デジタル通貨DCJPY(仮称)をわかりやすく解説してみる
ベトナムでFintech事業立ち上げを計画中のKoheiです。
最近仮想通貨にハマっているのですが(投資対象というよりもビジネスへの活用という意味で)、デジタル通貨にも注目をしています。
世界的にはマーク・ザッカーバーグが主導しようとしたLibra(今はdiemに改称)だったり、デジタル人民元が有名ですが、日本でもディーカレットという会社が主催するデジタル通貨フォーラムがDCJPY(仮称)というデジタル通貨を検討しています。
今回、このDCJPYのホワイトペーパーが公開されたので、内容を解説していみたいと思います。
デジタル通貨フォーラムとは?
デジタル通貨フォーラムは株式会社ディーカレットによって運営されています。
株式会社ディーカレット自体は、株式会社インターネットイニシアチブが中心となって「デジタル通貨の取引・決済を担う金融サービス事業」を行う目的で立ち上げた会社です。
株主には日本を代表する起業であるメガバンク、商社、保険会社、電力会社が名を連ねており、錚々たるメンバーで構成されています。
デジタル通貨フォーラムは、「民間発行による円建てデジタル通貨」の実用化を目指す株式会社ディーカレット主催の団体となります。
デジタル通貨とは?
デジタル通貨とは、物理的なお金ではなくデータとして保管されるタイプの通貨を指します。
今回解説するDCJPYは民間発行の円建てデジタル通貨なので、デジタル通貨の1種類という位置づけになりますね。
ちなみに各国の中央銀行が発行するデジタル通貨は、中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」と呼ばれます。DCJPYは民間による発行なので、CBDCではありません。ちなみに日本のCBDCについては日本銀行が実証実験を進めています。
DCJPYの特徴
DCJPYの特徴をまとめてみます。
民間銀行が「預金」と位置づけられる債務として発行する
円と完全に連動する「円建て」のデジタル通貨
1円が最小単位
利息無し・預金保険の保護対象
利息無し・預金保険の保護対象の預金なので、性質としては当座預金に近いものになります。当座預金は企業や個人事業主が事業用資金の決済に利用する口座ですが、DCJPYの場合はもちろん個人も対象になります。
簡単に言うと、通常の預金口座と別にDCJPY用の口座を持つということになります。
DCJPYの発行・送金・償却
DCJPYを使った基本取引として、発行・送金・償却があります。
一つずつ解説していきます。
発行
DCJPYを利用したい人は、まずDCJPY用の口座を開設する必要があります。DCJPY口座は民間銀行で開設することができますが、その銀行に預金口座を開設していることが条件になります。つまり、DCJPY口座のみを開設することはできません。
DCJPY口座を開設したら、預金口座の残高をDCJPY口座に送金することができます。結果、DCJPY口座に残高が記帳されますが、これをDCJPYの発行と呼びます。
送金
DCJPY口座の残高は、他の利用者のDCJPY口座に送金することが可能です。DCJPY口座の送金はDCJPY口座間でのみ行えるという点がポイントです。DCJPY口座から通常の預金口座(普通預金、当座預金など)へ直接送金したり、直接現金化することはできません。
償却
DCJPY口座の残高は、同じ利用者の預金口座に送金することが可能です。これを償却と呼びます。同じ利用者の口座間のみで償却ができます。現金化したい場合は、一回償却(つまり預金口座に送金)して預金口座に送金してから引き出すということになります。
さて、ここまでが基本です。
DCJPYの最大の特徴はその「二層構造デジタル通貨プラットフォーム」にあります。
少し難しい話になってきますが、できるだけわかりやすく解説していみたいと思います。
二層構造デジタル通貨プラットフォーム
概要
まずDCJPYのプラットフォームは、共通領域と付加領域に分かれます。
共通領域:銀行が管理する領域。DCJPYの発行・送金・償却を実行する。
付加領域:銀行以外の事業者が独自のプログラム(スマートコントラクト)を組み込む領域。プログラムに応じで共通領域にDCJPYの発行・送金・償却の指図を行う事ができる。
図で表現するとこうなります。
恐らく、この図だけだと全くわからないと思います。
具体例を元にした方がわかりやすいと思うので、以下のユースケースで説明します。
それでは、上のユースケースを元に説明していきます。
まず最初にユーザAがユーザBに製品を納品する所から始まります。ユーザBは納品された製品を検品後、付加領域上で納品確認の処理を実行します。
そうすると納品確認をトリガーにして、あらかじめ組み込まれたスマートコントラクトが実行されます。具体的には、ユーザBからユーザAへの支払い処理が自動的に実行されます。
上の図にもある通り、この支払処理は3つの処理から構成されます。
付加領域におけるユーザBからユーザAへの送金
ユーザBの付加領域アカウント①から共通領域にある付加領域①用口座への支払指図
共通領域におけるユーザBからユーザAへの送金(前項2番をトリガに実行)
3番の処理は2番の指図をトリガに実行されているという所がポイントです。これにより、付加領域と共通領域の残高をリアルタイムで連動させる事が可能になります。これを実現するためにブロックチェーンおよび分散台帳技術(Decentralized Ledget Technology)が適用されています。
二層構造のメリット
「二層構造デジタル通貨プラットフォーム」が何かについては、おわかりいただけたでしょうか。
しかし、何故このような構成を取る必要があるのでしょうか?
それは以下2つの相反するニーズを同時に満たすところにあります。
① 帳簿の改ざんや二重書き込みを防ぐための堅牢性
② 様々なビジネスニーズへ対応するための柔軟性
基本的に堅牢性と柔軟性はトレードオフの関係にあるため、①と②を同一のプラットフォーム上で満たすのは困難です。これを解決するために①を共通領域、②を付加領域と分けることで両立を実現しています。
共通領域の堅牢性
共通領域はブロックチェーンを活用して構成されますが、そのノードはパーミッション型になります。
つまり、認めれられた銀行しかブロックチェーンのノードに参加できないことになりますので、ビットコインのように誰でもマイニングができるわけではありません。悪意あるノードがブロックチェーンを乗っ取るようなこともできません。
また共通領域のデータ参照もノードに参加している銀行に限られ、口座の内容は各銀行個別に管理されるので、他行の利用者の口座残高を確認することもできません。ビットコインであればアドレスがわかれば誰でも残高や取引履歴を参照することができますが、DCJPYの共通領域ではこの点においてデータの秘匿性と個人情報の保護が担保されていることになります。
付加領域の柔軟性
一方、付加領域については様々な事業者が独自のサービスや機能を組み込むことができます。これは技術的にはスマートコントラクトを用いて実現します。事業者が独自のトークンを発行することも可能です。
スマートコントラクトについては、また別の記事で紹介しようと思いますが、「取引における当事者間の契約をプログラム化したもの」と理解してください。
スマートコントラクトが実際にどのようにビジネスで活用できるかはまだ検証の段階ではありますが、例として以下のようなユースケースが考えられます。
使用料に応じて電気代を自動的に決済する
商品の供給率に基づいて自動的に減額率を計算、決済する
今後の課題
大体理解してもらえたでしょうか。
ここでは、勝手ながら個人的に感じた今後の課題について書いてみたいと思います。
日本銀行のCBDCとの住み分け
最初にも少し触れましたが、日本銀行でも中央銀行デジタル通貨(CBDC)の実証実験を進めているようです。今後、CBDCとDCJPYがどのような関係性を持つのかは気になるところです。
ユーザ側としては、複数のデジタル通貨が相互互換性なしに存在することは避けて欲しいところです。できれば、どちらかに統一、もしくは両立するにしても完全な相互互換性が担保されることが望ましいでしょう。
銀行間連携
ホワイトペーパーによると、異なる銀行のDCJPY口座間における送金は今後の検討事項だそうです。
異なる銀行のDCJPY口座間で送金ができないとなると、付加領域間の送金も同一銀行間となってしまいます。実際のビジネスにおいて、同一銀行間でしか送金できないというのは、かなり不便というか実用性が非常に低くなると言わざるを得ません。
銀行間でのコスト・リスク負担など問題があるとは思いますが、是非銀行間の連携は実現してもらいたいと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
DCJPYについて理解できましたか?
今回の内容は、こちらのホワイトペーパーを元にまとめたものなので、時間があれば是非御覧ください。
今後も定期的に報告があるみたいなので、注目していきたいと思います。
最後に
Increate ではベトナムにおけるフィンテック事業の立ち上げを計画しています。ベトナム、フィンテックという言葉にピンと来た方は是非Twitter DMでご連絡ください。
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