七輪車に乗って 3話
「これはなんのパーティーだい」
「七輪車パーティーです。あの、よかったら、仲間に加わってもらえませんか」
ウグイスが事情を説明する。聞き終わると、男の人は困った顔をした。
「一緒に行きたいね。でも、さっきも言ったけど、仲間が待っているから。これじゃ、代わりならないかな」
帽子を脱ぎ、内側を確かめながら、渡してくれる。帽子は熱いくらいの温度で、石鹸の匂いがした。
「汗ばんでいて悪いけど」
「ありがとう。乗せていきます。いつ返せばいいですか」
「きみらが自転車から降りられたら」
手を振ると、発車した。もの悲しい音楽が、遠ざかっていく。私はウグイスの手から帽子を取り、ウグイスの頭に載せた。柔らかい苔のような緑色の毛が全て隠れ、ついでに顔も半分隠れた。
「大きすぎる」
「大きすぎるね」
帽子はハンドルに引っかけられた。そこから垂れる車輪が、持ち場だ。
「行くよ」
ペダルを踏む。すぐに、自転車は下り坂を疾走し始めた。ウグイスが力んで、ブレーキを締めようとしているのが分かる。坂の力が強く、利いていない。
「ぶつかるー」
「ぶつからない」
「飛んじゃうー」
「飛ばない」
「ばらばらになるー」
「ならないよ」
大きく息をつき、自転車を止めた。坂が終わったのだ。まだ、毛の先や、頬が、ひらめいている気がする。
だって、空気にぶつかった。顔がこんなに熱いもの。絶対飛んだ。感覚が無くなって、体の重さがなくなった。
ばらばらにはならなかった。崩れそうになったとき、ウグイスがつかみ、引き留めてくれた。
みんな息を弾ませている。蛸なんか、ゆだってしまったのではないかしら。
「大丈夫だったろ」
「運よくな」
蛸は鋭く吸盤を鳴らした。
「行こう」
七輪車は、何事もなかったように、すまして滑り出す。
あのまま、分解していたら、どうなっていただろう。私のかけらは風に運ばれ、色んなところに、舞い降りただろう。
写真:猫が岩山からウグイス達を見下ろしているイメージです。
小説家ですと言えるようになったら、いただいたサポートで名刺を作りたいです。後は、もっと良いパソコンを買いたいです。