テーバイ

何とも苦しく、でも何とも面白い作品。


3作品を合わせて再構築ということで、ただのダイジェストみたいになってたら残念だなと思っていたが、ちゃんと意味ある作品だったように思う。

2時間半弱の時間で全く飽きることなく物語に引き込まれた。

役者さんの惚れ惚れするような演技に、僕もあんな演技を出来るようになりたいと強く思った。

そしてギリシャ悲劇という古典を演じるにはこれだけレベルの高いものが必要とされるのかと、驚愕とともに畏怖を感じた。


クレオンが段々と中心になっていく構成は中々新鮮。

僕の持っていたイメージはもっと酷い人という感じだったが、今回のクレオンは人間らしく情けなく、でも親しみを持てる印象だった。

クレオンの葛藤が見えやすい構造になっていたのかなと思う。

最後クレオンが演説の原稿を読んでいるシーンは、為政者としてやカドモスの末裔としての運命を嘆いているように感じた。

クレオン役の植本さんの演技は、テンポがとても好み。

少しコメディチックに話しているけど、古典とも合う絶妙なラインを保っているのが凄い。

とにかくこんなにもクレオンに共感するとは思わなかった。


クレオンを中心にしたことで、3つの戯曲が上手く繋がったと思った。

ただストーリーを追うだけの内容ではなく、ギリシャ悲劇や為政者への新たな解釈を提示しているように感じた。

ギリシャ悲劇はどうしても語りが多いので、個人的には対話があまり重要視されていない印象を持っていた。

そこが良いところでもあるが。

今回は対話劇ということで、より対話にフォーカスされていて、現代的なギリシャ悲劇に仕上がっているなと思った。


アンティゴネ役の加藤さんの演技は、正統派な印象を受けた。

感情が真っ直ぐ分かりやすく、プレーンな台詞回しだったように思う。

オイディプスが最期に「アンティゴネ、手を」と言ったのに、アンティゴネが手を掴まなかったシーンでは思わず泣いてしまった。


オイディプスを見ていると「生きる」ということがどれだけ難しいことかと思う。

ⅠとⅡではオイディプスに共感することが多かった気がする。

オイディプスの、「見えているものは見なくてはならないもの」という台詞がとても印象的だった。

ずっと昔の戯曲なのに、現代にもしっかり伝わるものがあるのがギリシャ悲劇の良いところだと僕は思う。

ハイモンの、物事を多角的に見るべきという主張ももっともだと思った。


復讐の女神の森で三本の赤い紐が吊られていて、それが3人の死体とともに降りてきたセットは、単純にびっくりした。

赤い紐は女神が死を予見していたのかなと思った。

でも驚きはしたがやはりよく分からないセットだった。

でもきっと意味あるセットなのだと思うのでもっと掘り下げて考えたい。


テーバイの王宮にてライトで紋章?を床に当てていた演出は、最初は絨毯が広がっているようだなと思ってた。

しかし、最後にクレオンがその中に立った時、その紋章が意味を持ったものだと分かった。



ー他の方の考察を受けてー

クレオンの台詞が散文から韻文になっていた。

段々とクレオンの印象が変わっていくのは、文章形式が変わっていたから。


美術によって空間の動きをフォローしていた。

上から死体が落ちてきたとき、上への広がりを感じた。

それと人間ばかりに目がいっていたが、あの瞬間神々を意識させられた。



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