電子インボイス化されるとどうなるの? - シンガポール版電子インボイス「Invoice Now」の事例紹介
こんにちは。
ベトナムでFintech事業立ち上げ準備中のKoheiです。
日本ではインボイス制度が2023年10月より適用開始されますが、これに合わせてインボイスの電子化(単なるPDF化ではなくXML形式等の標準化されたデータ化)を目指す動きがあります。
これを電子インボイスと呼び、関係ベンダーが集まって組織された電子インボイス推進協議会(EIPA)が規格の策定するべく結成されました。現時点でEIPAにより、欧州を中心に利用されているPeppol という規格をベースとした日本版 Peppolが電子インボイスの規格として採用されることが決まっています。
このPeppolですが、実はアジアにおいては既にシンガポール、オーストラリア、ニュージーランドが同様に自国版Peppolを策定して電子インボイス化を開始しています。特にシンガポールはアジアにおける初のPeppol採用国として2019年1月からInvoice Nowという電子インボイス制度を開始しています。
電子インボイスが導入されるとどうなるのでしょうか?
この問いに答えるヒントとして、本記事ではシンガポール版電子インボイスのInvoice Nowについて紹介したいと思います。
Invoice Nowとは?
Invoice Nowとは、シンガポールの情報通信メディア開発庁(IMDA)が所管するシンガポール公式の電子インボイス制度です。必須化ではなく任意適用で、企業間の請求処理負荷を削減し、ペーパーレスを促進する目的で2019年1月にリリースされました。
規格はPeppolに準拠しており、シンガポール版のインボイス仕様としてSG Peppol BIS(Business Interoperability Specifications)をIMDAが定義・管理しています。IMDAはシンガポールのPeppol Authority(その国におけるPeppolの所管組織)の位置づけです。
Peppolは4コーナーモデルを採用しており、Access Point Provider(AP)とService Provider(SP)が存在します。Invoice Nowの場合、APは35事業者(2021年10月時点)、SPはERPベンダー/会計SaaSを中心に50以上の事業者(2021年11月時点)が登録されています。
そして、肝心のInvoice Nowへの登録事業者数ですが、2021年1月時点で既に35,000以上の事業者が登録しているようです。2020年12月末までに登録した事業者は200SGDの補助金がもらえました。ただ、シンガポールの総事業者数が約40万なので、普及率はまだ10%程度となります。今後のさらなる普及に期待ですね。
より詳しい説明はこちらを御覧ください。電子インボイスのイメージもこちらに載っています(p.13-17)。
IMDAの役割
さて。ここでIMDAの役割について触れておきます。
IMDAすなわち情報通信メディア開発庁は、Invoice Nowの所管省庁として制度設計・管理・啓蒙活動など様々な役割を担っています。
具体的には以下の通りです。
電子インボイス規格であるSG Peppol BIS(シンガポール版Peppol)の定義・管理
AP/SPの認定およびリスト公開
電子インボイス発行のサポート(IMDAが、初回1通分の発信をサポートしてくれる)
Peppol Technical Playbook(技術サポートポータル)の提供
Peppol Directory(登録事業者DB)の運営
Validex Toolの提供(AP 用のフォーマットチェックツール)
PR活動
最後のPR活動については、ポータル運営、ニュースレターの発行、事業者向けウェビナー開催、コスト削減効果試算表など多岐にわたります。特にポータルは情報が整理されており非常に見やすいです。この記事を書くための情報もほとんどがこのポータルからの情報で事足りました。
Peppol Directoryとは?
ここではPeppol Directoryについて、もう少し詳しく解説しておきます。
Peppol DirectoryはInvoice Nowに登録している事業者のデータベースです。検索だけなら登録無しで誰でも可能で、各事業者がどのPeppolフォーマットを受領できるかがわかります。更に自身が事業者としてこのディレクトリに登録すれば、一括ダウンロードやAPIの機能が利用できます。
このサービスのメリットは、自社の取引先がどの程度INVOICE NOWを導入しているかを導入前の判断材料として確認できるということです。自社の取引先の大半がInvoice Nowを利用しているのであれば、導入効果が高いということが一目瞭然になります。
またSPが自社サービスとAPI接続して、ユーザ(請求元)の請求先の登録状況をタイムリーに確認して自動的に電子インボイス送信に切り替えるようなことも可能になります。
個人的にはこのPeppol DirectoryがInvoice Nowで最もイケてるサービスだと思いました。
Invoice Nowが目指す姿
IMDAはInvoice Nowによって何を成し遂げようとしているのでしょうか。
その目指す姿が下の絵に表現されています。
Reduce Cost、Green Friendly(紙の削減による印刷・保管コスト削減、環境への配慮)、Transact Internationally(国際間電子インボイス送受信)はわかりやすいですね。
では、残ったGet Paid Fasterは具体的には何でしょうか?
GET PAID FASTERとは?
Get Paid Fasterとは要するに「Invoice Nowを利用すると代金を早く回収できる」ということです。
IMDAによると以下の5つの効果が期待できます。
FAST BILLING: 請求情報から請求書を自動作成する仕組みを作ることで請求書発行業務を削減(請求元)
CLEAN DATA: 標準化されたデータによる請求書受領により、処理ミスを削減(請求先)
AUTOMATED PROCESSING: 請求書データから自動で不正検知、リスクに応じて承認フローを自動ルーティング(請求先)
FINANCING: 電子インボイスデータを活用したファクタリングサービスの利用によるキャッシュフロー改善(請求先・請求元)
E-PAYMENT: 支払処理との連携(請求先)
IMDAによるとInvoice Nowの活用により請求〜回収サイクルを22日分短縮可能との試算だそうです。こうやって、定量化された効果があるとわかりやすいですね。
電子帳簿保存
ところで日本では2022年1月から改正電子帳簿保存法が適用開始になりますが、シンガポールの場合はその辺りどのようになっているのでしょうか?
シンガポールでもInvoice Now経由で送信された請求書データはそれ自体が原本と見做され、税務当局への申請無しに電子保存可能です。しかしシンガポールでも未だにPDFを印刷して保管している業者が多いようです。(調査によると90%)。これにはInvoice Nowで電子インボイスを受領している事業者も含まれています。
折角、請求元が電子化してペーパーレスを実現していても、電子インボイスを受領した請求先が印刷していてはもったいないですね。
日本でも電子帳簿保存法要件の認知度が低く、同様のケースが心配されていますので、この問題は各国共通なのかもしれません。所管省庁や業界団体による認知度向上活動がポイントになりそうですね。
Invoice Nowを踏まえた理想像
最後にInvoice Nowの事例を踏まえて、電子インボイス後の理想像を考えてみたいと思います。
個人的にはガバナンス組織の役割が非常に大きいと思っています。技術仕様の定義やAP/SPの認定は最低要件ですが、そこから更に如何に多くの事業者に電子インボイスを利用してもらうか、その為の啓蒙活動・サービス提供に関する施策がポイントです。
シンガポールのIMDAの場合は、わかりやすいポータル、導入サポートやPeppol Directoryの提供がそれに当たります。これが確実に電子インボイス普及に一役買っているのではないでしょうか。
日本の場合、デジタル庁がこのガバナンス組織の役割を果たすのかはまだわかりません。どこが担うにせよ、是非シンガポールの事例を参考にしながら多くの事業者に利用される電子インボイス制度を実現してもらいたいですね。
最後に
Increate ではベトナムにおけるフィンテック事業の立ち上げを計画しています。興味を持っていただけた是非Twitter DMでご連絡ください。
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