段階的緩和される入国制限 ”インバウンド観光の開国は富裕層市場から!?”
新型コロナウイルスの水際対策で、1日当たりの入国者数の上限を4月から1万人に拡大する案を、政府が検討しているということです。
入国上限、来月から1万人 留学・実習生の来日加速へ―政府検討:https://www.jiji.com/jc/article?k=2022030901037&g=pol
インバウンド市場の回復という観点からは、「まだ1万人」というレベルですが、実現すれば今後の段階的な緩和が進むきっかけになる可能性があることを考えると、良いニュースであると思います。
そんな中、インバウンド回復期を見据えた際、どのような旅行者層が戻ってくるのでしょうか。考え方の一つとして、富裕層が初めに動き出すという予測があります。
その為今回は、インバウンドにおける富裕層市場についてあらためて考察してみます。
富裕層の定義
JNTO(日本政府観光局)では、富裕層の定義を大きく以下2つに分けて定義しています。
①費用制限なく満足度の高さを追求した高消費額旅行を行う市場
➁旅行先における消費額が100万円以上/人回
あくまでも欧米豪5市場(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア)のみのデータを基にしていることには注意が必要ですが、実績を基にした推測値としては、市場規模は4.7兆円(約340万人の旅行者の合計)、一人当たりの旅行消費額は約136万円ということです。
一般のインバウンド旅行者の平均消費額が約15万円である為、約9倍の継続効果が見込める旅行者をインバウンドにおける富裕層としています。
詳しくは以下ページをご参照ください。
富裕旅行市場の分析とコンテンツづくりのポイント:https://action.jnto.go.jp/report/2129
また、JNTO(日本政府観光局)では、志向や旅行スタイルの観点から、富裕層を以下のように定義しています。
◆富裕旅行者の志向について
①Classic Luxury志向(従来型)
富や権力を重要視する価値観を持っており、旅行においては「高い快適性」、「サービスの質の高さ」、「ステータスシンボル」などを求める傾向にある。
➁Modern Luxury志向(新型)
若い層を中心に拡大している志向で、文化や独自性に重きを置く価値観を持っており、自分が興味・関心を持っているものに関しては、徹底的にお金を使うが、自分が価値を見出していないものについてはお金を使わないというタイプ。旅行に求めるものも、「エコツーリズム」、「サステイナビリティ」など、従来型と大きな違いがみられる。
◆富裕旅行者の旅行タイプについて
①オールラグジュアリー
旅行のすべての費目で高額消費を行うタイプ。一例として、飛行機はビジネスクラス以上、ホテルは5つ星のラグジュアリーホテル、プライベートガイドをつける、など。
➁セレクティブラグジュアリー
優先度の高い事項に重点的に投資するタイプ。一例として、宿泊は寝るだけとして特にこだわりはないが、芸術分野に高い関心を持っており、いくらお金を払ってでも、美術館を夜間貸し切りにして専門のガイドをつけて詳しい説明を聞きたいというような、自分が価値を見出す体験には支出を惜しまないタイプ。
調査を基に上記定義は作成されていますので、一つの指標としてはとても参考になると思います。
ただ一方で、コロナ禍を経た志向や旅行スタイルの変化については今後あらため検討していく必要があると思われます。
今後の富裕層像
インバウンドの中で、富裕層市場をあらためて考える場合、そもそも論とはなりますが、「高所得者である富裕層」をターゲットにする、という考え方は正しいのでしょうか。
例えば、高級旅行や高級ホテルを起点とし、伝統芸能の貸切体験や高級食材を使った懐石料理を訴求するとします。旅行費用の観点からは当然富裕層をターゲットにする必要がありますが、旅行に対するニーズという観点からは少し考える必要があると思います。つまり、支出を惜しまない旅行者層であればあるほど、パッケージ化された提案ではなく、各旅行者ニーズに合わせた、よりパーソナルな提案が必要になるということです。
その為、「富裕層とはこうである」という広い定義を設定しそれを追いかけることが、富裕層市場を攻略すること自体を難しくする原因になってしまう可能性があります。
コロナ禍を経て、旅行ニーズはより多様化すると予想され、富裕層市場でもその点は同様であると思われます。
よりパーソナルな旅行に対応することは前提とし、今までの定義に捕らわれないあらたなターゲット像の設定が必要と考えます。
例えば、ツーリズムという観点から言うと、アドベンチャーツーリズム、アグリツーリズム、ボランツーリズム、エコツーリズムなど、元々富裕層にニーズがあると考えられるツーリズムから、SBNRと言われる宗教型スピリチュアル層(スピリチュアルツーリズム)など、今まで富裕層市場ではターゲットとして検討されにくかったツーリズム(ターゲット層)も、除外せずに検討の中に加えることも重要ではないでしょうか。
まとめ
インバウンド回復期、富裕層の動向はその後の方向性を占う上で非常に重要です。ただ、富裕層と一括りにしてマーケティングを行うことは、間違った方向に費用を投下する可能性があり注意が必要です。
まずは、観光資源や自社商品を見直(ブラッシュアップ)し、富裕層に限らず、自社商品と親和性の高い海外ゲストをあらためて分析することが、結果的に富裕層市場の攻略につながっていくと考えます。
著者:JOINT ONE 嶋田拓司
海外・訪日プロモーション専門広告代理店『インバウンド ONE』
海外インバウンドマーケティング情報マガジン『エの輪』