【EVENT REPORT】箱バル不動産×IN&OUT 『HOW ABOUT YOU?』
「自分と街」の関係を考えてきたIN&OUTと、「自分の街」の変化を見つめてきた箱バル不動産。
立場やアプローチは違えど、共に函館という街を軸に活動してきた2つのチームが、2018年3月28日に初めて共同イベントを開催いたしました。
イベントタイトルは『HOW ABOUT YOU?』。
自分たちが一方的に話をするだけでなく、参加してくださった方それぞれが「自分ならどうするか?」という問いと向き合えるような場になればと思って、このタイトルをつけました。
当日は、各チームの成り立ちや活動紹介に続き、「過去編」、「現在編」、「未来編」という3つのパートでトークセッション。
過去編では各メンバーの関係性や学生時代の話、現在編では「誰を〝主語〟にして考えるのか?」という問いかけ、未来編では再考と行動が未来に及ぼす影響などについて話し合いました。
過去と未来、内側と外側、街と人など、様々な視点から函館のことを考え続けた2時間。
その一部をイベントレポートとしてお届けします。
▼登壇者プロフィール
【過去編】与えられるばかりじゃつまらない! 本当に面白いのは〝自分で見つけたもの〟!?
阿部:ではまず、『過去』のパートですが、『与えられるばかりじゃつまらない! 本当に面白いのは〝自分で見つけたもの〟!?』というテーマを設定しています。
IN&OUTが始まったのは2015年の春、ちょうど東京で桜が咲く頃だったんですけど、メンバー間の関係はそれよりもずっと古くて、函館にいた10代の頃からの付き合いなんです。ライブハウスや古着屋で知り合ったのがきっかけで。
箱バル不動産も蒲生と苧坂淳くんは、学生の頃に知り合ってたんだよね?
蒲生:すごく遡ると、僕らが中学生くらいのときって、スニーカーブームとか、裏原宿のファッションが流行ってた時代だったんですよ。函館でも、フリーマーケットとかがけっこう行われていて、中学生とかでもすごく面白い人が出店してたんですよね。
そういうところに遊びに行ってたときに、淳くんが出店してて、僕が買い物したという接点が1度だけあったんですよ。たった1回のやり取りしかしてないんですけど、そのことをすごく覚えていて。
阿部:ちなみに、そのときは何買ったの?
蒲生:adidasのsuperstarだね(笑)。そのときに買ったスニーカーもなんですけど、自分で興味を持った場所へ行って、そこで出会ったってことがすごく印象に残ってて。
阿部:うんうん。
蒲生:それで、一度函館を出て、帰って来たときに、今の箱バル不動産がやってるようなことというか、「西中の苧坂が、古い建物をリノベーションしてお店をやってるらしいよ」っていう話を聞いて。それで会いに行ったのが、淳くんとの再会のきっかけでした。
阿部:その淳くんがやっている『tombolo』というパン屋さんをリノベーションしたのが、当時まだ修業中の富樫さんだったんですよね。
苧坂:そう、そう。
阿部:箱バルも、チームとして始動する前からそれぞれ接点があって、しかも、やっているコトとか好きなモノが近いという共通点があったってことですね。こういうことやりたいから、急に人を集めましたってわけじゃなくてね。
蒲生:何かの募集枠みたいなものがあって、そこに集まったんじゃなくて、〝自分たちで見つけて会いに行った〟みたいなのが3人の共通点なのかなって思ってて。
淳くんは修行を積んでいたルヴァンっていう東京のパン屋さん、富樫さんは建築家の師匠を自分で探して会いに行って。僕は僕で、tomboloの話を聞いて淳くんに会いにいったり、「西部地区で古い建物を自分で直している面白い建築家がいるから、会いに行ってみたら」って教えてもらって、富樫さんに会いに行ったりしてて。それぞれ会ったときから、感覚的に面白そうっていうのがあって、そのうちに自分がやりたいものがはっきりしてきたときに、2人に真っ先に声をかけにいったっていう感じです。
阿部:まさに、テーマにあるように「与えられたものより、自分で見つけたものの方が面白がれる」っていう感覚ですね。そういう中で箱バル不動産の関係性ができあがっていったと。
「自分で見つけた関係性」って話でいうと、馬場と蒲生も学校は違うけど、昔一緒にバンドをやったりしてたよね。
蒲生:高校生のときにね。それもまた、フリマの話なんですけど(笑)。
一同:(笑)。
阿部:フリマから始まってるね、いろんな関係性が(笑)。
蒲生:フリマに行ったときに、僕の同級生が馬場を紹介してくれて、そのときに「バンドのベース探してるんだ」って話をしたんですよ。馬場はギターを弾いてたんだけど、「ベースやってくれない?」って聞いたら「まぁいいか」みたいな感じで、「やるよ!」って言ってくれて(笑)。
馬場:(笑)。
蒲生:それも、当時、自分たちの好奇心の赴くままに、やりたいことをやっていた中で出会った関係性ですね。
阿部:そこで馬場を誘ったのは、楽器ができる、できないって部分ではなく、感覚的に合いそうっていう予感があったから?
蒲生:会って話したときの感覚ってあるじゃないですか。「この人ウケそうだな」みたいな感じとか。それだけじゃないですけど、当時出会ってた人たちが今、西部地区でお店をやってたりするんですよね。やっぱり当時から近い感覚を持ってた人と仲良くなってたのかもなって思ったりはします。
学校みたいに、あらかじめ枠があるところとは違った場所で見つけた関係性とかモノって、なんか特別な存在に思えて。特に、まだ若かったので。
阿部:「俺たちだけが知っている」みたいなね。
蒲生:そういう感覚も手伝って、どんどん盛り上がるし、何でもできちゃうみたいな気持ちになってね。今でも、そういう初期衝動みたいなものは大事にしていて、あの時代にそういう経験をできたから、たぶん今でも「自分でやってみよう」と思えるようになったのかなって。
阿部:バンドではなく不動産というかたちにはなったけど、DIY精神というか、好奇心に従って物事を始めるみたいなアプローチは今も変わっていないという。
蒲生:そうですね。
蒲生:ちなみに富樫さんは、そういう初期衝動みたいなものってあります?
富樫:最初に働いていた会社が公共建築とか、大きな建物設計してる会社だったので、お客さんの顔が見えなかったんですよ。だから、「誰のために建てるんだろう?」みたいな感覚があって。結局、半年で辞めちゃったんです。それで、「俺は一人で独立するんだ!」みたいな気持ちでいたんですけど、いざ住所不定無職になったら、何もできなくて。自分なんてちっぽけなんだなって。
それで、やっぱり本当に自分が作りたいものを作ってる人のところに行って弟子入りしようと思って、手紙を書いたんです。「弟子にしてください。お金はいりません」って。
阿部:はい、はい。
富樫:本当はいるんですけどね、お金(笑)。
阿部:ないと困りますもんね(笑)。でも、熱意を伝えるために、そう言って。
富樫:そうですね。それで夜はバイトしながら、師匠のところではすべてを吸収して帰るみたいな生活をしてました。
阿部:まさにさっきの話にあった、「募集があるところじゃなくて、自分の興味に従って、好きなところに向かってく」という姿勢ですね。
富樫:自分が居たいところに、まず身を置くみたいな感じでやってきましたね。
阿部:淳くんは、何か自分が突き動かされた衝動みたいなのは?
苧坂:僕の場合は、それこそまたフリマに戻るんですけど(笑)。
阿部:でた(笑)。
苧坂:フリマって、自分が持っていった物をいくらで売ってもいいわけじゃないですか。そこで、自分で値段をつけた物が売れたっていう体験が嬉しいし、衝撃で。それが、どこかに残ってたのかもしれないですね。
それだけじゃないと思うんですけど、「自分で仕事を作って、自分の居場所を作る」という意識はありましたね。大学の就職活動にのりきれなかったっていうのもあるけど、自分が居心地のいい場所をゼロから作る方が楽しいだろうなと思ったので。そういう初期衝動があって、そこから「自分には何ができるだろう?」って考えていく中で、パン屋ってのがあったんですよ。だから、パン屋になりたくて製菓の学校に行ったとかいうわけではまったくなくて。
阿部:自分で仕事や生活をコントロールするための働き方っていうことで、辿り着いたのがパン屋さんだったと。
苧坂:そう。その結果が今なんですけど、そういう過程を経てきた3人が集まって、箱バル不動産をやっていれば、多分そういう方向性にいくだろうなとは思ってて。
阿部:「自分たちの興味に従ってやっていこう」という方向に。それが具体的にいうと、古い建物を魅力的に再生して、自分たちが好きな街の景観を守ろうという方向に進んだってことですかね。
苧坂:「街を良くしたい」っていう、〝良い子ちゃん〟みたいな感覚は、実はあまりなくて。どっちかと言うと、「自分たちがこういうことをしたい」とか、「休みの日に行けるこんな店があったらいいな」とか、そういう欲っぽいところから始まってるっていうのがあるかもしれないですね。
阿部:初期衝動の話でいうと、馬場はどういう捉え方をしてる? もともと函館で幼稚園の先生をしていて、それからアパレルの仕事がしたくて東京へ出て、今はフリーでカメラマンをやってるという経緯だけども。
馬場:「自分の初期衝動って何だろうなぁ?」って思い返すと、高校生くらいになって、周りのことをすごく意識するようになったときに、自分の好きなものが明確になっていったなと思って。音楽とかファッションとか、自分の知らないかっこいいものを知ってる人が周りにどんどん増えてきて、「それかっこいいね!俺にも教えて!」とか言って、気の合う仲間が増えていったんです。
僕の場合は例えばバンドで。自分が好きだと思えることを、趣味の合う友達と一緒にやるっていうのがこんなに楽しいんだっていう経験があって。「好き」って気持ちに忠実に従った結果、「楽しい!」っていう経験ができたりとか。後々になって思い返すと、あれが初期衝動だったんだなって思うかな。
僕はフリマでっていう話はないんですけど(笑)。
一同:(笑)。
馬場:IN&OUTに関して言えば、最初は阿部くんに声をかけてもらったのがきっかけで。「函館出身で今は外で活躍している人と、外から函館に行って活躍している人の話を聞くメディアをやりたい」ってビジョンを伝えてくれて、「写真撮ってくれない?」みたいな感じのスタートでした。
僕らは東京でもよく会っていて、「函館帰りたいね」とか「あいつと遊びたいね」って話をしてたんです。そういう中で、東京にいながらも函館と関われるみたいな活動を始めた感覚は、10代の頃にあった「友達と一緒に面白いことをやる」って衝動とすごく近いなって思います。
阿部:宗平は大学のときにラグビーで日本一になって、Microsoftに入社して、今は別の会社で会社員として仕事をしているけど、初期衝動に向き合う機会っていうのはある?
若山:仲間と一緒にやることの楽しみとか、そこに対する衝動は一緒かな。もともと目標に対してチームで向かっていくプロセスが好きだし。ただ、大学のスポーツ部活とかは「試合に勝つ」とか「日本一になる」っていうわかりやすい目標があるから、お互い意思共有はしやすいんだけど、会社とかになると人それぞれのやりがいとかって違うから、そういうときにお互いのやりがいとかを尊重し合いながら、一緒の目的を作っていくのは大変だけど、仲間と一緒に楽しむってことが根本かなぁと感じてます。
だから、俺の場合でいうとIN&OUTをやり始めたのは、地元の友達と、ただ函館のことを思い出しながら、昔の話とか仕事の愚痴を言ってるのってすごく無駄な時間に思えたからっていうのもあって。この活動は、お金が発生してるわけじゃないけど、スポンサーもいない中でチームとして挑戦するっていうのは価値があると思うし、続けることにも意義はあるんじゃないかなと。ただ、今後、明確な目標・目的はやりながら見つけていきたいと思っています。
阿部:うんうん。それぞれの話を聞いていて、「こういうことしたい」とか「こうありたい」とかいう、個人の想いというところから始まったのが、この2つのチームの共通点かなと思いました。
はい。ということで、過去編は、我々の関係性や初期衝動、行動の動機といったテーマの話でした。
【現在編】「世のため、人のため」は本心か?
阿部:続いては、『現在』のパートです。「『世のため、人のため』は本心か?」という少し挑戦的なタイトルをつけていますが、最初のトピックスにあげてある「誰を〝主語〟にして考えるのか」というところから話を始めていきましょう。
「自分で探して、会いに行く」とか「自分はこうあってほしい」という話にあったように、箱バル不動産の3人は「私」、つまり「I(アイ)」を主語にしてチームの活動をしているということでした。
IN&OUTは「Uターンを考えるにあたって、実践者の人たちのリアルな声を聞きたい」という僕の個人的な動機からスタートしていますが、メンバーそれぞれが「自分だったら何をするか」や「自分はこういうところに興味がある」という感覚を持って活動をしています。同じく「I(アイ)」を主語にして。
阿部:僕らは「函館を盛り上げるための活動ですか?」とか「函館のために頑張ってるね」とか言ってもらうことが多いんですけど、今お話したように、そもそもの出発点は〝個人的な興味関心〟というところなんです。IN&OUTをやっていることで、結果的に函館にいい影響があれば嬉しいなとは思いますが、「函館のため」というように主語を「街」にしちゃうと、ちょっと話が大きすぎるというか。そういう感覚があるんですよね。使命感よりも、興味が原動力になっているという感じなんです。
世のため、人のための活動っていうのは、すごく尊いことだと思うんですけど、僕はどちらかというと、「自分が面白いと思えないと続けられない」という気持ちがあるんです。そのあたり、箱バルチームはどうですか?
蒲生:僕は今の話でいくと、〝自分〟が主語ではなく「街のため」ってなってくると、そもそも、どんな街でありたいかなんて、ひとりひとり違うと思うんです。僕らが、こうやって「古い建物が好きなんです。残したいんです」って言っても、一方では、「そういう風潮がまちの発展を妨げたんだ」って言う人もいるはずなんですよ。
これがもし、民間じゃなくて行政の立場だったら、〝自分のため〟みたいなことはやれるわけないと思うんですけど、僕らは「自分たちができる範囲の中で、こうあってほしい」ということを意識してやっているので。
もちろん箱バルは、すごくたくさんの方々が協力してくれたからこそ成り立ってるチームではあるんですけど、それは本当に共感してくれる人が、みんなでひとつのことを成し遂げてこうって方向でやってるだけで、世のため人のためっていうのとは、ちょっと違うんじゃないかと思うんですよね。どちらかというと、自分たちのためっていうか。
そうじゃないって思う人は、そうじゃないって自分で思っていることを実現するために頑張ればいんだし、僕らは僕らでこうしたいと思うこと頑張ればいいのかなって。「みんなで仲良くやっていこう!」っていうより、そっちの方がいいんじゃないかなっていうのは思います。
阿部:「そっちの方がいいんじゃないかな」っていうのは、「みんなで手を取り合って頑張りましょう」ではなく、自分の行動指針に従ってアクションを起こす人が増えていった方がいいっていうこと?
蒲生:いろんな人が混じるってことは、いろんな人の意見が出てくるわけじゃないですか。それを全員で統率しようというのは、それだけで時間かかるし、っていうか多分不可能だから、そこ目指さない方がいいだろうなって。
だから、さっき阿部くんが言ったみたいに、「いやー、街のために頑張ってるね」って言ってもらうのは嫌な気分はしないんだけど、そのためにやってるわけではないんですよ。
苧坂:でっかい力で、「こういう街を作っていくには、こういう方法が正解ですよ」っていうものがあるとしたら、それに対して隅の方からちょこちょこって作ってくようなやり方というか。そういうやり方を、僕らは面白いと思ってやってます。
箱バルじゃない人たちが、「俺たちはこうやっていきたいと思ってるんだよ」っていうのがあれば、それはその人たちが実践すればいいと思うし。「みんな違って、みんないい」みたいなのが、結果的に、まちづくりになってればいいのかなっていう想いですね。
「街のことを考えるなら、それは箱バルさんに頑張ってもらえばいいんじゃない?」っていう風には、僕たちもなりたくないし、同じ函館に住んでる人たちにもなってほしくないですね。「これが正解だ!」って僕らも思ってるわけではないから。
蒲生:今の話に戻ると、実は焦ってる部分もあって。なぜかというと、西部地区では建物がどんどん壊されているんです。しょうがない部分もあるんですけどね、倒壊の危険があったりだとか。
建物を修繕するにはお金もすごくかかるし、僕らが残したいと言ったからといって必ずしも残せるわけじゃないってことはわかってるんだけど、「いや~あれ、もったいなかったな」みたいなことはやっぱりあって、なかなか追いつかないんです。そうやってどんどん街が変わっていくから、急がないと、僕らがこうなってほしいっていうのは実現できない可能性もあるので。だから、ちょっと急いでる部分っていうのはあります。
富樫:特に建築やってる人が少ないんですよね、函館は。そもそも、函館のこの小さな町にこれだけ素晴らしい建物がいっぱいあるっていうこと自体が、よくよく考えたら奇跡に近いなと思っていて。そういう建物が昔建てられたんだけど、今は逆に建築に関わっている人が函館にまったくいないんです。そのことに、僕は函館に来てみて、すごく驚いて。
だから「誰もやらないんだったら、もう僕がやるしかない」っていう気持ちで始めたんですけど、そういう気持ちの建築家がいっぱいいたら、たぶん僕は古民家ばっかりはやってなかったと思うし、これからもそういう人たちがいっぱい現れたら、やらないんだろうなと。人と同じことをやるのは好きじゃないので(笑)。だからもっとこう、プレーヤーが増えてほしいという想いはありますね。
阿部:IN&OUTに関して言うと、「街に関することをやってるわけだし、助成金の申請してみたら?」みたいなことを言ってもらうこともあるんです。だけど、そもそもが、お金稼ぎのために始まったことではないというのと、あとはその、例えば出資してくれる人がいたりしたら、その人の意向をちょっと汲まなきゃいけないとか、人選に関しても中身に関しても、そういうことを考えるのは、始めたきっかけとはズレが生じてくるよなって。
ひとつの表現活動でもあると思っているので、その部分にはあまり干渉されたくないという気持ちがあるんです。もちろん、それによって自分たちの活動の幅を狭めるというリスクもあると思うんですけど。
馬場:僕ら3人は今東京に住んでて、お互いの家もけっこう近いので、その日の夜に「じゃあ集まろうか」ってこともできるんです。今だったらスカイプとかを使ってミーティングとかもできるんですけど、やっぱりこう面と向かって話したほうが、話がしやすいし、話も進みやすいってのがあって。そういう意味では…あのぉ…。
阿部:急に失速したね(笑)。
一同:(笑)。
馬場:え〜っと…
阿部:お金のこととか、干渉されずに活動するとかっていう話だったけど。
馬場:あー、そうそうそう!だから、「お金もらわないとやってられないよね」っていうのも全然ないですね。すごい自分のためにもなってるって実感があるので。
阿部:ただ、自分たちが納得のいくかたちで、利益を出せる方法は考えたいなとは思ってます。それによって、できることも増えていくはずだし、チームとしても成長したいと思っているので。
馬場:そうだね。
阿部:現在編の目次にある、「選ぶこと、片寄ることを恐れるな。それはきっと価値になる」っていうのは、事前打ち合わせの中でちょっと話題になったことなんですけど。
箱バル不動産は、こうやって建物を改修して、再生させるという活動をしていますけど、やっぱり古い建物って愛着を持ってる人が少なからずいると思うんですよ。だから、改修工事とかに対しても、ポジティブな意見だけじゃなかったりもするのかなと思って。
蒲生:まぁ、あのー、SNSの社会じゃないですか。
一同:(笑)。
蒲生:見たくないものも見えたりするってことはあるわけですよね。そういうとき、まったく気にしないってのも嘘なんです。
阿部:批判的な意見とか耳にするとね。
蒲生:そうそう。それで、「正しいことって何?」とか考えだしちゃったりするんですけど。
でも、僕らは、クラウドファンディングをやらしてもらったんですよ。SMALL TOWN HOSTELの宿作りの際に。そのときに、支援してくれた人から、応援コメントっていうのが届くんですけど、それを見たときに、さっきも言ったけど、「みんなにとって正しいことなんて、探ってもしょうがない」って思ったし、これだけ賛同してくれる人とか、応援、期待してくれる人がいるんだったら、そんなことで立ち止まっていられないって気持ちにもなって。
もう、やるって決めたんだし、続けるための努力とか、そういうことだけ考えていかないと、なんかもう、この街に住めねぇなみたいな(笑)。
阿部:それくらいの覚悟で挑まないと。
蒲生:そういうプレッシャーはけっこうあって。「どえらいことに、身の丈にあってないものに手出したな」みたいなのもあったんですけど(笑)。
阿部:引き返せもしないし(笑)。
蒲生:もう行くもジゴ…。あ、これは違うか(笑)。
一同:(笑)。
蒲生:もうとにかく、「恐い」っていうのを振り払うように進むしかないっていうか。
阿部:結果的には、やってよかったなって気持ち?
蒲生:今はやっぱり、その都度都度、やってることに対する反応が目に見えたりとか、声かけられたりすると、「もっともっと、その先に行きたい」みたいなふうに思いますね。
富樫:ふふふ(笑)。
蒲生:え、なんですか(笑)。
阿部:富樫さん何か意見がありそうですけど(笑)。含みのある笑いが。
富樫:いやいや。今は、期待の方がすごく上回っていて、「次は何するの?」みたいなことを言われる機会が多いんです。今やってることが大事なんだけど、その先をみんなから求められるみたいな。そっちの方が、今は逆に困ってることかもしれないです。
阿部:逆に困ってる(笑)。期待が多くて。うんうん、なるほど。
そういうふうに自分たちの気持ちを強く持って、できることをやってきた結果が、今の活動に繋がっているってことですね。
阿部:IN&OUTは、最近ウェブサイトをリニューアルしたんですけど、その前は1年ほど止まってた時期があったんです。その期間は、続けることの難しさをすごく感じる時期でもあったんですけど。
若山:僕らは函館出身ですけど、今は東京に住んでいるんで、やっぱり「おめぇ東京にいんのに、なに函館のこと語ってんのよ」みたいな反応ってのもあったりもして。だけど、やっぱり行きつくところは、「函館好きだからいいべや!」っていうところしかないんだけど。
あとは、インタビューするってことは、その人の半生を伺って、インターネット上に公開することだから、そこにもやっぱり覚悟が必要だなって。その覚悟の取り方をどうするとか、見せ方をよくするためにはどうしたらいいかってのは考えたよね。なので、この期間はずっと停止してたっていうよりかは、「僕らは何ができるんだろう」っていうことをずっと話してましたね。
会社に例えて言うと、ビジョンや理念があった先に実現したい目標があって、必要とされる人にサービスを届けるっていう型があると思うんだけど、じゃあ、インタビューは公開した先に何があるんだろうとかね。外側と内側の意見があるから、どうしても相反してしまうところはあるし。
阿部:内側と外側っていうのもそうだけど、最初からコンセプトとしては「函館最高!」って手放しに褒めちぎるんじゃなくて、「函館ってこういうところは本当にいいけど、こういうところ物足りないよね」っていう両方の意見をちゃんと聞こうっていうのはあって。
若山:そうだね。インタビューはフェアなスタンスでいるっていうところだね、一番は。なので、現時点では、そういう姿勢で活動を続けるってこと自体に意義があるんじゃないかって思いながらやってますね。
阿部:箱バルチームは、続けることの意義とか難しさってことに関しては何かありますか?
蒲生:やっぱり、時間っていうのはすごくかけてしまうじゃないですか。そこにお金が発生していなくても。だけど、続けようとしたときに、そこにかけた時間でお金を稼げてないと、たぶん続けられないなと思ってて。ただ、そこに結びつくまでが、簡単じゃなかったりするんですよね。建物を直すって、単純に考えてもすごくお金がかかることなので。
僕らの場合は、かけちゃってる時間を、いかにして稼ぐ方向に変えるかってことを絶対にやらなきゃいけないんです。
阿部:富樫さんも以前、自分の仕事も忙しいのに、箱バルにも関わってるから、「めちゃめちゃ忙しくて大変」みたいなことをポロッと言ったときに、奥さんから「好きでやってんでしょ!」って言われたって話をしてましたよね。
一同:(笑)。
富樫:そうですね。でも、何も言わずに応援はしてくれてるんです(笑)。やっぱり「好きでやってんでしょ!」って言われると、「あぁ、そうだな」って思いますよね。
阿部:いいエピソードだなぁ。やっぱり、好きで始めたことだし、好きっていう気持ちがあるからこそ続けられるっていうね。
富樫:そうですね。でもだからこそ、箱バルの活動で稼ぎたいなっていうのは思っていて。良い子ちゃんになりたいわけじゃないし、ただ単に、それがどうやって、お金をいただけるものになるかっていう活動を常に考えていますね。
蒲生:僕らが、それをできなかったら、さっき言ってたようなプレーヤーって生まれてこないんじゃないかなって思ってて。
阿部:「あの人たち面白いことやってるけど、食えてないじゃん」みたいになるとね。そうなると、「自分もやってみよう」って後に続く人は出てきにくいよね。
以前、淳くんにインタビューしたときにも、「自分がやることは突き詰めてやろうと思ってるけど、ちゃんと稼いで生活が成立してるってとこまで含めてやりたい」っていうような話はしてたよね。
苧坂:なんかこう、自分で仕事を作って暮らしていくってことを、次に真似してくれる人が出てきてほしいなって思うんです。
でも、自分で仕事を作って生活してて、すげえボロ着て、貧乏してるってなると、誰も真似したくないんじゃないかなっていうのがあって。別にいい車に乗って、いい服を着てっていうことをしたいわけじゃないけど、ちゃんと遊んだりもしてるし、自分で仕事を作って暮らしてても、そういうことはできるんだよっていうのは、意図的にでも見せたいなっていうのは、ちょっとある。箱バルの活動でも。
蒲生:チームのことでいうと、僕ら3人は、それぞれ仕事が違うから、生活の時間軸も違うんですよね。
淳くんは、店舗に立つっていうのが主な暮らし方だし、パン屋さんは朝も早いから、あんまり夜は連れ出さないのにしようとかね(笑)。そういうバランスのとり方は気を付けるようにはしています。だけど、淳くんがいつもお店にいるおかげで、箱バルのことに興味を持ってくれた人がtomboloを訪ねてくれたりってこともあって。実際、箱バルが関わって、お店を開くに至った人って、ほとんどtomboloが入口になってるんですよね。
阿部:『Transistor CAFE』のノブさんとかもそうだもんね。
ということで、現在編は、誰を〝主語〟にして考えるのかってことや、批判を恐れず自分たちでやれることからやってみたというお話でした。
【未来編】自分に何を問うかが、街の未来を形づくる
阿部:最後は『未来』のパートです。「自分に何を問うかが、街の未来を形づくる」っていうタイトルで、ちょっとわかりにくいかもしれないですけど、簡単に説明します。
僕はIN&OUTだけではなく、普段の仕事でもインタビューをよくやっているんですけど、インタビュアーの仕事って質問を投げかけること、つまり相手に〝問う〟という作業がメインなんです。それで、〝問う〟って行動はすごく面白いなって思ってて、なぜかと言うと、〝問う〟ってアクションには〝相手が思わずそのことについて考えてしまう〟という作用があるんです。
身近な例で言えば、友達とかに「今日何食べに行く?」って問いを向けられたら、「ん〜」って考えるじゃないですか。これはすごくシンプルな例ですけど、面白い問いを投げることで、思いもしない答えが返ってくるみたいなところがインタビューの醍醐味だと思っているんです。
その問いを投げかける相手は、必ずしも他人じゃなくてもよくて、それを自分に向けると、自問自答が始まるんですよね。そういうふうに、〝考えること〟の出発点には〝問い〟があるなって思っていて。
何かをやるっていうことは、「何のためにやるのか」とか、「どんな風にやるのか」といった問いと常に向き合うことでもあると思うんですけど、個人的にはIN&OUTをスタートさせて、人とか、街とか、暮らしに対する問いを、取材対象者の方と同時に自分にも投げ掛け続けた結果、離れていながらも函館のことを自分事として捉えられるようになったんです。それが、このパートの最初のお題にあげた、「活動を始めてから感じている自分たちの変化」という部分なんですけど。
馬場:IN&OUTを始めてからの変化ってことで言えば、僕は東京でやっているインタビュー取材では、基本的に阿部くんの横で写真を撮っているんですけど、投げ掛けられた問いに対して、対象者の方が考えながら答えを返すっていうやりとりを、平均して1時間半とか2時間くらい見てるんです。
記事を読んでもらうとわかるんですけど、インタビューでは対象者の方の過去・現在・未来に関する話を伺っていて、そこでやりとりされる問いに対して、僕は写真を撮りながら「自分だったら、どうだろう?」って考えたりしてるんですよね。「俺だったら、その選択はできないかもな」とか、「そういう場面だったら、こっちに進むだろうな」とか、自分を投影させながら。
僕は今、東京で生活しながら「函館に帰りたい」って強く思ってるわけではなく、どちらかというと、今やってる仕事、今やってる暮らし方で、どうやったら東京でもっと楽しく生きていけるかっていうのを考えているんです。けど、IN&OUTをやってなかったら、今みたいに函館のことを考えることもなかっただろうし、函館に対する考え方も全然別になってただろうなとは思います。そこは、活動をやってきたことによる変化ですね。
阿部:箱バル側は、何かありますか? 活動を始めてから変わったこと。
蒲生:始めてからというよりも、もうちょっと前に遡った話なんですけど、昔は仕事を探すときに、条件とか見て選んだりするタイプだったんですよ。「給料はいくらなんだろう?」とか、「休みはどれくらいあるんだろう?」とか。そういう中で働いてたんですけど、そのときって「あと何時間で仕事終わるー」みたいな感覚で毎日暮らしてたんですよね。週末の休みが終わると、「うわー、明日からまた仕事だぁ…」とかって。なんていうか、外的要因によって自分をコントロールされてたというか。
だけど、自分で何かを始めたりとか、そのことに責任が伴ってくればくるほど、時間の感覚が逆転していく感じがありますね。
蒲生:僕ら、SMALL TOWN HOSTELでは、「暮らしを見つける宿」ってコンセプトを掲げてるんですけど、そこには「西部地区の、建物をすごくかっこよくしてお店をやっている商店主の方たちの暮らしを見に行って欲しい」っていう想いを込めているんです。そういう人たちって、自分の仕事がイコール暮らしみたいな感じになっていて、それがすごくかっこいいなって思うんです。自分の好きな生き方を体現してて、そこに人が来ることができる場を提供してくれているっていうのが。
「仕事=暮らし」ってことを体現しながら、一生懸命生きているというかっこいい人が増えていってくれたら、僕らが目指している街の姿にちょっと近づいていくんじゃないかなって思ってます。
阿部:そこで暮らしている人たちの時間の感じ方とか、仕事に対する意識が変わることで、街の姿も変わっていくんじゃないかと。
一方で、「仕事=暮らし」っていうのを体現してきた小さなお店が、惜しまれながらも閉店していくということもあるじゃないですか。それがニュースになると、人がバーって来て、「辞めないでほしいです」みたいなことってあると思うんです。そういうのを見てると、もっと早くたくさんのお客さんが来ていれば、閉めずに済んだのかなって思うこともあったりもして。
蒲生:もしかしたらね。まぁ、理由は色々あると思いますけど。
僕も、大きなチェーン店にも行くので、あまりかっこいいことは言えないんですけど、さっきの意識の変化って話の中で、自分がそういう小さい商いを始める側の人間になったときに、やっぱりお客さんが来てくれる、来てくれないっていうのは、すごく大きな問題になってくるんですよね。
それがわかったときに、お店をやってる側の人には失礼に聞こえてしまうかもしれないですけど、好きだって気持ちが根本にあって、長く続いて欲しいから、なるべく行くようにしようって考えるようになりました。あそこでこれくらいお金を使うなら、それを我慢して、こっちでなるべく食べようとか。
そういう意識の変化っていうのも、小さなものが重なっていけば、街の大きな経済循環も変わってくるんじゃないかなって思うところがあって。だから、時すでに遅しになる前に、意識が変わっていくと、食い止められることもあるのかなって。
阿部:好きな店に行って、物を買うとか、食事をするっていうのは、結果的にはそのお店の支援っていうか、支えることにはなってるはずだもんね。閉店することになって慌てて行くんじゃなくて、大好きな店に足繁く通うことが、結果的にその店を長く続けてもらえるという未来に繋がるってことはあるよね、きっと。
蒲生:ある意味当事者意識っていうかね。今回のイベントのサブタイトルにもなっている『再考と行動』じゃないですけど、「あの店が大好きでずっと続いて欲しいから、できるだけ行くんです」みたいなね。そういう小さな意識の変化が、街っていう大きなものの在り方にも少なからず関わってくるのかなって。
阿部:お店とかに関わらずね。
それが、未来編の目次にも掲げた「意識が変われば、見え方が変わる。見え方が変われば、行動が変わる。行動が変われば、自分が変わる。自分が変われば、街も変わる?」っていうところですね。だからこそ、「自分に何を問うかが、街の未来を形づくる」というテーマのお話でした。
阿部:で、その下の目次にある「外から街に関わることはできるのか?」っていうのは、主にIN&OUT側の話ですね。先ほどもお話させてもらったように、僕は個人的に「函館にUターンすることについていろんな人に聞いてみよう」という動機でIN&OUTを始めたんですけど、いろんな人の話を聞いているうちに、やっぱり函館に帰りたいなって思うようになったんです。具体的にはライターとして、2020年の東京オリンピックの仕事をやりたいっていう気持ちがあるので、その後にと思っているんですけど。
それで、すごく身勝手な話なんですけど、やっぱり戻ってきたい街であって欲しいなという願望があるんです、函館に対して。
僕が函館を出ようと思った理由は、簡単に言うと都会への憧れだったんです。高校生のときは、好きな服が買えないとか、行きたいライブに行けないとか、函館ってすごく選択肢が少ないなって思っていて。だけど、IN&OUTの活動を通じて、いろんな人に話を聞いているうちに、〝選択肢〟に対する考え方が変わってきたんです。
10代の頃は、選択肢が多いことが豊かな環境だと思っていたんですけど、今は数ではなく、絶対的に信頼できる選択肢がひとつでもある環境の方が豊かだなって思うようになって。例えば、不動産のことだったら蒲生に聞けば間違いないなとか、花のことだったらあの人にお願いすれば絶対に素敵なものを作ってくれるとか、そういう信頼できる選択肢が函館には増えているなって感じているんです。だから、やっぱり戻ってきたいなって。
阿部:それで、「外から街に関わることはできるのか?」ってところに戻るんですけど、IN&OUTはインタビューを通して、「内と外という2つの視点を持った人たちの体験談が、人生の岐路に立っている人たちの背中を押してくれることを願っています」というビジョンを掲げているんです。そこには、「自分も函館でプレーヤーとしてやっていこう」って人が増えてくれたらいいなという想いも込められていて。なぜかというと、そういう街の方が自分は住みたいと思うからなんですけど。
函館から出て行った人にインタビューしているのも、もちろん理由があって。サイトには「故郷で暮らすのが豊かなことなのか、それとも地元を離れる方が有意義なのか、そこに明確な回答はないでしょう。強いて言うならば、どちらの選択も正しいのだと思います」と書いてあるんですが、僕個人としては、函館を出てよかったなと思っているんです。別の街のことを知った上で、どっちが良い悪いとか、好き嫌いという判断ができるようになったので。
それに、外の世界を見て、経験を積んできた人が函館に戻ってくるのって、街にとっては大きな財産だと思うんです。自分が住むなら、そういう人がたくさんいる街の方がいいなって思うので、出たい人の背中も、戻りたい人の背中も押せるような活動をしていきたいなと。それって、外に身を置いているからこその関わり方じゃないかなって。
阿部:ファシリテーター役の僕が長々としゃべってしまいましたが、未来編の最後。「満たされなさを〝何かのせい〟にするのは終わりにしよう!」と書いたのは、例えば「函館にこういう店ができたらいいな」とか、「もっとこうなれば便利なのに」とか、みなさんがそれぞれ街に対して思い描くことってあると思うんです。
蒲生:だけど、そういうことを思ってるだけじゃ何も変わらないんですよね。やっぱり、再考と行動っていうのが伴っていかないと。
阿部:うんうん。だから、「函館にこういう店ができたらいいな」とか、「もっとこうなれば便利なのに」と思ってることを実現できるのは、〝そう思ってる人自身〟かもしれないなって。
誰かに頼るとか、何かのせいにするよりは、何かできることから始めてみるだけでも、暮らしとか、想いっていうのは自分の理想に近づけたりするんじゃないかなと僕は思っています。
【質疑応答】
阿部:ここで少し質疑応答の時間をとろうと思うんですが、何かご意見やご質問などがある方はいらっしゃいますか?
Q:私は道外出身者で、あまり地元に対する執着がないんですけど、函館に来て、いろんな人に会うと、みんな函館愛を持ってるんだなと感じていて。今日お話を聞いて、IN&OUTさんもすごく函館のことが大好きで、それがモチベーションなのかなって思ったんですけど、阿部さんが考える函館のいいところとか、魅力とか、どんなところに揺さぶられているのかなってのを聞かせてください。
阿部:ありがとうございます。同じことを以前、北海道新聞さんから取材をしていただいた際に、聞かれたんですよ。「なんで函館なんですか?」って。でも、それまで考えたことがなかったんですよね、「なんで函館なのか?」ってことは。だから、「え、なんで函館なんだろう?」って固まっちゃったんです。でも、僕が自分事として力を注ぎたいと思うのは、札幌じゃないし、東京でもないし、函館なんだよなって。やっぱり離れていても故郷は故郷なんですよね。だから、すごく特別なものという想いがあって。
その理由について、いろいろと考えてみたんですけど、海や山があるからでもないし、食べ物が美味しいからでもないし、親や友達がいるからでもないし、強いて言うなら、その全部みたいな感じになっちゃうんですよね。「なんで函館?」ってことを考えたことがなかったくらい、当たり前に函館のことをずっと考えていて。なんなんですかね。僕もちょっと明確な答えにはたどり着けてないんですけど、今も考えてます。「なんで函館なんだろう?」って。見つかったら、どこかで言えるようにします。
Q:駅前にも五稜郭にも新しい商業施設ができてますが、これからはどれだけ地域の価値とか成長に繋がるようなテナントを入れているかっていうのがすごく重要になると思うんです。その点で言えば、価値創造型のテナントが入っている大三坂ビルヂングはすごい功績をあげていると思うので、もっと自信を持って欲しいなと思います。
先ほど、「街のために」というような大仰なことはしないというようなお話がありましたが、やっぱりこのような活動や想いは、もっと社会を変えるっていう方向にも向けてほしいなとも思うんです。そこにちょっと物足りなさみたいなのを感じたりもして。社会を改革とまで言わないですけど、そういうことに対する箱バル不動産の意識というのを聞かせてください。
蒲生:まず、そういう風に見てもらえてたことは嬉しかったです。ありがとうございます。
確かに、ちょっと謙遜しちゃうところがあって。でも、それってある意味、逃げていることでもあると思うんです。なので、そういうご意見をもらって、もうちょっとしっかりしなきゃいけないなって思うところがありました。
僕は、ひとつ常に意識していることがあって。太陽と北風の話ってあるじゃないですか。あれを常に思い出すようにしてるんですよね。トンチみたいなことで、自分が良いと思っている方向に進められる方法はないかなって考えたりするんです。
だから、アンチテーゼみたいなものを前面に出すのではなくて、本当にポジティブなことだけで突っ走れるのがいいなっていう想いがあるんですよね。そこは今もこれからも、そのスタイルとか信念みたいなものを持ちつつも、本当にこのエリアに自分たちが住み続けたいとか、後世に残したい街にするためには、もう少し自信を持って、強い部分を出していく必要もあるんじゃないかなと思いました。ことのことは、今後もチーム内で話していくことになると思います。
富樫:僕らって、大きな商業施設とかを作ることはできないんですけど、例えば商店街をちょっと違った視点で変えていこうとか、そういったことなら今すぐにでもできると思うんです。僕は、常盤坂の自分の家を直すときも、常に考えていたのはクロード・レヴィ=ストロースというフランスの人類学者が提唱していた「野生の思考」っていう考え方で、その中にブリコラージュっていう方法論があるんです。これは「寄せ集めて自分で作る」みたいな意味なんですけど、冷蔵庫の中の残り物で料理を作るとかってのもそうで、身近にあるものでもちょっと視点を変えるとすごいレストランのように美味しいお料理ができたりすることがあるんです。
それは、街の中でも同じことがいえて、普通の家だって、ちょっと作り方を変えればオシャレなカフェになるし、そういうちょっとした意識の変化だけでも、街ってすごく変わっていくんだなって思っているので、今後もそれは続けていきたいなって考えています。
【再考と行動】
阿部:そろそろ時間も迫ってきたので、最後の締めというか、それぞれのチームから一言ずつ話して終わりにしようかと思います。
えー、『再考と行動』ということで、IN&OUTは、メンバーそれぞれが普段は別々の仕事をしつつ、この活動をするときにはガッと集まるという、〝地域の青年団〟みたいな感覚で活動をしてるんです。それで、リニューアルを機に、これからは新しく特集記事を作ったり、今日のようにWEB上だけではない外からの関わり方ってことを模索しながらやっていきたいなと思っています。
今回のイベントページの概要では、「〝自分ごと〟として街と関われる可能性を探り、参加者の方それぞれが『自分ならどうするか?』という問いと向き合えるような場になれば」という説明書きをしていたんですけど、そもそも当事者意識というのは、人から押し付けられたりするものではなく、〝自覚〟するものなのかなと思っています。だから、住んでいる場所や職種に関わらず、当事者意識を持つことは可能なんだろうと。
そして、再考や行動というのは、興味や疑問を自覚したところから始まるものだと思うので、今日のイベントに参加していただいたことが、参加者の方の自覚、再考、行動のきっかけになったら嬉しいなと思っています。ありがとうございました!
蒲生:『再考と行動』ってことなんですけど、箱バル不動産は、毎年「函館移住計画」っていう移住体験の企画をやってたんです。もともとは、この企画が箱バル不動産の発足のきっかけだったんですよね。ただ、3年やってみて、今年から函館移住計画はやめようって話をしたんですよ。
理由としては、SMALL TOWN HOSTELという、移住計画の機能を365日果たしてくれる宿を作ることができたというのがひとつです。それだったら、わざわざイベントにしなくてもいいんじゃないかなと思って。それに、実は、僕らに会いに来てくれて実際にお店をオープンしたという人が、移住計画の参加者ではない方ばかりなんですよね。
あとは、「移住促進」とか「街を盛り上げる」みたいなキーワードってポジティブにも聞こえるけど、実はネガティブなものが原因だったりするじゃないですか。悲壮感が少し出てしまうというか。それをやめたいっていうのも実はあって。
僕らがこういう活動をやる前から、函館って十分かっこいい街のはずなんですよね。建物だけじゃなくて、函館山があって、海に囲まれててとか、そういう地形がまずかっこいいなって思ってて。この風景を見ながら生活していけるってこと自体を、もっと誇りに思うべきかなって。そう考えたときに、今年は移住計画に重きを置くんじゃなくて、そんなかっこいい函館をどうやって、もっと見てもらえるようなことをしていくかってことの方が重要なんじゃないかなって思ったんです。その方が、結果的にみんなが住みたいとか、来たいとか、お店をやりたいとか思ってもらえるんじゃないかってふうに考えていて。今年はそういうことをやっていこうと思っています。
みなさんにも、再考と行動というテーマを掲げたイベントに来ていただいたので、どうか函館に住んでいるってことを誇りに思って、かっこいい街に住んでるんだってことを自覚して、そういう気持ちで外の人と話すだけでも、街はいい方向に向かっていくんじゃないかなって僕は思っていて。今日のイベントが、そういうことを考えるきっかけになればよかったと思っています。本日はありがとうございました。
阿部:長い時間お付き合いいただきまして、ありがとうございました。
一同:ありがとうございました!
写真:ヤマダケンタロ