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冷徹メガネと天職探しの旅 第23話 1次面接

午前中で全ての商談を終わらせて神田駅に向かった。お昼の時間なので駅内は空いている。学生、サラリーマン、母親と子供などそれぞれが違う目的地に向かって行くのが不思議に思えた。神田駅東口の改札を出て蕎麦屋さんでかき揚げそばを頼んだ。そばが来るまで今日面接のある文房具を取り扱うD社の会社HPを携帯で検索していた。頭の中で面接風景をイメージしてみる。天神さんと面接対策もしたし、商談で普通に複数のお客様と話しているから問題ないと自分に言い聞かせた。アツアツのかき揚げそばが出てきたので僕は温度を冷ましながら食べた。
Googleマップで調べながらD社の本社に向かった。D社のビルは年月を感じさせるものだった。5階建てでエレベーターは2人か3人は入れれば良い大きさだ。時計を見て面接時間5分前になったのを確認してエレベーターに乗り込み3階のボタンを押した。心臓がドキドキしているのが感じられた。3階につくと外の外見からは想像できない綺麗な受付と電話が設置をしてあった。
リフォームをしているのかもしれない。受付電話の横にはグッドデザイン賞を受賞した盾と商品が複数個陳列してあった。僕は震える手で総務部へ繋がるボタンを押した。
「総務部 春日部です」
「13時30分から面接の荒田と申します」
声が少し震えていた気がする。
「今から人事担当がお迎えにあがりますのでお待ち下さい」
「ありがとうございます」
僕は背筋を伸ばしてカバンを正面にして待った。数分すると目の下にくまがある50代ぐらいの男性がゆっくりと出てきた。
「荒田さんですか?」
「はい!荒田です。本日はよろしくお願いします」
新卒のように声を張って答えて一礼した。
「人事担当の春日です。よろしくお願いします」
春日さんはゆっくりと頭を下げた。出てきた時のスピードと同じで話し方もゆっくりだった。
「こちらになります」
春日さんはカードリーダーに社員証を掲げた。僕は春日さんの後ろをゆっくりと着いていった。
通された部屋は白のテーブルが中心に置いてあり、オレンジの背もたれが波打つ椅子が4脚置いてあった。壁にはカラフルに複数の幾何学模様が組み合わされた絵が飾ってあった。全て個性があったが不思議と一体感があった。
「少しお待ち下さい」
春日さんが部屋から出ていき、僕は立って待っていた。数分後ドアをノックする音があり小柄な女性が入ってきた。素早い動作で全てがキビキビとしていた。髪は後ろでポニーテールにまとめている。全身統一のグレーコーデ。靴は黒のハイヒール、口紅はあまり見たことが無いオレンジベースだった。
「人事担当の炭道楽と申します。よろしくお願いします」
炭道楽さんはキビキビとした動作で頭を下げた。
「それではお座り下さい」
僕は心臓がいつもより早く動いていることを感じながら椅子に座った。

面接は和やかな雰囲気で進んだ。自己PRなどは無く、世間話から会社の説明、履歴書を元にした質問が続いた。質問内容は天神さんと練習したものとほとんど変わらなかった。僕は質問の意図を考えつつ答えを続けた。面接が進むにつれて人事担当の喋る時間が長くなっていった。天神さんに言われたことを思い出す。人事担当が喋る時間が長くなるのは良い流れである。なぜなら質問をする場合はまだ候補者を判断している状況であり、逆に人事担当が話す時間が長い時は自社アピールをしたい、つまり応募者の意向上げに移っているということです。こちらからの質問も終わり最後にSPIテストをして会社を後にした。面接の感触は悪くなかった足取りは軽かった。浮つく気持ちを切り替えるために次の面接を控える会社のコーポレートページを携帯で確認しつつ、駅へ向かった。
1週間を締めくくる最後の面接は第一志望のY社だ。僕は10分前にY社本社ビルに到着した。見上げると首が痛くなるほどの高さのビルだ。全面のガラスからは各フロアで働く人の姿が見える。どのオフィスも緑が置いてある。正面玄関口から入ると暖かい風が頬を包んだ。急に寒くなった外気との温度差で頬がピリピリとする。社員証を首から下げた人が足早と出入りをしている。僕はY社のある32 階へエレベーターで向かった。心臓はいつもより早く大きく鼓動を刻んでいる気がした。32階に着きエレベーターから降りるとガラス張りのフロアが広がっていた。木目調を基調としたモダンなデザインで仄かなヒノキの香りがした。受付の女性に面接で訪問をしたことを伝える。手のひらにはほんのりと汗が浮いていた。僕は受付の女性の指示に従いスモークのかかった部屋が並ぶ道を奥に歩いて行った。
白を基調とした部屋には無機質なテーブルとイスが4脚並んでいた。僕はカバンから履歴書と職務経歴書が入ったファイルを取り出した。ファイルを掴む手が少し震えるのを見て何故か笑ってしまった。コンコンとノックの音がする。僕は姿勢を正した。入ってきたのは20代の男女だった。ラフなジャケットに白シャツ、ノートPCを抱えていた。自分と同じ年代の面接官が来るとは思わず挨拶の声が上擦ってしまった。
「よろしくお願いします。人事担当の相模です」
男はペコッと頭を下げた。センター分けにしている前髪が揺らいだ。
「人事担当の大泉です」
横にいた少し茶髪の女性も相原さんに続き挨拶をした。会社説明資料は理論整然としており、コーボレートカラーの赤を基調としたデザイン性の高かった。大泉さんが説明の担当をしていた。説明には少しユーモアを含めながらも企業理念を中心とした的確な話しぶりだった。面接は穏やかに進んでいった。面接官の質問に対してその意図を意識しながら回答をすることにした。顔は笑っていたが頭の中はフル回転をしており面接終了後にはどっと疲れが出た。Y社本社ビルを出ると外はすっかりと暗くなっていた。携帯をポケットから取り出し文字入力しようと思ったが寒さで手が上手く動かなかったので何度か手に息を吹きかけた。白い息が手を温めた。浅見さんと天神さんに無事面接が終了したことを連絡した。駅に向かって歩いていると味噌ラーメンの美味しそうな香りがしたので面接を頑張った自分のご褒美だとラーメン屋で味噌ラーメンとビールを頼み1人お疲れ会をした。ビールが運ばれてきた時とほぼ同じタイミングでラインの通知が来ていた。

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