性病奮闘録〜イナトス〜
おかしい…
おかしい…っ!
まただ…っ!またアレが出てる…っ!!
──イナトス・ラインハルト(24さい)は、ペニス以外は至って健康な成人男性だ。
数ヶ月前にクラミジアを治療し、再検査ののち無事に医者から陰性の診断を獲得したはずだったが、ペニスは全く治った気配を見せず、排尿時の尿道の違和感に加え、ある特定のタイミングで必ず膿が出てしまう状態が続いた…
しかし、イナトスの想像を絶するルーズさ…怠惰により、もう一度検査を受けることをやめ、放ったらかしの生活をしていた…
朝目を覚まして、トイレにも行かずそのまま即自慰行為にふけると、膨張した亀頭の先端から黄色に近い黄緑の膿が少量垂れてくる。
イナトス:まただ…おかしい…
医者は陰性だって言ってたのに…っ!
まさか…噂に聞くピンポン感染*ってヤツか…っ!?
*お互いにうつしたりうつされたりを繰り返すこと。本人が治療して治っても、相手の方が治療をしていなければ性交渉によって再び感染することになる。
イナトス:いよいよ限界だ…次の土曜、早起きして行くしかない…っ!泌尿器科…っ!
そして結果によっては、伝えなければならない…っ!ティファ…ミカサ…麗子…しずえ…キャスカ…ナナチ…安田のおっさん…ゼシカ…マルティナ…キャミィ…レモン…ポンズ…ミサミサ……心当たりのある相手…全員に…っ!
〜土曜、朝〜
イナトス:もう朝か…時計は…っ!?
『9:25』…っ!
いける…っ!寝過ごしてない…っ!
だが……っ!ものすごくもよおしている…っ!
ブチまけそうだ…っ!
膀胱の95%は溜まっている…っ!
どうして漏らしていないのかが不思議なくらいだ…っ!
しかし俺の症状は「朝」特有のもの…っ!朝の尿を調べて貰わずにどうする…っ!ここは"耐え"だ…っ!まだ出す時じゃない…っ!
しかし…しかし…(玄関扉とトイレを交互に見る)
ああぁ…っ!そうだ…っ!!
─イナトスに電流走る。
尿検査ってえのは、いつも出始めの尿は廃棄…っ!そう、使わない…っ!言わば死んだ尿…っ!捨て尿…っ!
つまり、少しなら出してから病院に行っていもいいってわけだ…っ!
なぜこんな簡単なことに気づかなかった…っ!
焦りと緊張のせいか…っ!?落ち着け俺…っ!
適切な分量を排出してから出発すれば…っ!外で漏らす心配もない…っ!出してから行く…っ!
ンジョロロロロロロロ…ジョロ…
ここだ…っ!!
─イナトスは刹那の見切りでPC筋と括約筋に爆発的パワーを込め、前立腺を引き締めた。
ブリィッ…!!ピタァア………
イナトス:…フッ…少々屁は出ちまったが…我ながら完璧…っ!ベストタイミング…っ!膀胱残量45%でストップ…っ!!一番新鮮な尿を産地直送…っ!お医者さんへお届けだ……っ!
さあ、こうしちゃいられねぇ…っ!行くぞ…っ!
──イナトス、出立…っ!
到着だ…っ!ここが噂に聞く裏泌尿器科…っ!はやしクリニック…っ!フランス語で…"希望"…っ!どんな性病も立ち所に治しちまうんだと…っ?
堂山の裏路地で怪しい黒服どもが話してた情報通りの場所にあったぞ…っ!
一見は金持ちの奥様が通う高級スーパー…っ!しかし、それは見せかけ…っ!デコイ…っ!素人を欺くための迷彩…っ!スーパーの店内にあるエスカレーターを上がってはじめてお目にかかれる…っ!伊達じゃねぇ…っ!このクリニック…っ!"本物"だ…っ!
ここでビビってやっぱり帰りますってえんじゃあお話にならねぇ…っ!入るぞ…っ!俺は入る…
ウィーーン
(なんだ…っ!?待合席にこんなにも客が…っ!?まだ朝の9:30だぞ…っ!しかも若い女がほとんどだ……っ!)
イナトス:お…っ!おはようございます…っ!!
受付:…………
客:…………
イナトス:よ…予約はしてないんですが…診察とかって…してもらえたり…しますか…っていうか………あの…っ!診察…っ!
受付:症状は?
ざわ………
イナトス:(え…?今なんて言った?…症状…?ここで聞くのか…っ!?)
イナトス:あの…それは…ゴニョ
受付:………
ざわざわ…ざわ…
イナトス:そ、そういうのって…受付用紙に書いたり……
受付:症状は?
ぐにゃあああっ
※イナトスが絶望と涙で視界が歪んだ時の効果音
イナトス:(こいつマジだ……っ!マジにこの大勢の前で症状を言わせる気だ…っ!口で…っ!口で言うまで次に進まない気だ…っ!ここのやり方なんだ…っ!これがこの病院のやり口…っ!バカだった…っ!俺は…っ!!)
イナトス:……が出ます…
受付:…はい?
イナトス:…膿が出ます…たまに……
受付:どこから?
イナトス:(…っ!!こうなったらヤケだ…っ!)
だから…っ!出るんだよ…っ!膿…っ!…"ちんぽ"から…っ!!
客:(ちんぽ…?)(え…?w)(マジか…)
ざわ……ざわ…
イナトス:え……?(待合席を振り返る)
─ざわつく客たちの様子に違和感を覚える。
イナトス:(お前らも"乗り越えて"そこに座ってるんじゃないのか…っ?この苦行を…っ!?)
受付:ゴホン…あのー、お客さん…?
イナトス:は、はい…っ?(カウンターへ向き直る)
受付:そういった症状でしたら、あらかじめお電話でお伝えしていただければよかったんですが…というか、うちは電話予約が基本…ベーシック、ですので…
ぐにゃあぁあぁあ
イナトス:す、すみません…っ
(やられた……っ!!自ら…っ!掘らされた……っ!!墓穴を…っ!!そういった症状でしたら…だと…っ!?ふざけろ…っ!察せ…っ!最初の俺の反応…っ!動揺で…っ!!)
受付:…まあいいです。それなら先に検尿をして頂きますので、この検尿カップをお持ちになって隣のトイレへどうぞ。
イナトス:(きた…っ!検尿…っ!コンディションは言うまでもなく最高…っ!ここで目に物見せてやる…っ!挽回だ…っ!)
──トイレに入ると、個室の小便器があった。イナトスは採尿を始める。
ジョロロロロロ
イナトス:こんなもん…か…
──目線をチンポから正面に向けると、想像だにしなかった注意書きがそこにあった。
〜検尿の取り方〜
男性→出始めからとる
女性→途中からとる
ぐにゃあああっ
イナトス:男は出始めの尿から採取だと…っ!?
んなバカな…っ!
ふざけろ…っ!
検尿は普通…中間の尿から採取するのが基本…っ!当然…っ!
義務教育時代の尿検査で叩き込まれた揺るぎない常識………!!
尿道や隠部の雑菌の混入を防ぐために考えられた「理」………っ!!
それをあんたらは…"出始め"からだと……っ!?
くそ……っ!涙が出そうだ……っ!!
朝、排泄欲に負け少し出してから出かけたのが運の尽き……っ!!
我慢してすぐ出かけていれば…っ!うう…っ!
これで正しい結果が出なかったらどうする……っ!?
そしたら、またあの生活に逆戻り…っ!毎朝ちんこから変な汁が出る生き地獄……っ!!
痛みこそないものの…精神的不安…っ!不信…っ!これ以上は、もう……
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぐにゃああああああ…
─小中高大と、学校の尿検査ではいつもトップの成績をおさめてきたイナトスだったが、裏クリニックのシステムにいとも容易く陥落…!破綻…!
こうすればいいという思い込み、先入観は…年月を重ねるごとに強固となる……!自ら築き上げた定石は言わば岩の巨城……!先入観により造られた正門は、簡単に他の考え方やアイデアを通しはしない………!!
だが……!そのぶん横からの唐突な侵入に脆い……!!
一見巨大な城でも、隙間から予想外の事実、イレギュラーが飛び込んできてはもうダメ……一気に敗北…!どうしていいかもわからなくなる…!今回の検尿こそまさにその刺客…!城に攻め込み王を刺す刺客…!イナトス城、崩壊……………っ!!
─検尿カップを規定のボックスに置き、肩を落としながら待合席に座る。
──しばらくして………
女:イナトスさ〜ん、イナトス・ラインハルトさ〜〜ん
イナトス:…!お、俺だっ…!今行く……っ!
ガラガラガラ…っ!
イナトス:よ、よろしくお願いします…っ!
医者:はいよろしく。ここの院長の"はやし"です。今日はどうされたのかな?ニンマリ
イナトス:あ、あの…っ!チンポ…っ!あっ…!おチンポ…っ!から…っ!その…っ!!
医者:はいはい…焦らなくて大丈夫だよぉイナトスくん。ここにはね、君のようなクズはわんさかやって来るんだ。落ち着いて話してごらん
イナトス:ちんぽから…っ、変な、汁が出て……っ!
医者:"変な汁"ゥ〜〜?いや、それはおかしいな…おかしいなぁ〜イナトスくん…ニチャア
ざわ・・・ざわ・・・
医者:キミが提出してくれたさっきの検尿は、"なんの汚れもない"至って健康な尿だったよぉ〜?
ぐにゃあああ
イナトス:(それは…っ!お前らの病院のシステムの罠だろうが…っ!!)
いや、すんません…っ!出始め尿は、さっき家で出してしまって…っ!
医者:こまるなぁ〜〜イナトスくん。ウチは中間尿じゃ検査しないんだ。個室トイレのただし書きにもちゃんとそう書いてたろう?これじゃあ正確な診察はできないねぇ…
イナトス:た…っ!頼むおっちゃん…っ!もうあの生活に戻るのは嫌なんだ…っ!あ…そう…っ!再検査っ!!再検査してくれ…っ!飯食ってもう少ししたら、また出せる…っ!またっ…出始め尿を…っ!だからもうちょっと待ってくれ…っ!さっきの尿はノーカン…っ!そう…っ!ノーカン!ノーカン!ノーカン!
医者:fuck you.
イナトス:え…?(ざわ・・・)
医者:ブチ殺すぞ…っ!ゴミクソが…っ!
イナトス:(…っ!?)
医者:「ちょっと待て」「もうちょっと待ってくれ」…お前これまでの人生で何度そのセリフを吐いてきた…?
24才にもなってまだ、泣いて駄々こねるとなんでも許されると思っている…っ!
世間は貴様のお母さんではない…っ!
貴様を中心に世界が回っているわけでもない……!
自惚れるな、ガキが…っ!!
イナトス:(ぼ、暴言だ……)
医者:はい!ニッコリ ─まあ叱咤はこのくらいにして…そんなイナトスくんの失敗も、院長の寛大な精神で許してやろうじゃないか…!
イナトス:な、なんだと…っ?
医者:でも決して、良かった〜なんて思っちゃダメだよイナトスくん。悪い行いをした患者さんには、それ相応の"報い"を受けてもらわないとね…?ニチ
ざわざわ・・・ざわ・・・
イナトス:"報い"…っ?
医者:いやね、わしだってこう見えて日本医師会の端くれだ。なかでも尿検査の品質にはこだわっていてねェ〜…正しい方法で検査すればどんな性病だって見分けられる…っ!ウチの病院の目玉みたいなものなんだよ。
それを家で出してきちゃいました〜なんて言って台無しにされたら、こっちだって黙っちゃいられない…
キミにこの後Googleの口コミで、ここじゃ治らなかったなんて書かれちゃあ たまったもんじゃない…っ!ウチの信用問題に関わる…わかるよね?
イナトス:は、はあ…
医者:そこでだイナトスくん!キミみたいな患者にいつもやってる治療法があるんだよ…っ!是非やろう…っ!それ…っ!
おい木村、あれ持ってこい。
ナース:もう準備しております。
シャアアアア…っ
(隣の部屋のカーテンが開かれる)
!!?
イナトス:な、なんだよおっさん…このバカでけえ点滴袋と、ちゅ、注射は……っ!?
医者:PX-48K…通称、"咎罪(つみ)"だぁああ…ニチャアア
ゴゴゴゴ…ゴゴゴ…
医者:こいつはとても面白くてね…ヒヒ…こ、これをバカな患者どもに打ち込む瞬間の、悲痛…っ!叫びを聞くのが…たまらなく好きなのだ…ヒ、ニョヒヒヒヒ……
イナトス:(あ、悪魔…っ!この世に存在していい代物じゃねぇ…っ!)
医者:勘違いしてもらっちゃ困るよイナトスくん、これでも治療効果は絶大だ…ただの拷問器具じゃない…
梅毒…淋病…コンジローム…エイズ…クラミジア…なんでも1発で治すからこその咎罪(つみ)なんだよ…!
なんでも治せるから故に、点滴液は劇毒のように辛く、身体は拒絶反応を余儀なくされる…っ!反応せざるを得ない……ヒヒ…っ!
世に出せばノーベル賞は固いが…なんにせよ耐え難い苦痛を伴うのでね…倫理的に"エヌジー"なんだ…だからこうして、わしの個人的な"趣味"として使用っておる……っ!!ニョヒ、ヒョニヒヒヒヒ…っ!!
イナトス:(狂ってやがる…っ!)
医者:この劇液を1200cc…っ!これがウチの"決まり"だ…耐え切れるかな…?1200…っ!!
恐らく、イナトスくんの体重…37.5kgなら、500ccを注入した時点で涙は枯れ…叫ぶことさえままならない…っ!ヒョヒ…意識は朦朧とし…チラつき始める…っ!死神が……っ!!
イナトス:こんな病院…っ!あり得てたまるかっ…!
報告だっ…!報告…っ!
国…っ!警察…っ!なんでもいい…!
今すぐだ…っ!潰してやる…っ!
お前ら、悪魔どもを…っ!!
医者:木村、彼を生贄の座(診察台)に固定しなさい
イナトス:おい、やめろ…っ!俺に触れるな…っ!!
ナース:落ち着いて席に座ってください。他の患者様のご迷惑となりますので…
ナース:……(まだ林を倒すことはできる…まだ舞えるわ)ボソッ
イナトス:(今…こいつ…!)
ガシャアァァン
─イナトス、生贄の座に完全固定・・・っ!!
医者:さて、前置きもこのくらいにして…始めるか…治療を…っ!ニチャア
医者:この針は痛くて、痛くてねぇ〜…ったいていの患者は、刺した時に失禁してしまうんだぁ…もっとも、イナトスくんは今おしっこ出ないだろうけどねぇ…っ!ニチャチャ
それじゃあ…いくよ…っ!
イナトス:おいっ…冗談だよな…っ!?おいやめろ…っ!やめろぉぉぉっ!!
…プッ…ブズズッ…!!
イナトス:うぎゃぁぁぁぁぁあああぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎
ブリブリブチチィィィ‼︎‼︎
─イナトスがこれまでの人生経験から予測していた注射の痛みを遥かに超える激痛…っ!発狂、発汗…っ!イナトスは生まれて初めて、痛みにより排便した…っ!!
医者:おぉ〜〜臭い臭いニョヒヒヒヒっ!!ナース、オムツを履かせてやりなさい…!まだ点滴液は始まったばかりだ……っ!ニィィイ
──軽い気持ちで赴いた泌尿器科で、絶体絶命の窮地に陥ったイナトス…っ!!イナトスは無事ピンチを脱し、家に帰ることができるのか……っ!?
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