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小説:冷徹メガネと天職探しの旅 第13話


第13話 行動をする
「天神さん待ってください!」
天神さんの歩くスピードは常人の1.3倍はある。地面を滑るように歩いていく。僕は息を切らしながら必死でついていった。額に汗がにじむ。やっとのことで天神さんに追い付いた。
「どこに行くんですか?」
「新宿にいきます」
JR中央快速がフォームにやってきた。お昼の時間帯なので車内は空いている。サラリーマン、学生、高齢者と様々な人が乗っていた。僕と天神さんはドア付近の席に座った。
「なぜ新宿に行くのですか?」
「今日は新宿で転職フェアが開催されています。その転職フェアに行きます」
「転職フェア?」
「企業がブースを出して求職者と直接面談をするイベントです。だいたい100社以上が参加しています」
「100社以上・・・直接面談ってまだ何も転職の準備していないですよ」
「モーニングノートを2週間しっかりやれました」
天神さんは姿勢よく座っている。
「それだけですよ。まだ面接の対策など何もしていないです」
「転職フェアでは企業の説明を聞くのが中心なので、そこまで不安に思わないでください」
電車が新宿に到着した。多くの人が降りていく。天神さんにはぐれないよう必死に人込みを歩いて行った。
新宿駅から徒歩5分のところにあるNSビルが会場のようだ。僕と天神さんはエレベーターで21階に向かった。入口では受付担当者が入場者に名札を渡している。
「あれは何ですか?」
「来場者がどんな経歴を持っているか名札の色でわかるようになっています。我々も受付をしましょう」
何の躊躇も無く受付に記入をする天神さん。僕も見様見真似で個人情報を記載した。受付担当から赤い名札と企業配置地図と説明書を貰った。参加企業は100社以上ある。業種は様々だ。そして5つ以上の企業を周るとアマゾンギフト券が貰えるようだ。
「それでは行きましょう」
天神さんはグイグイと進んでいく。中に入ると人がごった返していて活気を感じた。
「こんなに人がいるんですね」
「転職は普通になりました。転職活動をしているのはあなただけでありません」
「そう考えると少し気持ちが楽になりますね」
「一方でライバルにもなります」
これだけの人数がライバルになり得る現実に少しモチベーションが下がった。
「ここからは別々で行動をしましょう」
「えっ!一緒に回ってくれるんじゃないんですか」
急に不安になった。
「2人で周ると就職の本気度を疑われる可能性があります。転職フェアは会社説明の意味が強いですが、会社側も応募者をしっかりと判断しています」
「ええ!会社側の説明だけって言ってたじゃないですか!何も準備していませんよ」
天神さんは動じない。
「会社側が応募者と対峙できるのは15分程度。そこで完全に判別するのは難しい。しかし服装、態度、話し方、簡単な経歴等で一次面接を通過させても良い人材かは判断ができます」
「どうすればいいんですか?」
「お客様気分ではなく軽い面接を受ける気持ち、もしくは商談時と同じような心持ちで臨んで下さい。ネクタイは曲がってないですか?トイレで一度身なりを整えてきて下さい」
僕は急いでトイレに行って服装や髪型を整えた。
「会社の説明を聞くだけだと思っていたのに」
僕がブツブツと言っていると隣で同じようにネクタイを直している男性がいた。年齢は20代後半、髪は少し長めでお洒落なセンター分けだ。
「会社説明会は0.5次面接も兼ねているから服装を整えるのは大切ですよね」
隣の男は鏡越しにこちらを見て言った。
「そうなんですね、もっとしっかりネクタイ結ばないと」
急に話しかけられたのでドギマギしてしまった。そして天神さんと同じことを言うので驚いた。
「ともに頑張りましょう」
男は軽く笑いトイレを出ていった。

「特に問題は無いですかね」
ネクタイも髪も直したから問題は無いと思うが天神さんの目は厳しいのでドキドキする。
「大丈夫です。説明を聞くときは背筋を伸ばして相づちを入れて話を聞いていきましょう」
「わかりました。まるで営業ですね」
「転職は自分という商品を売る営業でもあります」
自分という商品を売る営業・・・全然自信が無い。
「私は外で仕事をしているので5社以上回れたら1階のドトールに来て下さい」
「5社も周るんですか?」
「5社でも少ないぐらいです。やはり10社にしましょう」
天神さんは鬼だ。
「どんな企業を周ればいいのでしょうか」
僕は反論するのを諦めて天神さんに聞いた。
「業種、職種を絞らずにまずは興味がある会社を5社。その後は業界、職種、条件など優先したい項目が叶えられる会社の説明会に出向いて下さい」
僕は慌ててノートを取り出してメモをした。
「わかりました」
「それでは」
そう言うと天神さんは颯爽と会場を出て行った。ひとり残された僕は何とも言えない不安と孤独を感じた。呼び込みをする人事担当者と会場説明のパンプを見ながらウロウロとする応募者達。僕も会場説明のパンフを見ることにした。業界、業種は様々だ。色々ありすぎて頭が混乱してきたので営業職募集の張り紙を出しているIT系の企業のブースに思いきって座ってみることにした。

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