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fictional diary#21 奇跡の魚
空に魚のような形の雲が浮かぶとき、それを見つけて近くにいる誰かに教えると、その日は勝負事に勝てたり、片づけなければいけない仕事がサクサク進んだり、ずっと悩んでいた問題が解決したりする、というジンクスがその地方にはあって、とくに若い人たちのあいだで信じられていた。むかし流行ったある歌の歌詞からきているものらしい。わたしはそこには少しの間しか滞在していなかったので、詳しいことは知らない。青空に魚のような雲が浮かぶのではなく、その逆のことが起こったとき、つまり白い雲のあいだに魚の形の穴がぽっかりと開いたとき、これは最強の運勢をあらわしていて、それを見た日には運命が変わるような出来事が起こるそうだ。雲に魚の形の穴なんて、そんなことってあるのかな、とわたしはあまり本気にしていなかった。だけど、その町に滞在し始めた最初の日に撮った写真を現像したとき、その考えは変わった。現像した写真の空には、まさにそのジンクスどおり、雲のあいまに魚のような形の青空が浮かんでいた。それを見たときわたしは思わず、ドラマの中の登場人物のように大げさに息をのんだ。その写真を見たときにはわたしはもうべつの町にいて、そこに写っている空はもう何週間もまえのものだったのだけど、その日のことはよく覚えていた。人生を変えるなにかがあったのかはよくわからないけれど、とても楽しい一日だったのは間違いない。もしかしたらその日に経験したなにかが、わたしの運命を変える引き金になるのかもしれない。まだその結果は見えていないけど、そのときからずっと、空を見上げるたびに魚の形を探すようになった。
Fictional Diary..... in企画(あいえぬきかく)主宰、藍屋奈々子の空想旅行記。ほんものの写真と、ほんとうじゃないかもしれない思い出。