ。
レオン「これがベップが言ってことかぁ…」
とつぶやき肩を落とした。
レオンが回想から現実に戻ると、サッキは自身のノートに目を落としながら「あっ」と声をあげた。
レオン「どうしたの?」
サッキ「相手の『弱み』を言うのを忘れてた!」
レオン「まあ、たくさん言っても選手は覚えきれないからね! それより、サッキ! その分析力はどこで身につけたの? 『強み』、『弱み』とか言ってたよね!」
サッキ「試合を見ているうちに、どうやって相手の『弱み』を見つければいいのか気になって、ネットで調べたんだ。そしたら、海外ではSWOT分析を使って相手チームを分析していることがわかったんだ」
レオン「何…分析?」
サッキ「SWOT(スウォット)分析だよ」
レオン「わからないなぁ」
とレオンが首をかしげると、
サッキ「これは英単語の頭文字をとったものなんだ」
と言って、手に持っていた黄色のA4サイズのキャンパスノートを開き、その最初のページをレオンに見せた。
※「Opportunity」は「機会」や「好機」と訳されますが、サッカーの試合に合うように「チャンス」としています。「Threat」は「脅威」と訳されますが、ここでは「リスク」としています。
レオンは「へーっ」
と言いながら、難しそうな顔で眉をひそめた。
サッキ「そう。この分析方法は、もともと1960年代に企業の評価のための戦略ツールとして、スタンフォード大学のアルバート・ハンフリーが考案したもので、それをサッカーに取り入れたんだ」
レオン「戦略ツール!?」
サッキ「そうだよ」
とうなずきながら、自分のノートのページをめくった。
レオンはそのページをじっと見つめた。
レオン「すごくよく整理されているね。それで、そのSWOT分析ってどうやるの?」
レオンは感心しながらも、サッキの試合分析の才能に嫉妬と悔しさを感じつつ、平静を装って尋ねた。
サッキ「まず、チームの『強み』と『弱み』を見つけるんだ。例えば、一番星の『強み』はボールポゼッションからの前進で、『弱み』はDFラインの背後への対応が悪いこと。アンビの『強み』は縦に速い攻撃で、『弱み』はボールポゼッションがうまくできないことだね」
レオン「その…『強み』と『弱み』って、まるでコインの表と裏みたいだね!」
サッキ「まさにその通り。今日の試合のように、一番星の『強み』と『弱み』、アンビの『強み』と『弱み』を比べてみると、アンビにとって、この試合における『チャンス』と『リスク』が見えてくるんだ。」
サッキは続けた。
サッキ「今日の試合の『チャンス』は〈ゾーン2でボールを取り戻した時〉だ。そして『リスク』は、〈ゾーン3のサイドで、相手SBがボールを受けた時に、こちらのSBのプレッシング位置〉だ。
『チャンス』を活かすためには、〈ボールをゾーン2で取ったら、素早く相手DFラインの背後に走り込むFWへパスを出す〉こと。
『リスク』を低くするためには、〈ゾーン3のサイドで相手SBがボールを受けた時に、こちらのSBはDFラインに残り、同サイドのWGが下がって相手SBの縦パスのコースを消す〉ことが重要なんだ」
レオン「ハァ〜、全部独学なんだねぇ!」レオンはため息をつきながら、少し落ち込んだ様子でつぶやいた。
サッキは軽く頷いて、
サッキ「そうだよ。でも、そんなことより、後半が始まるよ」
と選手たちが並ぶグランドを見据えた。
その言葉に、レオンは、ハッとして顔をグランドに向けた。雪が選手たちに声をかけていた。
雪「お前ら〜気合い入れて後半も走れよ〜!」
レオンも素早く試合に集中し、サッキも自分の場所に戻った。
江川はそんなレオンとサッキを見て、サッカー部の変化に手応えを感じたようだった。
その時、不老がベンチにダッシュしてきた。彼は冷静ながらも、深刻な口調でレオンに話しかけた。
不老「レオン、一番星がこのまま終わるとは思えない。後半、必ず何か仕掛けてくる!」
レオン「うまくいきすぎて少し不安は感じていたけど….」
不老「すぐにミューラー、丸間、それから蒼介をアップさせてくれ!」
不老の声には焦りが感じられた。
後半開始
原田と西崎がグランドにいなかった。
優牙は紫の後ろから肩に手を回し、顎で一番星ベンチの方を指し示した。
優牙「紫、一番星の監督に怒られているあの2人と知り合い?」
紫は無表情で答えた。
「ジュニアユース時代に同じクラブだっただけ!」
優牙「どうりで….うん、お前の方が上だな!」
紫「….」
後半は一番星のキックオフで開始。
優牙「あれ、前半俺がマークしていた10番は!?」
一番星はGKまで一度ボールを戻して、何かを確認するように、〈ボール出し〉をスタート。前半FWでプレーをしていた一番星の10番はボランチの位置にいたのだった。
レオン「この配置は!?」