鈴木貴男選手インタビュー② 「あの試合に勝っておけば…鈴木貴男選手の後悔。」
この記事は鈴木貴男選手にインタビューをした記事の第2弾です。
第1弾はこちら。
稲本 ちょっと話それますけど、僕がスペインに留学している時に、同じクラブに高校時代のマレーがいたんですね。マレーを教えてるコーチと僕はよく話してて、マレーは絶対強くなるから見ときなさいみたいな感じで言ってたんです。そのコーチに僕はある日声をかけられて、鈴木貴男という選手がいますよねって言われたので、もちろん日本の1位だからって答えると、彼のネットプレーは世界で10本の指に入ると思うか?って聞かれたんですよ。これは引っ掛けだと思ったからイエスって言ったんですね。入ると思うって言ったら、だから稲本お前は駄目なんだと。彼のネットプレーは5本の指に入ってるって言われたんです。
鈴木プロ そういうことね(笑)
稲本 この質問はどういう質問やねんって思ったんですけど(笑)、もう彼のネットプレイは群を抜いてると。ものすごいんだと。だからほんとにトップ20とかにいてもおかしくないっていう風にスペインのコーチが言ってたんですね。僕自身もそう言われるとすごくうれしくて、そのうち(トップ20に)来るだろうみたいな感じで思ってたんですけど。じゃあネットプレーはすごくて、もう一個これがあったらほんとにトップ5にそのまま行けたのにというショットはありますか?
鈴木プロ 僕の中では確かにショットとか、例えば単純にフォアがどうとかバックがどう?っていうのはもちろんそれはあったほうがいいとは思います。僕を見てる人は、もっとストロークがこうだったらとか、もっと逆に体力があったらとか、もっと身長があったらとかっていうこと言うと思うけど……。僕には、この試合に勝てば100位に入れるという試合が3回あったんですよ、それがアレックス・コレチャ戦であったり、チャレンジャーの試合であったりとかっていうのが所々あったんですけど、それをことごとく逃したんですよね。他ではチャレンジャー3連勝、ホーチミン、京都、大阪っていう全く違う場所で暑さもサーフェスも違う所を3連勝したり、アメリカのハードコートシーズンでも4つ優勝したりだとか、そこのところは勝てたけど、100位に入れる試合で勝てなかったんです。多分100位に入ることができれば、逆に僕のテニスはもっとやりやすいんです。100位以内に入ってる選手、もしくは70位くらいの選手のほうが真っ向勝負するんですよ。いわゆるビックサーブ、ほぼビックサーブで。変な話サバサバしてるというか、あんまりなんか泥臭くないっていうんですかね。
稲本 分かります。
鈴木プロ ずる賢くないっていう。すごいレベルは高いんだけど、チャレンジャーの100位とか150位、200位ぐらいにいるやつのほうがリターンをフレームでもいいから返してボレーミスさせてやれとか、なんかそういうふうに僕はすごく感じてて。だからいつもジャパンオープンとかで当たる選手たちはすごくきれいにテニスしてくれるのでやりやすかったし、サーフェスも自分の好きなコートだからやりやすかった。だからそういう部分で100位に入れる試合を逃してしまった後悔を感じてましたね。そこをクリアできなかったことで、足踏みをする時間が長くなってしまって、その間に月日が経ってしまって、やっぱり自分がすごくネットプレーとプラス、ストロークしてても動きが良かったっていうのはそれこそ2000年に行くちょっと前から2000年最初のほうなので、やっぱりその頃の身体能力っていうのはすごく自分でも充実してましたね。だからそこで100位に入っておきたかった。ほんとにもうコレチャ戦で勝ってたら、100位以内にそれなりに定着できた可能性はあったと僕は思ってます。でもまあそうなっていたら、もしかしたらもっと早く現役を辞めてたかもしれないですけどね。
稲本 なるほど。
鈴木プロ 怪我もちょこちょこしてましたけどね。手術はしてないですけど、肩だったり膝だったり背中だったりっていう所をしていました。でも自分でも弱点だと思っていたのは、環境のイレギュラー的なものにあんまり強くなかったかな。いい環境でいい状態でできればすごく自分も気持ちが乗るし、スタイルもハマってくるけど、なんかこう風がちょっと強いとか、それこそ雨が降ったりだとか、レッドクレーでもクレーコートは好きだけど、やっぱり中断があったりイレギュラーがあったりだとか、そういうなんか自分ではどうにもできないところでの我慢強さっていうものは僕は足りなかったと思います。その代わりハマったときは多分とんでもない力を出せる……。
稲本 なみはやドームの時とかもめっちゃ強かったですもん。
鈴木プロ ほんとそうだと思います。速いサーフェスで……。
稲本 僕がなみはやドームで見たときは、スリチャパンに勝った試合でした。
鈴木プロ なみはやドームでやったデ杯だと、パラドーン・スリチャパンとか、ルーマニアだったらビクトル・ハネスクとかアンドレイ・パベルとか、もういわゆる上の選手であっても自分の得意なサーフェスでできて、風もないし太陽もないし、やりやすい環境だったら勝てるっていうのはありました。プロを何年間かやってきて、多分自分はそういうタイプだなっていうのはなんとなくありますね。
稲本 それはもうタイプですもんね。
鈴木プロ もう好き嫌いですね。それも多分ジュニアの時にインドアで半年近くやってた影響が大きいと思います。小さい時に慣れた環境がやっぱり心地いいというか、やっぱり音もいいじゃないですか? インドアコートっていうのは自分のサーブが速く感じるし、ネットプレーに出ても風がなかったらボレーもしやすいしアプローチも簡単にコントロールできるから、ハードのインドアは得意でしたね。
稲本 ストックホルム・オープンベスト8もインドアでしたよね?
鈴木プロ そうです、ハードコートですね。だからもうあの時100番ちょっとでしたけど、全然もうトーマス・エンクウィストとかとやっても……。
稲本 エンクウィストに勝ったんですよね?
鈴木プロ はい、勝った時ですね。
稲本 エンクウィストは8位ぐらいでしたっけ? あの時。
鈴木プロ あの時10番台でしたね。16位とか17位辺りですね。もちろんとてつもなく強い選手で、あの大会でも何度か優勝している選手なんですけど、エンクウィストとかはまさしくそうですけど、真っ向勝負してくるじゃないですか。小細工なんて彼は一切使わない。ビックサーブを叩き込んでストロークでドッカンドッカン打ってくるタイプだっていうのをもう分かってたから、それをなんとかこっちが受け止めることができさえすれば、インドアでハードコートだったら自分のプレーがすごく生きるんじゃないかなっていうのはやる前からなんとなくありました。
稲本 へえ。そういう良い巡り合わせがいつくるのかって分からないから、やっぱりツアーって難しいですね。
鈴木プロ そうですね。
稲本 なんかこう傍から見て分かってるふうな感じだけど、実はもっと複雑なものがたくさんあるんですね。ちょっとした所で100位切るきっかけがあればもっとうまくいった可能性もあったという。
鈴木プロ そうですね。
稲本 そこでちょっとうまく入れなくて、また苦手なサーフェスのシーズンになってとか……。
鈴木プロ そうですね、はい。もうデ杯とか、ジャパンオープでも何度も戦ってるスリチャパンとかもそうなんですよね。スリチャパンなんか僕に真っ向勝負してきてくれるからすごい戦いやすくて。でもやっぱり彼は体格がアジア人の中でもほんとに飛び抜けてたし、どんな環境であってもとにかくハードヒットして自分のテニスをするっていうのを貫いた結果が世界8位、あそこまで行ったっていうのがあります。アジア人は、リー・ヒュンテクなんかもそうだし、今の錦織圭や西岡もみんなそうですけど、彼らのように、もっと自分のわがままさを貫いてもいいんじゃないかなっていうのは思いますね。ちょっと人に言われたとか、ちょっとコーチに言われたぐらいで、考えを変えちゃうんじゃダメじゃないかと思います。逆にコーチもわざと言うことも必要かなって思って。ほんとはそれやってていいんだけど、そういうショット打ってていいんだけど、お前それ駄目だろうって言っちゃうみたいな。そんなことしてちゃ勝てんぞって言われたぐらいでやめるんだったら、多分僕からするとそんなに大したことないんじゃないかなと思いますね。憧れとか自分がほんとにやりたいプレーだって、もしかしたらただ言葉で言ってる、うわべで言ってるだけで、実際はなんか違うのかなって思ってしまいます。
稲本 なるほど。自分の得意をわがままなほどに貫いていくということですね。苦手はおいておいて。そう言えば、スリチャパンってクレーはあんまり強くなかったですよね?
鈴木プロ クレーは苦手ですね。彼はやっぱりハードコートですね。インドアハードがやっぱり強いですね。
稲本 僕、留学中にバルセロナオープン見に行って、スリチャパンいたんですけど、全然やる気なく1−6 1−6とかで負けて帰っていって、やる気ないのかよみたいな(笑)
鈴木プロ 彼はクレーは駄目ですね(笑) イレギュラーがするということと、多分足元がおぼつかないっていうんですかね? 滑る感じなのが……。ハードコートでは彼は結構滑ってボール拾ったりはしますけど、あの感覚とクレーの滑る感覚っていうのは全く違うので、もう完全にハードコートプレーヤー。だから芝生なんかも結構得意ですよね、彼は。
稲本 ウインブルドン結構強かったですもんね。
鈴木プロ うん。ローボールヒッターですね、どちらかというと。高く弾んでくるボールを叩くというよりは、低い所でボールをつぶせるプレーヤーなので。だから、僕なんかとも結構かみ合うというか、かみ合うけどすごい僕好きですね。彼ともやってておもしろいですね。
稲本 うん。なみはやドームの対戦はよく覚えてますね。最後ノータッチエースでしたよね?
鈴木プロ そうですね。
稲本 現地で生で見てました。
鈴木プロ あれはもうちょっと僕の人生の中でもほんとびっくりするぐらいのパフォーマンスですね、あの試合は。
稲本 全豪の話出たのでコレチャ戦(当時世界2位で第2シードのコレチャ選手と全豪の1回戦で対戦)やっぱり聞きたいんですけど、2セットアップでしたよね?
鈴木プロ 2-1ですね。ファースト落として、セカンドとサード取ったんですよ。
稲本 すいません。僕の記憶違いでした。2−1で、サービング・フォー・ザ・マッチありましたよね?
鈴木プロ はい、5-4ですね。4セット目の5-4で僕のサーブです。
稲本 30-15までいったんでしたっけ? そこまでいってない?
鈴木プロ 0-15になって、15オールまでは追い付いたんです。追い付いたんですけど、そこから結局15-40でブレークされて、イーブンに戻されて、タイブレークが確か3-0になった可能性があるんですね。僕のうろ覚えでは。でも僕はなんとなくそこで、ああこれほぼ勝ちだなっていう感じになって、なんか別に気が抜けたわけじゃないだろうけど、なんか変な余裕があったというか、いい余裕じゃなかったですね。油断したわけじゃないんですけど。
稲本 僕の当時は多分雑誌のインタビューで見たのかな? コレチャは貴男のサーブはどうブレークしたら良いのか全く最後まで分からなかったって答えていたんですね。でもとりあえずローボレーをいっぱいさせられたみたいな。僕はすみません、雑誌の記事でしか読んでないので。で、最後ちょっと痙攣しちゃったみたいな。
鈴木プロ 5セット目は後半は動けなかったですね。トップ10の選手と戦ったのは初めてで、しかも5セットを、ああやってトップ選手とやったのは初めてじゃないですかね。僕はもう5セットだろうと、勝つときはもう完全に逃げ切り勝ちなので。2セットダウンしてそこからまくるなんていうことよりは、どんな強い相手でも3セット取りに行くんです。ファースト取ってセカンド落としてとかあんまりなんかないですね。なんか唯一スリチャパンとなみはやでやった時の1日目がダナイ・ウドムチョクとやって、1-2ダウンからの5セットで勝った。マッチポイント取られてたけど勝ったっていうのが僕の唯一の逆転勝ちじゃないですかね、5セットは。それぐらいやっぱり体力でどうこうっていうよりも、もう完全に最初からもうガンガン攻撃していって、先攻逃げ切りっていうことを考えていました。タイブレークに行こうがなんだろうが、3セットか最低でも4セットで終わらすっていうことで。それにスペインのコレチャという世界のトップの選手相手に5セットをまともに打ち合って勝とうなんてあの当時は考えられないですね(笑)
稲本 そうか、なるほど。今の最後の話でも逃げ切るということをネガティブに考えない前向きさ? そのままサーブ&ボレーと言うものを貫くメンタリティに関係してくるのかなって思います。やっぱり子どもたちのキャラクターとか、こう思ってるっていうことをある程度肯定してあげるって大切かなと思います。今のでもそんなん駄目だよ、5セットでも戦える体力をつけるんだみたいな言われてしまえば、しょうがないじゃないですか? 要するにできてない所を言う。あなたこれが駄目、バックが駄目、フォアが駄目、体力がない、メンタルが弱いって言われると、その通りだとみんな思っちゃうんだけど……。じゃあどうしたいのか? 自分のスタイルでフォアをしたければフォアを打てばいいし、今この時代でもボレーしたければボレーすればいいし。返してるだけで粘ってるだけじゃ駄目って言われても、自分がそうしたければそうすればいいし、みたいなところってやっぱり大事ですよね。
鈴木プロ そうですね。だから、ジュニアからしたら自分の性格もそうだし、普段の考え方とか。例えば学校での集団に入ったときの自分の位置だったりだとも意識したほうがいい。何をするんでも、何かしらのスタイルとかあると思うんですよ。子どもって結構せっかちなタイプ、せっかちというかなんでもこう興味わくタイプの子もいれば、全然俺は後でいいよみたいな子もいるだろうし、そういうのって意外とテニスに置き換えられる。やりたいんだったらどんどん攻撃して、ただそういう相手ばっかりではないよっていうのも分かることができたらそれはそれでいいのかなって思いますね。子どもたちは、もっと自分のことをちゃんと理解したほうがいい。例えば、自分のフォアはこのスクールでは結構いけてるけど、大阪の大会行った関西の大会行ったらどうだろう? あっ俺のフォアそうでもないな、でも俺フォア好きだから、よしっフォアどんどん練習するぞ。でもバック狙われたら最低限、例えばスライスで返そうとか。自分で自分のテニスに責任を持つっていうんですかね。ある程度の年齢になったときには、他人から意見を言われてもちゃんと何かしらのことはちゃんと話せるようになってほしい。で、どちらかといえばテニスって他の人と比べやすいスポーツでもあるんですよね。
稲本 なるほど。
(写真 伊藤功巳)
鈴木プロ 他の人が補ってくれないので。例えば、チームスポーツだったら個人的にどこかが弱い部分があっても、他の選手がカバーしてくれるから弱い部分が分からなくなったりする。テニスはもう明らかにバックが弱い、10人中5人があの子バック弱いなと思ったらその他の5人も多分そう思っちゃうくらいもう分かるだろうし、体力ないなって思ったらすぐ分かったりするから。でも逆にないものを補おうとしすぎてもダメだと思うんです。僕もどんなにストロークの練習をたくさんしようが感覚が良くなろうが、元々苦手なものとかあまり自分のテニスに対して大きな武器にならないだろうなって思ったものはどんなに練習しても多分あんま変わらないです。子どもの時から。僕はストロークを打つことは好きですけど、自分のテニスにはめ込むってことを考えるとやっぱりネットプレーをたくさん練習したほうがやっぱり練習でも楽しいし、スライスで打ってごらんって言われたほうが得意になってやってたし。だからそれはプロになっても例えばストロークの練習をクレーコート行ったりしたらやりますけど、結果的にはそれがじゃあ試合の決定的な場面でフォアでウィナー取れるとか、バックのスピンでウィナー取れるっていうふうにはならないと思っていて、それでいいと思うんですよ、僕は。それがなんか、クレーコート行ったからストロークカーになって、グラスコート行ったからネットプレーヤーになってなんてよっぽど器用なやつじゃない限りそんなことはできないし。ロジャー・フェデラーなんかも周りの人はよくオールラウンダーでネットプレーうまいって言うけど、いやフェデラー普通にストローカーじゃないですか?みたいな感じで僕は思ってるんですよね。大事な場面では結局ストロークに頼るもんって。なんか大事なときとかほんとに譲れないときにどういうプレーを選択するかっていうのがその選手の多分一番本性が出ると思っています。
稲本 コレチャとの試合で思い出すのは、もうひとつ同じようなプロの試合で覚えてる試合があって、金子英樹さんとトッド・ウッドブリッジの対戦にマッチポイントがあって……。
鈴木プロ はいはい、勝ちかけたやつですね。
稲本 僕はあれを靭テニスセンターで見てるんですよ。あれ真後ろのいい席で見てて。あれもマッチポイントあってパッシングショットで抜かれて、そこから負けて……。こっちから見てるとあれを勝っていれば金子さんがもっと上まで行けたのかなと考えることがあって。例えば金子英樹さんがウッドブリッジに勝ってたり、鈴木貴男がコレチャに勝ってたら日本のテニスの歴史はあそこで変わってたんじゃないかみたいな。それぐらいまでやっぱり同年代としては思う部分もあって、そういうのってありますか? あの試合がでかかったなみたいな。
鈴木プロ いやあ、やっぱりもうコレチャ戦が僕の中ではもう断トツですね。
稲本 断トツ?
鈴木プロ なぜかっていうと、一番先に来たものだったので。いわゆる僕のテニスの現役時代の歴史の中で一番初めに100位に入るチャンスだったんです。あの頃はまだボーナスポイントもあったので、第2シードのコレチャに勝ったら簡単に100位に入ってたし、4セットで勝ってたら体力的には全然僕大丈夫だったので、2回戦以降もまだ勝つチャンスがあったっていうのを僕はもうその時分かってたし、だからこそやっぱり(その後来たチャンスでもちろん勝ってたらとは今も思いますけど)なんだかんだ言ってコレチャ戦が一番ですね。世界的にやっぱりアピールするためもそうだし、多分日本のファンにもまだあの時は120番ぐらいかな、120番の選手が世界2位の選手に勝つなんていうのはなかなかないことだと思いますし。しかもアジア人がっていう感覚がすごい強かったから。多分人生やり直したいと思ったらあそこが一番なんとかしたいなっていうのはあります(笑)
稲本 うーん! やっぱりそうなんや。
鈴木プロ そうですね。もうあれですね。多分今の錦織世代の人だとか若い世代にはフェデラー戦がどうのこうのなんて言うけど、いやいやもうフェデラーとかは相当後の話であって、いろんなことがあったからああいった全豪オープンだったりジャパンオープンでのフェデラー戦があったのであって、まあ冗談で「ジャパンオープンの時にフェデラーに勝ってたらもう翌日引退してるよ、俺は」って言って(笑)付け加えるなら、もっと勝つことに対して貪欲でも良かったかなあって思いますね。
稲本 もっと貪欲でも良かった?
鈴木プロ うん、プロになった以上は。なんか僕は両立するのがほんとに無理だなって思ってずっとやってたんですよ。いわゆるテニスを楽しむこと、自分のスタイルを極めていくこととと勝ちにこだわることって、もうどっちかを選択するしかないぐらいの感覚でやってたので。だからそれを今思えば、もちろん貫くことは全然やってていいけど、もっと勝ちに対して貪欲で良かったじゃないかなっていうのはちょっと思いますね。
稲本 それは、鈴木貴男のテニスを見てる方にはすごい伝わってきてましたよ。勝つことに対する貪欲さがないっていうのは伝わってきてないけど、貫きたいっていうものはなんかすごい伝わってきてましたね、やっぱり。
鈴木プロ そうですね。だからほんと、場合によってはこの場面ネットプレー使わないほうが勝てるっていう試合が絶対あるじゃないですか。でもそこで僕は、ネットに出て取らなきゃ意味がないでしょ、鈴木貴男は!っていう。逆にネットに出て抜かれたらそれはそれでいいでしょっていう割り切りをしてたんですよね。
稲本 うんうん。
鈴木プロ だから全部の試合がそうあるべきじゃないと思うし、逆に全部の試合で勝ちにこだわりすぎるとネットプレーという選択はもっと少なかったかもしれないですよね。もうだんだんとスタイルが変わってきたちょうど狭間の時代のところですから。だからもう少し自分のスタイルを、これからのほうにシフトしていって、ネットプレーはするけどもストロークをもっともっと磨いてとか、体力付けてなんていうほうに行ってたら、もしかしたらどっかでまた100位切ってたチャンスがあったかもしれないですけど、まあ当時はそうは思えなかったですね。
稲本 なるほど。ほんまちょうど変わり目でしたよね。ティム・ヘンマンとかも急にストロークやり出したりとか。
鈴木プロ そうですね。
稲本 僕は当然ほぼテレビでしか見てないんですけど。急にパッシングショットに対して全ての選手が、昔は手伸ばして抜かれてたのが、手が出せなくなってしまった。飛びつけもせずに見送るケースばっかりになったという印象があります。 あれはやっぱり道具の進化が大きいんですか?
鈴木プロ ラケットはもちろんあると思いますけど、やっぱりストリングですね。ポリエステルが出てきたことによって、ボールをつぶせる。もしくはストリングの形状があることによって勝手にスピンがかかる。要するに振っちゃえばかかる。で、ストレートのパスを外から回すことが、もうフォアは当たり前のようにみんなできますし、当時でもやっぱりそういう選手が多かった。で、アングルショットのスピード感と、あとはサーフェスがちょっとずつ遅くなってきたっていうのはありますね。
稲本 なるほど。
鈴木プロ だからそういった要素が、いろんな要素が絡み合っていた時代だったので、まだサーブ&ボレーを貫いてた選手もいましたけど、今ほど大きな選手がストロークで動けるっていう時代ではまだなかったから、まだなんとかなった。
稲本 そうですね。
鈴木プロ 今は、2メーター近くても普通にナダルやフェデラーと同じぐらい動けるし、もうでかい選手だからといってサーブ&ボレーっていう概念はもう全くないですね、今はね。
稲本 それはやっぱりトレーニングも進化してるっていう? やる事をしっかりやってるから動ける?
鈴木プロ 進化してますね。はい、そうだと思います。もうアスリートですね、今の選手のほうが。
稲本 まあでも当時もめっちゃやってたでしょう? トレーニングは当然。
鈴木プロ トレーニングはもちろんやってはいましたけど、今のような感じではないですね。もう今の選手たちのラリー見てると、逆にそのラリーをずっと高いレベルでやってたら、逆にトレーニングいらなくない?っていうぐらいすごいですよね。練習でのラリーだとかポイント練習が始まっても、サーブだけリターンだけで終わらないので。単純に基準の体力とか動きがもうテニスの練習からトレーニングにもなっていると感じます。もちろんそれプラス、トレーニングは絶対しなきゃいけないんですけど、僕らの時なんかトレーニングやるっていってもテニスはテニス、トレーニングはトレーニングっていう区分けがされてたので、今はほぼ一緒になってますよ。
稲本 なるほど。練習もそれぐらいタフにやってる。やっぱりしっかり足も運ばなあかんし走らなあかんししっかり振らなあかんしっていう。
鈴木プロ はい。もうなんかノーガードの殴り合いみたいな感じですもんね、今のストロークってね、なんか(笑) もちろん駆け引きはあるんだろうけども、ボールを引っぱたく基準がちょっと変わりました。普通のラリーでほんと以前のハードヒットが何発も続いて、しかも決まりそうなボールを取れる選手もほんとに多いし、ストリングの影響やボールやラケットの影響で、もうなんか変な小細工がやれない状況をつくっちゃうっていうか。ボクシングに例えると、ジャブでちょっと打って逃げようみたいな、そういうことする前にフルスイングでお互いやってるもんだから、そんなことやってたらもう絶対やられてしまうっていうようなのが世界の中で当たり前になってるというか。
稲本 なるほど。かなり昔よりもタフになってるっていうことですね。
鈴木プロ タフですね。逆にいうと、失われてるまではいかないですけど、ちょっとおろそかにされてるような部分もやっぱり練習の中とかで出てきてるなと僕は思うんですよ、今の選手たちを見て。例えば、スライスで1球ちゃんと返球しようとか、リターンでもたまにチップ&チャージとまでは言わないですけど、リターンダッシュをちょっと試みようとか。ネットに出たときのポジションだったりタイミングっていうものを、大切にしようとか。もうちょっとレベルが上がれば上がるほど、そういったほんとに細かい所でポイントを取れるかどうかっていうところの勝負になってくるから、そういうところをちゃんと練習しなきゃいけないんじゃないかなっていうのは思っています。今のトップ選手たち、日本の中の選手たちを見てても、あまりにもストロークがうまくてあまりにも練習が、僕自身もびっくりするぐらい良い打ち合いをするので、そういうところも僕らが投げかけてあげるというか、あなたたちのプレースタイルのままでいいから、もしそうなったときにはこういうことやってみたら?とか、こういうことは忘れないでねとかっていうことを僕らが経験してるので、そこはジュニアもそうですけど伝えたいなっていうのはありますね。
稲本 なるほど。ありがとうございます。
編集後記
この回は、最も聞きにくいことを思い切ってぶつけました。100位を切れなかったというのは、鈴木選手にとっても苦い記憶であるにも関わらず、丁寧に答えていただいて感謝です。正直、結構失礼なことを聞いているのかなと、肝を冷やしましたが、スペインでも本当に鈴木貴男選手の評価は高かったんです。だからどうしても聞いておきたかった。
もし100位以内に入れば、真っ向勝負が多いのでもっとやりやすかったというのは、レベルは全く違いますが、スペインに留学していた身としてはうなずけるものがありました。
個人的には、
元々苦手なものとかあまり自分のテニスに対して大きな武器にならないだろうなって思ったものはどんなに練習しても多分あんま変わらないです。
この言葉は、自分のテニスを考える上でも、誰かを指導する上でも気をつけないとなと感じています。第1回のインタビュー編集後記にも書きましたが、テニスはゲームです。ですが、我々日本人は、どうしても弱点を克服することに重きを置いてしまう心の癖があります。
昔から言われるように、得意なところを伸ばすのが苦手です。鈴木選手のように世界トップクラスで努力し続けた選手でもそう感じているのは、とても勉強になります。
また、自分を貫くことと勝つことの狭間の苦悩も興味深く拝聴しました。「もっと勝ちに対して貪欲で良かったじゃないかな」というコメントに関しては、この後のインタビューでももう一度深堀して聞いていくので、楽しみにしてしてください。
第3弾!公開されました。
第4弾!公開されました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。ジュニア育成に関するご質問お待ちしております。