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人生のアングラーズロード

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中之島や伝法など、最近はホーム・リヴァーから離れ遠征続きだったが、釣果は皆無

久々にいつもの姫島で釣りをしようと思い、姫島駅へ向かった。駅そばのダイソーで使いもしないルアーをいくつか購入し、ちっぽけな所有欲を満たしたところで、いつものスポットへ到着。

普段は高架より下流、というかほぼ高架下で釣りをしていたが、実際は高架より少し上流側によく釣り人がいる。
理由はおそらく、高架より下流は岩や石が多く非常に根掛かりしやすいが、上流は小さなテトラが並んでおり水深が深く、比較的根掛かりの心配が少ないからだろう。
俺もそっちで釣ってみることにした。

向かう途中、背の高い雑草の隙間に、幾千の釣り人たちが築いたであろう獣道(俺の中の通称:"釣り人達の軌跡"(アングラーズ・ロード))を見つけたので、郷に従い俺もその道から河岸へ侵入していく。

アングラーズ・ロードを抜けると、目の前にクソガキが2人。小学3,4年生くらいだろうか?短い釣竿のようなものをぶん回しながら大声で楽しそうに会話しているので、俺はその子達より少し下流で釣りの準備を始めた。

順調にパックロッドを継いでいく。
しかしうるさい。
こんなに騒いでいたら魚も逃げちまうだろうと思いながら耳をガキに傾けてみると、「ハゲ、ハゲ」と連呼しているのが聞こえる。
俺のことじゃないよな?
そう思いながらしばらく聞いていると、特殊なフロウに乗せた以下の文章が聞こえてきた。

ハゲ ハゲ こんなのやだ
髪の毛 消え去っていく

俺は感動した。
この旋律、そしてこの歌詞は確実にバッハの子フーガト短調の替え歌、通称ハゲの唄だ。

当時俺が幼かった頃──いや、もっと前の世代から受け継がれ続けた最強の替え歌替え歌の王道。いや、クラシックに歌詞をつけているので正確には替え歌ではないかもしれないが、日本の全ての子供達が通る道を彼らは今俺の目の前で歩んでいたのだ。

先人達が口ずさんできた歌詞を俺が口ずさみ、そして現代の子供達もそれを口ずさむ。

歌詞のないクラシックというから"ハゲ"というを生み出し、それを何世代と踏みしめていくことでより強固な"伝統"となる。

これこそ人生のアングラーズ・ロード(獣道)なのではないだろうか。

あ な た に髪の毛ありますか
ありますか ありますか

俺は生の現役のハゲの唄に聴き惚れながら、気がつくと右頬にひとすじの"道"を作っていた。

そして釣りの方はリールがバックラッシュしたので諦めて帰った。

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