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七輪車に乗って 4話

ひこばえの上に落ちたら、巻き込まれる。やがて木と一つになる。若い枝が私を抱きこみ、自分のものにして、そびえていく。
 アリの巣を塞いでしまったら、じゃま者扱いだ。たちまち跳ね除けられるだろう。それとも、地面の中に運ばれ、ご飯にされてしまうかな。
 思いつめている人の手に載ったら、何かの啓示だと思うかもしれない。考えが晴れるといい。過ぎて、お守りにされたら困るけど。
「あと三人、今日中に見つけないと。自転車に乗ったまま、夜を越すのはいただけない」
「お前、太陽がこんなに高いのに、言うのか。余裕がないんだな」
二人の会話を聞きながら、空を見上げた。太陽と目が合った。目の奥から頭の先まで、光が突き抜ける。顔を伏せ、目を閉じる。閉じた視界は白く、激しく、動悸がする。
「どうしたの」
「お日様が、目に入った」
「おや。しばらくじっとしておいで」
深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。
「そんなことが、あるもんか」
「本当よ。お日様を見るといい。飛び込んでくるから」
蛸はそっぽを向き、言うとおりにしない。目に入ること、知っているんだ。
「だったら、太陽を仲間にしたらどうだ。一緒にいたくて、飛び込んできたんじゃないか」
ウグイスと顔を見合わせる。
「たまには、いいことを言うね」
「でも、どうやって、ここに乗せる」
頭をひねる。誰からも、良い案が出ない。
「目はもういいかい」
「うん」
「では、考えながら出発しよう」
 道の土に、細かい砂が混じり始めた。車輪が軽快な音をたてる。蛸が身震いした。
「近くに水があるぞ」
「水、海水かい」
「これは真水だな」
「どの方向」
「あっちだ」
骨のない腕を精いっぱい掲げる。東を指したので、七輪車を向ける。背の高い草が体に触れ、痛い。
「猫の舌みたいな草だな。小さいとげがたくさんある。気をつけて。お前も、蛸おろしになるなよ」
「なるもんか」
蛸は身をちり、と縮める。
 冷たい風が顔を打った。自転車が止まる。池が、緑に光っている。
「見える、光り方が不自然だ。底に何かあるのかな。反射するもの」
「鏡」
「氷」
「そんなようなものが、あるのかもしれない」
「いらっしゃい」
草の陰から、誰か出てきた。ぼさぼさ頭の、男の子だ。目と目が離れていて、体に鱗が生えている。

小説家ですと言えるようになったら、いただいたサポートで名刺を作りたいです。後は、もっと良いパソコンを買いたいです。