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2020年コロナの旅29日目:プラハへ
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ポーランドの農村の朝。といっても9時過ぎだが、冬なので日の出も遅く、まだ早朝の空気が気持ち良い。アドリアンもお母さんも仕事なので、家で留守番。筋トレやSNSをして過ごす。今晩のプラハの宿の予約も忘れない。当然朝食にはセルニックを。
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私のバスは午後4時発である。2時半ごろアドリアンが帰ってきて、車で出発地のクラクフバスターミナルまで送ってくれた。バス会社の名前はRegio jetという。
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ターミナルでアドリアンは私のバスの乗り場について聞いてくれた。
「”レギオイェット”のプラハ行きのバスはどこから出ますか?」
私は勝手に英語で「リージオジェット」と読んでいたので違和感を感じつつも、ポーランド風の発音が面白いと思った。国ごとに違う読み方がなされるのだろう。私の知る限り、西ヨーロッパでは若者はこういう英語由来らしい単語を英語的に発音するし、そうしないとかなり芋臭い、あるいは学がないということになるらしい。東欧にはそういう英語至上主義の波が押し寄せていないのかもしれない。
アドリアンに懇ろに礼を言い、私はバスに乗り込む。バスで国境を越えてオストラヴァというチェコ内の街で電車に乗り継ぐ。全部込みで15ドル。高くも安くもないといった印象だが、日本と比べればかなり安い方だろう。
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しかもバスの中で驚いたことには、添乗員がココアやお茶をサービスしてくれるのである。また、ヘッドフォンやスリッパなどのアメニティも完備されているし、バス自体も非常に新しく清潔だ。日本以上に良いサービスを、それよりも安く受けられるのでお得感は高い。
オストラヴァ駅でSIMカードを買って、プラハ行きの電車に乗り込む。この電車はコンパートメント型であった。ハリーポッターがホグワーツに行くときに乗る列車のあれだ。一つのコンパートメントには6人着席できるようになている。荷物を棚に載せるのを手伝ってもらったり、手伝ったりしてるうちに会話が生まれる。客層もよさそうだ。
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腹が減っていたのでアドリアンの家で包んでもらったセルニックを食べる。それでも空腹が収まらず、食べ物のメニューを見ると思っていたよりもかなり安い。食べ物は寿司かチキンナゲット。トビっこでカバーされた西洋独特の巻きずしを食べたい気分ではない。ナゲットにしよう。飲み物は種類があり過ぎて分からないので、前の席に座っていたマリアというチェコ人の女性にお勧めを聞いてみることにした。
「マリアさん、ワイン選びを手伝ってくれませんか。チェコのワイン詳しくなくて。」
「いいわよ。ちょっと見せてね。赤と白どっちが好き?」
「今は白を飲みたいかな。赤でも白でも甘口が好きなんだけど。」
「じゃあこれを試してみたら?」
vicanと書いてあるそのワインとナゲットを添乗員に注文した。直に運ばれてくる食事は機内食のようなプラスチックのパッケージになっていて少しわくわくする。日本の小綺麗な駅弁とはまた違った魅力がある。マリアにもワインをすすめたが、断酒してるので遠慮しておくと言う。
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チェコ語とポーランド語、スロヴァキア語の違いなどについて色々雑談しているうちに打ち解けて、マリアと私は連絡先を交換した。プラハ駅に着いて、一度お別れをする。
「何か困ったことがあったらいつでも連絡してね。」
「ありがとう。困らなくても連絡していいかな。」
「もちろん。プラハ楽しんでね。」
時に午後10時。そろそろ宿でゆっくりしたいところだ。先ほど挿入したシムカードがどういうわけかアクティベートされていないようだが、駅のWi-Fiを使って宿の場所をグーグルマップ上で保存する。
改札を出るとBILLAがあり、急に親しみを覚える。ウィーン大学時代には毎日のようにBILLAで買い物をしていた。オストラヴァでも思ったが、スウェーデンやポーランドと違って駅などの案内板にもチェコ語、英語に次いでドイツ語が書いてあるところなどにもドイツ語圏との歴史的、地理的な結びつきを感じる。
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1月のプラハ、午後10時、非常に寒い。緯度は低いのに、北のヴェネツィアことストックホルムよりも寒い気がする。冷気が骨身にしみわたる。中央駅から25分ほど歩いてようやく宿に辿り着く。結構遠かった。
しかし妙なことに門が閉まっている。受付にも灯りがない。見れば「受付は22時まで」と書いてあるではないか。これが何を意味するかというと、私は今晩の宿がなく、凍え死ぬということである。
それは嫌なのでどうしたらよいか考える。マリアの「何か困ったことがあったらいつでも連絡してね」という言葉が頭をよぎるが、まだそこまで困ってないんじゃなかろうか。まだ開いてるホステルを探してみてからでもよかろう。
とりあえずネットが使えないことにはホステルの予約は難しいので、記憶を頼りに途中で見かけたマクドナルドまで引き返し、そのWi-Fiを使わせてもらうことにする。寒いし荷物は重いし全くどえらい災難である。
マクドナルドの店の前ででかろうじてWi-Fiを拾ってホステルワールドとブッキングドットコムで近場の安くて雰囲気がいいホステルを探す。Czech Innというダジャレみたいな名前(「チェックイン(check in)」と「チェコの宿」をかけている)のホステルがあり、安いうえにおしゃれで新しそうなのでこちらに宿泊することにする。受付も夜中の12時まで開いていることを確認した。
来た道をほとんど引き返してチェックインに至る。写真で見る以上に高級感のある宿である。
巨大なガラスの戸を押し開けて広いロビーを横切り、レセプションに歩み寄る。色の黒いインド人のような見た目の男がひとり受付を担っているようだった。
「予約したコウスケです。」
「はい、パスポート見せて。」
「どうぞ。」
「はいはい。えーっとコウスケね…」
「そう。さっき予約したばかりなんだけど大丈夫かな。」
「大丈夫よ。」
「よかった。君の名前は?」
「○○○○」
「え?」
「ギーって呼んでくれたらいいよ。フルネームは難しいからな。」
「ギーか。よろしく。どこの名前なの?」
「バングラデシュだよ。」
「ベンガル語か。すましバターみたいな名だね。」
「良く知ってるな。君は日本人にしては英語も流暢だね。」
そういう彼の英語は、クラクフのインド人コメディアンが笑いものにしていたところの典型的な「インド訛り」だった。しかしそんなことは勿論おくびにも出さなずに答える。
「ありがとう。励みになるよ。」
「はい、パスポート返すね。今オフシーズン真っ只中なんだよね。それで君が予約した12人部屋は閉めてるんで、4人部屋にアップグレードしといたよ。値段は同じでいいからね。」
「すごい!ありがとう。」
「いいんだけどさ。何もこんな寒いときに来なくてもいいのにな。」
ギーからカードキーを受け取ってエレベーターで3階の自室に向かう。2つ2段ベッドが並んだ部屋は広々としている。ホステルの2段ベッドは1段目から埋まっていくのが相場である。片方のベッドの1段目には誰かの荷物が散乱している。
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やがてその持ち主が入室してきた。インドからの移民で、しきりにチェコで出稼ぎすることを勧めてきた。
そのうち他の空きベッドも埋まっていく。私の上のベッドにはジャックという金髪の坊主頭が似合う美青年が、向かいのベッドの上段にはいかにも善良なカナダ人といった雰囲気のジェイミーという好青年が入ってきた。インド人は白人の二人が入ってから完全に心を閉ざしてしまったようだが、その他の我々3人はしばらく談笑した。ジェイミーが、
「うちの伯父さんはカナダでチョコレート工場やってるんだ。ちょっと持って来たんだけど欲しい人いる?」
というと、私は1も2もなく飛びつくし、クールなジャックもベッドから身を乗り出して「ありがとよ」とひとつ受け取る。本当にうまいチョコレートだったので、本当にうまい!という顔をして見せるとジェイミーはニヤリと笑って「そうだろう」というようにゆっくり頷いた。ジェイミーはpentatonixのスコットに似ている。
この時の率直な気持ちを白状すると、私は長身で見た目の良い、勝ち組オーラを身にまとった白人の青年たちと対等に付き合っている自分がちょっと誇らしかったし、そのことが少し情けなくもあった。根が小心者なので自分がクールな人間でないことが露呈してしまわないか終始頭の片隅に不安を抱えていた。
シャワーを浴びて寝る。シャワーが天井に埋め込まれていて何となくお洒落だし、温かい雨のようで楽しかった。