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JR福知山線の営業係数を試算してみた
先日、JR西日本から輸送密度2,000人/日未満のローカル線の経営状況が公表されました。
100円稼ぐのにどれだけの費用がかかるかを示す指標に営業係数というものがありますが、それが約1万2千円になっている路線もあり、ローカル線を維持することの難しさを改めて認識させられるところであります。
さて、私はこれを見て地元の兵庫県丹波篠山市を走るJR福知山線の営業係数がいくらなのかが気になりました。高校のときからよく電車を使ってましたが、あんまり人が乗っているイメージがありません。本当にこのまま路線が維持されるのか大丈夫かいな?といつも思っていたのですが、良い機会です、営業係数を真面目に考えてみることにしました。
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福知山線の輸送密度
この路線は尼崎駅~福知山駅までを結んでいて、我らが篠山口駅はだいたいその中間地点に位置しています。とりあえずネットやchatGPTを使って福知山線の営業係数を調べる横着をしてみますが不発。公表されたのは輸送密度2,000人/日未満の路線のみであり、それ以外の路線は公表されていません。ならばと2023年度の福知山線の輸送密度を調べてみると31,541人/日。お、2,000人と比べたら10倍以上だし大丈夫じゃね?と思えてしまいます。が、福知山線ユーザーならこの安心感に違和感を感じていると思います。よく分かります、その違和感笑。
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区間を分けるとしたら3つ
JR福知山線は、①尼崎~新三田 ②新三田~篠山口 ③篠山口~福知山間で利用状況が全く異なります。なので路線全体を一緒にして考えることはできないのです。それぞれ順番に、①都会 ②田舎 ③ワンマンローカルという肌感覚のイメージで、下表の通り輸送密度も隔絶された差があります笑。
○輸送密度(2023年度)
①尼崎~新三田 79,910人/日
②新三田~篠山口 10,890人/日
③篠山口~福知山 3,665人/日
JR西日本はもちろん民間企業です。民間は事業継続するためには儲かっているかどうかが大切になります。営業係数を計算するためには、コストと儲けが分かれば計算できます。しかし、ネットやchatGPTに無い情報なので自分で計算するしかありません。何事も一次情報に触れて自分で計算することが大切ですし、面倒ですがやってみましょう。今回の試算ターゲットは、新三田~篠山口間の営業係数です。
費用
鉄道会社は基準コストという決まった計算式をもとにコストを算出したうえで、運賃を計算しているようです。電気やガス代と同じような総括原価方式なのですね。初めて知りました。
基準コストは、線路費・電路費・車両費・列車運転費・駅務費にわかれています。それぞれが何の費用なのかは読んで字のごとくで何となくイメージできると思います。
福知山線の基準コスト
さて、本番はここからです。新三田~篠山口間だけの費用と収益がいくらかの計算は難しいことが想像されます。ただ、何も精緻な数値を求めるわけではありませんので、ここからはフェルミ推定的に計算していくことにしました。まずは、福知山線全体のコストを考えることにします。詳細は割愛しつつポイントのみ記載していきます。
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基準コストをもとにして費用を算出する場合、福知山線の線路延長キロや車両数、電線延長キロの数値が必要になってきますが、分かるわけがありません笑。分かるのは営業キロ数のみ。
ただ、JR西日本全体でのそれらの物量は公表されていますので、各数値の営業キロ数に対する比率を算出し、その比率を用いて福知山線の各種物量を想定することにしました。
その結果、基準コストをもとにした費用は約78億円/年と試算されました。
基準コスト以外のコスト
でも、基準コスト以外にもコストがあるんじゃね?と思って調べてみると、やはり基準コストには租税や減価償却費が含まれていないようです。どっちもJR西日本なら大きな額になりそうです。無視するわけにはいかないですが、福知山線のそれらの金額がいくらかなど分かりません。これも想定してみることにします。
JR西日本単体の決算を見ると、基準コストらしき費用と租税・減価償却費が分かります。ここからまた基準コストに対する租税・減価償却費の比率を算出し、福知山線における基準コスト以外の費用を算出することにしました。結果、それらが約20億円ほどあり、基準コストと合わせると費用の合計は約98億円/年という試算結果になりました。
3つの区間別の費用
今回の試算ターゲットはあくまで新三田~篠山口間です。この98億円/年という費用が先に述べた3つの区間にどのように割り振られているのかを検討しないといけません。3つの区間では、それぞれ列車の本数や連結車両数などが全く異なることは先に述べましたが、費用もそれに応じて割り振る傾斜係数を考える必要があります。
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まず、98億円を各区間の営業キロ数見合いで割り振り、基礎費用とします。その後、最もコストが高いであろう尼崎~新三田間を基準とし、他の各区間における列車本数や有人・無人駅数、複線か単線かを調べて比率を算出し、線路費などの5つの基準コストを尼崎~新三田間に傾斜負担させることにしました。
簡単に言うと例えば、新三田~篠山口間の有人駅数は3駅しかありませんが、尼崎~新三田間は12駅もあります。なのでその比率に応じて、福知山線全体の駅務費を新三田~篠山口間は少なめ、尼崎~新三田間は多めに割り振るという作業をしています。この傾斜を勝手に区間加重係数と名付けます笑。
その作業の結果、新三田~篠山口間の費用は約9.6億円/年と試算されました。
収益
詳細は割愛して簡単に記載しますが、収益も費用と同じような考えで試算してみました。
ただ、収益の方は費用と異なり、福知山線単体での旅客収益が公表されており、その額は約128億円/年です。しかし、収益は旅客収益だけでなく不動産収益などもあるので考慮しないといけません。これは費用のときと同じく、JR西日本単体の決算から比率を算出し、福知山線の旅客収益以外の収益を想定しました。結果、それらの合計は約142億円/年となりました。
収益も3つの区間ごとに傾斜配分
これも費用と同じです。各区間の旅客収益は輸送密度と営業キロ数に比例すると考えました。営業キロ数(km)と輸送密度(人/日)をかけた値を輸送規模指数、旅客収益を輸送規模指数で割った値を輸送収益力と勝手に名付け、それらをもとに各区間の収益を計算しました。
結果、新三田~篠山口間の収益は約9.9億円/年と試算されました。
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JR福知山線の新三田~篠山口間の営業係数
さて、長かった試算も終了です。試算結果は以下の通りになりました。
費用 9.59億円/年
収益 9.87億円/年
営業係数 97.1
どうやらギリギリ黒字であることが分かりました!
ちなみに、福知山線全体の営業係数は69.1という試算結果でした。福知山線というと、2005年に発生した脱線事故を思い出す方も多いと思います。そこで福知山線はドル箱路線であり、ダイヤの過密化が進んでいたと報道されていましたが、この試算でも精度の問題はあるにせよ、ドル箱路線であることが分かります。
丹波篠山市と鉄道
さて、この項目はまた別途きちんと記事にしたいと思っていますが、この結果を見ての私の意見を記載していきます。
新三田~篠山口間がギリギリ黒字ということは、JR西日本による新規の投資は無いということです。電車の本数が増えることもないし、昔にあった速達快速のような電車も導入されることはないでしょう。
しかし、鉄道というのはネットワークですし、収益がイマイチなので即廃止ということもないと思います。北近畿方面への特急電車が通ったりしていますしね。
では何が起こるかというと、列車の本数減、連結車両数の減、ワンマン運転化あたりでしょう。それは大阪方面へのアクセス悪化に直結し、丹波篠山市の大きな強みを一つを失うことになると考えています。
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しかしよくもまぁ人口4万人足らずのまちにJRが複線で電車を引っ張ってきてくれたもんです。お陰さまでまがりなりにも30分に1本は大阪に直通する電車があります。歴史を見てみると、今の福知山線は昔の人達が駅を作るためのお金を出し合ったり、地主が無償で土地を提供したりして作られました。国鉄時代に存在した篠山鉄道の廃線計画が出た際には、廃線の見返りに福知山線の複線化工事の約束を国鉄や県知事から取り付けるという荒技を成し遂げています。
泣けるじゃないですか・・・このような先人達の頑張りがあってこその今の福知山線なわけです。その恩恵を当たり前に享受するだけで無く、今を生きる私ができることをやるべきだと強く思いました。
みなさまも丹波篠山市に来られる際は、ぜひそんな歴史ロマンに浸りながら電車利用をしてみてください!
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